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怖くない怪談
鹿児島にて
しおりを挟む私がその体験をしたのは、祖母が腹部の手術をするため見舞いに鹿児島に母と出掛けた時のことです。
祖母の家から1時間以上かかる県庁所在地にある県立病院。そこに祖母の家に到着した翌日、叔父の運転する車に同乗して出掛けました。
鹿児島はかなり山深い土地で、叔父は街灯も間遠な山道を運転していました。その道中、「ここは出る」と楽しそうに教えてくれたのを覚えています。
おそらくは帰りもこの道を通るんだろうなぁと考えた私は「嫌だなぁ」と思ったのです。私は怖い話を読むのは好きです。けれど、怖い話が好きなひとによくあるように怖がりなんです。読むのや見るのはいいですが体験はしたくない、なんら珍しくもなくゴロゴロいるタイプです。
その日、叔父は仕事でしたので、仕事が終わってから迎えに来てくれる手筈になっていました。
その間、ほぼ一日を病院で過ごさないといけないのですが、することがまるっとない。それだけ時間があれば家にいれば本を数冊読めたでしょうが、当時はkindleなんていうものなんかまだなかったですし、携帯は持っていませんでしたしね。一応持ってきていた文庫本には場所柄か祖母の手術ということもあってか集中できなかったですし。当然妄想なんて捗るはずもなく。
街中に出かけても迷子にならない自信はありましたが、母が頑なに拒否しましたので、病院の中で過ごしておりました。
見えるものといえば病室の窓からだったか、桜島くらいなもので。
暇でした。
とにかく暇だったのです。
午後になって私は駐車場内をうろうろしていました。
しつこいですが、暇で暇でたまりませんでした。
その時、救急車のサイレンが聞こえてきたのです。
出ていくのかな? と思ったのですが、それは患者さんを乗せて戻ってきた音でした。
とっさに失礼ですが「しまったな」と思いました。
昔見た再現VTRを思い出したせいです。それは鹿児島出身のT軍団のバラエティタレントさんの恐怖体験でした。
ざっと説明しますと、夜中の救急車のサイレンの音に何気なく窓の外を覗いた彼は、救急車の後ろに取り付くようにしてひっついている女性の霊を見た。目があった霊が彼の家を訪ねてきた。そんなような内容でした。
場所が鹿児島だったのか東京だったのかは忘れてしまってましたが、何となく鹿児島と救急車で連想してしまったのでした。
太陽の輝きも夕日に近づいてきていたこともあって、なんとなくぞわりと背中がそそけだったのを覚えています。
そうして病院内に戻ってやっぱりぼうっとしていた私は、院内が何となく慌ただしくなっているのに先ほどの救急車が原因じゃないかなと勝手に関連づけてしまったのでした。これが当たっていたのかどうかは知りませんし、今更知る術もないと思います。
祖母の手術も無事終わり、ようやく迎えが来たのは夜七時くらいだったでしょうか。
叔父の車の助手席に私が後部座席に母が乗って帰路につきました。
件の山道を走っていたのは八時前後くらいだったかもしれません。
暗いです。
時々現れる街灯にホッとしながらも、朝楽しそうに叔父が言った「出る」が頭から離れませんでした。
とにかく幽霊を追い払うには強気でいること。まだ「なんて素敵にパラダイス」とか何とかっていうお呪いもファブリーズをふればいいという噂もない頃でしたからそれくらいしか思いつかなかったのです。
強気イコール罵詈雑言と短絡思考で思いついた私は頭の中で罵詈雑言を繰り返していました。
思う存分。
思いつく限り。
どれくらいそうしていたのか。
車内にはなぜか明かりが点っていました。ラジオも音楽もながれていませんでした。とても静かでエンジン音だけが聞こえていました。
そんななか突然私の後ろを、
「すみませ~ん」
と、声が通り過ぎて行きました。
後頭部のあたりでした。
左から右へと車の中を過って消えて行きました。
ゾワゾワと後頭部が逆毛立ちました。
まぁ、少し調子にのって『私の知らない世界』を意識した(途中で破綻しましたが)前振りが長くなりましたが結局これだけの体験なんですけれどね。
もちろん後部座席の母が私に「すみません」なんていうわけもないですし。今思うと男女どっちの声だったかは謎なんですよね。とにかく、事実として謝られたということ。そしてそれが、おそらくは霊的な何かということだけです。とっても申し訳なさそうな声だった気がしますし、どこか面白がっていたような気もします。
ちょこっとだけある不思議体験はどれも「声」とか「音」だったりするのですけれど、体の中で弱いところと霊的なものは波長が合うのかな? なんて思っていたりします。
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