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第三章 ペリドット商会との死闘
制作開始
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「うーっ、恥ずかしかった」
「ははは。悪いな、でもけっこう楽しかったわ」
俺はイェランと喫茶店に入り、考えを整理することにした。
もちろん俺の奢り。イェランはドレスを着崩し、大きくため息を吐く。
「アタシ、やっぱこういうの似合わないわ……あー肩凝った」
「ははは。俺は似合ってると思ったけどな」
「……うっさいし。で、新作どうすんの?」
「お、気になる?」
「ってか、アンタはアイデアと試作出して、製品化と量産するのアタシらなんだからね」
「ああそうか。そういや、製氷機とかどうなった?」
「もう完成してる。お姉様が飲食ギルドのお偉いさんを集めてアピールもしてるし、王家にいくつか献上して評判もかなりいいみたい。王家のお墨付きなら誰も文句言わないし、夏に冷たい飲み物や食事を提供できるなら、飲食ギルドも大喜びだしね」
もうそこまでやってんのか。
まあ俺は作るだけだし、経営戦略とかは知らんけど。
「で、何作るの?」
イェランは、紅茶を飲みながら言う。ちょっとワクワクしているようにも見えた。
まあ、いくつかアイデアはある。
「そうだな。化粧品とか詳しくないけど……女性の化粧って、洗顔して白粉付けるのが主流なんだよな?」
「そうだよ。ってか当たり前じゃん」
「あのさ、スキンケアとかしないのか? 保湿とか」
「なにそれ?」
やっぱそういう感覚か。
女性の化粧なんて知らんけど、洗顔して保湿とかでクリーム塗るとか。で、その上に化粧とかする……のかな? あんまり思い出したくないが、蒸発した母親の化粧台に、保湿クリームとか化粧水とかあった。
「顔は水で洗うのか?」
「えーっと、薬草混ぜた水で洗ったりするかな。いい匂いするんだよ」
化粧水みたいなもんか。クレンジング……だったか。覚えてねえ。
で、そのあとに洗顔して、クリーム塗って……ああわからん。でも、保湿クリームとかあれば、化粧前の肌を保護できるかな。
成分……植物脂とか? 肌によさそうなモン混ぜて作ってみるか。
それと、俺が知ってるような美容機器も作ってみるかな。母親が昔使ってたやつとか。
◇◇◇◇◇◇
「ダメだこりゃ」
一週間後、俺は薬草やらを混ぜ、『なんちゃって保湿クリーム』を完成させた……なんかもう魔導具技師の仕事じゃねぇな。
見た目はいい。まっしろなクリームで、肌に塗るとすべすべする。
保湿効果もある。毛を剃ったラットで実験したが、特に問題はない。
だが……なんというか、本能が『やめとけ』と囁くのだ。
「…………」
だって、俺は科学者でも医者でもない。『それが存在する』って知識はあるが、保湿クリームなんて作ったことないし、作ろうなんて思ったこともない。
そんな俺が作った『保湿クリーム』が、こうして目の前にある。
「……お肌トラブルとか出るの怖いな。そういや昔、なんかそういう事件あったような」
俺は、保湿クリームのサンプルと成分表をどうするか悩み、とりあえず一階の作業室に置いておく。
そのまま事務所に戻り、いくつか作ったサンプルの魔道具を眺めている時だった。
「入るわよ」
サンドローネが入ってきた。
そのままスタスタとソファへ座り、足を組んで座る。
俺は冷蔵庫から果実水を出し、製氷機の氷をグラスに入れ、果実水を注いで出した。
「新作の出来はどう?」
「いくつか作ったけど、夏ってイメージのモンじゃねぇな」
「別にいいわ。理由はこじつけるから……で、どんな商品?」
「まずはこれ。ヘアアイロン」
