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第三章 ペリドット商会との死闘

相互契約

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 数日後、俺は家で朝刊を読んでいると。

「お、製氷機の記事だ」

 見出しの一面に、『アレキサンドライト商会の新製品、製氷機! この夏はもう氷の心配いらず』とあった。魔道具で、製氷機についての説明文があり、値段と『リース・プラン』についての説明もある。
 小さいサイズは家庭用、中~大サイズは業務用で販売するようだ。
 当然だが、俺の試作品とは比べ物にならないほどデザインは洗練されているし、製氷皿も様々な形状が選べ、いろんな形の氷を作れるようになっていた。
 
「これは売れそうだ。お、冷蔵庫も新型発売か……こっちも間に合ったんだな」

 俺はコーヒーを飲みながら新聞を読む。
 そろそろ、コヒの豆を薬局じゃなく、ちゃんとしたところで仕入れたい。
 コーヒー……豆はあるんだけど、薬としてそのまま飲むみたいだし、売ってるのも薬局なんだよな。俺、薬を焙煎して粉にして飲んでる狂人みたいに見えるのかな。
 リヒターに相談して、コーヒーのことなんとかしてみるか。

「さて、メシも食ったし仕事行くかあ」

 今日の朝飯は玄米ご飯、野菜スープ、目玉焼きにベーコンだ。
 ザツマイを大量に買ったし、炊飯器はまだ作ってないのでメスティンで炊いている。
 米が食えるようになったのはありがたい。近々、精米用の道具作ろうかな。今のザツマイは玄米っぽくて美味いけど、白米も食いたい。

「そういや、どこいったのかな……保湿クリーム」

 少しだけ心配があった。
 俺の作った『なんちゃって保湿クリーム』が消えた。一階のドアは開いてたし、まさか誰かが盗んだんじゃないだろうな。
 とりあえず、俺は考えるのをあとにして、仕事場に向かうのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、仕事場に到着すると。

「あ、来た。おっさーん!!」
「あれ、ロッソ……?」

 赤いツインテールにビキニアーマーのロッソがいた。
 
「珍しいな、一人か?」
「うん。あのさ、お願いあって来たんだ。ブランシュもアオも『やめとけ』って言ってたけど~……おっさんなら何とかしてくれるんじゃないなかって」
「なんだ、厄介ごとか?」
「うん。あのさ~……うちら『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の拠点が暑くてさあ。おっさん、魔道具で何とかならない? あ、お金ちゃんと支払うし!!」
「あ~……とりあえず話聞くよ」

 ロッソと中へ。 
 事務所の二階に行くと、ロッソはソファにダイブした。

「う~、最近暑いよねえ」
「夏が近いんだってな。またあの泉でキャンプしたいぜ……今度は俺も泳ぎたい」
「あ、夏に出かけるなら海がいいんじゃない? 実はアタシ、海が大好きでさ~、依頼の報酬貯めて貯めて貯めまくって、海の国ザナドゥに別荘買ったの!!」
「ほお、海の国か……」

 海の国ザナドゥ。
 エーデルシュタイン王国から東にあるリゾート国家で、日本で言うハワイみたいな場所だ。
 なるほど。別荘か……俺も欲しいかも。夏はリゾートで過ごすのもあり。

「お? その顔……おっさんも別荘欲しくなった?」
「まあな。夏はリゾートで過ごすとか、まるでブルジョアだぞ」
「ブルジョアってなに?」

 こっちの世界に『ブルジョア』って単語はないようだ。
 でも、またやりたいこと増えた……海の国で別荘買う。今の資産で土地付きの新築は建てられる……リヒターに相談して、いい物件ないか聞いてみようかな。

「そうじゃなくて!! おっさん、アタシらの拠点、なんとか涼しくして欲しい。なんかデカい冷蔵庫みたいな魔道具ない?」
「そーだなー……」

 まあ、エアコン作ればいいだけだ。
 『冷風』の魔石を設置した箱をくっつけるだけでいい。
 簡単に作れそうだし、作ってやるか。

「いいぞ。エアコン作るか」
「えあこん?」
「ああ。冷たい風を出す魔道具だ」
「そんなのあるの!?」
「ああ。魔石なら室外機とか必要ないかな。『冷風』の魔石くっつければ、魔石から冷たい風を出すようになる……でも」

 魔導文字。
 漢字を彫るだけで効果が出るんだが……実は、多く文字を彫れば、その分だけ魔石の寿命が早まる。
 エアコンの場合『冷風』の魔石と、室内の暖かい空気を吸収する『吸引』の魔石を入れればいい。
 熱気を吸収し、エアコンから冷気を吐き出す……これだけで、けっこう冷えるはずだ。

