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1巻
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貴族達の交わす口さがない会話にジュリエッタは俯いてしまったが、俺の愛しい娘のお披露目は、もう少し後だ。まずは今から登場する仇敵達に、一泡吹かせてやらないとな。
そうこうしているうち定刻となり、トランペットの音色と共に、王太子が会場に姿を現す。
パルセミス王国王太子、ウィクルム・アトレイ・パルセミス。彼は二年前に十八歳の成人を迎え、半年前に不慮の事故で両親である国王と王妃を一度に失っていた。端整な容姿に加えてその性格は公明正大であり、温和で堅実。統治者としては多少甘さが心配されるが、それは家臣達が支えれば良いだけのこと。彼の即位に異を唱えるものは誰一人おらず、喪が明ける半年後に執り行われる竜神祭にあわせて、空席となっている王座に就くことが定められている。
そんな王太子にエスコートされて姿を見せたのは、美しいマリンブルーのドレスに身を包んだ可憐な少女、ナーシャ・ラトゥリ。贄巫女となる聖なる乙女として辺境から連れてこられ、その運命を撥ね除けた少女だ。
二人の背後を守るのは俺の息子であり王太子直属の近衛騎士であるシグルド・イシス・アスバル。ヒロインが王太子ルートに入っている場合、シグルドは最終的に、ナーシャの妹であるメリアと結ばれる。それなのに今、カナリア色のドレスを着たメリアをエスコートしているのが騎士団長の息子・リュトラであるのは、シグルドが王太子の護衛中だからだろう。
さらに神童モリノ、騎士団長ヨルガ・フォン・オスヴァインも揃ったところで、主催者席に着いた王太子から晩餐会の始まりと、ナーシャ・ラトゥリとの婚約が宣言された。
おやおや、ジュリエッタに関するお言葉は、一言もなしか。
お決まりのように湧き起こる祝福の歓声と拍手の渦が一段落ついた頃、俺は徐ろに立ち上がり、ぱん、ぱん、と殊さらゆっくり手を叩きながら王太子の席に歩み寄った。
「……アンドリム」
俺の姿を見咎め青褪めるナーシャと、彼女を背に庇うように立ちはだかる王太子ウィクルム。シグルドとヨルガが剣の柄に手を掛けているが、俺は意にも介さず、王太子の前で臣下の礼を取る。
「王太子殿下におかれましては、この度のご婚約、誠にお慶び申し上げます」
「おい、何を考えている」
横から口を挟んできたシグルドの言葉を無視して王太子の周囲に視線を巡らせ、その中に神童モリノを見つけた俺は、にこやかな笑顔で彼を手招いた。気をつけろ、と囁いたリュトラに小さく頷き返したモリノが警戒心を漂わせて近づいてきたところで、首に下げていた金色の懐中時計を外す。
背面にパルセミス王家の紋章が彫られた懐中時計は宰相の位を表す徽章で、公の場では必ず携えておく決まりがある。事故死した父に代わり、俺が二十歳の時に引き継いだものだ。
「モリノ・ツエッツオ。手を出しなさい」
「え……」
流石の神童も予測していなかった事態なのか、モリノが呆然としている隙に俺は彼の手を掴み、その掌の上に金色に輝く懐中時計をそっと置いた。
「今日からこれは、君のものだ。おめでとう、宰相モリノ・ツエッツオ。殿下に忠誠を尽くし、パルセミス王国を正しく守るように」
モリノの瞳が、驚愕に揺れる。それは王太子とその周りに集った家臣達も同様だ。喚き立てる彼らの前で再び大きく手を叩いた俺は、再度恭しく王太子に向かって頭を下げた。
「恐れながら申し上げます。この言寿ぎの場にて申し出るのは大変申し訳ない次第ではございますが、王太子殿下、私は宰相職を辞したいと考えております」
「……なっ……」
「つきましては、後任をモリノ・ツエッツオに任せようと思います。モリノは十六の若さでありながら王国随一の頭脳を誇り、王太子殿下の信も篤い有望な青年です。彼ならばこの先、王太子殿下を支えてくれるでしょう」
「待て、宰相アスバル。そのように重要なことを独断で決定するのは如何なものか」
驚愕から最初に立ち直り、疑問をぶつけてきたのは、騎士団長のヨルガだった。
俺は首を傾げ、目は笑わず、口元だけに笑みを浮かべてヨルガの顔を見上げる。ぐ、と息を呑んだヨルガは負けじと俺を睨み返し、未だ戸惑うモリノを庇うように俺の前に立ちはだかった。
上背のあるヨルガを見るには、俺は少しばかり仰向かなければならない。いつもはただ嘲りだけを含ませ見下していた男の瞳に映るのは、仇と憎み続けて来たであろう俺の姿だ。戯れに手を伸ばし、指先でついと胸骨に触れてやると、彼は過剰なまでの素早さでその手を振り払った。
……まぁ、ヨルガとアンドリムの間にある因縁を考えたら、しょうがないか。
「次期宰相の任命は、現宰相に一任されるが慣例。貴方が騎士団長に任命されたのも、前任者の指名であったと記憶しておりますが?」
「確かに、それはそうだが」
「さらに父である私に断りもなく嫡男が近衛騎士に就いているのも、貴方が許可した故と聞いておりますが、何か異議でも?」
「くっ……」
口籠るヨルガに代わって、今度はシグルドが声をあげる。
「俺は成人していたのだから、アンタの許可なんて要らないだろう!」
「黙れシグルド。成人していようといまいと、お前がアスバル家の家名を背負っていることに変わりはない。口を出すな」
「何だと!」
「落ちついてシグルド。ヨルガ様も、ありがとうございます。少し驚いただけ、です」
漸く我に返ったのか、神童モリノが数回深呼吸を繰り返した後で膝を折り、深々と頭を下げた。ここで俺の気が変わらないうちに宰相の地位を取り上げてしまうのは、不利益にならない。そう判断したのだろう、モリノよ。――果たしてそうかな?
「謹んでお受けいたします。より良い国に導けるよう、一層精進いたします」
「それで良い。……では宰相モリノ・ツエッツオ、君に最初の仕事を依頼したい。……おいで、ジュリエッタ。マラキア、準備を」
「はい、お父様」
「承知いたしました」
俺はジュリエッタを呼び寄せ、王太子とナーシャの前で臣下の礼を取らせた後、その場に跪かせた。嫌悪感を露わにする王太子と怯えた素振りを見せるナーシャに構わず、ジュリエッタの履いていた靴を片方取り去る。白く細い踵を曝した娘は逃げ出すことなく、俺の肩に掴まってその時を待ってくれた。
「皆様も知っての通り、我が娘ジュリエッタは王太子殿下の御下命により、贄巫女の誉をいただくこととなりました。本来ならば王城に設けられた贄巫女の間に身を置く定まりでしょうが、ジュリエッタは長く竜巫女を務めた影響で心身ともに衰弱しております。よってしかるべき処置を施すことで、竜神祭までの療養を希望いたします……マラキア」
「御意に」
頷いたマラキアが手にしていたのは、神殿の紋章が柄に刻まれた小さなナイフ。彼はジュリエッタの傍らに身を屈めると、誰かが止める間もなく、娘の踵と脹脛の間を真横に切り裂いた。
「キャアアア⁉」
「神官長、何を……!」
貴族達が集まる晩餐会の会場で、突然繰り広げられた凶行。
悲鳴をあげる周囲を他所に淡々と処置を終えたマラキアは、すぐに止血の布を傷に押し当て、唇を噛んでいたジュリエッタに「頑張りましたね」と柔らかい声をかけた。
「な、何を……」
思考が追いつかない王太子とナーシャとは裏腹に、モリノはすぐに俺の意図を察したようだ。
そう、この処置は前例のあるものだ。過去にも、身体が弱いと判断された贄巫女がいた。王城の一室に閉じ込められると、体調不良を起こして健康状態が悪化していたのだ。彼女は転地療養するために、踵と脹脛の間……所謂アキレス腱を切ることで、王城から出ることを許された。
アキレス腱が断裂すると、走ったり跳ねたりできなくなる。たとえ馬や馬車を使ったとしても、走れなくては逃走不可能だろう。女性であれば、片足でも充分な効果を発揮する手法だ。
「……王城外での療養を許可いたします。王宮の護衛兵が詰めることになりますが、構いませんね」
「ああ、それは当然だ。こちらからもお願いする」
「どういうことなの……? 贄巫女になったナーシャは閉じ込められてたって聞いたのに……」
思わず口をついたのだろうメリアの素朴な疑問に、リュトラは慌てて自分の唇の前に指を立て静かにと指示していた。しかし、生憎と彼女の言葉は止まらない。
「贔屓じゃないの。その人が贄巫女なら、ナーシャと同じく軟禁されるべきだわ!」
