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聖女の末路
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セイヤたちに敗北したエクレールたちは、アスタルテにやられて目を覚ました聖女たちに回収され、聖女村へ戻って治療を受けた。
だが、いろいろな不運が重なり、全快とはいかなかった。
まず、『治癒』と『快癒』の聖女が不在だった。
聖女村の医師でもある二人は村に常駐する決まりだった。だが、セイヤを連れ戻せば莫大な報酬が手に入るという話を聞いて村を出ていたのだ。
二人が戻る頃には、エクレールたちの傷は手遅れ状態だった。
まず、アストラル。
「…………うひっ」
アストラルは、脳に深刻なダメージを負い、首から下が全く動かなくなった。
感覚も消失し、生ける屍状態でベッドに横になっている。
大好きな薬物実験どころか、食事もトイレも動くことも、自分一人ではできなくなった。
ベッドに寝転んだまま、虚ろな表情で天井を見つめる毎日が始まった。
◇◇◇◇◇◇
そして、フローズン。
全身包帯まみれで高熱にうなされ、息苦しさと傷の焼けるような熱さで苦しんでいた。
治療で傷はふさがったが……『治癒』の魔法をかけるのが遅かったせいで、全身にヒジリの爪による傷跡が残された。
それだけじゃない。ヒジリの与えた傷は、身体だけじゃない。
全身を切り刻むという恐怖は、フローズンの心をも壊した。
「ひっ……きゃぁぁぁぁっ!! はぁ、はぁ、はぁ───」
夜。
フローズンは、目を閉じるとヒジリの顔が浮かぶようになり……慢性的な睡眠不足に悩まされた。
両手から爪を生やし、フローズンの身体を楽しそうに刻むヒジリが、瞼の裏に焼き付き、全身に刻まれた傷跡をこれでもかと焼くのだ。
魔法で全身を氷漬けにしても消えない熱さに、フローズンは死ぬまで悩まされることになる。
◇◇◇◇◇◇
ウィンダミアは、『治癒』の魔法で回復した。
全身の粉砕骨折は治り、セイヤに復讐すべく魔法と格闘のトレーニングができるまでに回復した。
アストラルとフローズンが再起不能と知り、自分がやらねばと聖女村でトレーニングを始めるのだが……。
ある日、ウィンダミアは家の裏でサンドバッグを叩いていた。
「シッシッ、シシッ!! シシッ!!」
パンパンパパン!! パパパン!!
リズムが揃ったジャブでサンドバッグを叩く姿がそこにあった。
様子を見に来た村の聖女は、サンドバッグを叩くウィンダミアを見て安心する。
セイヤに敗北したダメージはもうないだろう。
そう思い、ウィンダミアの背後から近づく。
「ウィンダミ───」
「っひぃっ!?───っ、はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ……」
「え……」
ウィンダミアの顔は恐怖で引きつり、ガタガタ震え出した。
そっと手を伸ばしていた聖女は悟った。
「な、なんだよ……お、おお、驚かすんじゃ、ねぇよ……」
「…………」
彼女は、心が壊されていた。
ウィンダミアは、セイヤと戦った日を最後に……二度と前線で戦うことはなかった。
◇◇◇◇◇◇
クリシュナは、右腕を肩から失った。同時に……ヒジリの恐怖が心に刻まれた。
過去。『鬼夜叉』と戦ったことを思い出す。
最強の聖女を殺すために雇われた『鬼夜叉』だった。敵のオーガとの戦いは互角で、互いに一歩も引かず血濡れで戦った。
そんな中、敵の『鬼夜叉』が、命と引き換えの禁忌『鬼鳴』を発動……形勢は一気に逆転、クリシュナは殺されかけた……が、敵の『鬼夜叉』の寿命が尽き、クリシュナは命からがら逃げかえった。
それくらい、『鬼夜叉』は強い。
それ以上に、ヒジリがあまりにも異端だった。クリシュナの知るオーガよりも強く、『再生』の能力を併用すれば間違いなく無敵だった。