俺は、トングのような形の魔道具を見せる。
ヘアアイロン。熱で髪を整えて真っすぐにする道具……髪をはさむ部分に鉄板を入れ、『温度変化』と魔導文字を入れた魔石を入れ、魔力量を調節しながら熱を発生させる魔道具だ。
「で、なにこれ」
「これで髪をはさんで熱するんだよ。寝ぐせとか真っすぐになるし、艶も出る」
「……リヒター、大至急イェランを呼んで」
「かしこまりました」
「お、おい、まさか」
「実験よ」
五分後、大あくびをしながらイェランとリヒターが来た。
「お姉様……なに? あたい貫徹で寝てない……」
「ちょうどいいわ。あなたの髪に用があるの。ゲントク、やりなさい」
寝起き、ひどい寝ぐせのイェランは、ソファに座ると寝てしまった。
俺はイェランの髪を取り、ヘアアイロンで挟んで熱を通す……すると、クセッ毛の髪が真っすぐになり、髪に艶が出た。
「すごいわね……これは画期的な商品よ!!」
「貴族女性って髪長いヒト多いからな。夏っぽいかどうか知らんけど、普段使いにいいかなーと」
最初は、開拓モノにありがちな『石鹸』や『シャンプー』を作ろうと思ったが……どっちも普通に存在する。まあ、そううまくはいかないか。
サンドローネは、ヘアアイロンを興味深げに見る。
「面白い。でも、これだけじゃ弱いわね」
「いちおう、もう一つ……こっちは俺のオリジナルだけど」
「何?」
出したのは、透明なタンクに水と薬草を入れ、蓋をした魔道具だ。
サンドローネが首を傾げる。
「なにこれ?」
「ミスト発生装置。タンクに水と薬草を入れて、蓋部分のスイッチを押して魔力を流すと……」
蓋にはプロペラが付いており、ゆっくり回転する。
そして、蓋に空いた超細かい穴から水がゆっくり吹き出し、霧となって放たれた。
「夏場に涼しいかなと。水に氷を入れればけっこう冷えるし、薬草の香りも部屋に充満して気分良くなる。入れる薬草は自由にできるし、ミストを浴びればけっこう涼しい。美容品かどうかわからんけど、薬草入りのミストを顔に浴びせて馴染ませれば、化粧水代わりになるかなと思った」
「…………」
「これと、ヘアアイロンで勝負するのはどうだ?」
「…………いい」
サンドローネは、眼を輝かせてミスト噴霧器を手に取った。
「いいわね、これ。部屋に置きたい……すごい、すごいわ」
「お、おう……気に入ったならよかった」
「リヒター。夏の新作はこの二つにするわ。ゲントク、書類」
「あ、ああ」
「は、はい」
俺はリヒターに仕様書を渡す。あとはイェランに任せるか。
当のイェランはいつの間にか寝てるし。
「そういや、製氷機はそろそろなんだよな」
「ええ。宣伝も終わったし、エーデルシュタイン王家に献上もしたわ。貴族たち、飲食ギルドからも好評だし、同時に発表した『リース・プラン』の申し込みも殺到。近日中に発売するわ」
「へえ、そういや完成品見てないな……今度見せてくれよ」
「いいわよ。大中小と大きさが三つあるけど、どのサイズにする?」
「じゃあ中サイズで」
「わかったわ。近いうちに、冷蔵庫と合わせて持っていくから」
「あ、家の方に運んでくれ。仕事場には俺の作ったやつ置いておくから」
「それと……ヘッドライトと懐中電灯も近いうちに発売するわ。同じように製品を届けるから」
「わかった。ああ、この辺の警備をしている人たちにも送りたいんだが」
「それは商会の方でやっておくわ」
と、仕事の話を続け、いつの間にかお昼を回っていた。
サンドローネは「じゃ、またね」と出て行き、リヒターにはイェランを担いで行ってもらう。
残された俺は、窓を開けて言う。
「そういや、夏が近いんだっけ……日差し強えぇなあ。どっか海にでも行って、水着の姉ちゃん相手に一杯引っかけたいモンだぜ」