正義感の強い彼女は、双子の姉がジュリエッタに嫌がらせをされていたことが許せないのだろう。そんな自分が正しいと言わんばかりの態度を、新たな宰相となったモリノが鋭い言葉で諌める。
「いけません、メリア。ジュリエッタ様を閉じ込める必要がなく、療養が必要だとの申請があれば、可能なのです」
「何よそれ……意味が分からない」
「メリア、頼むから今は黙ってて……!」
リュトラに懇願されて一応口を閉じはしたものの、頬を膨らませたメリアは不服そうだ。自分が部外者だと思い込んでいるが故の、稚拙な行動。さて、その表情が何処まで続くか見ものだが。
「重ねて、贄巫女となったジュリエッタの家族が受ける権利を主張いたします。また、ジュリエッタが十年に亘り務めてきた竜巫女の責務を、殿下の婚約者となられたナーシャ様の妹君、メリア嬢に譲渡するものとします」
「え、私が……?」
「家族が受ける権利……?」
突然の指名を受け驚いた様子のメリアと、不思議そうに聞き返したナーシャの呟きに、モリノの顔色があからさまに変わる。
若いな。ダメだぞ、宰相ともあろうものが、そんなに動揺を表情に出しては。と言っても、俺も前世で死んだのは多分二十代だったはずなのだが。まぁこの世界での俺は、外見こそ若々しいものの既に四十二歳だし、腹黒宰相を長年務めた甲斐あって、思考と真逆の表情を保つのは得意だ。
「おや、ご存知ないのですか? 家族の権利とは……」
俺がさも驚いたかのように肩を竦め、ナーシャに家族の権利について説明しようと口を開きかけたところで、モリノが叫ぶような声で返答した。
「当然家族の権利は認められます! 竜巫女の引継についても、メリア様が承諾されれば、宰相の名のもとに承認いたします」
……焦って墓穴を掘ったな、モリノ。
家族の権利はナーシャ自身にはひた隠しにされた秘密だ。ヒロインがモリノルートに入った時のみ詳らかにされるそれは、単純に言えば金銭の話。ナーシャは自分が神殿騎士に無理やり拉致されたと考えているが、それは誤りだ。彼女は実の両親に売られたのである。
聖なる力を持つ乙女は、何も一人ではない。有り体に言えば、パルセミス王国で育った十七歳前後の乙女であれば、十人に一人程度は、聖なる乙女となれる資格を持っている。それは国民達が、古代竜カリスのもとに集った精霊達の影響を受けて成長するからだ。
したがって、贄巫女を選ぶ時期が近づくと、神殿と王城は資格を有する乙女達の情報を集め、その中でも経済的に困窮している乙女の家族に贄巫女の打診をする。ナーシャの場合は元々の貧困に加えて身体の弱い弟が手術を含めた治療を受ける必要があり、その費用を捻出するために、彼女の両親がナーシャを差し出すことに決めたのだ。
ただ彼らが愚かだったのは、自分達の口からはナーシャに生贄になる意味を言い含めず、攫う形で彼女を連れ去ってほしいと依頼したところ。自分達は最後まで優しい両親の立場を守ったまま、娘の命を犠牲にしてのうのうと生き延びるわけだ。なかなか反吐が出る処遇だよな。
王太子を含めた側近達の中でその事実を知るのは、神官長の身辺を調べる過程で贄巫女の資料を熟読し、小さくない金額が国庫から動いたことに気づいたモリノのみだ。
彼はその事実をナーシャに知られたくなくて、俺の言葉を遮った。彼女が傷つかないように。初めて恋した、その想いを遂げることは許されない、少女のために。
――そちらの方が囮だと、気づかないままに。
「ねぇリュトラ、竜巫女って何をするの? 神殿に住まないといけなくなるのかな」
リュトラの服を引いたメリアが今度は怒られないようにと一応声を潜めて尋ねている。だが、近くにいる俺には丸聞こえだ。当然ジュリエッタにも聞こえていると思うが、俺の意図を理解している賢い娘は、黙ってそれを聞き流していた。
「竜巫女は祭事を司る神職だよ。神事を取り仕切ったり、民衆の悩みを聞いたりする。でも実際は、形骸化してる。あのお嬢様が十年も務めることができたぐらいだ。公務も殆どない」
……もう少しオブラートに包んだ言い方はできないものか。一応リュトラも騎士の位を賜っているはずなんだが、会話が全部周りに聞こえていた。はっきり言えばヨルガにも聞こえている。気を抜きすぎじゃないか? ヨルガの秀でた額の片隅に青筋が見える。……少し同情するな。
「でも、身分が上がる」
「それって……!」
「ああ、貴族のシグルドと吊り合いをとるのには、悪くない話だと思う」
メリアの瞳が逡巡に揺れる。賢者アスバルの末裔である貴族と、辺境に暮らしていた平民。妾ならばともかく、決して妻にはなれない身分の差だ。愛したシグルドと結ばれることはできないかもしれない。そんな不安を背負っていたメリアの返答は、最初から分かりきっていた。
「なるわ。私、竜巫女の責務を、引き受ける」
「メリア!」
「大丈夫よナーシャ。少しの間不自由になっても、結婚できなくなるわけじゃないんでしょ?」
実際、竜巫女であったジュリエッタが王太子の婚約者であったのだからとメリアが呟くと、モリノもその通りだと彼女に頷き返す。
「今代の竜巫女は、贄巫女がカリス猊下に捧げられるまでの務めとなります。一代限りではありますが、竜巫女の務めを終えた後も、与えられた貴族の位を失うことはありません」
「じゃあ、あと半年程度なのね。それぐらい平気よ」
「承知いたしました。メリア嬢の承諾を、宰相の名において承認いたします……神官長」
「御意に」
恭しく傅いたマラキアは、手当てを受けて俺の膝に抱かれていたジュリエッタの左手を取る。彼女のオペラ・グローブを外して、中指に嵌めていた銀の指輪を抜き取った。虹色に光る宝玉が埋め込まれた指輪は、竜巫女の証。当代の神官長の手でのみ外すことが許されるそれは、古代竜カリスが封じられた地底湖の扉と同じ仕組みを使っているそうだ。
「永らくの務め、国民に代わりまして、深く感謝いたします。これからは贄巫女の務めを果たされる日のために、どうぞゆるりとご静養なされませ」
「……ありがとうございます」
少し弾んだジュリエッタの声。頼りの父は宰相職を辞し、贄巫女として竜に捧げられる未来が待ち受け、唯一残されていた立場さえも奪われたというのに、彼女の声色には喜びが滲んでいる。不審に感じた者達が少なからずいるだろう。……ジュリエッタは、本当に優秀な子だ。
「メリア・ラトゥリ。こちらへ」
促され、ドレスを揺らして一歩踏み出たメリアの左手に、マラキアの手が緩く添えられる。
「今この時より、貴女様は、神殿の栄えある竜巫女。その身をカリス猊下の御為に捧げ、民の苦悩に耳を傾け、務め終えるその日まで尽くすように」
「……分かりました」
それは、誓約を生む言葉。古代竜カリスの名の下に自らが唱えた誓いは、破ることができない。
マラキアの手が、グローブを外したメリアの中指に、静かに指輪を嵌める。次の瞬間――
「おげえええええっ‼」
白目を剥いたメリアは奇声をあげながら嘔吐し、吐瀉物に塗れた床に転がって悶絶した。
「キャアアアア⁉」
「悪魔憑きだ、悪魔が憑いたぞ!」
会場の中に再び湧き起こる悲鳴と怒号。確かに、美しいドレスや整えられた髪をゲロまみれにして泡を噴き床の上で痙攣する若い娘の姿は、なかなか壮絶なものがある。
ナーシャは妹に駆け寄り、王太子と側近達はそれぞれの得物を手に臨戦態勢を取った。
「貴様、メリアに何をした‼」
すました表情のままのマラキアにシグルドが振り下ろしかけた剣は、俺が呼び寄せていた神殿騎士の盾に弾かれる。
「ハハハハハハ‼」
緊迫した状況を嘲笑うかのように、響き渡る哄笑。
誰しもが表情を強張らせ、声の主――俺に、元宰相に、注目する。
「ついに、ついに解放されたぞジュリエッタ! 私もお前も忌々しい責務から解き放たれた!」
「お父様……!」
感極まった様子で娘を抱き締め笑い続ける元宰相の姿は、如何にも狂気じみていたことだろう。
そうこうしているうちに、宮廷医師と治療術師達がメリアのもとに駆けつけた。治癒魔法がかけられ、メリアは何とか意識を取り戻す。しかしその身体は、強度の嘔吐感と凄まじい苦痛に苛まれたままのはずだ。汚れた彼女の顔面は、蒼白になっている。
「神官長マラキア、これは一体、どういうことだ……!」
王太子の厳しい追及にも、向けられたレイピアの先端にも、マラキアは動じない。逆に口元に笑みを刻み、信者達に言葉をかける時のように、胡散臭いほど穏やかな調子で王太子に語りかける。
「どうもこうもありません。メリア様は竜巫女になられた、ただそれだけのこと」
