独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう

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第九章 玄徳、第二のロマン

決戦!! 闇の魔導組織『クーロン』②

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「…………」
「お、おい。どうしたんだ、その顔」

 俺は再び、地下牢に戻って来た。
 仕事は明日から、今日は地下牢でゆっくり休めだとさ。
 俺は、頬を押さえながら言う。

「別に、大したことない」
「……まさかお前、マオシンに喧嘩売ったのか?」
「…………」
「あいつは、闇武術の達人。魔導武器術の天才でもある、闇の業界じゃ名の知れた『クーロン』の幹部『ドラゴン』だぞ」

 闇って何回言ったのかね。とにかく、挑んだはいいが、十秒で負けました。
 くそう……県大会ベスト16の空手、柔道。じいちゃんから習った詠春拳じゃ勝ち目なかった。
 俺は床にドカッと座り、ホランドに聞く。

「な、誘拐されたお前の家族とか、どこにいるかわかるか?」
「無駄だ。オレらの作業区と、家族の住む居住区は完全に隔離されている。それにクーロンの戦闘員がわんさといる」
「ふむ……」

 ホランドに、知ってることを教えてもらう。
 まずここは魔道具、魔導武器の工房と工場のある『作業区』だ。ざっと百人ほどの魔道具技師、魔導武器職人が働いているらしい……働くと言っても強制労働だが。
 メインは魔導武器の製造。それを闇のルートで売りさばいているとか。
 そして、魔道具技師は、戦闘に使える魔導文字の開発……魔道具を作るのではなく、魔導文字だけを作るのか。
 
「仕事で成功すれば、地下牢から宿舎に移れる。ここはまあ、成果の出せない魔導職人たちの場だ」
「お前は? マオシンの野郎は、お前のこと優秀って言ってたけど……」
「オレは反抗的だからな。何度かここに入れられてる」
「……逃げ出そうと思ったことは?」
「毎日思ってるさ。王都にあるオレの工房が恋しいぜ」
「…………」

 なんとかしてやりたい……というか、できるかもしれない。
 でも、人質。
 ユキちゃんたちの安全を確認しないとダメだ。できればここの人たちの家族も。
 俺一人なら、魔法全開で動けばなんとかなる……それに、例のアレもあるし。

「おいゲントク……何を考えてんだ?」
「脱出と、この組織を潰す方法。人質の安全を確認、確保できれば動けるんだが……」
「おいおい、マジか」
 
 ホランドは苦笑する……どうやら本気にしていない。
 ふと、気になったことを聞いてみた。

「なあ、そういえばこの組織、魔導文字を発見したとか言ったけど……どんな文字なんだ?」
「わからん。オレは魔導武器職人だからな。聞いた話では、クライン魔導商会の商会長が発見した『雷』に関する文字らしいぞ」
「ふむ……電気系の文字か」
「その文字を確立させ、それを利用した武器を作るのが目的だ。ゲントク……明日、お前は作業区に送られる。そこで確認してみろ」
「ああ、そうしてみるよ」
 
 そういうと、ホランドは俺に毛布をくれた。

「メシは一日一食、今日はもう終わりだ。もう寝ろよ」
「……メシないのか」

 こうして、俺は『クーロン』に攫われてしまったのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 叩き起こされた俺は、ホランドと一緒に連れ出された。
 
「ど、どこに向かってんだ?」
「決まってんだろ……仕事場だよ」
「め、メシは?」
「昼だけだ」

 なんと、食事は昼だけ。
 朝からいきなり仕事かよ。煙草、モーニングコーヒー、朝飯はセットだろうが。
 地下牢から出て、どこか古ぼけた鉱山みたいな通路を通り、やけに広い倉庫に来た。
 倉庫内にはぼろい椅子テーブルが大量にあり、多くの人間たちが座って作業をしていた。
 すると、俺とホランドの前に来る組織の魔導職人。

「これを見ろ。お前たちは、この魔導文字を実用可能なまでにクオリティを上げてもらう」

 ミミズののたくったような文字が書かれた羊皮紙だった。
 それを受け取り、俺とホランドは隣同士の席に座る。
 ホランドは、小さい声で言う。

「あまりデカい声を出すと見回りの連中にブン殴られるぞ」
「あ、ああ」

 羊皮紙を見ると、妙な文字が書かれていた。
 クイズとかでこういう汚い図形を見せて、『どんな漢字が書かれているでしょうか?』みたいな問題を出せるかもしれん。
 机には、やけに質の悪い魔石が三個ほど置かれていた。

「ゲントク。その魔導文字……理解できるか?」
「ああ」
「えっ」

 クイズ番組をよく見ていた俺は、羊皮紙の文字をあっさり解読した。
 確かに、これは面白い魔導文字……というか、どういう効果が起きるのかな。

「お、おいマジか……!! ど、どんな文字なんだ?」
「待て。まだ彫らないぞ……さっきも言ったけど、まずは人質がどこにいるのか見つけないと」
「おま……まさか、本気でこの組織を……!?」
「ああ。今回ばかりは本気だ。というわけで……ちと騒ぎを起こすから、お前の魔石貸してくれないか?」
「貸すって、こんな純度の低い一つ星の魔石じゃ、大した効果のある力は起こせないぞ」
「わかってる。だからこそ、数が欲しい」

 すると、近くのテーブルで破裂音……誰かが失敗したのか、魔石が砕ける音がした。
 
「すみません、魔石の追加をお願いします……」

 そういうと、見回り兵士が一つ星の魔石を三つほど支給した。

「失敗すれば、魔石はもらえるのか?」
「ああ。組織は結果を欲しがっている。オレらは人質が取られている以上、仕事するしかないからな」
「ふむ……」

 すると、俺らが入って来たドアとは別のドアが開き、交代らしき見張りが数人出てきた。

「あそこは?」
「あの先は人質の居住区。そして組織の連中の居住区だ」
「……なるほど」

 さて、どうするか。
 あの先のドアに行き、ユキちゃんたちがいるか調べないと。
 手持ちは、愛用の工具セットと、目の前にある質の悪い一つ星の魔石か。

「……よし。やってやる。おいホランド、魔石くれ」
「はあ?」
「適当な魔導文字彫って割って、新しい魔石を調達してくれ。俺も用意する」
「お、おい……何するつもりだ?」
「作戦がある。人質を解放して、この組織を潰すんだよ」
「……できるのかよ?」
「ああ。そのためには、魔石がいる。どうだ、乗るか?」
「……チッ、不思議な野郎だ。お前を見てると、賭けたくなっちまう」
「まずは、魔石の調達。そしてこの施設の情報だ。なんでもいい、お前の知ってること全部教えてもらうぞ」

 さてさて『クーロン』とかいう組織……この俺を怒らせたこと、後悔させてやるからな。
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