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第147話・もう二度と、舐めたりしない

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「…………」
「負けましたね。レイジ」
「ッ!!」

 レイジは、ファーレン王城にある女神フリアエの間で唇を噛んでいた。
 そう、勇者レイジは敗北。聖剣勇者の一人アルシェを失ったのだ。しかも、ここまで逃げれたのはアルシェが命を賭けたおかげ。もしアルシェがいなかったら……。

「もしアルシェがいなかったら、間違いなく全滅していたでしょうね」

 女神フリアエの言葉がレイジに刺さる。
 現在、このフリアエの間にはレイジとフリアエしかいない。リリカはふらりとどこかへ消え、アンジェラは精神的ショックで寝込んでしまった。
 レイジは、フリアエに呼ばれてこの部屋に来た。
 間違いなく罰を受けると思ったのだが、フリアエはレイジを責めず、優しい声色で事実の確認をするだけ。それが今のレイジにはあまりにも重く、辛い罰だった。

 フリアエは、町の家具屋にでも売ってそうな簡素な造りの長椅子に座っている。
 それに対し、レイジは床に座っていた。フリアエの隣を勧められたのだが、どうしても座る気になれなかったのだ。

「…………オレ、は」
「慢心」
「ッ!!」
「油断、そして……力不足。敗因はこんなところでしょう。そして、あなたはそれを実感している……実感の代償は、あまりにも大きい」
「…………っ」

 セエレを、そしてアルシェを失った。
 愛する女を二人失った。それは間違いなく、レイジが弱かったからだ。
 今のライトは、間違いなく『魔刃王』よりも強い。あんなに苦労して倒した『魔刃王』と今のライトを頭の中で比べる……ライトの失望したような表情を思い出すと、レイジの胸の中にマグマのような熱が。

「それが、あの【暴食】があなたに、あなたたちに抱いている感情です。わかりますか? 勇者レイジ……あなたは、【暴食】の少年の親友と家族を失い、あれだけの強さを手に入れたのです。復讐者としての力は、人間をあそこまで強く凶悪にする」
「…………」

 わかってしまった。 
 レイジは、ライトの気持ちがわかってしまったのだ。
 やったら、やりかえされる。ただそれだけのこと。
 レイジは、やり返されたのだ。

「お、れは……」
「赦す、だから赦せと言うつもりですか?」

 ビクッと、レイジの身体が震える。
 失う怖さを知ってしまった。
 レイジは、失ってようやく成長した。
 大事なリリカとアンジェラを、ライトは殺しに来る。復讐のために、自分を苦しめるために……今のライトには、それができるのだ。
 レイジは、恐る恐る顔を上げ、フリアエを見た。

「フリアエ様、オレは……ど、どうすれば」
「考えなさい。復讐者として戦うか、赦しを得るために懺悔するか……それとも、あなたにしかできない、新しい道を探すか」
「新しい、道……」
「悩みなさい。そして答えを出すのです。あなたにはそれができる」
「……はい」

 レイジは立ち上がり、振り返らずに退室した。
 女神フリアエは、その背中を見送る。

「…………出てきなさい」
「ふん、残酷な女神だな。お前という奴は」
「ま、フリアエちゃんらしいけどね」

 安っぽい横長の椅子の後ろから、二人の女性が現れた。
 一人は、褐色の肌に白髪の女性。もう一人は赤髪の女性だ。

「キルシュ、ラスラヌフ……」
「リリティアが死んだ。さすがに放置できんぞ」

 白髪の女性ことキルシュは、鋭い視線をフリアエに投げつける。女戦士のように見えるが、彼女もれっきとした女神である。
『戦の女神キルシュ』は、フリアエに言った。

「真の力を発揮できぬ魔神が女神を喰った……このまま成長すれば我らの喉元にその牙が届くやもしれん。フリアエ、お前はどうするつもりだ」
「…………」
「今の魔神は不完全だ。だが、真の力を取り戻せば、我らの手には負えん存在となる。魔界は人間界に不干渉を貫くが、七つの大罪魔神共は違う。この世界に現れ、人間の欲を糧とし、我ら女神を滅ぼそうとしている。特に、あの大喰らいの【暴食】……今の契約者との相性は抜群だ。最弱とはいえリリティアを屠り喰らったのだからな」
「はぁ~……キルシュ、話が長いよ」
「なんだと?」

 赤髪の女性ことラスラヌフがケラケラ笑った。
 『魔の女神ラスラヌフ』は、指先にカラフルな光球をいくつも生み出し、ビー玉のようにコロコロと掌で転がす。

「あたしらが手を出すのは最後。いくら信仰心を力としていても、戦えば力を消費しちゃうからねぇ……消費した力を回復させるのには時間がかかるし、できるなら人間に力を与えて戦ってもらったほうが楽でいいんだよね」
「そうだが……」
「キルシュちゃんは脳筋だからぁ……あ、そうだ、フリアエちゃん」
「……なにかしら?」

 ラスラヌフは、手にある光球を一つのボールにしてニヤッと笑う。

「あの女の子……アンジェラだっけ? あたしが使っていい?」
「何をするの?」
「うーん、才能はありそうだし……すっごく強くしてあげる」

 魔の女神ラスラヌフ。
 魔とは、魔力。そして……この世界に存在する魔獣。
 ラスラヌフは、人間に試練を与えるために、この世界に魔獣を放った女神。



「んっふふ……人と魔の融合、いろいろ実験してみたかったんだよねぇ」



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