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第八章 雷とクライン魔導商会

七つめの属性

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 ある日、自宅で朝刊を読んでいると。

「……お、ついに来たか」

 見出しに、『発見、七番目の属性。新属性「雷」』とあった。
 発見者はミカエラ。四大商会の一つ『クライン魔導商会』が、新属性を利用した新作魔道具を開発中。魔法ギルドの『四聖』の協力のもと、魔法を発動。魔法適正者まだ見つからず。
 と、新聞は魔法一色だ。雷属性……俺だけのアドバンテージだったけど、ある意味で他の人が使えるようになってよかった。俺だけってのはどうも主人公っぽくて気持ち悪い。
 ソファに座り、コーヒーを飲みながら続きを読む。

「ふむ。魔法ギルドが『雷』を七番目の属性として認めたと。で……魔法適正者の捜索を開始か。四聖って何だ? そいつらが雷属性の真似事っぽい魔法を発動させたみたいだな」

 そういや、ミカエラはどうやって雷属性……電気を発動させてるんだ? 
 下敷きをわきの下で擦って髪の毛を浮かせたり、モコモコのセーターでも着て静電気とか? まあ、普通に考えたらミカエラが『雷属性』を発現させたってところか。
 新聞を見ると、ミカエラは雷属性を利用した魔道具を作るみたいだけど。

「雷、か」

 俺は、サイドテーブルに置いてあるロッソが土産で持って来た魔石を手に取り、魔石加工用のピックで『雷』と彫る。そして、軽く魔力を流すと魔石がバチバチと紫電を帯びる。

「雷、電気を利用した魔道具か……正直、あんまり思いつかないんだよな」

 そもそも、俺のいた世界では電気を利用して電化製品を動かすのが一般的だ。ドライヤーも、ストーブも、こたつも、エアコンも、電気を利用し、熱や冷気を発生させたりする。
 この世界では、『熱』と彫れば魔石が熱を発するし、『冷』と彫れば魔石が冷たくなる。電気を利用して結果を起こすのではなく、結果そのものを魔石で起こせるのだ。
 なので、電気はぶっちゃけあんまり必要ない。

「武器としては使えるか……スタンバトン、スタンガンとか。まあ、武器……俺の趣味じゃないけど」

 とりあえず、魔石をポケットに入れ、俺は職場へ向かうのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 職場に行くと、バレンたち三人がいた。

「お? なんだお前たち、こんな早くに」
「おはようございます。ゲントクさん」
「……おう」
「おっちゃんヤッホー!! ね、ね、ウチの武器作る気になった~?」
「ならん。こんな朝っぱらから来るってことは、厄介ごとか?」
 
 俺はシャッターの鍵を開け、全開にする。
 『魔道具修理します。出張修理も対応』の看板を表に出し、二階へ続く階段を上る。
 バレンたちも付いて来る。
 二階のドアのカギを開け、事務所のドアを開ける。

『ニャ』
「おはよう。エサと水な」

 大福が、窓際のクッションに寝そべったまま鳴いた。エサ皿、水皿が空っぽだ。
 バレンたちがソファに座り、俺は大福のエサと水を補充。
 窓を開け、外気を部屋に入れ、大きく伸びをした。

「さ~て、今日の仕事を始めますか」
「じゃあ、まずは商談ですね。ゲントクさん、話を聞いてもらえますか?」

 バレンがニコニコ顔で言う。
 まあ、お客様だしな……いつもならコーヒーを淹れるが、今日は果実水を三人へ出した。
 バレンたちの前に座ると、さっそく言う。

「ゲントクさん。どうかお願いします、クライン魔導商会の魔道具開発を手伝ってくれませんか?」
「あー……それってもしかして」
「そうだ。今朝の朝刊は見たな? 七番目の属性、雷を利用した魔道具だ」

 ウングが腕組みして言う。
 口元を隠しているからよく見えないが、ちょっと嬉しそうに聞こえた。
 俺はソファに深く腰掛ける。

「そもそも、何を作るんだ? 雷を利用した魔道具……大雑把すぎる」
「ボクたちも、詳しいことはまだ。でも、一つだけわかっているのは……ミカエラさんは、雷属性は新しい『燃料』になると。魔道具の常識を変えると」
「……燃料」

 思いつくのは、蓄電池みたいなもんか。
 仮に、電気の魔石が一つだけで、数多くの魔道具を起動させることができるようになれば……? 

「ゲントクさん。何か、心当たりがありようですね」
「…………」
「その心当たりを、ミカエラさんのところで実現させてみませんか?」
「……悪いな。やっぱり俺は、そういう厄介そうなイベントには関わりたくない」
「おっちゃーん……ノリ悪いよー」
「ははは。大人だからな。後先考えずに『俺なんかやっちゃいました?』をやって、周りから『こいつすげー!!』みたいな目で見られたくないんだ。俺は、俺の技術を、俺のためだけに使う。小さくてつまらん、主役にもなれないおっさんだ。それに、俺よりも優れてる魔道具技師は、それこそ世界中にいくらでもいるだろうよ」
「……決意は揺るぎませんか」
「ああ」
「では、こうしましょう。アドバイスも、仕事もしろとも言いません。一度だけ、クライン魔導商会の運営する魔道具工房に来ていただけませんか?」
「え?」
「もちろん、護衛なども連れてきてけっこうです。どうか、お願いします」

 バレンはペコっと頭を下げる。
 なんでそこまでして、俺を関わらせたがるんだよ……うーん。

「……わかった。じゃあ、見るだけなら」
「ありがとうございます!! では、都合のいい日に冒険者ギルドに連絡を」

 バレンは立ち上がり、もう一度頭を下げて出て行った。
 ウング、リーンドゥも出て行き、部屋には俺と大福だけになる。

「はあ……めんどくさいことにならないといいけど」
『にゃあ』

 とりあえず、今日のことをサンドローネたちに報告しないとな。

 ◇◇◇◇◇◇

「ミカエラの、魔道具工房を……?」
「ああ。何もしなくていい、見学だけでもしてくれ、ってな」

 夕方、職場に顔出しに来たサンドローネ、リヒターに今日の出来事を説明すると、サンドローネは考え込み、煙管を取り出した。
 すかさずリヒターが火を着ける。

「ふぅ……で、行くの?」
「ああ、約束しちまったしな」
「そう。というか、アレキサンドライト商会の新しい魔道具工房に来たこともないのに、まさかミカエラの工房には行くなんてね」
「そ、そういやそうだな……まあ、気にすんな」
「まあ、そうね。で……あなた、まさかミカエラに乗り換えるとか考えてる?」
「いや別に。今のままでいいと思ってるけど」
「ならいいわ」

 サンドローネは灰を灰皿に落とす。

「……ねえ、それ、私も同行できるかしら」
「いいんじゃないか? 護衛付きでいいって言ってたし、お前もいいんじゃね?」
「適当ね。じゃあ、私も行くわ。変な虫が付かないよう、見張ってないとね」
「変な虫……まあいいけど。じゃあ、ロッソたちにも護衛頼むか」
「……当たり前のように言うけど、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』に護衛をお願いすると普通なら金貨が何十枚も飛んでいくんだからね」
「ははは。今の俺には大した金額じゃないぜ」

 金で安全が買えるならそれでいい。
 というわけで……俺、サンドローネにリヒター、ロッソたち四人組で、ミカエラの工房にお邪魔することになるのだった。
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