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第八章 雷とクライン魔導商会
クライン魔導商会の工房
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数日後。
職場に集まった俺、サンドローネにリヒター、『鮮血の赤椿』の四人。
今日、これからクライン魔導商会の魔道具工房へ行く。
まあ、仕事の見学ってところだな。
「魔道具工房、なんかワクワクするかも!!」
「……おじさんの作業しか見たことないよね」
「いいですかロッソ、暴れない、騒がない、大声を出さない、ですわよ」
「ふふん。護衛依頼、しっかりこなして見せるわ!!」
ロッソたち、相変わらず頼もしいな。
サンドローネを見ると、煙管を手にしたまま複雑な表情だ。
「おい、大丈夫か?」
「……何が?」
「いや、なんか複雑そうな表情をしていたからよ」
「別に、何でもないわ。むしろ、ワクワクするわね……四大商会、しかも世界最高の魔道具商会の工房を見学できるなんて」
サンドローネが行くことも伝えたが、返事は普通に『OK』だった。
商売敵として見られていないのか……ミカエラの余裕なのか。
すると、馬車が二台、職場の前に到着した。
御者席から初老の男性が降り、俺たちに一礼。
「ゲントク様、サンドローネ様。お迎えに上がりました」
「あ、どうも」
俺の名前が先ってことは、メインはやっぱ俺なのかね。
先頭の馬車に俺とサンドローネ。二台目の馬車に残り全員が乗った。
リヒター、窮屈な馬車で女四人に囲まれるという天国……ロッソたちだと天国なのかね。
馬車が進むこと一時間、エーデルシュタイン王国王都の工業地区へ。
「工業地区か。ここ、飲食店とかないし来たことないんだよな」
「……うちの工房もこの地区にあるんだけど」
「はは。以前、お前んところは小さくて、本社と工房が一緒だったもんな。出世したもんだ」
工業地区。
ここは、デカい商会の魔道具工房や、部品などの生産をする工場がある区画だ。
俺がよく利用する飲食店地区のとなりにあり、仕事終わり、ここで働いている人たちがそのまま飲食店地区に流れ込んでくる感じだ。
俺みたいに個人営業は工房一体型の店だけど、デカい商会となると、この地区に工場や工房を構えることが多い。
ある意味で、この地区で工房や工場を持つことが、一流の証みたいなところあるそうだ。
それから一時間ほど走り、馬車が止まった。
ドアが開き、降り立つ俺とサンドローネ……悪いな、俺は気が利かんみたいで、サンドローネが馬車から降りる時に手ぇ出すの忘れてた。
「……すっげぇな」
手を出すのを忘れた理由。それは、この工房のデカさである。
見上げるほどデカい。要塞みたいな工房だった。
学校の体育館みたいな……ああ、空港みたいなイメージだ。飛行機とか格納されてそうな建物。
それが、俺の目の前にあった。
サンドローネも俺の隣に立つ。
「相変わらず大きいわね。さすが、四大商会の工房、そして工場ね」
「メチャクチャ広いぞ。ここに何人働いてるんだ?」
「ざっと、五千人ほどですね」
と、俺たちの前に現れたのは、アベルだった。
「こんにちは、ゲントクさんにサンドローネ」
「おう。今日はよろしくな」
ぶっちゃけ、観光気分である。
アベルはサンドローネをチラッと見て、笑顔を浮かべる。
「まさか、キミも来るとはね」
「……別にいいでしょう。今日は、しっかり見学させてもらうから」
「ああ。さて、さっそく案内するよ」
と、ロッソたちも合流。普段見ないデカさの建物に驚いているようだ。
◇◇◇◇◇◇
アベルの案内で工房内へ。
デカい門を抜けた先にある、これまたデカい扉を開けて先に進むと、大量の机が横並びになり、大勢の人が何やら書いていた。
その数、百名以上。
「ここは、魔道具のデザインを考える場所なんだ」
「デザイン? じゃあ、ここにいるのはデザイナーか?」
「ええ。ミカエラのデザインした魔道具を元に、再度デザイナーが新しいデザインを考えるんです。一つの魔道具に、百以上のデザインが生まれるというわけです」
