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第九章 玄徳、第二のロマン

完成(仮)

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 数日後、俺の『自己防衛用アーマー』は完成した。
 ロッソたちはまだ戻ってこないので、ウルツァイト・メタルドラゴンの外殻ではなく、オリハルコン装甲に『不壊』の魔石をセットした。これで壊れることはない……って、この魔石あるなら別にウルツァイト・メタルドラゴンじゃなくてもいいよな。
 まあ、魔石が壊れた時の場合にも備えるという意味では、硬い装甲は欲しい。
 オリハルコン……素材加工の段階で、ドロドロに溶かしてアーマー用の型に流し込み固めたんだが、赤い鉱石だったのに真っ黒になってしまった。
 一度、溶解させて再度固めると色が変わることに、初めて気付いた。
 現在、俺は地下で完成したアーマーをヴェルデと眺めている。

「へえ、なかなかカッコいいじゃない」
「壮観だぜ……俺の装備」
「というか、護身用でしょ? このサイズじゃ持ち歩きできないじゃない。まさか、職場で襲われた時のことしか想定していないの?」
「ふっふっふ。もちろん、野外で襲われることも想定しているぜ。まあ、その機能はそのうちな」

 俺は、地下の設計用テーブルの壁にある、小さな隠し扉を開け、そこにあるスイッチを押す。
 すると、地面が開き、ゆっくりとアーマーが収納されていった。
 
「わお、すごい」
「だろ? 盗難防止用の仕掛けだ。まあ、アーマー用の専用カプセルの底に『上昇』と『下降』の魔石を取り付けただけだがな」

 秘密基地みたいでカッコいい……なんか俺、マジでこの世界に来て精神が若返っている。
 ちなみに、実際に着ての実験はすでに終わってる。
 ふふふ……なんだか俺、世界最強になった気分だぜ。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日、俺はヴェルデ、イェラン、リヒター、バリオンの五人で飲んでいた。
 いつもの個室居酒屋。今日はヴェルデもいるので、話が弾む。

「いやー、ついに完成したんだよ。俺専用アーマー!! はっはっは!!」
「あんた、武器は作んないんじゃなかったの~? ねえリヒター!!」
「確かにそう言ってましたが、ゲントクさん。信念を曲げたのですか?」
「違う違う。俺が嫌なのは、俺の作った武器が広まって戦争とか殺しに使われるのがイヤで、自分で作って自分で使うには問題ねぇってことよ。なあバリオン!!」
「ははは。魔導文字、魔道具は技師の財産だからね。どう使うのかはゲントクの自由さ」
「話わかる渋いイケメンだなぁ~……あ、エールと野菜炒めくださ~い。なあヴェルデ、ロッソたちはいつ帰ってくるんだ?」
「さあ? 『討伐不可能』の魔獣はさすがにすぐにはねぇ……一か月後か、一年後か」

 と、飲みながら楽しくお話。
 いやー、やっぱ仲間内で飲む酒は美味いぜ。
 するとイェランが俺に言う。

「ね、ゲントク。アレキサンドライト商会が魔導武器の開発、販売に乗り出すって言ったらどうすんの?」
「もちろん、俺はノータッチ。武器とかアイデアはあるけど、絶対にやらん」
「あはは。だよねえ……魔道具技師と、魔導武器職人は、剣士と大剣士くらい違うって言うしね。まあどっちもやっちゃう人もいるんだけど」

 そのたとえ、ヴェルデも言ってたな。
 するとリヒターが言う。

「ゲントクさん、イェランさんも。魔道具技師、魔導武器職人の誘拐は、表沙汰にはなっていませんが、発生はしています。どうか身の安全を……」
「だーいじょうぶだって。アタシ、こう見えて三属性持ちの魔法師よ? けっこう強いんだからさ」
「俺も俺も。ふふふ、来るなら来いや。はっはっは!!」
「はあ……ヴェルデさん、ゲントクさんのことをお願いしますね」
「ええ。ちゃーんと守るから」

 今気づいたが、ヴェルデは酒じゃなくて果実水を飲んでいた。ああ、ちゃんと仕事してるんだな。
 そしてリヒターはバリオンにも言う。

「バリオンさんも、今は違いますけど元魔道具技師です。何があるかわかりませんので、護衛を付けることをお勧めします」
「安心してくれ。優秀な護衛が付いているさ」

 俺は、おかわりのエールを飲みながら言う。

「そういや、悪しき組織が魔導文字を開発して、それを実用化……って話はどうなったんだ?」
「……こちらは特に情報を掴んではいませんね」
「私の方も。シュバンの捜査も進展がないみたい」
「そうかあ……どんな魔導文字なんだろうなあ」