「それでどうしてメリアがこのように苦しむ! お前が毒でも盛ったのだろう⁉」
「……王太子殿下。失礼ながら、まさかとは思いますが、王太子である貴方様が、高い身分を保障される竜巫女が形だけのものであると勘違いなされてはいませんよね?」
「何……?」
当然、形だけのものだと思っていただろう王太子の表情が、驚きに染まる。
「竜巫女は、贄巫女がカリス猊下に捧げられる日まで、猊下をお支えする役割を持ちます。それはただ神殿に勤めるだけではありません。贄巫女が捧げられるまでの繋ぎとして、自らの魔力の殆どを猊下に捧げる必要があるのです。メリア様の御不調は、極度の魔力不足に陥った故かと」
「……そんな話、聞いてないわ!」
メリアを支えたナーシャの叫びに、マラキアはやれやれといった様子で軽く首を振る。
「当然です。竜巫女となった乙女の背負う業は、口伝のみで伝えられる、秘匿すべき罪の一つ。貴女様が贄巫女に選ばれていたからといって、竜巫女の秘密を明かされるわけではない」
「そんなのおかしいじゃないか! それならなんで、アンタの娘は平気だったんだよ!」
リュトラの指が、真っ直ぐに俺を差した。失礼な態度に加えて言葉遣いを繕うことも忘れているみたいだが、それは当然投げかけられると思っていた指摘。俺は待っていましたとばかりに、ジュリエッタの顔を隠していたヴェールを両手で掬い上げる。
「え……あ……?」
正面からジュリエッタの顔を目にしたリュトラの唇から、意味のない単語が滑り落ちた。
「まぁ……! あのご令嬢は、まさか」
「おぉ、なんと、お美しい……。彼女もやはり、賢者アスバルの末裔ということか……」
「まるで、月光の精霊に愛されているみたいだわ」
さざ波のように広がる、称賛の言葉と感嘆の吐息。貴族諸君、正しい評価をご苦労。
ヴェールの下から現れたのは、ナチュラルメイクを施したジュリエッタの美貌だ。
小さなパールを鏤めた糸で結い上げた、銀色の髪。震える長い睫毛の下に見え隠れする、翡翠の輝きを宿した瞳。白い頬をほんの少しだけ染めた淡い桃色と、小さな唇を飾る薄紅色。父親の肩に縋る腕はガラス細工のように滑らかで、コルセットに包まれた腰は手で囲えそうなほどほっそりとしている。それこそ、王太子の隣に並ぶナーシャと比較しても遜色ない……ともすればそれ以上の評価を受けるかもしれない、儚げな美少女。
人は、美しいものを目の当たりにした時に、理性や立場を忘れることがある。正にその状態なのだろう、正常な判断が乏しくなったリュトラに畳み掛けるように、俺は話を続ける。
「リュトラ・ミルカ・オスヴァインよ。君の疑問に答えようか? 無論、私のジュリエッタも、同じ苦しみを味わい続けた。長く竜巫女を務めたので多少は耐性があるため、不調があってもメリア様のように正気を失うには至らない。それでも、人前では常に濃い化粧で顔色を誤魔化し続けなければならない程度には、竜巫女の責務に苛まれ続けていたのだよ」
「ジュリエッタ様は、七歳で竜巫女の任に就かれました。……着任当初は、今のメリア様と同じ状態に何度も陥られましたよ。当時の私はまだ一介の神官にすぎず、祈ることしか許されぬ我が身の何と歯痒く情けなかったことか」
「う、そだろ……」
まぁ、確かに嘘だがな。仕掛けは単純。俺が古代竜カリスに頼み、竜巫女の証である指輪に、バッドステータスの付与を詰め込んでもらったのだ。
ゲームの中で、ヒロインが祝宴に参加しなければならない状況になり、毒を盛られるかもしれないと、王太子から贈られた髪飾りに古代竜カリスが解毒の効果を付与してやっていた。それにヒントを得たものだ。解毒の効果を与えられるのなら、その逆もできるのではないか、と。
俺の立てた逆襲の計画を聞き、面白そうだと協力を約束してくれているカリスは、それをあっさりと形にしてくれた。
指輪に込められた効果の内訳は、嘔吐・苦痛・貧血・発熱・錯乱・疑心・飢餓・凶暴。
一度に罹る状況があれば、それこそ悪魔憑きを疑うしかないバッドステータスの数々だ。
それを『ジュリエッタ以外が指輪を嵌めた時のみ』発動するように調節してもらった上で、俺達は晩餐会に乗り込んできた。名前だけの竜巫女に、偽りの因果を吹き込むために。
「うぉぇ……!」
治癒魔法の効果が薄れたのか、再びメリアが口を掌で押さえて苦しみ始める。治療術師達が慌てて魔法を掛け直し何とか平穏を取り戻したが、焼け石に水であるのは誰の目にも明らかだ。
「い、いや……! 竜巫女、なんて、もう、いや……!」
涙目でしがみついてくるメリアを抱き締めたナーシャは、鋭い視線でマラキアを睨み付ける。
「メリアは、竜巫女を辞めるわ。だからこの指輪を外させて!」
「……ご冗談を」
マラキアはまたもや、やれやれと言いたげな表情をする。
「竜巫女は贄巫女と違い、空座が許されない役目です。一度竜巫女を務めたジュリエッタ様が、再びその任に就くことはできません。メリア様が竜巫女をお辞めになると仰るのであれば、代わりに竜巫女を引き受ける乙女を捜し出し、御本人の承諾を得てください」
「そ、んな……」
「……だ、誰か! 誰か、メリアを助けてくださいませんか⁉」
言葉をなくすメリアに代わりナーシャが声を張り上げて周囲に尋ねたが、あのメリアの姿を目にした貴族達が自分の娘を差し出すわけがない。晩餐会に出席していた若い娘達は少しずつ後退り、その両親達も身体を寄せ合ってナーシャの視線から我が子を隠す遮蔽物になろうと努めている。
「引き継ぐ方がいらっしゃらなければ、竜巫女はメリア様が継続して務めることとなります。お前達、メリア様を神殿にお連れして、女官達に身体を清めていただくよう、お願いしてください」
「承知いたしました」
「やめて!」
マラキアの指示に頷いた神殿騎士達は、力の入らないメリアの身体をナーシャの腕から奪うように抱え上げ、さっさと担架に乗せて会場の外に運び出していく。
「連れていかないで! ウィクルム様! モリノ! 彼らを止めてください!」
「っ……」
「ダメなんです、ナーシャ……!」
悔しそうに唇を噛む王太子と、爪が喰い込むほどに拳を握り締めたモリノ。
「ど、どうして……!」
「竜巫女の身柄は神殿預かりのため、神官長に権限があります。メリアが竜巫女になったとあれば、居住地を神殿とするのも義務です」
「そんなの、そんなの聞いていないわ‼」
「……またそれですか」
いい加減その台詞は聞き飽きたと言いたげな、マラキアの声色。
「竜巫女の責務は想像を絶するものです。だからこれまで決して口外することなく、次代の竜巫女と定められた乙女にのみ、その実情を明かしてきました。……そうしなければ、継いでくださる方がいなくなってしまいますからね。まぁ今回の顛末で、もう秘密にはできなくなりましたが」
「そんな……メリアを騙したのね⁉ ジュリエッタ様の身代わりにするために……!」
「……人聞きの悪い。そもそもジュリエッタ様は貴女様の身代わりに贄巫女となられたのですよ。苦痛を伴う竜巫女の業まで背負わせ続けるわけにはいかないでしょう」
「わ、たし、の……」
言葉を途切れさせ、小さく首を振るナーシャとマラキアの間に、小さな影が割って入った。ナーシャを庇うように腕を広げたモリノは、静かに神官長の顔を仰ぎ見る。
「……まだ、お聞きしたいことがあります。神官長」
張り詰めた新宰相の声は、ここで次の一手を打つと決めたが故のものだ。
どうぞ、と先を促したマラキアの前で、モリノは小さなガラス瓶を掲げる。中指ほどの大きさをしたガラス瓶の中は薄い紫色の液体で満たされ、その底には丸い花弁を持つ花が一輪、沈んでいた。
「これは、僕がとある伝手から入手した薬です。睡藻と呼ばれていて、強力な鎮痛効果と幻覚を伴う多幸感を得るのと引き換えに、服用者に強度の常習性を齎す、麻薬に近いものです」
なんと実物まで手に入れているとは。俺は心の中で、密かにモリノに賞賛を送る。
睡藻は神官長マラキアの持つ秘密の一つ。ゲームにおいて、隠し攻略対象である神官長マラキアが行う業が、この麻薬の原料である【竜睡】という花の栽培だ。
騎士団長の息子であるリュトラの攻略後出現するマラキアルートのシナリオは、王道である王太子ルートとは真逆の、王国の抱える闇にスポットを当てた退廃的で生臭いストーリーだ。マラキアはスラムで娼婦が産み捨てた父親の分からない子供であり、泥水を啜って生き延びた過去を持つ。利用できるものは全て利用する、蹴落とさなければ自分が殺される。そんな幼少時代を送った彼は、神殿に拾われた後、貪欲に知識を吸収して、神官長にまで登りつめたのだ。権力を手に入れ、代々の神官長が秘かに栽培を続けていた竜睡の管理を引き継いだマラキアは、アンドリムの協力を得て精製した麻薬を他国に流し、着実に私腹を肥やす。
