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暗雲
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シアンの町で過ごすこと数日。
俺とヒジリの冒険者等級はD級になり、討伐依頼も少しずつ受けられるようになった。
冒険にはヴェンがくっついてくることもあり、けっこう仲良くやれていると思う。
今日もゴブリン退治を終え、3人でシアンの町に戻ってきた。
「あたし、明日から数日は手伝えないから」
「そうなのか?」
「うん。パパとラーズが新しい仕事を見つけたの。このシアンの警備だって」
「警備……そういう仕事は兵士がやるものでは?」
ヒジリの質問にヴェンは苦笑する。
どうやら、裏がありそうだ。
「パパ、けっこう強引にお願いしたみたい。兵士さんたちに休暇をあげて、その間は自分たちが町を守るーとか言っちゃってさ……依頼料もけっこう高くしてもらったみたい」
「さすがバニッシュさんだな!!」
「……主、なぜ興奮しているのでしょう」
というわけで、明日の依頼はヴェン抜きだ。
いつまでもヴェンに頼っていられないし、ヒジリと二人で頑張ろう。
この町でもけっこうお金を稼げたし、そろそろ次の町を目指して旅に出るのも悪くない。
「じゃ、またね! パパとお仕事のお話しなくっちゃ!」
「ああ、またな」
「お疲れ様です。ヴェン」
ヴェンは走り去った。
俺とヒジリも宿に戻り、装備の点検をして宿屋の食堂へ。
いつも頼んでいる日替わり定食を頼む。すっかりここの食事にも慣れた。
「なぁ、そろそろ次の町を目指していくか?」
「確かに、この町で仕事を請け負って数日……冒険者等級も上がりましたし、頃合いかと」
「だなぁ……ヴェンがずっと手伝ってくれたからってのもあるけど」
「確かに、彼女はいい前衛になるでしょう」
ヴェンの武器はショートソード。
ヒジリほどの強さはないが、ヒジリ曰く「光るセンス」があるらしい。経験を積めば立派な戦士になれるかも、とのことだ。
それから間もなくして料理が運ばれてきた。日替わり定食、今日は魚だった。
さっそく食事を始める……美味いな、魚。
「とりあえず、何日か仕事してから次の町に行くか。ヴェンや傭兵団の皆さんともお別れしたいし……」
「はい……ヴェンが仲間になってくれたらありがたいのですが」
「んー……無理だろ。ヴェンは傭兵団の皆さんと一緒なのが当たり前だし、炭鉱の夢もある」
「…………はい」
ヒジリは、少し悲し気に微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
俺とヒジリは冒険者ギルドで依頼を受け、町の外へ出た。
依頼内容は、山道を荒らすワイルドボアの討伐。でかいイノシシの魔獣で、俺とヒジリならたぶん楽勝だろう。
シアンの町に来た時とは別の山道へ向かい、ワイルドボアを狩る準備をした。
撒き餌を使い、この辺りに出るワイルドボアを呼び寄せる。
俺とヒジリは樹の上に登り、ひたすら待つ。
「……主」
「ん?」
「この依頼が終わったら、ヴェンに挨拶しに行きましょう」
「ああ。俺もバニッシュさんたちに挨拶したいからな」
「はい……」
もうすぐ、ヴェンや傭兵団の皆さんとはお別れだ。
出会いがあるから別れがある。たぶん、これからもあるだろう。
いろんな人と出会い、絆を育んで別れる……悲しいが、永遠の別れじゃない。
バニッシュさんたちは炭鉱夫になる。いつかきっと、どこかで出会えるだろう。
「そうだ。今日の依頼が終わったら、報酬で酒でも買うか。またみんなで飲み会しようぜ」
「はい。それがいいですね」
「よーし。じゃあ……さっさと終わらせるか」