「へえ……」
「百人……すごい数ね」
ロッソたちも、デザイナーたちのテーブルを眺めている。俺はデザイナーの仕事を見るつもりがないので、アベルと話をしていた。
「基本的に、魔道具はミカエラが考えます。彼女の考えた魔道具を改良し、新規デザインを無数に作り、工場で生産し販売……という流れですね」
「ミカエラだけが考えるのか?」
「いえ。他の魔道具技師たちもアイデアを出します。クライン魔導商会の経営陣で魔道具を精査し、ミカエラの許可を得て生産に入るスタイルですね」
「へー、俺は全部俺の思い付きでやってるけど、けっこう手間だなあ」
まあ、これが普通の会社なんだろうな。
俺も、サンドローネが生産までどうやってるのか知らんけど、似たようなモンだろうな。
「では、次のところへ……生産工場内は作業中なので、魔道具技師たちの作業場へ行きましょう」
「わかった。おーいお前たち、行くぞー」
「「「「はーい!!」」」」
ロッソたちが来る。なんか子供を引率している教師の気分だな。
◇◇◇◇◇◇
向かったのは、魔道具技師たちの集まる部屋。
かなり広い。会議室みたいな場所だ。
テーブルが中央にあり、壁にはデカい本棚、そして設計図を書く台が無数にあり、床には資料や書きかけの仕様書が散乱している。
そして、みんな無言でブツブツ何かを言いながら作業をしている。男も女も、若い子も老人もみんな目が座っていた。
「な、なんか怖いわね……アタシが見たことない意味での怖さ」
「……修羅場、ってやつ?」
ロッソ、アオが俺の背に隠れる。
部屋には三十名くらいの魔道具技師たちがいた。
アベルが言う。
「今、雷属性の魔道具、魔導文字を考えている最中でね……雷属性を発見したはいい。それを利用した魔道具のアイデアもある。でも……肝心な、雷属性を象徴する魔導文字が見つからないんだ」
火なら『火』で、水なら『水』と彫ればいい。だが、カミナリ……『雷』という魔導文字を、まだ誰も見つけていないのだ。
リヒターが、床の仕様書を踏まないように言う。
「雷属性の魔導文字。発見すれば歴史に名が残りますね……」
「ええ。ゲントクさん……本来、あなたに依頼するつもりだった依頼です。『雷』の魔導文字……あなたなら、知っているんじゃないですか?」
次の瞬間、この場にいた三十名の魔道具技師たちが、血走った目をほぼ同時に俺たちに向けた。
「ひっ!?」
「ご、ゴースト系魔獣みたいですわね」
ヴェルデが俺の腕を掴み、ブランシュがたじろぐ。
俺もビビった。無言の三十名が、俺をジッと見ている。
思わず首を振ると、再び同時に三十名が顔を逸らした……こ、こええ。
「すみません。皆さん、特別ボーナスと魔導文字発見の名誉のために必死で」
「こ、怖すぎるだろ……特別ボーナスって?」
「二十億セドルの特別ボーナスと、王都の一等地に工房のプレゼントです」
そりゃ必死になる。
するとサンドローネが言う。
「アベル。ゲントクに依頼って……魔導文字だったの?」
「ええ。雷を象徴する魔導文字の発見。それが、クライン魔導商会が多くの魔道具技師を集めた理由です」
魔導文字。
地水火風光闇、この文字も長い時間と歴史の間で誰かが発見したんだよな。
俺にとっては当たり前だけど、漢字のない世界じゃ厳しいモンがあるだろう。
ロッソたちは、魔道具技師たちの仕事をばらけて見ていた。
「アベル。雷属性って、どうやって発見したんだ?」
「偶然でした。ボクとミカエラが世界中で商談をしていた時、鉱山をいくつか買ったんですけど……そこで『まじない石』という、妖精族が儀式に使う鉱石が採掘されたんです」
「まじない石……」
「ええ。そこで、ミカエラはウェンティズ食料商会のウェンティさんに、まじない石について詳しく調べたところ……その石は、擦り合わせることで紫の光を発すると。それを詳しく調べたところ、火でもなく光でもない、全く新しい現象だとわかったんです。この話をポワソン様にして、実際に目の前でまじない石を擦り合わせ、その現象を『雷』と名付けました」
異世界っぽいエピソードだな。まじない石って何だ?
