上 下
89 / 131
第七章 玄徳のロマン

異世界バイク。

しおりを挟む
「はぁ~……」

 原付の試走から数日。
 データは集まり、いよいよ本格的にバイク制作に入ろうと思うのだが……なんか気分が乗らない。
 まず、ロッソたち……バレンたちと仲良くしているのが気に食わないのか、俺のところに来なくなった。
 ユキちゃんたちは三輪車に乗って遊びに来るんだが……嫌われたのかなあ。
 そして現在、俺は一人で立ち飲み屋で飲んでいた。

「…………まあ、しょうがねぇよなあ」

 エールを飲みつつ、煮物を食う。
 立ち飲み屋。異世界でもけっこうあることに驚きつつも喜んだ。もしかしたらと思って聞いてみたが、出汁割りはやってなかった。今度、おでん作って出汁を日本酒で割って飲んでみるか。
 エールを呑んでいると、俺のテーブルにジョッキがドンと置かれた。

「お邪魔するわね」
「ん? おう、ヴェルデ。なんだ一人か?」
「ええ。ロッソたち、顔合わせにくいみたいだから」

 ヴェルデはエールをクイッと飲み、ジョッキをドンと置く。

「ゲントク。今日は、ロッソたちのこと話に来たの」
「……ロッソたちのこと?」
「ええ。あの子たちの過去ね」

 ヴェルデは、エールを飲みながら話し始めた。
 ロッソ、バレンの因縁。アオとウングの確執。ブランシュとリーンドゥの関係。
 話を聞き、俺は納得する。

「ああ……まあ確かに、仲良くはできないよなあ」
「そういうこと。で、心許していたあんたが、因縁のある三人と仲良くしていたら、それはもう複雑な気分よ」
「……俺、嫌われたかなあ」
「それはない。というか、ロッソたちもどうしていいのかわかんないのよ。あんたに謝りたい気持ちはあるけど、バレンたちとは仲良くできないし……だから、今日もモヤモヤしたまま討伐依頼を受けたわ。おかげで、私は苦労だらけ」
「そ、それはご苦労さん……」
「はあ……あんたはどうせ、あの子たちが自分を嫌ってるって思って、そのまま関係を終わらせちゃおうとか思いそうだしね」

 否定できん。
 お涙ちょうだいの和解とか俺の趣味じゃないしな。ロッソたちが俺を嫌って離れるなら、俺はそれでもいいと思っていた。
 どんなに仲良しでも、ふとしたきっかけで会うこともなくなり、そのまま疎遠になるなんて、大人じゃよくあることだ。高校とか中学の同級生なんて、もう顔も名前も思い出せないし。
 まあ、少しは寂しい気持ちもある……でも、俺は大人でおっさんだし、和解のために奔走しようなんて気は起きなかった。

「そこまで薄情じゃないけど、無理して仲直しようとは考えてないな……喧嘩したわけじゃないけど」
「ロッソたちはそれじゃ嫌なんだって。でも、こういう気持ちが初めてで、困惑してる」
「……だからといって、バレンたちと距離を取るつもりはないぞ。俺は別に因縁があるわけじゃないし、俺からすれば、バレンたちもお前らと変わらんからな」
「そうなのよね……」
「俺は、俺だ。俺自身が嫌な相手とは関係を持つつもりはないし、そうじゃないなら友好的な態度を取るぞ」
「わかってる。でも……ロッソたちのこと、忘れないであげて。あの子たち、ちゃんとあなたに謝って、またいつも通りになりたいって思ってるから」
「……ああ」

 俺とヴェルデはエールをおかわり、乾杯をする。

「お前でよかったよ。お前、因縁の相手とかいないしな」
「……それは嫌だけど、今回はよかったって思うしかないわね」

 ロッソたち、また来るなら、しっかりおもてなししないとな。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、数日が経過した。
 俺はたまに持ち込まれる魔道具の修理をしながら、バイク用の部品を作っていた。
 フレーム、エンジンのガワ、タンク、魔石、タイヤ……一つ一つの部品をしっかりと作り込む。
 魔石は十つ星の物を使った。出し惜しみはしないぞ。
 そして、全ての部品製作を終え、俺は汗をぬぐう。

