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第三章 ペリドット商会との死闘

説明

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「───……ってわけで、バリオンの野郎が来た」
「……そう」

 半日後。リヒターと一緒にやって来たサンドローネに事情を説明した。
 割れた窓ガラス、護衛としている『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』を見て眉を潜め、「何があったか説明」と何となく察しているような言い方で詰め寄ってきた。
 現在、ソファに座って足を組み、甘い煙草を吸っているサンドローネ。

「……まあいいわ。バリオンの言う通り、引き抜きは誰でもやることだし」
「ま、安心しなよおねーさん。おっさんはアタシらが守るからさ!!」
「ええ、王国最強の七人の冒険者、そのうち三人も護衛に付くなんてね。安心できるわ」
「サンドローネさま、おじさまが狙われたということは、あなたも狙われる可能性があるのでは?」
「確かに。でも、私にはリヒターがいるから大丈夫よ」
 
 リヒターは無言で一礼。アオがリヒターをジッと見て言う。

「お兄さん、かなり強いね」
「いえ、そんな。あなた方に比べたら、私など」
「……なあ、ロッソ、ブランシュ、アオ。お前たちって有名な冒険者なのか?」

 俺がそう聞くと、三人は顔を見合わせ笑い、サンドローネは額を押さえ、リヒターは苦笑した。
 そして、リヒターが言う。

「前にも少し言いましたが……ゲントクさん。彼女たちはエーデルシュタイン王国最強、千人もいないS級冒険者であり、その中でも実績、実力共に最高レベルの七名のうち三名です」
「……おお」

 驚く俺。リヒターが続ける。

「『赤のロッソ』様は、冒険者最強の剣士であり『爆炎の烈剣』という異名を持つ冒険者です」
「なんか照れる!! 改めてよろしくねっ!!」
「そして『白のブランシュ』様は、冒険者最高の癒し手であり『白麗の聖女』と呼ばれています」
「うふふ、怪我や病気をしたらいつでもどうぞ。もちろん、お代はいただきますわ」
「最後に……『青のアオ』様です。凄腕のアサシンでもあり、『流水の忍者』と恐れられています」
「……その呼び方、好きじゃない」

 すげえ……中二病全開だな。俺も若ければ「かっけえ」って思うんだろうが、ちょっと恥ずかしい。
 するとサンドローネ、リヒターをジロジロ見る。

「詳しいようだけど……まさかファンなの?」
「え!? いやまあその、少し」
「あはは!! 兄ちゃん、サインしてあげよっか?」
「ぜ、ぜひ!!」

 リヒター……お前ってやつは。
 でもまあ、最強の七人とかちょっとカッコいい。ってか冒険者ってエーデルシュタイン王国に百万人くらいいるんじゃなかったっけ。
 エーデルシュタイン王国の人口が日本と同じくらいで、敷地も北海道よりデカいんだよな……なんかいろいろすごいわ。
 そして、サンドローネがこほんと咳払い。

「話が逸れたわね。とりあえず、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』に護衛されるならあなたは大丈夫でしょうね。問題は……あなたの開発した保湿クリームを、バリオンが盗んだことかしら」
「うーん……これなあ」

 俺は、バリオンが落としたコンパクトをテーブルの上へ。
 蓋を開けると、鏡と保湿クリームがセットになっている。
 ふわりと甘い香りがして、女性陣が「おお~」と目を輝かせる。

「これは、塗ると肌がスベスベになるクリーム、だったかしら?」
「ああ。保湿効果もあるし、薬効成分が肌にいい刺激を与えて、瑞々しさやモチモチ感を引き出す」
「……新聞には、ペリドット商会の日焼け止めクリームと合わせて使うといいって書いてあるわね」
「なあ、ペリドット商会の日焼け止めクリームってどんなやつだ?」
「リヒター」
「はい、お嬢」