「……はい」
俺の『鷹の目』は、こちらに向かってくるワイルドボアを補足していた。
◇◇◇◇◇◇
シアンの町。
現在、この町の門兵から警備は、『赤蛇傭兵団』が担っている。
もともとの正規兵がいたが、町長の命令で休暇となった。もちろん給料はちゃんと支払われての休暇である……なぜか町長は泣いていたそうだが、理由は不明だ。
赤蛇傭兵団のアジトでは、バニッシュとラーズが酒を飲んでいた。
「いやぁ~……最後の最後でいい仕事ができたぜ」
「……団長、あまり町長を泣かさないでくれよ」
「いいじゃねぇか。あいつとは長い付き合いなんだ。正規兵に給料渡して、オレらが町の護衛を代わりにやるって言っただけだぜ?」
「……もうオレは何も言わないよ。それより、ヴェンのことだけど……」
「ああ~……あいつ、ダチができて興奮してやがるなぁ」
ヒジリのことだ。
冒険者ライセンスは資格があった方がいいというだけで取得したのだが、最近のヴェンは毎日冒険者ギルドで依頼を受けている。
報酬も入るので特に気にしていなかったが、ヴェンと話しているとセイヤとヒジリのことばかり話す。
バニッシュはグラスを一気に煽る。
「冒険者ねぇ……」
「団長」
「わかってる。でもよ……ヴェンの人生だ。あいつを拾って育てたが、あいつなりに好きなように生きてほしい」
「…………」
「ラーズ。この依頼が終われば、バルバトス帝国外れの鉱山を買う金が貯まる。アジトを全部売っぱらって、鉱山近くにデカい会社立てて、仲間全員で会社やるのも悪くねぇ……傭兵時代の人脈もあるし、ハズレることはねぇはずだ」
「……そうだね」
「オレが総責任者、おめーが監督、ヴェンが経理……んで、おめーとヴェンがくっついてガキ作って、オレは引退して縁側で孫抱いて茶ぁ啜って隠居……って考えてたんだけどよ」
「お、オレとヴェンがくっつくって……」
「おめーなら任せてもいい、そう思ってんだ」
「…………」
ラーズは、酒を一気に煽る。
バニッシュが瓶を持ち、ラーズに向ける。
「ヴェンもおめーなら嫌がらねぇだろうさ。ま、本人の同意次第ってとこだな」
「……お、オレは」
「へへ、まだヴェンは15だけどよ、いい身体に仕上がってるだろ? いっぱい食わせて鍛えまくったからな!」
「お、親父のくせにどんな目で娘を見てんだよ!」
「かっかっか、いいじゃねぇか」
赤くなるラーズをからかうバニッシュ。
バニッシュは自分のグラスに酒を注ごうとして───。
「お、親父!! ちょっと来てくれ!!」
「あん?」
「せ、聖女……聖女が、聖女がいっぱい来た!!」
「……聖女だぁ?」
傭兵の仲間が、そんなことを言いに来た。
なぜか、嫌な予感がした。
酒瓶を置き、口を拭う。
ラーズも立ち上がり、外へ出るとヴェンがいた。
「パパ、聖女様がいっぱい来てる」
「聞いた。で、どこだ?」
「村の入口……なんだか、怖い」
「……行くぞ、ラーズ。ヴェンはここで待ってろ」
「あ、パパ!」
バニッシュとラーズは、武器を持って町の入口へ。
すると、門兵の傭兵たちと巡回の傭兵が集まっていた。
バニッシュを見るなり道を開け、バニッシュはようやく聖女たちの姿を見た。
「ここに『神の子』がいるはずだ。出せ」
威圧的な態度の女性だった。
腰に剣を差し、挨拶もせずにバニッシュに言う。
それが『夜刀ノ神』ミカボシだとは知らず、バニッシュは前に出る。
「えー、カミノコ? そんな名前の奴は知りませんね。それと聖女様、ここはバルバトス帝国……あなた方の上から目線が通じる場所じゃないんで、頼み方ってのがあるんじゃないでしょうか?」
「……もう一度言う。神の子を出せ」
「ですから、そんな奴知りませんって。カミノコ? カミノコさん?」