「問題は魔石か。寿命長く使うなら、四つ星くらいの魔石が欲しいな」
「魔石? じゃあこれ使って」

 と、ロッソが出してきたのは、眩い輝きの魔石が十個ほど。
 おい、これ……まさか。

「これ、ドレアムドラゴンズの魔石。キレーだから取っておいたの」
「どどど、ドレアムドラゴンズって、ドレアムドラゴンの群れかよ!?」
「うん。十匹くらいのドレアムドラゴン」

 と、討伐レートSのドラゴンじゃねぇか。魔石は九つ星の等級だぞ……さすがに初めて見た。
 大きさは握りこぶしくらい。これ、売ったら数億セドルはするぞ。

「足りる? 足りないならもっと持ってくるけど」
「まだあるんかい!? いや充分、充分すぎるわ」
「じゃあ、依頼料ってことで、それ自由に使って。余ったら売っていいし、好きに使っていいよ」
「……ども」

 足りすぎる。エアコン百台くらい拠点に付けても余るぞ。
 こうして、俺は『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の拠点に設置する『エアコン』を作り、ロッソと一緒に設置……拠点が豪邸だったのにも驚いた。

 ロッソの言う通り、屋敷は暑い。
 城下町の少し外れにある豪邸で、太陽光がモロに当たる地形なのが悪いようだ。

 使った魔石は八つ。
 ロッソ、アオ、ブランシュの部屋、そして三人が集まるリビングに一つ付けた。
 リモコンはないので、エアコンに金属製のパイプを付け、真下にスイッチを設置。
 スイッチを入れると、蒸し暑い空気を吸い、冷気を吐き出した。

「おおお!! 涼しい~!!」
「……ふぃぃ」
「はあ、涼しいですわ……おじさま、ありがとうございます」
「いいって。こっちも依頼料金もらったしな。ロッソ、余った魔石はありがたく使わせてもらう」
「うんうん。感謝感謝!!」

 エアコン、確かに涼しいな。
 魔石、残り二個あるし……事務所と、自宅に一個づつ使ってエアコン作ろうかな。
 そう思っていると、アオが俺の袖をくいくい引いた。

「おじさん。あのね……考えたけど、私たちと『契約』しない?」
「「!!」」
「え? 契約って……相互契約のことか?」

 相互契約とは。
 魔道具技師が冒険者に持ちかける契約で、自分の作った商品を提供する代わり、冒険者は必要な素材などを集める契約のことだ。
 まあ、そんな大層なもんじゃない。契約した冒険者に依頼することもあれば、町で揃う素材もあるしな。契約と言っても契約料金とか発生することもないし……あくまで、必要な時に、必要な素材を集め冒険者という契約だ。
 ロッソがアオに飛びついた。

「それいいじゃん!! ね、ね、おっさんどう? アタシら、まだどことも契約してないの!!」
「……正確には、全部の契約断ってる」

 ブランシュも近づいてきた。

「おじさまとなら、いいかもしれませんわね。おじさまの作る魔道具、どれも素晴らしいですし」
「うんうん!! 必要な素材とかアタシら集めるからさ、面白い魔道具作ったら、アタシらにちょうだい!! ね、ね、いいよね?」
「あ、ああ……うーん」
「……おじさん、乗り気じゃない? 迷惑?」
「いや、迷惑っていうか、契約してまで熱心に仕事するつもりないしな。基本的に、思い付きで魔道具作ってるだけだし、こんな言い方若い子にすべきじゃないけど……俺、自分が裕福に、独身で快適な生活するためだけに働いてるようなモンだしな」
「それフツーじゃん。アタシだっていっぱい遊びたいし」

 ロッソがアオに抱き着いたまま言った。
 ブランシュもアオも、ウンウン頷く。

「おじさん、私たちどうで、どことも契約するつもりないし……おじさんがたまに、面白そうな、便利な魔道具作る時に呼んでくれればいい。魔石とか、魔獣の素材いっぱい集めてくるからさ」
「そうですわ。むしろ、熱心にお仕事しなくても構いません。わたくしたちも、冒険を優先しますので……あまり熱心に素材集めをしてくれと言われるのも嫌なので」
「うんうん!! むしろ、相互契約してるから諦めてーって、これから契約持ちかけてくる魔道具技師に言えるしね」
「……なるほどな。じゃあ、そういうことならいいぞ」

 こうして、俺は『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』と相互契約をすることになった。
 魔道具を作る時、素材とか足りないときにロッソたちに依頼、その見返りに作った魔道具を提供したりする契約だ。
 
「おっさん、よろしくね!!」
「……おじさん、また釣りしようね」
「うふふ。コーヒーも飲ませてくださいね?」

 ロッソ、アオ、ブランシュ……今更だが、俺は知らなかった。
 彼女たちがいかにすごく、冒険者として有名なのか。
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