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第一章 独身おじさん、織田玄徳

独立します!

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 さて、満を持して発売されたアレキサンドライト商会の新商品『マッチ』は、売れに売れた。
 発売前、国の『熾火屋』たちを集めて商品説明……まあ、反発された。
 でも、サンドローネの「使ってわかったでしょ? これ、すごく便利なの。それに反対するってことは、自分たちのことしか考えていないだけ」って言われてみんな押し黙った……まあ、擦れば火が付く坊と、いちいちランプ片手に熾火屋まで行って火をもらうのじゃ手間がかかりすぎる。
 そして、この一言。

「でも、私もあなたたちをイジメるつもりでこれを作ったんじゃないわ。これから熾火屋にはアレキサンドライト商会の下請けになってもらう。つまり……熾火屋は廃業。これからはマッチ専門店に看板を付け替えてもらうから」

 と、熾火屋の看板を変えてしまった。
 マッチの販売をメインに、アレキサンドライト商会の取り扱う商品も販売……つまり、フランチャイズ契約である。
 まさか、異世界でフランチャイズ契約を行う瞬間を見れるとは。
 で……昔からの頑固おやじみたいな熾火屋は反対したものの、若手の熾火屋はすぐに『契約します!』とアレキサンドライト商会と契約。
 サンドローネは、城下町で大々的にマッチを宣伝。一般人だけではなく、冒険者たちも野営で簡単に火を熾せると好評だった。
 サンドローネ曰く。

「エーデルシュタイン王家にも挨拶して、マッチを納品したわ。ふふ、王家とつながりもできたし、成り上がりへの足掛かりになったわ」

 すげえな……成り上がることしか考えてない。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 さて、マッチ販売開始から半年経過。
 もはや各家庭、冒険者にとって必需品となった『マッチ』は、アレキサンドライト商会のメイン産業となった。
 まあ、廃れることないよな、火って毎日使うモンだし。
 で……俺はマッチの改良などをしながら、サンドローネにこの世界の仕組み、商売の方法などを教えてもらった。
 
 いい暮らし、独身生活を謳歌するために大事なのは知識。
 この世界にある魔道具技術、素材、使えそうな法則などを学び、俺は地球にある電化製品などを再現できないか考える。
 アイデアは全部、ノートにまとめている。
 俺がまとめたノートは全部、日本語で書かれている。以前、サンドローネがノートを見せろと言って見せたら、「暗号使うなんて生意気ね」と言われた……ああ、俺はこっちの世界の字も読めるけど、サンドローネたち異世界人は日本語読めないんだなあとわかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 そして、異世界に転移してちょうど一年。
 アレキサンドライト商会が、マッチ販売を始めて一年、王都の全商会で売り上げナンバーワンに輝き、アレキサンドライト商会の名は益々有名になった。
 商会長がグラマラス美人のサンドローネでもあることから、男性人気も増えたようだ。
 そして今日、俺は商会を出る。

「世話になったな、サンドローネ」
「……言っておくけど、あなたが個人商会を建てても、商品の卸先はウチだし、新商品を開発したら真っ先に持ってくるのよ」
「わーってるよ」

 俺は個人商会を設立する。
 商売のノウハウはわかったし、この一年で金もけっこう貯めた。まあ……雇われの窮屈さのせいなのか、マッチ以降の新製品はまったく作れなかったけどな。

「これから、そこそこの店舗を買って、そこで製品開発しながらのんびり過ごすことにするよ」
「はいはい。で……どこにお店構えるとか決めたの?」
「いんや、まだなんにも。まあ……店っていうか、商品開発の場所だな。工務店って言葉この世界にないし、商会とは名乗らせてもらうけどよ」
「ふぅん……従業員とかも考えないとね」
「別にいらねぇけどな」
「とにかく。あまり辺鄙なところではやらないでね。ちゃんと商業ギルド紹介の場所にすること……リヒター、店舗買うまでは補佐についてあげなさい」
「はい、お嬢」
「いや、いらねぇけど……」
「ダメ」

 あっさり断られた。
 リヒターは苦笑。サンドローネは俺に指を突きつける。

「家を買った時だって、あなた騙されかけたんだからね?」

 家……そう、俺は家を買った。
 貴族街の隅っこにある小さな二階建ての庭付き。貴族街とは言うけど、町の富豪とかけっこう住んでる区画で、近くには飲食店街もあるいいところだ。
 
「スラム街の中にある豪邸を買いかけたあなたに拒否権はないから」
「わ、わかったよ……スラム街とか別にいいんだけどな。俺、けっこう強いし」
「何か言った?」
「い、いえ……」

 ま、まあいい。家は独身生活で最も大事なところだし。
 さて、そろそろか。
 俺は荷物を担ぎ、慣れ親しんだ倉庫街、アレキサンドライト商会の倉庫を後にした。

「じゃあな、いろいろ決まったら連絡するわ」
「ええ。ゲントク……あなたの新商品、楽しみにしているから」

 俺は手を振り、まずは自宅に向かって歩き出した。
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