『神の子』なのだが、バニッシュは『筍』と同じ発音で返した。
ミカボシの背後にいる聖女は十人ほどで、バニッシュの言い方に顔を歪める。
だが、ミカボシは言う。
「名前はセイヤ。そいつは我らアレクサンドロス聖女王国にとって重要人物……知っている事があるなら吐け」
「ですから、その上から目線やめてくれませんかね。アレクサンドロス聖女王国ならともかく、このバルバトス帝国じゃ聖女の言葉は絶対じゃ───」
次の瞬間、バニッシュの右腕が肩から綺麗に切断された。
「───あ?」
「計画変更。歯向かう者を始末しろ。こいつはどうやら知っているようだ」
カチンと、ミカボシは納刀した。
剣を抜き、バニッシュの腕を切断し、納刀。
半秒もかかっていない。そして……バニッシュの肩から血が噴き出した。
「ぐ、おぉぉぉぉぉーーーーーーッ!?」
「だ……団長ッ!? な、お前らっ!!」
ラーズが叫び、傭兵たちが武器を構える。
同時に、傭兵たちが吹っ飛んだ。
「ギャァァァァァァーーーーーーッ!?」
「うげっ!?」「がっは!?」「ぐおっ!?」
ミカボシの部下たちが、傭兵たちに魔法を浴びせたのだ。
ある者は爆散し、ある者は縦に切断され、ある者はドロドロに溶ける。
バニッシュを支えるラーズに、ミカボシの剣が突き付けられた。
「セイヤはどこだ?」
「な、なんで、こんな……」
「奴は、聖女にとって究極の存在……そんなことより、どこだ? 吐け」
「…………わ、わかったよ」
ミカボシの目が異常なまでに光っていた。
ラーズは、死なないためにも答えるしかない。仲間が殺されていくのを、見ているわけにはいかない。
「せ、セイヤは「待ちな、ラーズ……」……団長」
バニッシュは、肩を押さえながら言う。
真っ青で、血を流しすぎたのか呼吸が荒い。
「仲間、売るんじゃねぇよ……そりゃ、傭兵としちゃ最悪だぜ?」
「で、でも……」
「ばぁか。いいか、仲間を売る奴は、最低だって、言ったじゃ、ねぇか……」
「だ、団長……」
ラーズの目が泳ぐ。
どうしていいか、悩んでいる。
バニッシュは、ミカボシを睨む。決して屈しないという光が、そこにはあった。
「───パパ?」
「な……ヴぇ、ヴェン!? こっち来るな!!」
「娘か……」
ミカボシの剣が、ヴェンに向いた。
「これが最後だ。セイヤはどこだ?」
「……っ!! ヴェン、逃げ」
バニッシュが叫ぶと同時に、ミカボシの剣が振られ───真っ赤な鮮血が飛び散った。
「が、は……っ」
「え……ら、ラー……ず?」
「ヴぇ、ヴぇん……無事で、よかっ……」
ヴェンをかばったラーズが、真っ赤に染まって崩れ落ちた。
未だに状況を理解していないヴェンは、その場に崩れ落ちる。
「仲間が全て死ぬぞ。それに、娘もな」
「……っ!!」
傭兵団は、殆ど全滅していた。
バニッシュは歯を食いしばり、仲間たちを、ラーズを、ヴェンを見た。
「ち、くしょう……セイヤは、セイヤは……ここにはいねぇよ!!」
「ほう……」
「あいつは、冒険者だ……」
「もうわかった」
「え───」
次の瞬間、バニッシュの頭に剣が突き刺さった。
バニッシュの目から光が消えた。
ミカボシは剣を収め、聖女たちに言う。
「冒険者ギルドだ。奴は依頼を受けて───」
次の瞬間───ミカボシはパッとこめかみに手を差し出して握る。
ミカボシのこめかみを狙って飛んできた何かを掴んだ。
「……ほう、面白い」
それは、矢だった。
どこからか、ミカボシを狙って矢が飛んできた。
それは、戦いの合図でもあった。
「……出番が近いぞ」
「はいは~い♪」
そして、どこからともなくジョカが現れた。
舌なめずりをして、目をギョロギョロさせている。
こうして、戦いが始まった。