神官長ルートに入った場合。バッドエンディング時のヒロインは、マラキアの手で麻薬漬けにされる。グッドエンディングでも王都に麻薬をばらまき国外逃亡するマラキアにヒロインがついていく、大団円とは言えない終わり方だ。
この睡藻こそが、代々の竜巫女が短命となる理由だった。
貴族や王族の姫にとって、お飾りで過ごす神殿の生活は、刺激のない退屈な日々だ。自由な外出も、おいそれと誰かに会うこともできない。我儘に育った若い娘は、そう長い期間は耐えられないだろう。そこに神官長が耳打ちする。実は、楽しい心地になれる薬がございます……と。
若い竜巫女はその言葉に飛びつき、薬に溺れ、あっという間に中毒患者の出来上がり……という顛末だ。後は頃合を見て薬を出し惜しみすることで、竜巫女の実家から金を出させれば良い。
そして麻薬に芯まで肉体を蝕まれた竜巫女達は、たとえ竜巫女を辞しても、次々と命を落としていく。これが、竜巫女が早逝と評される噂の真相だ。
ちなみにジュリエッタだけは王太子との婚約が決まっていたので、将来王太子の子供を産む未来を考慮し、アンドリムが睡藻を与えることを禁じていた。そもそも当時の彼女は僅か七歳であり、麻薬を使っては、即座に命を落とした可能性もある。
竜睡は元々水草の一種なのだが、古代竜カリスが身を浸した地底湖の水のみを使って栽培し、陽の当たらない条件下で開花に成功した花だけが、睡藻の原材料となる。効能は素晴らしいが、生産数が極端に少ない薬で、希少価値が高いために竜巫女以外に使われることはほぼなかった。しかし、ジュリエッタが竜巫女となって数年後に神官長となったマラキアは、宰相と手を組んだ。そしてジュリエッタが服用しないことで余らせることができた睡藻を国外に持ち出し、高額で売り捌いていた。
モリノはその足跡を追い、何処かで実物の一部を押収してきたのだろう。
「これは貴方の造ったものだ……神官長、違いますか」
モリノの問いかけに。神官長マラキアは笑顔を崩さず「確かにそうですよ」と事もなげに答える。
「認めるのか神官長! この薬を造ったのが、アンタだと!」
息を呑むモリノに代わり吼えるように叫んだリュトラへ顔を向けて、マラキアは「はい」と頷く。
「確かに、その睡藻を精製したのは私です。成るほど、隣国に届くべきものが誰かしらに強奪されたと聞いていましたが、貴方達でしたか」
「ぬけぬけと……!」
「神官長。今は、僕達がこの薬を入手した経路はどうでも良い。薬を造ったのが貴方であるならば、それは重大な犯罪だ」
「……ほう?」
顎に指を当て、小首を傾げてみせるマラキアに焦燥感はない。余裕の態度だ。
「しらばっくれるな! お前が造った薬のせいで、どれほどの人が……!」
「……神官長マラキア。宰相ツエッツオの名において、貴方を拘束します」
「ふむ……それは、拒否いたしましょう。謂れがありません」
「何だと⁉」
激昂するリュトラを片手で制し、モリノは注意深くマラキアの穏やかな笑顔を観察する。
モリノは確かに天才なのだろう。だけど彼は、美しい世界だけで生きてきた。平民出身とはいえ彼の両親は裕福な商人であり、カビの生えたパンを齧った経験などあるはずもない。
故に、笑顔の裏に潜む粘着質の闇、その存在を見抜いていたとしても、その深さは見誤るのだ。
「……反論を聞きましょう、神官長マラキア」
「またおしゃべりですか……私は早く神殿に帰りたい心地ですけどね」
仕方ないと肩を竦め、マラキアは俺に視線を向け、許可を求めるように形ばかり一礼をする。俺が頷き返したのを見届け、彼は法衣の下から古い冊子を取りモリノに差し出す。
「宰相閣下、これが何かはお分かりですね?」
「……【竜神哭示録】――神殿に伝わる、古代竜カリスとの契約書です」
「その通り。建国の折、賢者アスバルがカリス猊下と交わしたものです。この契約書自体がカリス猊下の魔力で守られており、損なうことはおろか、中身を書き換えることも不可能です」
「知っています。それが、何か?」
「〝神官長は古代竜カリスを守護するための、あらゆる行為を認められるものとする。その手段を問わず、神殿の存続に力を注ぎ、贄の巫女、竜の巫女を支える努力をすべし〟」
「……神官長について述べられた一文ですね」
「私はこの教えに従ったまで。睡藻が誰のために作られていた薬か分からない貴方ではないでしょう。睡藻は本来、竜巫女の苦痛を和らげるもの。確かに、劇薬ではあります。だがそれなしでは、代々の竜巫女は狂うしかなかった。薬を服用せずに耐え抜かれたのは、歴代の竜巫女の中でも最年少であったジュリエッタ様のみです。なんと、強い御心をお持ちなのか……」
「では睡藻を国外に持ち出し、売りつけていた件に関してはどう説明するおつもりですか!」
正しいと思って問い詰めるその言葉が、味方である王太子の首を絞めることになるとも知らず、モリノは言葉を重ねる。
「この動きは貴方が神官長となってからのものです。睡藻が大量生産できない薬であることは知っていますので、ジュリエッタ様が服用なさらなかったことで余分が生まれたのは分かりました。だが国外にそれを持ち出し、あまつさえ売り捌く。これは明らかに貴方の罪でしょう」
「……お前のせいで、その薬のせいで、フィオナは……!」
そう呟いたリュトラは五年前、南国のサナハに一年間留学し、そこで三歳年上の乙女、フィオナに初めての恋をした。しかし彼女は命を落とす。丸い花弁の花を底に沈めた薄紫色の薬を飲んで。
それは、ヒロインがリュトラルートに入った時に明かされる、彼の悲しい過去だ。
リュトラはフィオナが眠る寝台の枕元に置いてあった睡藻の特徴をよく覚えていて、その足取りを追う。やがて神官長マラキアに辿り着き……というシナリオが展開するわけだ。
「はぁ……新宰相閣下、暫しお耳を拝借願えないでしょうか」
「……僕に魔術をかけることはできませんよ」
「何を勘違いされているのやら。私が大きな声で説明すれば、痛手を被るのはそちらです。安心なさい。私は人心を操る魔術は使えません」
近づいてきたモリノの傍でマラキアは身を屈め、何事かを彼の耳に囁いた。モリノの顔色が変わり、少女めいた丸い目が大きく見開かれる。
「皆様にも聞こえるように、ご説明したほうが宜しかったですか?」
「……いえ。それには及びません……神官長のご配慮に感謝いたします」
「モリノ⁉」
驚愕の表情を浮かべたリュトラの叫びに返事をする余裕は、今のモリノにはないだろう。
「それでは、本日は退出させていただきます。私は逃げも隠れもいたしません。ご心配ならば、信頼のおける誰かを神殿に寄越しなさい。勤めの邪魔にならない程度であれば、お相手いたします」
「では私も戻るとするか。ジュリエッタの手当てをしなければ……おいで、ジュリエッタ」
「はい、お父様」
愕然とする王太子達を尻目に美しいジュリエッタを抱き上げた俺は、最後まで笑顔を崩さなかったマラキアを伴い、煌びやかな晩餐会の会場を後にする。
――さあ、破滅の交響曲が奏でられ始めた。
これはほんの序曲、始まりにすぎないことを、その身をもって知るが良い。
第二章 指し手は嘲笑う
「……やられました。神官長を捕縛することは敵いません」
波乱の晩餐会から数日を経た、王族の執務室。苦々しい表情を浮かべたモリノは、執務室に入室するや否や抱えていた数冊の帳簿をデスクの上に置いた。
「そんな!」
「何でだよ!」
マラキアを拘束して罪状を追及し神官長を挿げ替えれば妹を助けられると信じていたナーシャと、マラキアに遺恨のあるリュトラがモリノに食って掛かろうとして、シグルドに止められる。
「落ち着けナーシャ、リュトラ。まずはモリノの話を聞こう」
「シグルド、でも……!」
「なんでお前はそんなに冷静なんだよ! 恋人が神殿の手に渡ったんだぞ⁉」
「だからこそだ。焦って良からぬ行動をし、メリアの身にあれ以上の何かが起こったらどうする」
絞り出すように呟かれたシグルドの言葉に、リュトラは我に返って俯いた。歯嚙みをして耐えるシグルドの肩を叩き、黙したリュトラと視線を合わせた騎士団長のヨルガは、静かに頷く。
「焦るなリュトラ。それこそ相手の思う壺になる。シグルド……偉いぞ」
「……ありがとうございます、団長」
