上 下
6 / 41
婚約者現る。お前かよ!

セシルside

しおりを挟む
(なるほどな……)

 私の作戦を聞いたレントはお腹をさするお父様とケントス国王を見て頷いた。そして

(よし。やることは決まったわけだし)

(ええ。このふざけた縁談を)

(壊してやろうぜ!) 

 人の目がある手前、握手することはできなかったけどアイコンタクトで

(じゃあ私から)

 と合図を送った。それを受けてレントが頷いたので

「何見てるのよ!」

 作戦スタート。

「それはこっちのセリフじゃあ!さっきからチラチラ見やがって!」

 まずは、私とレントが言い合い

「なんだ?俺のカッコイイご尊顔に魅了されちまったのか?」

「そんなわけないでしょうが!」

 睨み合うことで

「おいおい」

 自身の側近や派閥貴族から婚約破棄されたことを噂され続けて面目丸潰れだったお父様はなんとしても今回の縁談ーー王族との婚約を再び成功させて周りを見返したいと強く望んでおり、

「勘弁してくれ」

 一方のケントス国王も歳の近い婚約相手が見つからずに苦悩し続けようやく訪れた今回の縁談をまとめたいと強く望んでいた。

「へーんだ!」

「だっふーんだ!」

 すると、

「ああ……た、頼む」

 この縁談をなんとしても成功させると言う強い想いが

「喧嘩はやめてくれぇぇ」

 逆に重圧へと変わってしまい

「はうっ!!」

 国の存亡をかけた判断を日頃から下し、常に胃や腸がキリキリしている。それに家同士のつながりとか派閥のバランスとか……職務でストレスは限界寸前だ。そんなところに父親としてのストレスが重くのしかかれば自然と

「ほぎゃへえぁぁ!!」

 胃腸が限界を迎えピーピーと鳴り響く!そうです!今回の作戦はズバリ!

"親のお腹を壊せ!さすれば破談となろう"

「は、」

 略して「オーピーピー作戦」です!

「腹が!」

 ズバリ作戦は的中!痛み出したお腹をお父様とケントス国王は手で抑えた。

「いいか。帰ってくるまでに仲直りしておくんだぞ」

 そしてお腹を抑えたお父様とケントス国王は椅子から立ち上がると青ざめた顔で、足をクロスさせて肛門括約筋を使ってお尻を絞めた。足をプルプルさせながら。それでも父としての威厳を保とうと強い口調で言った。

「レントもだぞ。良いな!」

 それから入り口へとゆっくり、ゆっくりと歩いて向かって行った。

「えー?なんだってぇ?」

「よく聞こえませんでしたわ?」

 しかしお父様たちのお腹を壊すことだけが作戦の全てではない。あくまでも私たちの目的はこの縁談を壊すこと。だから私とレントはお父様達の前に立ち、入り口を遮った。

「くぉぉぉ!」

 誰も通れないように。

「そ、そこを退いてくれェェ!」

 立ちはだかる私とレントに懇願するように手を伸ばすお父様とケントス国王ーーその様子はまるでゾンビのようで、二人がそんな姿になってしまった元凶とはいえ、流石にひいた。

「うわっきも」

 隣ではレントが辛辣な言葉を口にしていた。しかしこれがレントだ。いついかなる時も素直なのだ。でも、時と場合で使い分けろと思ってしまった。

「き、キモいって……」

「ぐぉぉぉ!!き、キモいだと……」

 だって素直に放った言葉のナイフほど人の心に深く刺さるモノはないのだから。でも、今の私達にとっては良い方向へと転んでくれた。

(よくやったわレント!あと一押し!)

(なんだかよくわからねえけど……おう!)

 私とレントは頷きあうと少し微笑んだあとお父様達へと向き直った。

「ぐ、くっ!」

「な、何が望みだ!」

 限界寸前のお父様達はその場に座り込み滝のような脂汗を流していた。よっぽど限界なのかここで漏らしたら自分たちの尊厳は地に伏してしまうとあって私とレントが二人から引き出したかった言葉が出てきた。

(やった!)

(勝った!)

 作戦通りの状況を作り出し、勝利が目前に迫ったことが嬉しくて油断はしていなかったが少しだけ舞い上がってしまった。そう。それが良くなかった。

「なりませんよ!」

 それがほんの少しの隙を生んでしまう結果となった。ずっと警戒して入り込む余地を与えていなかった私のお母様にして、この作戦の最大の障害となりうるエミルという存在の攻撃を許してしまった。

「は、はい!」

「す、すみません!」

 やはり最大の障害とあってエミルの放った一撃は重く、私とレントが作り出した流れは一瞬にして断ち切られ

「あなた達も良いですね?」

 完全に持っていかれてしまった。それになにより

「は、はい!」

 私のお母様は怒ると……ものすごっつ怖い!