俺とヒジリの冒険者等級はD級になり、討伐依頼も少しずつ受けられるようになった。
冒険にはヴェンがくっついてくることもあり、けっこう仲良くやれていると思う。
今日もゴブリン退治を終え、3人でシアンの町に戻ってきた。
「あたし、明日から数日は手伝えないから」
「そうなのか?」
「うん。パパとラーズが新しい仕事を見つけたの。このシアンの警備だって」
「警備……そういう仕事は兵士がやるものでは?」
ヒジリの質問にヴェンは苦笑する。
どうやら、裏がありそうだ。
「パパ、けっこう強引にお願いしたみたい。兵士さんたちに休暇をあげて、その間は自分たちが町を守るーとか言っちゃってさ……依頼料もけっこう高くしてもらったみたい」
「さすがバニッシュさんだな!!」
「……主、なぜ興奮しているのでしょう」
というわけで、明日の依頼はヴェン抜きだ。
いつまでもヴェンに頼っていられないし、ヒジリと二人で頑張ろう。
この町でもけっこうお金を稼げたし、そろそろ次の町を目指して旅に出るのも悪くない。
「じゃ、またね! パパとお仕事のお話しなくっちゃ!」
「ああ、またな」
「お疲れ様です。ヴェン」
ヴェンは走り去った。
俺とヒジリも宿に戻り、装備の点検をして宿屋の食堂へ。
いつも頼んでいる日替わり定食を頼む。すっかりここの食事にも慣れた。
「なぁ、そろそろ次の町を目指していくか?」
「確かに、この町で仕事を請け負って数日……冒険者等級も上がりましたし、頃合いかと」
「だなぁ……ヴェンがずっと手伝ってくれたからってのもあるけど」
「確かに、彼女はいい前衛になるでしょう」
ヴェンの武器はショートソード。
ヒジリほどの強さはないが、ヒジリ曰く「光るセンス」があるらしい。経験を積めば立派な戦士になれるかも、とのことだ。
それから間もなくして料理が運ばれてきた。日替わり定食、今日は魚だった。
さっそく食事を始める……美味いな、魚。
「とりあえず、何日か仕事してから次の町に行くか。ヴェンや傭兵団の皆さんともお別れしたいし……」
「はい……ヴェンが仲間になってくれたらありがたいのですが」
「んー……無理だろ。ヴェンは傭兵団の皆さんと一緒なのが当たり前だし、炭鉱の夢もある」
「…………はい」
ヒジリは、少し悲し気に微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
俺とヒジリは冒険者ギルドで依頼を受け、町の外へ出た。
依頼内容は、山道を荒らすワイルドボアの討伐。でかいイノシシの魔獣で、俺とヒジリならたぶん楽勝だろう。
シアンの町に来た時とは別の山道へ向かい、ワイルドボアを狩る準備をした。
撒き餌を使い、この辺りに出るワイルドボアを呼び寄せる。
俺とヒジリは樹の上に登り、ひたすら待つ。
「……主」
「ん?」
「この依頼が終わったら、ヴェンに挨拶しに行きましょう」
「ああ。俺もバニッシュさんたちに挨拶したいからな」
「はい……」
もうすぐ、ヴェンや傭兵団の皆さんとはお別れだ。
出会いがあるから別れがある。たぶん、これからもあるだろう。
いろんな人と出会い、絆を育んで別れる……悲しいが、永遠の別れじゃない。
バニッシュさんたちは炭鉱夫になる。いつかきっと、どこかで出会えるだろう。
「そうだ。今日の依頼が終わったら、報酬で酒でも買うか。またみんなで飲み会しようぜ」
「はい。それがいいですね」
「よーし。じゃあ……さっさと終わらせるか」
「……はい」
俺の『鷹の目』は、こちらに向かってくるワイルドボアを補足していた。
◇◇◇◇◇◇
シアンの町。
現在、この町の門兵から警備は、『赤蛇傭兵団』が担っている。
もともとの正規兵がいたが、町長の命令で休暇となった。もちろん給料はちゃんと支払われての休暇である……なぜか町長は泣いていたそうだが、理由は不明だ。