「すみません父上……」
「ナーシャ様、メリアのことを心配しているのは、私達も同じです。冷静になりましょう」
「はい……」
そうこうしているうち定刻となり、トランペットの音色と共に、王太子が会場に姿を現す。
パルセミス王国王太子、ウィクルム・アトレイ・パルセミス。彼は二年前に十八歳の成人を迎え、半年前に不慮の事故で両親である国王と王妃を一度に失っていた。端整な容姿に加えてその性格は公明正大であり、温和で堅実。統治者としては多少甘さが心配されるが、それは家臣達が支えれば良いだけのこと。彼の即位に異を唱えるものは誰一人おらず、喪が明ける半年後に執り行われる竜神祭にあわせて、空席となっている王座に就くことが定められている。
そんな王太子にエスコートされて姿を見せたのは、美しいマリンブルーのドレスに身を包んだ可憐な少女、ナーシャ・ラトゥリ。贄巫女となる聖なる乙女として辺境から連れてこられ、その運命を撥ね除けた少女だ。
二人の背後を守るのは俺の息子であり王太子直属の近衛騎士であるシグルド・イシス・アスバル。ヒロインが王太子ルートに入っている場合、シグルドは最終的に、ナーシャの妹であるメリアと結ばれる。それなのに今、カナリア色のドレスを着たメリアをエスコートしているのが騎士団長の息子・リュトラであるのは、シグルドが王太子の護衛中だからだろう。
さらに神童モリノ、騎士団長ヨルガ・フォン・オスヴァインも揃ったところで、主催者席に着いた王太子から晩餐会の始まりと、ナーシャ・ラトゥリとの婚約が宣言された。
おやおや、ジュリエッタに関するお言葉は、一言もなしか。
お決まりのように湧き起こる祝福の歓声と拍手の渦が一段落ついた頃、俺は徐ろに立ち上がり、ぱん、ぱん、と殊さらゆっくり手を叩きながら王太子の席に歩み寄った。
「……アンドリム」
俺の姿を見咎め青褪めるナーシャと、彼女を背に庇うように立ちはだかる王太子ウィクルム。シグルドとヨルガが剣の柄に手を掛けているが、俺は意にも介さず、王太子の前で臣下の礼を取る。
「王太子殿下におかれましては、この度のご婚約、誠にお慶び申し上げます」
「おい、何を考えている」
横から口を挟んできたシグルドの言葉を無視して王太子の周囲に視線を巡らせ、その中に神童モリノを見つけた俺は、にこやかな笑顔で彼を手招いた。気をつけろ、と囁いたリュトラに小さく頷き返したモリノが警戒心を漂わせて近づいてきたところで、首に下げていた金色の懐中時計を外す。
背面にパルセミス王家の紋章が彫られた懐中時計は宰相の位を表す徽章で、公の場では必ず携えておく決まりがある。事故死した父に代わり、俺が二十歳の時に引き継いだものだ。
「モリノ・ツエッツオ。手を出しなさい」
「え……」
流石の神童も予測していなかった事態なのか、モリノが呆然としている隙に俺は彼の手を掴み、その掌の上に金色に輝く懐中時計をそっと置いた。
「今日からこれは、君のものだ。おめでとう、宰相モリノ・ツエッツオ。殿下に忠誠を尽くし、パルセミス王国を正しく守るように」
モリノの瞳が、驚愕に揺れる。それは王太子とその周りに集った家臣達も同様だ。喚き立てる彼らの前で再び大きく手を叩いた俺は、再度恭しく王太子に向かって頭を下げた。
「恐れながら申し上げます。この言寿ぎの場にて申し出るのは大変申し訳ない次第ではございますが、王太子殿下、私は宰相職を辞したいと考えております」
「……なっ……」
「つきましては、後任をモリノ・ツエッツオに任せようと思います。モリノは十六の若さでありながら王国随一の頭脳を誇り、王太子殿下の信も篤い有望な青年です。彼ならばこの先、王太子殿下を支えてくれるでしょう」
「待て、宰相アスバル。そのように重要なことを独断で決定するのは如何なものか」
驚愕から最初に立ち直り、疑問をぶつけてきたのは、騎士団長のヨルガだった。
俺は首を傾げ、目は笑わず、口元だけに笑みを浮かべてヨルガの顔を見上げる。ぐ、と息を呑んだヨルガは負けじと俺を睨み返し、未だ戸惑うモリノを庇うように俺の前に立ちはだかった。
上背のあるヨルガを見るには、俺は少しばかり仰向かなければならない。いつもはただ嘲りだけを含ませ見下していた男の瞳に映るのは、仇と憎み続けて来たであろう俺の姿だ。戯れに手を伸ばし、指先でついと胸骨に触れてやると、彼は過剰なまでの素早さでその手を振り払った。
……まぁ、ヨルガとアンドリムの間にある因縁を考えたら、しょうがないか。
「次期宰相の任命は、現宰相に一任されるが慣例。貴方が騎士団長に任命されたのも、前任者の指名であったと記憶しておりますが?」
「確かに、それはそうだが」
「さらに父である私に断りもなく嫡男が近衛騎士に就いているのも、貴方が許可した故と聞いておりますが、何か異議でも?」
「くっ……」
口籠るヨルガに代わって、今度はシグルドが声をあげる。
「俺は成人していたのだから、アンタの許可なんて要らないだろう!」
「黙れシグルド。成人していようといまいと、お前がアスバル家の家名を背負っていることに変わりはない。口を出すな」
「何だと!」
「落ちついてシグルド。ヨルガ様も、ありがとうございます。少し驚いただけ、です」
漸く我に返ったのか、神童モリノが数回深呼吸を繰り返した後で膝を折り、深々と頭を下げた。ここで俺の気が変わらないうちに宰相の地位を取り上げてしまうのは、不利益にならない。そう判断したのだろう、モリノよ。――果たしてそうかな?
「謹んでお受けいたします。より良い国に導けるよう、一層精進いたします」
「それで良い。……では宰相モリノ・ツエッツオ、君に最初の仕事を依頼したい。……おいで、ジュリエッタ。マラキア、準備を」
「はい、お父様」
「承知いたしました」
俺はジュリエッタを呼び寄せ、王太子とナーシャの前で臣下の礼を取らせた後、その場に跪かせた。嫌悪感を露わにする王太子と怯えた素振りを見せるナーシャに構わず、ジュリエッタの履いていた靴を片方取り去る。白く細い踵を曝した娘は逃げ出すことなく、俺の肩に掴まってその時を待ってくれた。
「皆様も知っての通り、我が娘ジュリエッタは王太子殿下の御下命により、贄巫女の誉をいただくこととなりました。本来ならば王城に設けられた贄巫女の間に身を置く定まりでしょうが、ジュリエッタは長く竜巫女を務めた影響で心身ともに衰弱しております。よってしかるべき処置を施すことで、竜神祭までの療養を希望いたします……マラキア」
「御意に」
頷いたマラキアが手にしていたのは、神殿の紋章が柄に刻まれた小さなナイフ。彼はジュリエッタの傍らに身を屈めると、誰かが止める間もなく、娘の踵と脹脛の間を真横に切り裂いた。
「キャアアア⁉」
「神官長、何を……!」
貴族達が集まる晩餐会の会場で、突然繰り広げられた凶行。
悲鳴をあげる周囲を他所に淡々と処置を終えたマラキアは、すぐに止血の布を傷に押し当て、唇を噛んでいたジュリエッタに「頑張りましたね」と柔らかい声をかけた。
「な、何を……」
思考が追いつかない王太子とナーシャとは裏腹に、モリノはすぐに俺の意図を察したようだ。
そう、この処置は前例のあるものだ。過去にも、身体が弱いと判断された贄巫女がいた。王城の一室に閉じ込められると、体調不良を起こして健康状態が悪化していたのだ。彼女は転地療養するために、踵と脹脛の間……所謂アキレス腱を切ることで、王城から出ることを許された。
アキレス腱が断裂すると、走ったり跳ねたりできなくなる。たとえ馬や馬車を使ったとしても、走れなくては逃走不可能だろう。女性であれば、片足でも充分な効果を発揮する手法だ。
「……王城外での療養を許可いたします。王宮の護衛兵が詰めることになりますが、構いませんね」
「ああ、それは当然だ。こちらからもお願いする」
「どういうことなの……? 贄巫女になったナーシャは閉じ込められてたって聞いたのに……」
思わず口をついたのだろうメリアの素朴な疑問に、リュトラは慌てて自分の唇の前に指を立て静かにと指示していた。しかし、生憎と彼女の言葉は止まらない。
「贔屓じゃないの。その人が贄巫女なら、ナーシャと同じく軟禁されるべきだわ!」
正義感の強い彼女は、双子の姉がジュリエッタに嫌がらせをされていたことが許せないのだろう。そんな自分が正しいと言わんばかりの態度を、新たな宰相となったモリノが鋭い言葉で諌める。
「いけません、メリア。ジュリエッタ様を閉じ込める必要がなく、療養が必要だとの申請があれば、可能なのです」