「はい!」

 お母様の威圧に気圧されてしまった私とレントに、もはや逆らう勇気などなく婚約という望まぬ結末を迎えてしまった。

「よろしい」

 母は笑い、

「す、」

「スッキリー」

 お父様達はお花畑で爽やかな笑顔を浮かべ、

「は、」

「はは」

 私とレントは乾いた笑顔を浮かべた。


………
……




 一方で王城庭園では。

「おい。聞いたかルイーズ」

「なんでしょうか?」

 クリスとルイーズがお茶をしていた。

「愚弟とあのゴリラ女が縁談をするらしいぞ」

「それはそれは」

「あはは!あの愚弟にお似合いの相手だよな。どっちもバカで使い物にならないクズときてる」
 
 クリスはひとしきり笑ったあと

「まあ、婚約披露パーティーをやる時は主役よりも目立つように登場して俺とルイーズのパーティーの告知をしてやるか」

 といい愉悦に浸っていた。一方のルイーズは、

(あの女、クリスが現れたらどんな顔するのかしらねぇ)

 こちらは維持の悪い笑みを浮かべていた。

(ふふ。楽しみねぇ)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高慢な王族なんてごめんです! 自分の道は自分で切り開きますからお気遣いなく。

恋愛
よくある断罪に「婚約でしたら、一週間程前にそちらの有責で破棄されている筈ですが……」と返した公爵令嬢ヴィクトワール・シエル。 婚約者「だった」シレンス国の第一王子であるアルベール・コルニアックは困惑するが……。 ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

殿下は、幼馴染で許嫁の没落令嬢と婚約破棄したいようです。

和泉鷹央
恋愛
 ナーブリー王国の第三王位継承者である王子ラスティンは、幼馴染で親同士が決めた許嫁である、男爵令嬢フェイとの婚約を破棄したくて仕方がなかった。  フェイは王国が建国するより前からの家柄、たいして王家はたかだか四百年程度の家柄。  国王と臣下という立場の違いはあるけど、フェイのグラブル男爵家は王国内では名家として知られていたのだ。   ……例え、先祖が事業に失敗してしまい、元部下の子爵家の農家を改築した一軒家に住んでいるとしてもだ。  こんな見栄えも体裁も悪いフェイを王子ラスティンはなんとかして縁を切ろうと画策する。  理由は「貧乏くさいからっ!」  そんなある日、フェイは国王陛下のお招きにより、別件で王宮へと上がることになる。  たまたま見かけたラスティンを追いかけて彼の後を探すと、王子は別の淑女と甘いキスを交わしていて……。  他の投稿サイトでも掲載しています。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

もふきゅな
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

陰謀は、婚約破棄のその後で

秋津冴
恋愛
 王国における辺境の盾として国境を守る、グレイスター辺境伯アレクセイ。  いつも眠たそうにしている彼のことを、人は昼行灯とか怠け者とか田舎者と呼ぶ。  しかし、この王国は彼のおかげで平穏を保てるのだと中央の貴族たちは知らなかった。  いつものように、王都への定例報告に赴いたアレクセイ。  彼は、王宮の端でとんでもないことを耳にしてしまう。  それは、王太子ラスティオルによる、婚約破棄宣言。  相手は、この国が崇めている女神の聖女マルゴットだった。  一連の騒動を見届けたアレクセイは、このままでは聖女が謀殺されてしまうと予測する。  いつもの彼ならば関わりたくないとさっさと辺境に戻るのだが、今回は話しが違った。  聖女マルゴットは彼にとって一目惚れした相手だったのだ。  無能と蔑まれていた辺境伯が、聖女を助けるために陰謀を企てる――。  他の投稿サイトにも別名義で掲載しております。  この話は「本日は、絶好の婚約破棄日和です。」と「王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。」の二話の合間を描いた作品になります。  宜しくお願い致します。  

縁の鎖

T T
恋愛
姉と妹 切れる事のない鎖 縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語 公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。 正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ 「私の罪は私まで。」 と私が眠りに着くと語りかける。 妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。 父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。 全てを奪われる。 宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。 全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

手のひら返しが凄すぎて引くんですけど

マルローネ
恋愛
男爵令嬢のエリナは侯爵令息のクラウドに婚約破棄をされてしまった。 地位が低すぎるというのがその理由だったのだ。 悲しみに暮れたエリナは新しい恋に生きることを誓った。 新しい相手も見つかった時、侯爵令息のクラウドが急に手のひらを返し始める。 その理由はエリナの父親の地位が急に上がったのが原因だったのだが……。

処理中です...