アベルは、ポケットから鉄製の箱を出し、中にある紫色の石を見せた。
「これがまじない石です。妖精族は、この石に神が宿ると信じています」
「へえ……」
濃い紫色の石だ。アベルが取り出し、石同士を擦ると、確かに電気がバチバチと発生した。
俺の知らない現象だ。日本知識じゃ説明できん……異世界素材だなあ。
「雷。全く新しいエネルギーです。ミカエラは、この属性が、魔石に力を込められるんじゃないかと推測しています……そして、そのエネルギーを利用した魔道具を作ります」
「……待てよ? エネルギーって……魔道具を動かすエネルギーか?」
「ええ。この『雷』の力をエネルギーにして魔道具を動かせば、動力となる魔石は破壊されることがなくなると思われます。つまり……雷の補充だけすることで、その魔道具を永久に使うことができる」
「「……!!」」
そういうことか。
つまり、ミカエラは……雷を利用した『電池』を作るつもりだ。
電池交換さえすれば、その魔道具を永遠に使うことができる。
例えば冷凍庫。これには『冷風』の魔石が使われている。これを雷の電池式にすれば、『冷風』の効果はそのままで、『冷風』の魔石にかかる負担、エネルギーを全て電池で補えうのだ。
『冷風』の魔石はそのまま、負担だけを電池にする。
電池交換だけ。本体はそのまま。
俺は気付いた。そして、サンドローネも気付いた。
「……まさかミカエラは、そのエネルギーの仕組みを独占するつもりじゃ」
全ての魔道具が電池式となれば。
電池交換だけなら、大掛かりな修理は必要なくなる。
電池を、それこそカートリッジ式にすれば、素人でも魔石交換ができる。
つまり……魔道具技師の仕事が、減る。
「魔道具技師たちはいずれ、クライン魔導商会の傘下となるでしょうね」
「…………」
アベルは、俺を見ていた。
こっちに来い。そう言っている気がした。
職場に集まった俺、サンドローネにリヒター、『鮮血の赤椿』の四人。
今日、これからクライン魔導商会の魔道具工房へ行く。
まあ、仕事の見学ってところだな。
「魔道具工房、なんかワクワクするかも!!」
「……おじさんの作業しか見たことないよね」
「いいですかロッソ、暴れない、騒がない、大声を出さない、ですわよ」
「ふふん。護衛依頼、しっかりこなして見せるわ!!」
ロッソたち、相変わらず頼もしいな。
サンドローネを見ると、煙管を手にしたまま複雑な表情だ。
「おい、大丈夫か?」
「……何が?」
「いや、なんか複雑そうな表情をしていたからよ」
「別に、何でもないわ。むしろ、ワクワクするわね……四大商会、しかも世界最高の魔道具商会の工房を見学できるなんて」
サンドローネが行くことも伝えたが、返事は普通に『OK』だった。
商売敵として見られていないのか……ミカエラの余裕なのか。
すると、馬車が二台、職場の前に到着した。
御者席から初老の男性が降り、俺たちに一礼。
「ゲントク様、サンドローネ様。お迎えに上がりました」
「あ、どうも」
俺の名前が先ってことは、メインはやっぱ俺なのかね。
先頭の馬車に俺とサンドローネ。二台目の馬車に残り全員が乗った。
リヒター、窮屈な馬車で女四人に囲まれるという天国……ロッソたちだと天国なのかね。
馬車が進むこと一時間、エーデルシュタイン王国王都の工業地区へ。
「工業地区か。ここ、飲食店とかないし来たことないんだよな」
「……うちの工房もこの地区にあるんだけど」
「はは。以前、お前んところは小さくて、本社と工房が一緒だったもんな。出世したもんだ」
工業地区。
ここは、デカい商会の魔道具工房や、部品などの生産をする工場がある区画だ。
俺がよく利用する飲食店地区のとなりにあり、仕事終わり、ここで働いている人たちがそのまま飲食店地区に流れ込んでくる感じだ。
俺みたいに個人営業は工房一体型の店だけど、デカい商会となると、この地区に工場や工房を構えることが多い。