「何よそれ……意味が分からない」
「メリア、頼むから今は黙ってて……!」
リュトラに懇願されて一応口を閉じはしたものの、頬を膨らませたメリアは不服そうだ。自分が部外者だと思い込んでいるが故の、稚拙な行動。さて、その表情が何処まで続くか見ものだが。
「重ねて、贄巫女となったジュリエッタの家族が受ける権利を主張いたします。また、ジュリエッタが十年に亘り務めてきた竜巫女の責務を、殿下の婚約者となられたナーシャ様の妹君、メリア嬢に譲渡するものとします」
「え、私が……?」
「家族が受ける権利……?」
突然の指名を受け驚いた様子のメリアと、不思議そうに聞き返したナーシャの呟きに、モリノの顔色があからさまに変わる。
若いな。ダメだぞ、宰相ともあろうものが、そんなに動揺を表情に出しては。と言っても、俺も前世で死んだのは多分二十代だったはずなのだが。まぁこの世界での俺は、外見こそ若々しいものの既に四十二歳だし、腹黒宰相を長年務めた甲斐あって、思考と真逆の表情を保つのは得意だ。
「おや、ご存知ないのですか? 家族の権利とは……」
俺がさも驚いたかのように肩を竦め、ナーシャに家族の権利について説明しようと口を開きかけたところで、モリノが叫ぶような声で返答した。
「当然家族の権利は認められます! 竜巫女の引継についても、メリア様が承諾されれば、宰相の名のもとに承認いたします」
……焦って墓穴を掘ったな、モリノ。
家族の権利はナーシャ自身にはひた隠しにされた秘密だ。ヒロインがモリノルートに入った時のみ詳らかにされるそれは、単純に言えば金銭の話。ナーシャは自分が神殿騎士に無理やり拉致されたと考えているが、それは誤りだ。彼女は実の両親に売られたのである。
聖なる力を持つ乙女は、何も一人ではない。有り体に言えば、パルセミス王国で育った十七歳前後の乙女であれば、十人に一人程度は、聖なる乙女となれる資格を持っている。それは国民達が、古代竜カリスのもとに集った精霊達の影響を受けて成長するからだ。
したがって、贄巫女を選ぶ時期が近づくと、神殿と王城は資格を有する乙女達の情報を集め、その中でも経済的に困窮している乙女の家族に贄巫女の打診をする。ナーシャの場合は元々の貧困に加えて身体の弱い弟が手術を含めた治療を受ける必要があり、その費用を捻出するために、彼女の両親がナーシャを差し出すことに決めたのだ。
ただ彼らが愚かだったのは、自分達の口からはナーシャに生贄になる意味を言い含めず、攫う形で彼女を連れ去ってほしいと依頼したところ。自分達は最後まで優しい両親の立場を守ったまま、娘の命を犠牲にしてのうのうと生き延びるわけだ。なかなか反吐が出る処遇だよな。
王太子を含めた側近達の中でその事実を知るのは、神官長の身辺を調べる過程で贄巫女の資料を熟読し、小さくない金額が国庫から動いたことに気づいたモリノのみだ。
彼はその事実をナーシャに知られたくなくて、俺の言葉を遮った。彼女が傷つかないように。初めて恋した、その想いを遂げることは許されない、少女のために。
――そちらの方が囮だと、気づかないままに。
「ねぇリュトラ、竜巫女って何をするの? 神殿に住まないといけなくなるのかな」
リュトラの服を引いたメリアが今度は怒られないようにと一応声を潜めて尋ねている。だが、近くにいる俺には丸聞こえだ。当然ジュリエッタにも聞こえていると思うが、俺の意図を理解している賢い娘は、黙ってそれを聞き流していた。
「竜巫女は祭事を司る神職だよ。神事を取り仕切ったり、民衆の悩みを聞いたりする。でも実際は、形骸化してる。あのお嬢様が十年も務めることができたぐらいだ。公務も殆どない」
……もう少しオブラートに包んだ言い方はできないものか。一応リュトラも騎士の位を賜っているはずなんだが、会話が全部周りに聞こえていた。はっきり言えばヨルガにも聞こえている。気を抜きすぎじゃないか? ヨルガの秀でた額の片隅に青筋が見える。……少し同情するな。
「でも、身分が上がる」
「それって……!」
「ああ、貴族のシグルドと吊り合いをとるのには、悪くない話だと思う」
メリアの瞳が逡巡に揺れる。賢者アスバルの末裔である貴族と、辺境に暮らしていた平民。妾ならばともかく、決して妻にはなれない身分の差だ。愛したシグルドと結ばれることはできないかもしれない。そんな不安を背負っていたメリアの返答は、最初から分かりきっていた。
「なるわ。私、竜巫女の責務を、引き受ける」
「メリア!」
「大丈夫よナーシャ。少しの間不自由になっても、結婚できなくなるわけじゃないんでしょ?」
実際、竜巫女であったジュリエッタが王太子の婚約者であったのだからとメリアが呟くと、モリノもその通りだと彼女に頷き返す。
「今代の竜巫女は、贄巫女がカリス猊下に捧げられるまでの務めとなります。一代限りではありますが、竜巫女の務めを終えた後も、与えられた貴族の位を失うことはありません」
「じゃあ、あと半年程度なのね。それぐらい平気よ」
「承知いたしました。メリア嬢の承諾を、宰相の名において承認いたします……神官長」
「御意に」
恭しく傅いたマラキアは、手当てを受けて俺の膝に抱かれていたジュリエッタの左手を取る。彼女のオペラ・グローブを外して、中指に嵌めていた銀の指輪を抜き取った。虹色に光る宝玉が埋め込まれた指輪は、竜巫女の証。当代の神官長の手でのみ外すことが許されるそれは、古代竜カリスが封じられた地底湖の扉と同じ仕組みを使っているそうだ。
「永らくの務め、国民に代わりまして、深く感謝いたします。これからは贄巫女の務めを果たされる日のために、どうぞゆるりとご静養なされませ」
「……ありがとうございます」
少し弾んだジュリエッタの声。頼りの父は宰相職を辞し、贄巫女として竜に捧げられる未来が待ち受け、唯一残されていた立場さえも奪われたというのに、彼女の声色には喜びが滲んでいる。不審に感じた者達が少なからずいるだろう。……ジュリエッタは、本当に優秀な子だ。
「メリア・ラトゥリ。こちらへ」
促され、ドレスを揺らして一歩踏み出たメリアの左手に、マラキアの手が緩く添えられる。
「今この時より、貴女様は、神殿の栄えある竜巫女。その身をカリス猊下の御為に捧げ、民の苦悩に耳を傾け、務め終えるその日まで尽くすように」
「……分かりました」
それは、誓約を生む言葉。古代竜カリスの名の下に自らが唱えた誓いは、破ることができない。
マラキアの手が、グローブを外したメリアの中指に、静かに指輪を嵌める。次の瞬間――
「おげえええええっ‼」
白目を剥いたメリアは奇声をあげながら嘔吐し、吐瀉物に塗れた床に転がって悶絶した。
「キャアアアア⁉」
「悪魔憑きだ、悪魔が憑いたぞ!」
会場の中に再び湧き起こる悲鳴と怒号。確かに、美しいドレスや整えられた髪をゲロまみれにして泡を噴き床の上で痙攣する若い娘の姿は、なかなか壮絶なものがある。
ナーシャは妹に駆け寄り、王太子と側近達はそれぞれの得物を手に臨戦態勢を取った。
「貴様、メリアに何をした‼」
すました表情のままのマラキアにシグルドが振り下ろしかけた剣は、俺が呼び寄せていた神殿騎士の盾に弾かれる。
「ハハハハハハ‼」
緊迫した状況を嘲笑うかのように、響き渡る哄笑。
誰しもが表情を強張らせ、声の主――俺に、元宰相に、注目する。
「ついに、ついに解放されたぞジュリエッタ! 私もお前も忌々しい責務から解き放たれた!」
「お父様……!」
感極まった様子で娘を抱き締め笑い続ける元宰相の姿は、如何にも狂気じみていたことだろう。
そうこうしているうちに、宮廷医師と治療術師達がメリアのもとに駆けつけた。治癒魔法がかけられ、メリアは何とか意識を取り戻す。しかしその身体は、強度の嘔吐感と凄まじい苦痛に苛まれたままのはずだ。汚れた彼女の顔面は、蒼白になっている。
「神官長マラキア、これは一体、どういうことだ……!」
王太子の厳しい追及にも、向けられたレイピアの先端にも、マラキアは動じない。逆に口元に笑みを刻み、信者達に言葉をかける時のように、胡散臭いほど穏やかな調子で王太子に語りかける。
「どうもこうもありません。メリア様は竜巫女になられた、ただそれだけのこと」
「それでどうしてメリアがこのように苦しむ! お前が毒でも盛ったのだろう⁉」
「……王太子殿下。失礼ながら、まさかとは思いますが、王太子である貴方様が、高い身分を保障される竜巫女が形だけのものであると勘違いなされてはいませんよね?」
「何……?」