 リヒターは木箱から日焼け止めクリームを出した。
 小瓶に入ったクリー……って、これ。

「クリームってか水じゃねぇか……薬草入りの水? なんか濁ってるし、サラサラしてるぞ」
「クリームってそういうものじゃないの?」
「……俺のいうクリームは、こっちの方。まあ別にいいか。で……この日焼け止めクリームを塗って、保湿クリームを塗るって感じか」
「この日焼け止め、わたくしも愛用しておりますわ。日差しはお肌の天敵なので」
「アタシ、そんなの塗ったことないけど日焼けなんてしたことないなー」
「……たまにあなたのことブン殴りたくなりますわ。ロクなお手入れしていないのに、髪はサラサラだし、お肌は白くてスベスベだし……おのれ」

 なんかブランシュが怖い。ロッソは首を傾げているけど。
 すると、アオが保湿クリームに手を伸ばす。

「いい匂い……これ、塗っていいの? スベスベ?」
「待った」

 俺はコンパクトを没収。アオが「あ」と俺をムスッとした目で見た。

「サンドローネ、この国に医者っているか?」
「当たり前でしょ」
「薬草の研究者とか、そういう人は?」
「医者に分類されるわね」
「……こういう日焼け止めとか、クリームとか作る時、医者の意見は聞くか?」
「あるとは思うけど……身体にいい成分の薬草を混ぜて使うのは、素人でもよくあることよ?」
「…………」

 匂いを嗅ぎ、軽く指で掬ってみる。
 
「やっぱりこれ、俺が作ったクリームと同じだ。多少は薬草を追加してるみたいだけど……」
「それが問題あるの?」
「……これ、わかんねぇんだよ。俺は魔道具技師で、医者じゃないし、薬草のことも素人知識。よくわからないやつを人様の肌に塗るような商品、出したくない。正直……これは発売しない方がいいと思う」
「でも、もう量産態勢に入ってるし、あと数日で勝負が始まるわ。何を言っても彼は引かないわよ。それに……その考えが杞憂に終わることもある」
「…………」

 俺はコンパクトを閉じ、テーブルに置いた。

「……はあ」
「ゲントク。あまり気にしない方がいいわ。責任はバリオンにある……それと、ミスト噴霧器の完成品ができたから確認してちょうだい」

 リヒターは、木箱から綺麗なガラス玉に入った魔道具を出した。
 蓋部分にプロペラが付いており、噴射口がある。
 リヒターが水を入れ、薬草を入れてスイッチを入れると、プロペラが回転し、霧がシュワーッと噴き出した。

「「「おおお~!!」」」
「いい香り。化粧水代わりに顔に塗ることもできるし、冷たい霧が部屋の温度を下げてくれる。それに、薬草を入れ替えて様々な香りを楽しめる……夏にぴったりね」
「アタシ欲しい~!!」
「わ、わたくしもです!!」
「……私も」
「ふふ。あなたたちはゲントクの護衛だしね。ガラス球の模様や蓋の色も選べるわ。気に入ったものがあれば、それを送らせてもらうわね」
「やった!! おねーさんありがとっ!!」
「うれしいですわ~」
「やったぜ」

 みんな喜んでいる。
 そうだな……あまり、考えすぎない方がいいかもな。
 しばし、みんなで会話を楽しんだ。ミスト噴霧器や、ヘアアイロンのこと……ブランシュがヘアアイロンに興味を持ち、美容のことでサンドローネと意気投合していた。
 話が落ち着くと、サンドローネが言った。

「さて、さっきから気になってたけど……あれ、何?」

 サンドローネは、天井にあるシーリングファン、そして冷気を吐くエアコンを見た。

「ああ、シーリングファンとエアコンだよ。涼しいだろ?」
「アタシの部屋にもあるー」
「私も」
「ふふ。おじさまに付けてもらいましたわ」
「……またこんな面白そうなものを。まったく」
「ははは。リヒター、これ仕様書な。サンプルなくても、冷蔵庫や製氷機のノウハウあれば作れると思うぞ」
「は、はい」

 用意しておいてよかったぜ。
 空気を循環させるシーリングファン、これは効果あるぞ。
 エアコンも涼しいし……まあ、今夏に間に合わないとは思うが、好きにやってくれ。

「ね、おねーさん。アタシらおっさんと相互契約したんだ」
「え、そうなの? ゲントク……あなた、いつの間に」
「まあいろいろあってな」

 とりあえず……勝負は間もなく始まる。
 なんだか嫌な予感はしたが……俺は成り行きを見守ることにするのだった。
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