ある意味で、この地区で工房や工場を持つことが、一流の証みたいなところあるそうだ。
それから一時間ほど走り、馬車が止まった。
ドアが開き、降り立つ俺とサンドローネ……悪いな、俺は気が利かんみたいで、サンドローネが馬車から降りる時に手ぇ出すの忘れてた。
「……すっげぇな」
手を出すのを忘れた理由。それは、この工房のデカさである。
見上げるほどデカい。要塞みたいな工房だった。
学校の体育館みたいな……ああ、空港みたいなイメージだ。飛行機とか格納されてそうな建物。
それが、俺の目の前にあった。
サンドローネも俺の隣に立つ。
「相変わらず大きいわね。さすが、四大商会の工房、そして工場ね」
「メチャクチャ広いぞ。ここに何人働いてるんだ?」
「ざっと、五千人ほどですね」
と、俺たちの前に現れたのは、アベルだった。
「こんにちは、ゲントクさんにサンドローネ」
「おう。今日はよろしくな」
ぶっちゃけ、観光気分である。
アベルはサンドローネをチラッと見て、笑顔を浮かべる。
「まさか、キミも来るとはね」
「……別にいいでしょう。今日は、しっかり見学させてもらうから」
「ああ。さて、さっそく案内するよ」
と、ロッソたちも合流。普段見ないデカさの建物に驚いているようだ。
◇◇◇◇◇◇
アベルの案内で工房内へ。
デカい門を抜けた先にある、これまたデカい扉を開けて先に進むと、大量の机が横並びになり、大勢の人が何やら書いていた。
その数、百名以上。
「ここは、魔道具のデザインを考える場所なんだ」
「デザイン? じゃあ、ここにいるのはデザイナーか?」
「ええ。ミカエラのデザインした魔道具を元に、再度デザイナーが新しいデザインを考えるんです。一つの魔道具に、百以上のデザインが生まれるというわけです」
「へえ……」
「百人……すごい数ね」
ロッソたちも、デザイナーたちのテーブルを眺めている。俺はデザイナーの仕事を見るつもりがないので、アベルと話をしていた。
「基本的に、魔道具はミカエラが考えます。彼女の考えた魔道具を改良し、新規デザインを無数に作り、工場で生産し販売……という流れですね」
「ミカエラだけが考えるのか?」
「いえ。他の魔道具技師たちもアイデアを出します。クライン魔導商会の経営陣で魔道具を精査し、ミカエラの許可を得て生産に入るスタイルですね」
「へー、俺は全部俺の思い付きでやってるけど、けっこう手間だなあ」
まあ、これが普通の会社なんだろうな。
俺も、サンドローネが生産までどうやってるのか知らんけど、似たようなモンだろうな。
「では、次のところへ……生産工場内は作業中なので、魔道具技師たちの作業場へ行きましょう」
「わかった。おーいお前たち、行くぞー」
「「「「はーい!!」」」」
ロッソたちが来る。なんか子供を引率している教師の気分だな。
◇◇◇◇◇◇
向かったのは、魔道具技師たちの集まる部屋。
かなり広い。会議室みたいな場所だ。
テーブルが中央にあり、壁にはデカい本棚、そして設計図を書く台が無数にあり、床には資料や書きかけの仕様書が散乱している。
そして、みんな無言でブツブツ何かを言いながら作業をしている。男も女も、若い子も老人もみんな目が座っていた。
「な、なんか怖いわね……アタシが見たことない意味での怖さ」
「……修羅場、ってやつ?」
ロッソ、アオが俺の背に隠れる。
部屋には三十名くらいの魔道具技師たちがいた。
アベルが言う。
「今、雷属性の魔道具、魔導文字を考えている最中でね……雷属性を発見したはいい。それを利用した魔道具のアイデアもある。でも……肝心な、雷属性を象徴する魔導文字が見つからないんだ」
火なら『火』で、水なら『水』と彫ればいい。だが、カミナリ……『雷』という魔導文字を、まだ誰も見つけていないのだ。
リヒターが、床の仕様書を踏まないように言う。
「雷属性の魔導文字。発見すれば歴史に名が残りますね……」
