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第六章 雪景色と温泉

雪国への支度

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 さて、雪国へ行くための準備だ。
 あと三日で出発。
 季節も秋が深まり、もう暑さを感じることがなくなった。服装も長袖だし、あと一か月で国内は雪に包まれる……たった一か月だけだが。
 俺は魔道具の持ち込み修理案件を全て終わらせ、店の前に『冬の間休業します。再開は一月半ば予定』と看板を置いた。
 あとは、旅支度なのだが。

「「「おじちゃーん」」」

 旅支度の前に、職場の掃除をしていると……子供たちが遊びに来た。
 ヒコロクに乗ったユキちゃん、クロハちゃん、リーサちゃんだ。ヒコロクから降りると、俺に向かって飛び込んでくる……かわいい。
 俺は、三人の頭を順番に撫でた。

「ははは、どうした? 何か用事か?」
「にゃ。あそびにきたの。ヒコロクのおさんぽなの」
「がうう、おじちゃん、あそぼ」
「きゅう、あそぼう」
「うーん……これからお掃除するんだけどな。よし、ちょっと待ってて」

 俺は地下の素材置き場から、バブルフィッシュという弾力のある魚の皮を持って来た。そして、それを丸く加工して空気を入れて膨らませ、しっかりと穴を閉じた。
 真ん丸なボールの完成だ。俺は三人の前でバスケットボールみたいにポンポンさせる。

「さあ、これで遊んでいいぞ。ほれっ」
「にゃ!!」

 ポンポン跳ねるボールにユキちゃんが飛びついた。
 会社の前は広いし、人通りも多くないからいいだろう。
 俺は外にいたヒコロクに言う。

「ヒコロク、みんな危険がないように見ててやってくれ」
『わふ……わうう!!』

 すると、転がって来たボールにヒコロクが飛びついた。クロハちゃん、リーサちゃんもヒコロクに飛びついてコロコロ転がる……あ~あ、もう砂だらけだ。
 ユキちゃんたちは楽しそうにボール遊びをしている。この隙に掃除でもするか。

 ◇◇◇◇◇◇

 一時間ほど、事務所と一階、地下の掃除をした。
 まあ、掃き掃除と拭き掃除、ゴミの処理くらいだ。年末の大掃除……ってわけでもないな。自分で言うのもなんだが、俺はけっこう綺麗好きだし、掃除は出勤と退社でちゃんとやってるし。
 掃除を終え、俺は外を見た。

「あらら……寝てる」

 ユキちゃんがボールを抱え、三人はヒコロクに寄り添って寝ていた。
 会社の前であんなに熟睡できるとは……よし。
 俺は、会社に常備してあるお菓子を全部小分けにし、それぞれ袋に入れた。
 そして一階に行き、寝ているユキちゃんの頭を撫でる。

「……にゃ」
「さ、そろそろ帰る時間だぞ。クロハちゃん、リーサちゃんも」
「がう……くぁぁ」
「きゅうう……ん」

 三人の頭を撫でると、みんな眠そうに起きた。
 ヒコロクも大きな欠伸をして起きる。

「さ、みんなにお菓子をあげよう。持ち帰ってから食べるんだぞ」
「にゃあ!!」「がるる!!」「きゅうう!!」
「ヒコロクにも。ちゃんとみんなを送ってやるんだぞ」
『わう!!』

 三人はヒコロクの背に乗ると、ヒコロクは歩き出す。
 
「「「おじちゃーん、ありがとー!!」」」
「おう。気を付けて帰るんだぞー」

 三人を見送り、俺は気付いた。

「あ、ボール……まあいいか。ユキちゃんたちのオモチャになるだろうな」

 さて、今日で仕事納めだ。三日後には雪国に出発だし、明日はいろいろ買い物しないとな。

 ◇◇◇◇◇◇

 荷車の手配、雪国用のジャケットや服、ブーツなどを買ってカバンに入れた。
 財布に現金もバッチリ、ロイヤリティの支払いもあったので資金は十分。
 職場の管理も不動産ギルドに任せたし、屋敷の管理も任せた。
 出発前日、サンドローネとリヒターに挨拶もした……まあ、サンドローネはメチャクチャ不機嫌そうな目で睨んできたが。
 そして、出発の日。職場の前にザナドゥで使った荷車が到着。
 ヒコロクを連れたロッソたちも到着した。

「やっほ、おっさん!!」
「おじさま、今回もよろしくお願いしますわね」
「……楽しい温泉旅にする」
「ああ、よろしくな」

 ヒコロクを荷車と連結させると、アオが地図を出してヒコロクに見せた。

「……ヒコロク。向かうのはここ。鉱山の町ドドファド。で、次が温泉の町レレドレ……わかった?」
『わう』
「……なあ、それで大丈夫なのか?」
「うん。ヒコロク、頭いいから」

 ヒコロクは地図をジーっと見て尻尾をブンブン振っている。
 ロッソ、ブランシュは荷物を積み込んでいたので、俺も自分のカバンを入れる。

「おっさん、それだけ?」
「一応、着替えに財布、あとは仕事道具一式か。お前たち、けっこうな荷物だな」
「うふふ、おじさま……女の子にはいろいろ『準備』がありますのよ?」
「す、すまん。詮索はしません、はい」

 ヒコロクが道を覚え、荷物も積み込み、俺たちも馬車に乗り込んだ。

「……ヒコロク。まずは鉱山の町ドドファド。出発」
『わうう』

 ヒコロクが歩き出すと、馬車も動き出した。
 さて、元気よく「しゅっぱーつ!!」なんてガラじゃないし、俺たちは馬車の一階に集まる。

「じゃ、前と同じく二階の寝室はお前たちな。俺はこのソファで」
「やっぱ言うと思ったし。じゃあ、道中の安全はアタシらが守るから」
「おう。ところで……やっぱスノウさんたちは来なかったのか」
「ええ。温泉の香り、獣人の肩は苦手なようですわ。スノウさんとユキちゃんは、拠点の管理を任せたので。それに、お友達もできたようなので、安心ですわ」

 確かに、ママ友や子供友達がいれば、寂しくないか。
 温泉饅頭とか売ってたら買ってやろうかね。

「予定としては、鉱山の町ドドファドを経由して、温泉の町レレドレに向かう感じか」
「……本来は十日以上かかるけど、ヒコロクなら一週間」
「アタシらも別荘買うことにしたの。おっさんみたいにお金持ちじゃないから、そんなに大きな別荘は買えないけどね」

 そういや、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の三人は、稼いだ金を故郷に送ったり、寄付とかしてるんだっけ。若いのに立派なモンで……うう、おっさん泣ける。
 俺が貸してやってもいいが、そういうことじゃない気もするので黙っていた。

「とりあえず、温泉付きは絶対かなー」
「いいですわね。雪景色も楽しみですわ」
「……美味しい料理も楽しみ」
 
 さて、温泉の町か……今からワクワクしてきたぞ。
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