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第六章 雪景色と温泉

温泉付き別荘

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 翌日。
 宿で朝食を食べ、俺、ロッソたち三人、ヴェルデ、取り巻き二人の七人で不動産ギルドへ。
 最初、町を観光しようと思ったが……無理でした。いや、俺が。
 まずは別荘!! とにかくいい物件を手に入れ、そこを拠点に観光をしようと思ったのだ。
 俺は早足で歩く。

「さあ、不動産ギルドに行くぞ!!」
「おっさん、別荘は逃げないって」
「そうですわよ。おじさま」
「……おじさん、焦りすぎ」
「子供じゃあるまいし……」

 若い女子四人に子供扱いされました……すまん、俺落ち着きないよな。この町に来てから温泉のことばかり考えている。
 昔、親父と爺ちゃんの三人で、温泉巡りしたことを思いだした。
 親父が宝くじで五百万円当て、パーッと使おうと三人で温泉巡りしたのだ。爺ちゃん、温泉好きだったし、親父も爺ちゃんの影響で温泉好き……当然、俺も。
 異世界の温泉、浸かった感じ、かなり肌がスベスベになり、身体が芯から温まる。

「これはぜひいい別荘を手にいれねば……妥協はしない。十億セドルまで出す!!」

 俺の貯金、十五億ほどある。
 ラスラヌフのオルゴール修理代、モーターボートエンジン、冬の魔道具のロイヤリティを合わせた金額だ。もう最悪、十五億全部使ってもいい。
 いい温泉……って、やばい。窓ガラスに映る自分を見て、なんとも欲望に満ちた顔をしているのに気づき、俺は頬を張った。

「お、落ち着け……ふう、悪かった。じゃあ行こう」
「「「「「「…………」」」」」」
「な、なんだよみんなして」
「おっさん、悪徳商人みたいな顔してたけど、元に戻ったなーって」

 気を付けますはい……俺はみんなに謝罪するのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 やってきました、不動産ギルド。
 間取りはザナドゥと同じ。だがこっちはレンガ造りで、大きな暖炉が燃えているのか暖かい。
 受付に行き、グロリアの紹介状を見せた。

「すみません。えーっと……ハンクさんいますか? これ、紹介状です」
「はい、少々お待ちください」

 おっさん受付はバックヤードへ。そして、入れ替わるように三十代半ばの男性が出てきた。
 すらっとした、スーツを着たらかなりやりての商社マンに見えなくもない、オールバックの紳士……って、俺は何を思ってるんだ。

「初めまして。レレドレ不動産ギルドの副マスター、ハンクと申します。ささ、応接間へどうぞ」

 さすがに人数が多いので、ヴェルデの護衛二人は応接間の前で待機。
 五人で応接間に入り、ふかふかなソファに座った。
 ハンクさんは、紹介状をテーブルに置いて言う。

「姉さんからの紹介ですね。『金持ちが別荘買うから面倒見な』と書いてありましたよ。姉とはどのようなご関係で?」
「飲み友達ですよ。冒険者ギルドのヘクセンと三人で、仕事終わりに飲むんです。旦那のグチとか聞かされてますよ」
「ははは。姉さんも相変わらずだ。さて……別荘のご購入ですね」
「はい。ああそれと、お客はもう一人」

 と、俺の隣に座るブランシュがペコっと頭を下げた。

「初めまして。『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』のブランシュと申しますわ。私も、この町で別荘を買おうと思いまして」
「なんと、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』とは……宜しくお願い致します」

 ブランシュと握手。ハンクさんは咳払いをした。

「これは本腰を入れねばなりませんね。さて……どのような物件をご希望ですか?」

 ハンクさんは、商人スマイルを俺たちに向けた。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 温泉付き、露天風呂も欲しい、サウナある? デカい庭欲しい、部屋は畳敷き、地下とかに魔道具作成部屋あるといいな、繫華街から近いのがいい、あとあまり騒がしい立地じゃないところ。
 我ながら滅茶苦茶言ってるぜ……こんなのあるわけ。

「あります」
「嘘!?」

 思わず立ち上がってしまった。
 ある? マジで? いや嘘だろ?
 ハンクさんは不動産情報の書かれた紙をテーブルへ。

「こちら、露天風呂、内湯、サウナ付きの物件です。地下室も完備し、庭も広く、レレドレの繁華街から徒歩七分の距離にあり、敷地周囲は柵に覆われた森となっていますので広いです。部屋数も多く、別荘として過ごすのには最適かと」
「…………」
「あ、あの……何か?」
「いえ。その……ゴースト系魔獣とか住んでます? 排除できないゴースト系魔獣が住んでる事故物件とか、持ち主が連続不審死してるところとか」
「そ、そういうことはありませんけど……」

 話が上手すぎて疑ってしまった。
 さすがに都合良すぎる。こんな物件、まるで旅館……あれ、まさか。 
 俺は物件情報を確認し、気付いた。

「もしかしてここ……元、宿屋とか?」
「その通りです。廃業した旅館を不動産ギルドで買い取り、設備を入れ替えて販売しているんです。集客が見込めなくなり廃業する宿をそのまま放置するのはもったいないですし、このレレドレで別荘を持ちたいという富豪の方はいらっしゃるので……ですがこの物件、十二億セドルと高額で、まだ買い手が見つからず」
「……買います!! 十二億……うん、それくらいならいいや。買う!!」

 俺は銀行カードをテーブルに叩き付けた。
 貯金はまだ三億ある。三億……金銭感覚狂いそうになるが、充分すぎる。まだまだロイヤリティは入ってくるし、ドドンと使ってやる!!
 ハンクさんは笑顔になり、深々と頭を下げた。

「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
「いやいや。ははは……でもその前に、物件見てもいいですか?」
「もちろんでございます!!」
「あの~……わたくしもいるの、忘れないでくださいませ」

 と、ブランシュがソロ~っと手を挙げた。
 ハンクさんは咳払いし、今度はブランシュの希望を聞き始めた。
 するとアオが言う。

「おじさん、お金持ち……二つ目の別荘だね」
「おう。妥協せず、使う時にドドンと使うぞ。はっはっは」
「……豪快ですね。別荘……私も欲しいかも」

 ヴェルデは「貯金……」や「管理……」とブツブツ言っている。
 ロッソは……爆睡していた。長い話が苦手らしい。
 俺は、ヴェルデにコソッと言う。

「おいヴェルデ、謝る機会だけど……俺の別荘で、温泉に入りながらってのはどうだ?」
「え……あ、あ、あ、あなた!! わ、私と一緒に温泉へ!?」
「アホ!! 俺じゃなくて、ロッソたちだよ。温泉に入ると気ぃ緩むし、そこで謝罪してやり直すんだ……いいアイデアだろ?」
「……それもあり、かも」
「だろ? 別荘買ったら招待するから、チャンス作ってやる」
「え、ええ」

 コソコソとヴェルデと打ち合わせをする。アオはブランシュと別荘について話しているし、ロッソは爆睡しているから聞こえていない。
 だが俺は気付かなかった。

「…………」

 ロッソが、薄目を開けて俺とヴェルデを見ていることに。
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