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あるヒロインの話

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「お帰りなさいませ、リノ様」
「ちょっと部屋に行ってきます。昼食は空港で食べましたので」
「了解しました」

 私はそのままフラフラと自室へ向かう。
 ――苦しい。
 届くことのない好意がここまで苦しいものだとは思わなかった。
 ふと、前世プレイしたときのことを思い出す。元々は『外見が一番好み』という理由で選んだっけなぁ……。
 幼いころから友達という友達がいなくて人に対して億劫になってしまった氷の王子。その時の王子も私は堪らなく好きだった。
 氷は解けるもの。カイル様も例外ではなかった。
 ヒロインと徐々に打ち解けていき、やがて他の人間に対しても優しくなった。
 変態性も頭角を現し、ストーキングする彼。ゲームのパッケージに『現実でストーキングしたら普通に捕まるのでしないでください』っていう注意文が書かれていたことも今となっては思い出せる。
 そしてラストでは――。

 でも。

 ヒロインは私じゃなくてカイルを横取りしようとするはずのラミちゃんだった。
 本当だったら、その権威を使って王子を正式な婚約者にして、ヒロインに地味な嫌がらせをしたり(例:クラスメイト全員に500円するチョコを渡しているのに私のは定価300円のチョコを渡してきたり。こっちは貰えるだけでもありがたい)、カイルに無理矢理抱き着いたり、と。
 その後ラミちゃんは婚約破棄され、一生婚約できず、王家から嫌われたと思った両親がラミちゃんに地味な嫌がらせをしたり(一週間に一回だけラミちゃんの昼食がコンビニ弁当になる。なお王子ルートを選択した場合。他のルートでも王家の部分を変えるだけで待遇はほぼ同じ)、ヒロインがお兄さんかお父さんかお母さんルートを選択した場合、ヒロインが家に来て別荘に住むことになるわ散々な事になる。
 その場合は思い切って農家になるという展開も悪役令嬢には与えられるが。(選ぶのはプレイヤーという理不尽)

 そんなにゴッテゴテの悪役令嬢でもないが、あの日見たラミちゃんのような展開に私がなるのだろうか。婚約破棄令嬢が農業する展開になってしまうのだろうか。できるならば避けたい。
 だが、前世からの片思いが直接本人に伝えられる状況に、幸か不幸かなってしまったのだ。
 ならば私はできることをやりたい。

 勝ち目のない戦いだが、どうしても私は参加したかったのだ。
 ずっと憧れていた存在に物理的に手が届くチャンスがあるのならば。与えられたセリフじゃなくて自分で考えたセリフが届くのならば。
 あなたが自分で好きになる人物を選べる世界なのだったら。

 ふと、そこであることに気が付いた。


 ――この世界はどこまでも平等なだけだったんだ。


 ヒロインだから何をしても幸せになれるわけではない。悪役令嬢だからどんなルートでも不幸せになるわけでもない。
 私達に決められた展開は要らない。
 ヒロインが限界まで努力して、でも振られる展開もあるはずなんだ。
 いつか私を振ったことを後悔させてやる、というセリフを言ったり。

『ガチャッ』

 扉を開けて、そのままお父様の部屋に行く。
 ラミちゃんを好きになったことを後悔させれるような人になりたい。
 その一心で私はお父様へある提案をするに至った。
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