「ええ。ゲントクさん……本来、あなたに依頼するつもりだった依頼です。『雷』の魔導文字……あなたなら、知っているんじゃないですか?」
次の瞬間、この場にいた三十名の魔道具技師たちが、血走った目をほぼ同時に俺たちに向けた。
「ひっ!?」
「ご、ゴースト系魔獣みたいですわね」
ヴェルデが俺の腕を掴み、ブランシュがたじろぐ。
俺もビビった。無言の三十名が、俺をジッと見ている。
思わず首を振ると、再び同時に三十名が顔を逸らした……こ、こええ。
「すみません。皆さん、特別ボーナスと魔導文字発見の名誉のために必死で」
「こ、怖すぎるだろ……特別ボーナスって?」
「二十億セドルの特別ボーナスと、王都の一等地に工房のプレゼントです」
そりゃ必死になる。
するとサンドローネが言う。
「アベル。ゲントクに依頼って……魔導文字だったの?」
「ええ。雷を象徴する魔導文字の発見。それが、クライン魔導商会が多くの魔道具技師を集めた理由です」
魔導文字。
地水火風光闇、この文字も長い時間と歴史の間で誰かが発見したんだよな。
俺にとっては当たり前だけど、漢字のない世界じゃ厳しいモンがあるだろう。
ロッソたちは、魔道具技師たちの仕事をばらけて見ていた。
「アベル。雷属性って、どうやって発見したんだ?」
「偶然でした。ボクとミカエラが世界中で商談をしていた時、鉱山をいくつか買ったんですけど……そこで『まじない石』という、妖精族が儀式に使う鉱石が採掘されたんです」
「まじない石……」
「ええ。そこで、ミカエラはウェンティズ食料商会のウェンティさんに、まじない石について詳しく調べたところ……その石は、擦り合わせることで紫の光を発すると。それを詳しく調べたところ、火でもなく光でもない、全く新しい現象だとわかったんです。この話をポワソン様にして、実際に目の前でまじない石を擦り合わせ、その現象を『雷』と名付けました」
異世界っぽいエピソードだな。まじない石って何だ?
アベルは、ポケットから鉄製の箱を出し、中にある紫色の石を見せた。
「これがまじない石です。妖精族は、この石に神が宿ると信じています」
「へえ……」
濃い紫色の石だ。アベルが取り出し、石同士を擦ると、確かに電気がバチバチと発生した。
俺の知らない現象だ。日本知識じゃ説明できん……異世界素材だなあ。
「雷。全く新しいエネルギーです。ミカエラは、この属性が、魔石に力を込められるんじゃないかと推測しています……そして、そのエネルギーを利用した魔道具を作ります」
「……待てよ? エネルギーって……魔道具を動かすエネルギーか?」
「ええ。この『雷』の力をエネルギーにして魔道具を動かせば、動力となる魔石は破壊されることがなくなると思われます。つまり……雷の補充だけすることで、その魔道具を永久に使うことができる」
「「……!!」」
そういうことか。
つまり、ミカエラは……雷を利用した『電池』を作るつもりだ。
電池交換さえすれば、その魔道具を永遠に使うことができる。
例えば冷凍庫。これには『冷風』の魔石が使われている。これを雷の電池式にすれば、『冷風』の効果はそのままで、『冷風』の魔石にかかる負担、エネルギーを全て電池で補えうのだ。
『冷風』の魔石はそのまま、負担だけを電池にする。
電池交換だけ。本体はそのまま。
俺は気付いた。そして、サンドローネも気付いた。
「……まさかミカエラは、そのエネルギーの仕組みを独占するつもりじゃ」
全ての魔道具が電池式となれば。
電池交換だけなら、大掛かりな修理は必要なくなる。
電池を、それこそカートリッジ式にすれば、素人でも魔石交換ができる。
つまり……魔道具技師の仕事が、減る。
「魔道具技師たちはいずれ、クライン魔導商会の傘下となるでしょうね」
「…………」
アベルは、俺を見ていた。
こっちに来い。そう言っている気がした。
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