当然、形だけのものだと思っていただろう王太子の表情が、驚きに染まる。
「竜巫女は、贄巫女がカリス猊下に捧げられる日まで、猊下をお支えする役割を持ちます。それはただ神殿に勤めるだけではありません。贄巫女が捧げられるまでの繋ぎとして、自らの魔力の殆どを猊下に捧げる必要があるのです。メリア様の御不調は、極度の魔力不足に陥った故かと」
「……そんな話、聞いてないわ!」
メリアを支えたナーシャの叫びに、マラキアはやれやれといった様子で軽く首を振る。
「当然です。竜巫女となった乙女の背負う業は、口伝のみで伝えられる、秘匿すべき罪の一つ。貴女様が贄巫女に選ばれていたからといって、竜巫女の秘密を明かされるわけではない」
「そんなのおかしいじゃないか! それならなんで、アンタの娘は平気だったんだよ!」
リュトラの指が、真っ直ぐに俺を差した。失礼な態度に加えて言葉遣いを繕うことも忘れているみたいだが、それは当然投げかけられると思っていた指摘。俺は待っていましたとばかりに、ジュリエッタの顔を隠していたヴェールを両手で掬い上げる。
「え……あ……?」
正面からジュリエッタの顔を目にしたリュトラの唇から、意味のない単語が滑り落ちた。
「まぁ……! あのご令嬢は、まさか」
「おぉ、なんと、お美しい……。彼女もやはり、賢者アスバルの末裔ということか……」
「まるで、月光の精霊に愛されているみたいだわ」
さざ波のように広がる、称賛の言葉と感嘆の吐息。貴族諸君、正しい評価をご苦労。
ヴェールの下から現れたのは、ナチュラルメイクを施したジュリエッタの美貌だ。
小さなパールを鏤めた糸で結い上げた、銀色の髪。震える長い睫毛の下に見え隠れする、翡翠の輝きを宿した瞳。白い頬をほんの少しだけ染めた淡い桃色と、小さな唇を飾る薄紅色。父親の肩に縋る腕はガラス細工のように滑らかで、コルセットに包まれた腰は手で囲えそうなほどほっそりとしている。それこそ、王太子の隣に並ぶナーシャと比較しても遜色ない……ともすればそれ以上の評価を受けるかもしれない、儚げな美少女。
人は、美しいものを目の当たりにした時に、理性や立場を忘れることがある。正にその状態なのだろう、正常な判断が乏しくなったリュトラに畳み掛けるように、俺は話を続ける。
「リュトラ・ミルカ・オスヴァインよ。君の疑問に答えようか? 無論、私のジュリエッタも、同じ苦しみを味わい続けた。長く竜巫女を務めたので多少は耐性があるため、不調があってもメリア様のように正気を失うには至らない。それでも、人前では常に濃い化粧で顔色を誤魔化し続けなければならない程度には、竜巫女の責務に苛まれ続けていたのだよ」
「ジュリエッタ様は、七歳で竜巫女の任に就かれました。……着任当初は、今のメリア様と同じ状態に何度も陥られましたよ。当時の私はまだ一介の神官にすぎず、祈ることしか許されぬ我が身の何と歯痒く情けなかったことか」
「う、そだろ……」
まぁ、確かに嘘だがな。仕掛けは単純。俺が古代竜カリスに頼み、竜巫女の証である指輪に、バッドステータスの付与を詰め込んでもらったのだ。
ゲームの中で、ヒロインが祝宴に参加しなければならない状況になり、毒を盛られるかもしれないと、王太子から贈られた髪飾りに古代竜カリスが解毒の効果を付与してやっていた。それにヒントを得たものだ。解毒の効果を与えられるのなら、その逆もできるのではないか、と。
俺の立てた逆襲の計画を聞き、面白そうだと協力を約束してくれているカリスは、それをあっさりと形にしてくれた。
指輪に込められた効果の内訳は、嘔吐・苦痛・貧血・発熱・錯乱・疑心・飢餓・凶暴。
一度に罹る状況があれば、それこそ悪魔憑きを疑うしかないバッドステータスの数々だ。
それを『ジュリエッタ以外が指輪を嵌めた時のみ』発動するように調節してもらった上で、俺達は晩餐会に乗り込んできた。名前だけの竜巫女に、偽りの因果を吹き込むために。
「うぉぇ……!」
治癒魔法の効果が薄れたのか、再びメリアが口を掌で押さえて苦しみ始める。治療術師達が慌てて魔法を掛け直し何とか平穏を取り戻したが、焼け石に水であるのは誰の目にも明らかだ。
「い、いや……! 竜巫女、なんて、もう、いや……!」
涙目でしがみついてくるメリアを抱き締めたナーシャは、鋭い視線でマラキアを睨み付ける。
「メリアは、竜巫女を辞めるわ。だからこの指輪を外させて!」
「……ご冗談を」
マラキアはまたもや、やれやれと言いたげな表情をする。
「竜巫女は贄巫女と違い、空座が許されない役目です。一度竜巫女を務めたジュリエッタ様が、再びその任に就くことはできません。メリア様が竜巫女をお辞めになると仰るのであれば、代わりに竜巫女を引き受ける乙女を捜し出し、御本人の承諾を得てください」
「そ、んな……」
「……だ、誰か! 誰か、メリアを助けてくださいませんか⁉」
言葉をなくすメリアに代わりナーシャが声を張り上げて周囲に尋ねたが、あのメリアの姿を目にした貴族達が自分の娘を差し出すわけがない。晩餐会に出席していた若い娘達は少しずつ後退り、その両親達も身体を寄せ合ってナーシャの視線から我が子を隠す遮蔽物になろうと努めている。
「引き継ぐ方がいらっしゃらなければ、竜巫女はメリア様が継続して務めることとなります。お前達、メリア様を神殿にお連れして、女官達に身体を清めていただくよう、お願いしてください」
「承知いたしました」
「やめて!」
マラキアの指示に頷いた神殿騎士達は、力の入らないメリアの身体をナーシャの腕から奪うように抱え上げ、さっさと担架に乗せて会場の外に運び出していく。
「連れていかないで! ウィクルム様! モリノ! 彼らを止めてください!」
「っ……」
「ダメなんです、ナーシャ……!」
悔しそうに唇を噛む王太子と、爪が喰い込むほどに拳を握り締めたモリノ。
「ど、どうして……!」
「竜巫女の身柄は神殿預かりのため、神官長に権限があります。メリアが竜巫女になったとあれば、居住地を神殿とするのも義務です」
「そんなの、そんなの聞いていないわ‼」
「……またそれですか」
いい加減その台詞は聞き飽きたと言いたげな、マラキアの声色。
「竜巫女の責務は想像を絶するものです。だからこれまで決して口外することなく、次代の竜巫女と定められた乙女にのみ、その実情を明かしてきました。……そうしなければ、継いでくださる方がいなくなってしまいますからね。まぁ今回の顛末で、もう秘密にはできなくなりましたが」
「そんな……メリアを騙したのね⁉ ジュリエッタ様の身代わりにするために……!」
「……人聞きの悪い。そもそもジュリエッタ様は貴女様の身代わりに贄巫女となられたのですよ。苦痛を伴う竜巫女の業まで背負わせ続けるわけにはいかないでしょう」
「わ、たし、の……」
言葉を途切れさせ、小さく首を振るナーシャとマラキアの間に、小さな影が割って入った。ナーシャを庇うように腕を広げたモリノは、静かに神官長の顔を仰ぎ見る。
「……まだ、お聞きしたいことがあります。神官長」
張り詰めた新宰相の声は、ここで次の一手を打つと決めたが故のものだ。
どうぞ、と先を促したマラキアの前で、モリノは小さなガラス瓶を掲げる。中指ほどの大きさをしたガラス瓶の中は薄い紫色の液体で満たされ、その底には丸い花弁を持つ花が一輪、沈んでいた。
「これは、僕がとある伝手から入手した薬です。睡藻と呼ばれていて、強力な鎮痛効果と幻覚を伴う多幸感を得るのと引き換えに、服用者に強度の常習性を齎す、麻薬に近いものです」
なんと実物まで手に入れているとは。俺は心の中で、密かにモリノに賞賛を送る。
睡藻は神官長マラキアの持つ秘密の一つ。ゲームにおいて、隠し攻略対象である神官長マラキアが行う業が、この麻薬の原料である【竜睡】という花の栽培だ。
騎士団長の息子であるリュトラの攻略後出現するマラキアルートのシナリオは、王道である王太子ルートとは真逆の、王国の抱える闇にスポットを当てた退廃的で生臭いストーリーだ。マラキアはスラムで娼婦が産み捨てた父親の分からない子供であり、泥水を啜って生き延びた過去を持つ。利用できるものは全て利用する、蹴落とさなければ自分が殺される。そんな幼少時代を送った彼は、神殿に拾われた後、貪欲に知識を吸収して、神官長にまで登りつめたのだ。権力を手に入れ、代々の神官長が秘かに栽培を続けていた竜睡の管理を引き継いだマラキアは、アンドリムの協力を得て精製した麻薬を他国に流し、着実に私腹を肥やす。