「……よし」
「にゃあ。おじちゃん、ボール割れたー」

 気が抜けそうになった。
 いよいよ組み上げって思ったところで、ユキちゃんが割れたボールを持って来た。
 職場の隣にある小さな空き地、子供たちの遊び場になったんだよな。元々は資材とか積み上げてあったんだけど、綺麗にしたのか空き地になっている。
 三輪車が三台停車し、ヒコロクがユキちゃんたちと遊んでいる。

「どれどれ、見せてごらん……あらら、完全に穴空いてるな。ヒコロクが噛んだのか?」
「にゃう。ヒコロクが引っ掻いたら割れた」
「そうか。そうだ、ちょっと待っててな」

 俺は、余った素材を使って加工を始める。
 メタルオークの骨を焼いて柔らかくして曲げ、余ったラバーコブラの皮を細く糸状に切り、メタルオークの骨に通して編んでいく。
 そして、コカトリスの羽とラバーコブラの皮を加工して『球』を作った。

「はい完成。さ、空き地に行こうか」
「にゃ……それ、なにー?」

 空き地に移動。
 俺は二本のラケット、そして『球』こと『シャトル』を子供たちに見せた。

「がるる……これ、なに?」
「バトミントンだ。これがラケットで、こっちがシャトル。ユキちゃん、これ持って」
「にゃ」

 俺はシャトルを軽くラケットで打つと、ラバーコブラの皮同士が反発しけっこうな高さまで飛ぶ。

「ユキちゃん、俺がやったみたいに打って」
「にゃ、にゃあ」

 ぽこんと、ユキちゃんはシャトルを打つ。
 俺は再びユキちゃんに向かって軽く打ち、ユキちゃんも打ち返す。
 すると、楽しくなってきたのか、ユキちゃんの動きが良くなってきた。

「にゃうう!!」
「はは、うまいぞ。ほれっ」

 パコンとシャトルと打ち返すと、ユキちゃんは空振りし、シャトルが落ちた。

「こんな感じで遊ぶんだ。はい、クロハちゃん」
「がうー!! おもしろそう!!」
「きゅうう、わたしもやりたいー」
「ははは。交代でな、シャトルを落としたら交代で遊ぶといいよ」
「にゃー、じゃあリーサ、こうたい」

 子供たちは、バトミントンで遊びだした。
 ヒコロクもいるし、あとは大丈夫だろう。
 俺は職場に戻り、さっそくフレームにパーツを組み込み始めた。

 ◇◇◇◇◇◇

 全てのパーツを組み込み、微調整を加え……ついに、完成した。

「……できた」

 外見はネイキッドバイク。だが、いくつかの部分にカウルを追加し、俺のオリジナルのスタイルになっている。
 スピードメーターもないし、ガソリンも入れる必要がない。でも、それっぽい部品はくっついている。スピードメーター……さすがに作れない。
 俺は、サスペンション部分をチェックし、ステアリングのアクセルを捻り、ブレーキレバーを握ってチェック。

「……できた」

 もう一度言う。
 やばい、顔がにやける。ついに完成したぞ俺のバイク。
 入念なデータ収集から始まり、いろいろな検証、そして何度も図面を書き直し、ようやく完成した。
 俺のバイク。完全オリジナル、部品一つから作った俺のバイク。

「……よぉし!!」

 ガッツポーズ。
 やばい。異世界に来て一番嬉しいかも。

「よし、よし落ち着け……エンジン、エンジンかけるか」

 俺はエンジンキーを差し捻る。
 残念ながらエンジン音はしない。このキーは、魔石に指示を送るコード部分の蓋を開閉するスイッチだ。蓋が閉まれば魔力の通り道がシャットアウトされ、魔石は起動しない仕組み。
 そして跨る……あ、あああ。