赤蛇傭兵団のアジトでは、バニッシュとラーズが酒を飲んでいた。
「いやぁ~……最後の最後でいい仕事ができたぜ」
「……団長、あまり町長を泣かさないでくれよ」
「いいじゃねぇか。あいつとは長い付き合いなんだ。正規兵に給料渡して、オレらが町の護衛を代わりにやるって言っただけだぜ?」
「……もうオレは何も言わないよ。それより、ヴェンのことだけど……」
「ああ~……あいつ、ダチができて興奮してやがるなぁ」
ヒジリのことだ。
冒険者ライセンスは資格があった方がいいというだけで取得したのだが、最近のヴェンは毎日冒険者ギルドで依頼を受けている。
報酬も入るので特に気にしていなかったが、ヴェンと話しているとセイヤとヒジリのことばかり話す。
バニッシュはグラスを一気に煽る。
「冒険者ねぇ……」
「団長」
「わかってる。でもよ……ヴェンの人生だ。あいつを拾って育てたが、あいつなりに好きなように生きてほしい」
「…………」
「ラーズ。この依頼が終われば、バルバトス帝国外れの鉱山を買う金が貯まる。アジトを全部売っぱらって、鉱山近くにデカい会社立てて、仲間全員で会社やるのも悪くねぇ……傭兵時代の人脈もあるし、ハズレることはねぇはずだ」
「……そうだね」
「オレが総責任者、おめーが監督、ヴェンが経理……んで、おめーとヴェンがくっついてガキ作って、オレは引退して縁側で孫抱いて茶ぁ啜って隠居……って考えてたんだけどよ」
「お、オレとヴェンがくっつくって……」
「おめーなら任せてもいい、そう思ってんだ」
「…………」
ラーズは、酒を一気に煽る。
バニッシュが瓶を持ち、ラーズに向ける。
「ヴェンもおめーなら嫌がらねぇだろうさ。ま、本人の同意次第ってとこだな」
「……お、オレは」
「へへ、まだヴェンは15だけどよ、いい身体に仕上がってるだろ? いっぱい食わせて鍛えまくったからな!」
「お、親父のくせにどんな目で娘を見てんだよ!」
「かっかっか、いいじゃねぇか」
赤くなるラーズをからかうバニッシュ。
バニッシュは自分のグラスに酒を注ごうとして───。
「お、親父!! ちょっと来てくれ!!」
「あん?」
「せ、聖女……聖女が、聖女がいっぱい来た!!」
「……聖女だぁ?」
傭兵の仲間が、そんなことを言いに来た。
なぜか、嫌な予感がした。
酒瓶を置き、口を拭う。
ラーズも立ち上がり、外へ出るとヴェンがいた。
「パパ、聖女様がいっぱい来てる」
「聞いた。で、どこだ?」
「村の入口……なんだか、怖い」
「……行くぞ、ラーズ。ヴェンはここで待ってろ」
「あ、パパ!」
バニッシュとラーズは、武器を持って町の入口へ。
すると、門兵の傭兵たちと巡回の傭兵が集まっていた。
バニッシュを見るなり道を開け、バニッシュはようやく聖女たちの姿を見た。
「ここに『神の子』がいるはずだ。出せ」
威圧的な態度の女性だった。
腰に剣を差し、挨拶もせずにバニッシュに言う。
それが『夜刀ノ神』ミカボシだとは知らず、バニッシュは前に出る。
「えー、カミノコ? そんな名前の奴は知りませんね。それと聖女様、ここはバルバトス帝国……あなた方の上から目線が通じる場所じゃないんで、頼み方ってのがあるんじゃないでしょうか?」
「……もう一度言う。神の子を出せ」
「ですから、そんな奴知りませんって。カミノコ? カミノコさん?」
『神の子』なのだが、バニッシュは『筍』と同じ発音で返した。
ミカボシの背後にいる聖女は十人ほどで、バニッシュの言い方に顔を歪める。
だが、ミカボシは言う。
「名前はセイヤ。そいつは我らアレクサンドロス聖女王国にとって重要人物……知っている事があるなら吐け」