親父臭いと思うけどな……まだまだ若いつもりだけど、思考がおっさんだな俺。
「さて、暑いし、扇風機とかエアコン作ってみるか……」
そう思い、一階の作業場へ向かい、気付いた。
「…………あれ?」
作業場に置いたはずの『保湿クリーム』が、仕様書と一緒になくなっていた。
「ははは。悪いな、でもけっこう楽しかったわ」
俺はイェランと喫茶店に入り、考えを整理することにした。
もちろん俺の奢り。イェランはドレスを着崩し、大きくため息を吐く。
「アタシ、やっぱこういうの似合わないわ……あー肩凝った」
「ははは。俺は似合ってると思ったけどな」
「……うっさいし。で、新作どうすんの?」
「お、気になる?」
「ってか、アンタはアイデアと試作出して、製品化と量産するのアタシらなんだからね」
「ああそうか。そういや、製氷機とかどうなった?」
「もう完成してる。お姉様が飲食ギルドのお偉いさんを集めてアピールもしてるし、王家にいくつか献上して評判もかなりいいみたい。王家のお墨付きなら誰も文句言わないし、夏に冷たい飲み物や食事を提供できるなら、飲食ギルドも大喜びだしね」
もうそこまでやってんのか。
まあ俺は作るだけだし、経営戦略とかは知らんけど。
「で、何作るの?」
イェランは、紅茶を飲みながら言う。ちょっとワクワクしているようにも見えた。
まあ、いくつかアイデアはある。
「そうだな。化粧品とか詳しくないけど……女性の化粧って、洗顔して白粉付けるのが主流なんだよな?」
「そうだよ。ってか当たり前じゃん」
「あのさ、スキンケアとかしないのか? 保湿とか」
「なにそれ?」
やっぱそういう感覚か。
女性の化粧なんて知らんけど、洗顔して保湿とかでクリーム塗るとか。で、その上に化粧とかする……のかな? あんまり思い出したくないが、蒸発した母親の化粧台に、保湿クリームとか化粧水とかあった。
「顔は水で洗うのか?」
「えーっと、薬草混ぜた水で洗ったりするかな。いい匂いするんだよ」
化粧水みたいなもんか。クレンジング……だったか。覚えてねえ。
で、そのあとに洗顔して、クリーム塗って……ああわからん。でも、保湿クリームとかあれば、化粧前の肌を保護できるかな。
成分……植物脂とか? 肌によさそうなモン混ぜて作ってみるか。
それと、俺が知ってるような美容機器も作ってみるかな。母親が昔使ってたやつとか。
◇◇◇◇◇◇
「ダメだこりゃ」
一週間後、俺は薬草やらを混ぜ、『なんちゃって保湿クリーム』を完成させた……なんかもう魔導具技師の仕事じゃねぇな。
見た目はいい。まっしろなクリームで、肌に塗るとすべすべする。
保湿効果もある。毛を剃ったラットで実験したが、特に問題はない。
だが……なんというか、本能が『やめとけ』と囁くのだ。
「…………」
だって、俺は科学者でも医者でもない。『それが存在する』って知識はあるが、保湿クリームなんて作ったことないし、作ろうなんて思ったこともない。
そんな俺が作った『保湿クリーム』が、こうして目の前にある。
「……お肌トラブルとか出るの怖いな。そういや昔、なんかそういう事件あったような」
俺は、保湿クリームのサンプルと成分表をどうするか悩み、とりあえず一階の作業室に置いておく。
そのまま事務所に戻り、いくつか作ったサンプルの魔道具を眺めている時だった。
「入るわよ」
サンドローネが入ってきた。
そのままスタスタとソファへ座り、足を組んで座る。
俺は冷蔵庫から果実水を出し、製氷機の氷をグラスに入れ、果実水を注いで出した。
「新作の出来はどう?」
「いくつか作ったけど、夏ってイメージのモンじゃねぇな」
「別にいいわ。理由はこじつけるから……で、どんな商品?」
「まずはこれ。ヘアアイロン」
俺は、トングのような形の魔道具を見せる。