「バイク……俺のバイク!! うおお……って、あれ」

 今、気付いた。

「……し、しまったあああああああああ!!」
「にゃ」「がうー」「きゅう」『わう?』

 俺の絶叫に反応し、ユキちゃんたちが顔を覗かせた。

「にゃあ。おじちゃん、どうしたの?」
「……メット、ジャケット、グローブ、ブーツを忘れた」

 そう、バイクに夢中になりすぎ、ヘルメットなど作るのを完全に忘れていた。
 言っておくが、このまま作業着で乗るなんて愚かな真似しないぞ。

「……仕方ない。試乗はお預けだ」

 メットは自分で作る。ジャケット、グローブ、ブーツは特注で作ってもらおう。
 ジャケットはプロテクター兼用。胸や肘部分を守る素材入れてもらうか。
 ああ、ズボンも……うう、早く乗りたいのに。

「にゃあ、おじちゃん、おきゃくさまー」
「がるる、おんなのこ!!」
「きゅう、こども」
「……え?」

 ちょいテンションダウンしていると、ユキちゃんたちのところに、女の子がいた。
 ユキちゃんたちと同世代だろうか。白いサイドテール、肩剥き出しのワンピース……そして、耳がとがっている女の子だ。
 
「ふふ。面白そうな魔道具を作っているのね」
「……え? ああ、どうした? 迷子かな?」
「にゃあ、あそぼう」
「がうー、バトミントン」
「きゅうう、四人であそぶ」
「あなたたち、ごめんなさいね。わたし、この方に用事があるの」

 なんとも丁寧な女の子だ。ユキちゃんが差し出したラケットを申し訳なさそうに拒否してる。
 見た目は六歳くらいかな。耳がとがって……ん? なんだ、この感じ。
 女の子は、俺をジッと見ている。

「ふふ。わたしが何者か、わかったかしら?」
「…………いや、まさか」
「ふふふん。あなたの予想は、間違っていないわ」

 女の子は胸に手を当て、にっこり微笑む。

「はじめまして。わたしは十二星座の魔女の一人、『魚座の魔女』ポワソン・ピスケスよ。よろしく、異世界の住人、アツコの同郷人」
「…………マジで?」

 どう見ても幼女……俺の前に、十二星座の魔女が現れた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界召喚されたのに召喚人数制限に引っ掛かって召喚されなかったのでスキル【転移】の力で現実世界で配送屋さんを始めたいと思います!

アッキー
ファンタジー
 時空間(ときくうま)は、中学を卒業し、高校入学までの春休みを自宅で、過ごしていたが、スマホゲームをしている最中に、自分が、座っている床が、魔方陣を描いた。  時空間(ときくうま)は、「これは、ラノベでよくある異世界召喚では」と思い、気分を高揚させ、時がすぎるのを待った。  そして、いつの間にか、周りには、数多くの人達がいた。すぐに、この空間全体から、声が聞こえてきた。 「初めまして、私は、転移を司る女神です。ここに居る皆様を異世界に転移させたいと思います。ただ、ひとつの異世界だけでなく、皆様が、全員、異世界に転移出来るように数多くの異世界にランダムで、転移させて頂きます。皆様には、スキルと異世界の言葉と読み書きできるようにと荷物の収納に困らないように、アイテムボックスを付与してあげます。スキルに関しては、自分の望むスキルを想像して下さい。それでは、皆様、スキルやその他諸々、付与できたようなので、異世界に召喚させて頂きます」 「それでは、異世界転移!」 「皆様、行ったようですね。私も仕事に戻りますか」 「あの~、俺だけ転移してないのですが?」 「えーーーー」 女神が、叫んでいたが、俺はこれからどうなるのか? こんな感じで、始まります。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

処理中です...