「ですから、その上から目線やめてくれませんかね。アレクサンドロス聖女王国ならともかく、このバルバトス帝国じゃ聖女の言葉は絶対じゃ───」
次の瞬間、バニッシュの右腕が肩から綺麗に切断された。
「───あ?」
「計画変更。歯向かう者を始末しろ。こいつはどうやら知っているようだ」
カチンと、ミカボシは納刀した。
剣を抜き、バニッシュの腕を切断し、納刀。
半秒もかかっていない。そして……バニッシュの肩から血が噴き出した。
「ぐ、おぉぉぉぉぉーーーーーーッ!?」
「だ……団長ッ!? な、お前らっ!!」
ラーズが叫び、傭兵たちが武器を構える。
同時に、傭兵たちが吹っ飛んだ。
「ギャァァァァァァーーーーーーッ!?」
「うげっ!?」「がっは!?」「ぐおっ!?」
ミカボシの部下たちが、傭兵たちに魔法を浴びせたのだ。
ある者は爆散し、ある者は縦に切断され、ある者はドロドロに溶ける。
バニッシュを支えるラーズに、ミカボシの剣が突き付けられた。
「セイヤはどこだ?」
「な、なんで、こんな……」
「奴は、聖女にとって究極の存在……そんなことより、どこだ? 吐け」
「…………わ、わかったよ」
ミカボシの目が異常なまでに光っていた。
ラーズは、死なないためにも答えるしかない。仲間が殺されていくのを、見ているわけにはいかない。
「せ、セイヤは「待ちな、ラーズ……」……団長」
バニッシュは、肩を押さえながら言う。
真っ青で、血を流しすぎたのか呼吸が荒い。
「仲間、売るんじゃねぇよ……そりゃ、傭兵としちゃ最悪だぜ?」
「で、でも……」
「ばぁか。いいか、仲間を売る奴は、最低だって、言ったじゃ、ねぇか……」
「だ、団長……」
ラーズの目が泳ぐ。
どうしていいか、悩んでいる。
バニッシュは、ミカボシを睨む。決して屈しないという光が、そこにはあった。
「───パパ?」
「な……ヴぇ、ヴェン!? こっち来るな!!」
「娘か……」
ミカボシの剣が、ヴェンに向いた。
「これが最後だ。セイヤはどこだ?」
「……っ!! ヴェン、逃げ」
バニッシュが叫ぶと同時に、ミカボシの剣が振られ───真っ赤な鮮血が飛び散った。
「が、は……っ」
「え……ら、ラー……ず?」
「ヴぇ、ヴぇん……無事で、よかっ……」
ヴェンをかばったラーズが、真っ赤に染まって崩れ落ちた。
未だに状況を理解していないヴェンは、その場に崩れ落ちる。
「仲間が全て死ぬぞ。それに、娘もな」
「……っ!!」
傭兵団は、殆ど全滅していた。
バニッシュは歯を食いしばり、仲間たちを、ラーズを、ヴェンを見た。
「ち、くしょう……セイヤは、セイヤは……ここにはいねぇよ!!」
「ほう……」
「あいつは、冒険者だ……」
「もうわかった」
「え───」
次の瞬間、バニッシュの頭に剣が突き刺さった。
バニッシュの目から光が消えた。
ミカボシは剣を収め、聖女たちに言う。
「冒険者ギルドだ。奴は依頼を受けて───」
次の瞬間───ミカボシはパッとこめかみに手を差し出して握る。
ミカボシのこめかみを狙って飛んできた何かを掴んだ。
「……ほう、面白い」
それは、矢だった。
どこからか、ミカボシを狙って矢が飛んできた。
それは、戦いの合図でもあった。
「……出番が近いぞ」
「はいは~い♪」
そして、どこからともなくジョカが現れた。
舌なめずりをして、目をギョロギョロさせている。
こうして、戦いが始まった。
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そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
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