ヘアアイロン。熱で髪を整えて真っすぐにする道具……髪をはさむ部分に鉄板を入れ、『温度変化』と魔導文字を入れた魔石を入れ、魔力量を調節しながら熱を発生させる魔道具だ。
「で、なにこれ」
「これで髪をはさんで熱するんだよ。寝ぐせとか真っすぐになるし、艶も出る」
「……リヒター、大至急イェランを呼んで」
「かしこまりました」
「お、おい、まさか」
「実験よ」
五分後、大あくびをしながらイェランとリヒターが来た。
「お姉様……なに? あたい貫徹で寝てない……」
「ちょうどいいわ。あなたの髪に用があるの。ゲントク、やりなさい」
寝起き、ひどい寝ぐせのイェランは、ソファに座ると寝てしまった。
俺はイェランの髪を取り、ヘアアイロンで挟んで熱を通す……すると、クセッ毛の髪が真っすぐになり、髪に艶が出た。
「すごいわね……これは画期的な商品よ!!」
「貴族女性って髪長いヒト多いからな。夏っぽいかどうか知らんけど、普段使いにいいかなーと」
最初は、開拓モノにありがちな『石鹸』や『シャンプー』を作ろうと思ったが……どっちも普通に存在する。まあ、そううまくはいかないか。
サンドローネは、ヘアアイロンを興味深げに見る。
「面白い。でも、これだけじゃ弱いわね」
「いちおう、もう一つ……こっちは俺のオリジナルだけど」
「何?」
出したのは、透明なタンクに水と薬草を入れ、蓋をした魔道具だ。
サンドローネが首を傾げる。
「なにこれ?」
「ミスト発生装置。タンクに水と薬草を入れて、蓋部分のスイッチを押して魔力を流すと……」
蓋にはプロペラが付いており、ゆっくり回転する。
そして、蓋に空いた超細かい穴から水がゆっくり吹き出し、霧となって放たれた。
「夏場に涼しいかなと。水に氷を入れればけっこう冷えるし、薬草の香りも部屋に充満して気分良くなる。入れる薬草は自由にできるし、ミストを浴びればけっこう涼しい。美容品かどうかわからんけど、薬草入りのミストを顔に浴びせて馴染ませれば、化粧水代わりになるかなと思った」
「…………」
「これと、ヘアアイロンで勝負するのはどうだ?」
「…………いい」
サンドローネは、眼を輝かせてミスト噴霧器を手に取った。
「いいわね、これ。部屋に置きたい……すごい、すごいわ」
「お、おう……気に入ったならよかった」
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「あ、ああ」
「は、はい」
俺はリヒターに仕様書を渡す。あとはイェランに任せるか。
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「へえ、そういや完成品見てないな……今度見せてくれよ」
「いいわよ。大中小と大きさが三つあるけど、どのサイズにする?」
「じゃあ中サイズで」
「わかったわ。近いうちに、冷蔵庫と合わせて持っていくから」
「あ、家の方に運んでくれ。仕事場には俺の作ったやつ置いておくから」
「それと……ヘッドライトと懐中電灯も近いうちに発売するわ。同じように製品を届けるから」
「わかった。ああ、この辺の警備をしている人たちにも送りたいんだが」
「それは商会の方でやっておくわ」
と、仕事の話を続け、いつの間にかお昼を回っていた。
サンドローネは「じゃ、またね」と出て行き、リヒターにはイェランを担いで行ってもらう。
残された俺は、窓を開けて言う。
「そういや、夏が近いんだっけ……日差し強えぇなあ。どっか海にでも行って、水着の姉ちゃん相手に一杯引っかけたいモンだぜ」
親父臭いと思うけどな……まだまだ若いつもりだけど、思考がおっさんだな俺。
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