 ヤバい魔導文字か……そう言われると、俺もいろいろ考えちまう。
 魔導文字は漢字だ。もし、もしだ……『死』とか『殺』みたいな文字を彫り、それを剣に装備して相手を軽く引っ掻いたら……恐らく、死ぬ。
 でも、たとえ十ツ星の魔石だろうとも、触れたら殺すとか死ぬとかの効果なら、一度か二度使えば魔石が砕け散る。
 俺の経験上、発揮する効果が高ければ高いほど、魔石にかかる負担も大きい。
 生死にかかわる効果……ダメダメ、こんなこと考えるな。

「とりあえず、その組織が早く摘発されて、潰滅するのを祈るだけだな」

 残念だったな!! 俺は主人公みたいに『組織を潰そう』とか言わないぞ。アーマーだって自己防衛用だしな。こういうのは素人の俺じゃなくて、ちゃんとした組織の仕事だ。
 『あそこは悪いことやってるから潰す』っていう思想は危険だ。力持つ者の匙加減になるような判断は、決してやっちゃいけない。
 と、いうわけで……俺はしっかりと、国の組織に討伐を任せるぜ。

 ◇◇◇◇◇◇

 次の日。
 俺はヴェルデと一緒に職場へ。
 アーマーは完成したし、今日から普通通りの仕事だ。
 最近、新製品開発していなかったし、何か作ってみますかね。
 職場の一階で、ヴェルデに聞いてみた。

「なあヴェルデ、何か最近、あれがこうすればいいとか、これがこうなればいいな~……みたいな話、ないか?」
「い、いきなり何……?」

 いきなり難しかったかな。
 俺は少し考える……あれば便利な物、か。

「……洗濯機。待てよ、洗濯機ってないよな」

 ふと思った。
 この世界の洗濯機は、ドラム式……と言っていいのか。細長い箱の蓋を開けて洗濯機を入れ、スイッチを入れると魔石から水が出て、蓋に付いた取っ手をグルグル回し、水を循環させて衣類を洗うシステム……システムって言っていいのかな。そういう仕組みだ。
 アナログ式洗濯機とでも言えばいいのか。『水』の魔石が組み込まれているので、魔道具に分類されてはいる。
 ちなみに、うちの洗濯機は少し改良し、『回転』の魔石を組み込んでいるので取っ手を回すことはないという。

「ちゃんとした洗濯機でも作るか。全自動、乾燥機付き……できるかな」
「洗濯? ね、洗濯の魔道具作るの?」
「ああ。全自動で、スイッチ一つで動くやつとかな」
「わお。それいいわね!! 私も欲し──……ゲントク!!」
「へ?」

 次の瞬間、ヴェルデが俺の前に立ち、どこから出したのか斧を振る。
 ガキン!! と、飛んで来たナイフが弾かれた。

「……囲まれてる。ざっと二十人、ってところかしら」
「え、え……ど、どういうことだ?」
「どうやら、私が見くびられている、ってことかしら?」

 斧を肩に担ぎ、ヴェルデが殺気を漲らせると……一回の入口に、一人の男が立っていた。
 ネコ目の、どこか拳法の達人みたいな男だった。

「ゲントク様、でしたね……無駄な抵抗はせず、我々と来ていただけませんか?」
「……いや、なんだお前ら」
「ホホホ。『悪しき組織』……とでも、言えばいいでしょうかねえ」

 ネコ目、弁髪、漢服……なんだこいつ、どこの国のヤツだ?
 なんかマフィアっぽい。ってか、怖いんだが。
 すると男は、ニコニコ顔で指を鳴らす……すると。

「にゃあ……」
「が、がう……」
「きゅうう……」
「なっ……お、お前」

 ユキちゃん、クロハちゃん、リーサちゃんが、男の部下に掴まり、首にナイフを突きつけられていた。
 
「一緒に、来て、いただけ、ます、ね……?」

 一言ずつ、拒否は許さんとばかりに男は言う。
 やべえ、ちょっと頭に来てるんだが。
 俺はヴェルデを押しのけ前に出た。

「……一緒に行けばいいのか?」
「ええ、我々のボスが、あなたをお待ちです」
「……わかった」
「ゲントク。待ちなさい……子供たちを傷付けずに、こいつら皆殺しにできるわよ」
「ダメだ。子供たちに、そんな光景見せるんじゃねぇ」
「……チッ」
「その判断は正解ですね。さすがのワタシも、『七虹冒険者アルカンシエル』相手に無事とはいきませんので。フフフ……子供たちは人質、そして『緑』……あなたはここから動かないよう、お願いします」
「はあ?」
「一緒に来て暴れられたら困りますしねえ。いいですか? ここから、動かないよう……では参りましょうか」
「……おう」

 俺は、男に向かって歩き出す……次の瞬間、男の手刀が俺に向かって飛んで来たので、思わず回し受けし、反撃の拳を放つ……が、男は俺の手を掴んで驚いていた。

「これはこれは、あなたも武術家だとは。フフフ、一対一で戦ってみたいものですねぇ……ですが、今は」
「がっ!?」

 腹部に強烈な痛みを感じ、俺は崩れ落ち……そのまま、意識を失うのだった。
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