クリシュナは、自分の家で頭を抱える。
「…………無理だ」
『聖女任命』で好きなだけ聖女を生み出せるセイヤ。
その護衛、『再生』の聖女であり『鬼夜叉』のヒジリ。
勝てる気がしなかった。
クリシュナは一本しかない手で頭を抱え……セイヤを諦める決意をした。
◇◇◇◇◇◇
きぃこ、きぃこ……金属が擦れる音がした。
それは、車椅子の車輪が回る音だった。
車椅子に乗るのは、両足を失った聖女オージェ。エクレールの母だ。
「…………エクレール」
「ん……」
エクレールは、両腕を失った。
食事も入浴もトイレも、もう一人ではできない。
それ以上に、ずっと虐め続けてきたセイヤに両腕を落とされたことがショックだった。
エクレールにとってセイヤは幼馴染であり、道具だった。
聖女の魔法の実験台で、話し相手で、道具。
一生、自分の命令を聞いていればいい。エクレールの子供が生まれたらその子もセイヤを使えばいい。死ぬまで使える道具、それがセイヤだ。
そんなセイヤが、エクレールの両腕を落とした。
冷たい目で睨まれた。
そして、気付いた……もしセイヤに関われば、両腕だけでは済まない。
「……ひっ」
エクレールは、ようやく理解した。
セイヤは道具なんかじゃない。今まで積み重ねてきた恨みが殺意となり自分に襲い掛かった結果が、幼馴染たちの末路だ。
アストラルは全身麻痺。フローズンは精神を病み、ウィンダミアは心が死んだ。
母も、クリシュナも、セイヤを諦めた。
「セイヤ……」
エクレールは、ぶるりと震えた。
そっと窓の外を見ると……どこからともなく、矢が飛んでくるような気がした。
「はぁ、はぁ、はぁはぁはぁ……」
窓を閉めようにも、腕がない。
エクレールは、『空いている窓』に恐怖を感じるようになった。
家に閉じこもり、母と祖母と三人で……セイヤに怯えながら暮らす日々が始まった。
だが、いろいろな不運が重なり、全快とはいかなかった。
まず、『治癒』と『快癒』の聖女が不在だった。
聖女村の医師でもある二人は村に常駐する決まりだった。だが、セイヤを連れ戻せば莫大な報酬が手に入るという話を聞いて村を出ていたのだ。
二人が戻る頃には、エクレールたちの傷は手遅れ状態だった。
まず、アストラル。
「…………うひっ」
アストラルは、脳に深刻なダメージを負い、首から下が全く動かなくなった。
感覚も消失し、生ける屍状態でベッドに横になっている。
大好きな薬物実験どころか、食事もトイレも動くことも、自分一人ではできなくなった。
ベッドに寝転んだまま、虚ろな表情で天井を見つめる毎日が始まった。
◇◇◇◇◇◇
そして、フローズン。
全身包帯まみれで高熱にうなされ、息苦しさと傷の焼けるような熱さで苦しんでいた。
治療で傷はふさがったが……『治癒』の魔法をかけるのが遅かったせいで、全身にヒジリの爪による傷跡が残された。
それだけじゃない。ヒジリの与えた傷は、身体だけじゃない。
全身を切り刻むという恐怖は、フローズンの心をも壊した。
「ひっ……きゃぁぁぁぁっ!! はぁ、はぁ、はぁ───」
夜。
フローズンは、目を閉じるとヒジリの顔が浮かぶようになり……慢性的な睡眠不足に悩まされた。
両手から爪を生やし、フローズンの身体を楽しそうに刻むヒジリが、瞼の裏に焼き付き、全身に刻まれた傷跡をこれでもかと焼くのだ。
魔法で全身を氷漬けにしても消えない熱さに、フローズンは死ぬまで悩まされることになる。
◇◇◇◇◇◇
ウィンダミアは、『治癒』の魔法で回復した。
全身の粉砕骨折は治り、セイヤに復讐すべく魔法と格闘のトレーニングができるまでに回復した。
アストラルとフローズンが再起不能と知り、自分がやらねばと聖女村でトレーニングを始めるのだが……。
ある日、ウィンダミアは家の裏でサンドバッグを叩いていた。
「シッシッ、シシッ!! シシッ!!」
パンパンパパン!! パパパン!!