神官長ルートに入った場合。バッドエンディング時のヒロインは、マラキアの手で麻薬漬けにされる。グッドエンディングでも王都に麻薬をばらまき国外逃亡するマラキアにヒロインがついていく、大団円とは言えない終わり方だ。
この睡藻こそが、代々の竜巫女が短命となる理由だった。
貴族や王族の姫にとって、お飾りで過ごす神殿の生活は、刺激のない退屈な日々だ。自由な外出も、おいそれと誰かに会うこともできない。我儘に育った若い娘は、そう長い期間は耐えられないだろう。そこに神官長が耳打ちする。実は、楽しい心地になれる薬がございます……と。
若い竜巫女はその言葉に飛びつき、薬に溺れ、あっという間に中毒患者の出来上がり……という顛末だ。後は頃合を見て薬を出し惜しみすることで、竜巫女の実家から金を出させれば良い。
そして麻薬に芯まで肉体を蝕まれた竜巫女達は、たとえ竜巫女を辞しても、次々と命を落としていく。これが、竜巫女が早逝と評される噂の真相だ。
ちなみにジュリエッタだけは王太子との婚約が決まっていたので、将来王太子の子供を産む未来を考慮し、アンドリムが睡藻を与えることを禁じていた。そもそも当時の彼女は僅か七歳であり、麻薬を使っては、即座に命を落とした可能性もある。
竜睡は元々水草の一種なのだが、古代竜カリスが身を浸した地底湖の水のみを使って栽培し、陽の当たらない条件下で開花に成功した花だけが、睡藻の原材料となる。効能は素晴らしいが、生産数が極端に少ない薬で、希少価値が高いために竜巫女以外に使われることはほぼなかった。しかし、ジュリエッタが竜巫女となって数年後に神官長となったマラキアは、宰相と手を組んだ。そしてジュリエッタが服用しないことで余らせることができた睡藻を国外に持ち出し、高額で売り捌いていた。
モリノはその足跡を追い、何処かで実物の一部を押収してきたのだろう。
「これは貴方の造ったものだ……神官長、違いますか」
モリノの問いかけに。神官長マラキアは笑顔を崩さず「確かにそうですよ」と事もなげに答える。
「認めるのか神官長! この薬を造ったのが、アンタだと!」
息を呑むモリノに代わり吼えるように叫んだリュトラへ顔を向けて、マラキアは「はい」と頷く。
「確かに、その睡藻を精製したのは私です。成るほど、隣国に届くべきものが誰かしらに強奪されたと聞いていましたが、貴方達でしたか」
「ぬけぬけと……!」
「神官長。今は、僕達がこの薬を入手した経路はどうでも良い。薬を造ったのが貴方であるならば、それは重大な犯罪だ」
「……ほう?」
顎に指を当て、小首を傾げてみせるマラキアに焦燥感はない。余裕の態度だ。
「しらばっくれるな! お前が造った薬のせいで、どれほどの人が……!」
「……神官長マラキア。宰相ツエッツオの名において、貴方を拘束します」
「ふむ……それは、拒否いたしましょう。謂れがありません」
「何だと⁉」
激昂するリュトラを片手で制し、モリノは注意深くマラキアの穏やかな笑顔を観察する。
モリノは確かに天才なのだろう。だけど彼は、美しい世界だけで生きてきた。平民出身とはいえ彼の両親は裕福な商人であり、カビの生えたパンを齧った経験などあるはずもない。
故に、笑顔の裏に潜む粘着質の闇、その存在を見抜いていたとしても、その深さは見誤るのだ。
「……反論を聞きましょう、神官長マラキア」
「またおしゃべりですか……私は早く神殿に帰りたい心地ですけどね」
仕方ないと肩を竦め、マラキアは俺に視線を向け、許可を求めるように形ばかり一礼をする。俺が頷き返したのを見届け、彼は法衣の下から古い冊子を取りモリノに差し出す。
「宰相閣下、これが何かはお分かりですね?」
「……【竜神哭示録】――神殿に伝わる、古代竜カリスとの契約書です」
「その通り。建国の折、賢者アスバルがカリス猊下と交わしたものです。この契約書自体がカリス猊下の魔力で守られており、損なうことはおろか、中身を書き換えることも不可能です」
「知っています。それが、何か?」
「〝神官長は古代竜カリスを守護するための、あらゆる行為を認められるものとする。その手段を問わず、神殿の存続に力を注ぎ、贄の巫女、竜の巫女を支える努力をすべし〟」
「……神官長について述べられた一文ですね」
「私はこの教えに従ったまで。睡藻が誰のために作られていた薬か分からない貴方ではないでしょう。睡藻は本来、竜巫女の苦痛を和らげるもの。確かに、劇薬ではあります。だがそれなしでは、代々の竜巫女は狂うしかなかった。薬を服用せずに耐え抜かれたのは、歴代の竜巫女の中でも最年少であったジュリエッタ様のみです。なんと、強い御心をお持ちなのか……」
「では睡藻を国外に持ち出し、売りつけていた件に関してはどう説明するおつもりですか!」
正しいと思って問い詰めるその言葉が、味方である王太子の首を絞めることになるとも知らず、モリノは言葉を重ねる。
「この動きは貴方が神官長となってからのものです。睡藻が大量生産できない薬であることは知っていますので、ジュリエッタ様が服用なさらなかったことで余分が生まれたのは分かりました。だが国外にそれを持ち出し、あまつさえ売り捌く。これは明らかに貴方の罪でしょう」
「……お前のせいで、その薬のせいで、フィオナは……!」
そう呟いたリュトラは五年前、南国のサナハに一年間留学し、そこで三歳年上の乙女、フィオナに初めての恋をした。しかし彼女は命を落とす。丸い花弁の花を底に沈めた薄紫色の薬を飲んで。
それは、ヒロインがリュトラルートに入った時に明かされる、彼の悲しい過去だ。
リュトラはフィオナが眠る寝台の枕元に置いてあった睡藻の特徴をよく覚えていて、その足取りを追う。やがて神官長マラキアに辿り着き……というシナリオが展開するわけだ。
「はぁ……新宰相閣下、暫しお耳を拝借願えないでしょうか」
「……僕に魔術をかけることはできませんよ」
「何を勘違いされているのやら。私が大きな声で説明すれば、痛手を被るのはそちらです。安心なさい。私は人心を操る魔術は使えません」
近づいてきたモリノの傍でマラキアは身を屈め、何事かを彼の耳に囁いた。モリノの顔色が変わり、少女めいた丸い目が大きく見開かれる。
「皆様にも聞こえるように、ご説明したほうが宜しかったですか?」
「……いえ。それには及びません……神官長のご配慮に感謝いたします」
「モリノ⁉」
驚愕の表情を浮かべたリュトラの叫びに返事をする余裕は、今のモリノにはないだろう。
「それでは、本日は退出させていただきます。私は逃げも隠れもいたしません。ご心配ならば、信頼のおける誰かを神殿に寄越しなさい。勤めの邪魔にならない程度であれば、お相手いたします」
「では私も戻るとするか。ジュリエッタの手当てをしなければ……おいで、ジュリエッタ」
「はい、お父様」
愕然とする王太子達を尻目に美しいジュリエッタを抱き上げた俺は、最後まで笑顔を崩さなかったマラキアを伴い、煌びやかな晩餐会の会場を後にする。
――さあ、破滅の交響曲が奏でられ始めた。
これはほんの序曲、始まりにすぎないことを、その身をもって知るが良い。
第二章 指し手は嘲笑う
「……やられました。神官長を捕縛することは敵いません」
波乱の晩餐会から数日を経た、王族の執務室。苦々しい表情を浮かべたモリノは、執務室に入室するや否や抱えていた数冊の帳簿をデスクの上に置いた。
「そんな!」
「何でだよ!」
マラキアを拘束して罪状を追及し神官長を挿げ替えれば妹を助けられると信じていたナーシャと、マラキアに遺恨のあるリュトラがモリノに食って掛かろうとして、シグルドに止められる。
「落ち着けナーシャ、リュトラ。まずはモリノの話を聞こう」
「シグルド、でも……!」
「なんでお前はそんなに冷静なんだよ! 恋人が神殿の手に渡ったんだぞ⁉」
「だからこそだ。焦って良からぬ行動をし、メリアの身にあれ以上の何かが起こったらどうする」
絞り出すように呟かれたシグルドの言葉に、リュトラは我に返って俯いた。歯嚙みをして耐えるシグルドの肩を叩き、黙したリュトラと視線を合わせた騎士団長のヨルガは、静かに頷く。
「焦るなリュトラ。それこそ相手の思う壺になる。シグルド……偉いぞ」
「……ありがとうございます、団長」
「すみません父上……」
「ナーシャ様、メリアのことを心配しているのは、私達も同じです。冷静になりましょう」
「はい……」
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