リズムが揃ったジャブでサンドバッグを叩く姿がそこにあった。
様子を見に来た村の聖女は、サンドバッグを叩くウィンダミアを見て安心する。
セイヤに敗北したダメージはもうないだろう。
そう思い、ウィンダミアの背後から近づく。
「ウィンダミ───」
「っひぃっ!?───っ、はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ……」
「え……」
ウィンダミアの顔は恐怖で引きつり、ガタガタ震え出した。
そっと手を伸ばしていた聖女は悟った。
「な、なんだよ……お、おお、驚かすんじゃ、ねぇよ……」
「…………」
彼女は、心が壊されていた。
ウィンダミアは、セイヤと戦った日を最後に……二度と前線で戦うことはなかった。
◇◇◇◇◇◇
クリシュナは、右腕を肩から失った。同時に……ヒジリの恐怖が心に刻まれた。
過去。『鬼夜叉』と戦ったことを思い出す。
最強の聖女を殺すために雇われた『鬼夜叉』だった。敵のオーガとの戦いは互角で、互いに一歩も引かず血濡れで戦った。
そんな中、敵の『鬼夜叉』が、命と引き換えの禁忌『鬼鳴』を発動……形勢は一気に逆転、クリシュナは殺されかけた……が、敵の『鬼夜叉』の寿命が尽き、クリシュナは命からがら逃げかえった。
それくらい、『鬼夜叉』は強い。
それ以上に、ヒジリがあまりにも異端だった。クリシュナの知るオーガよりも強く、『再生』の能力を併用すれば間違いなく無敵だった。
クリシュナは、自分の家で頭を抱える。
「…………無理だ」
『聖女任命』で好きなだけ聖女を生み出せるセイヤ。
その護衛、『再生』の聖女であり『鬼夜叉』のヒジリ。
勝てる気がしなかった。
クリシュナは一本しかない手で頭を抱え……セイヤを諦める決意をした。
◇◇◇◇◇◇
きぃこ、きぃこ……金属が擦れる音がした。
それは、車椅子の車輪が回る音だった。
車椅子に乗るのは、両足を失った聖女オージェ。エクレールの母だ。
「…………エクレール」
「ん……」
エクレールは、両腕を失った。
食事も入浴もトイレも、もう一人ではできない。
それ以上に、ずっと虐め続けてきたセイヤに両腕を落とされたことがショックだった。
エクレールにとってセイヤは幼馴染であり、道具だった。
聖女の魔法の実験台で、話し相手で、道具。
一生、自分の命令を聞いていればいい。エクレールの子供が生まれたらその子もセイヤを使えばいい。死ぬまで使える道具、それがセイヤだ。
そんなセイヤが、エクレールの両腕を落とした。
冷たい目で睨まれた。
そして、気付いた……もしセイヤに関われば、両腕だけでは済まない。
「……ひっ」
エクレールは、ようやく理解した。
セイヤは道具なんかじゃない。今まで積み重ねてきた恨みが殺意となり自分に襲い掛かった結果が、幼馴染たちの末路だ。
アストラルは全身麻痺。フローズンは精神を病み、ウィンダミアは心が死んだ。
母も、クリシュナも、セイヤを諦めた。
「セイヤ……」
エクレールは、ぶるりと震えた。
そっと窓の外を見ると……どこからともなく、矢が飛んでくるような気がした。
「はぁ、はぁ、はぁはぁはぁ……」
窓を閉めようにも、腕がない。
エクレールは、『空いている窓』に恐怖を感じるようになった。
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