上 下
46 / 53
第三章

女神の神器

しおりを挟む
 ラクレス、アクア、レイアースの三人は、砂漠での呪装備破壊、そして魔人の討伐を終え、早馬でソラシル王国に帰還……そのまますぐに、国王ハイゼンベルクとの謁見に臨んだ。
 国王ハイゼンベルク、そして七曜騎士『炎』のイグニアスと王女クリス。
 三人の前に、ラクレスたちは跪き、砂漠での戦いを説明した。
 話を聞き、ハイゼンベルクは顎髭を撫でながら言う。

「ふむ。二人の魔人のうち一名を討伐。残りの一名は逃亡……」
「失態だな。七曜騎士が三人もいて取り逃すとは」

 イグニアスが言うが、ハイゼンベルクは笑った。

「はっはっは。まあいいではないか。それに、レイアース……そなたが神器の第三解放まで習得するとはな」
「はっ……その、無我夢中で」
「よきよき。これで、七曜騎士七名のうち、四人が第三解放に到達した。イグニアス……お前の足元まで近づいてきたな」
「ふ、まだ抜かせはしませんよ」

 イグニアスは、どこか誇らしげだった。
 ラクレスの知らないイグニアスだった。住む世界の違う剣士も、こんな顔をするのかと驚いていると、イグニアスが言う。

「厄介なことになった、か……ダンテ。魔人はこれから、お前の呪装備を狙って来る可能性が高いということだな」
「はっ……(おい、そうなんだよな)」
『ケケケ。恐らくな。少なくとも、冥府六将の直属を一人殺して喰らったんだ。間違いなく、無視できない存在にはなってる。刺客を送るか、六将が直々に来るか……どっちにしても、オレ様にとっちゃ美味しい話だ』

 ダンテが言う。
 イグニアスは、少し考え込む。

「人間界にある呪装備の等級は低い物ばかり。高い等級の呪装備は全て魔界か、魔人たちが確保、装備しているということだったな。そして、凶悪級以上の呪装備は、等級の低い呪装備を喰らうことで、その強さを増す……」
「その通りでございます」
「そして……魔人たちの中でも最強、『冥府六将』か。存在は知っているが、これまで不動だった。もし……奴らの直属の部下を倒し続け、お前の呪装備がそれを喰らって強化されれば、無視できない存在になる。そうなればきっと、冥府六将が動く……そこを討伐すれば、魔人の戦力も堕ちるだろう」
「……」

 その通りだった。
 だが、ラクレスは腑に落ちない。
 ラクレスは顔を上げ、イグニアスを見る。

「質問をよろしいでしょうか」
「うむ、構わん」
「魔人の目的は、一体……? 俺の呪装備を手に入れるのはいい。ですが、人間界で何をするつもりなのか……」
「女神の器」

 と、アクアが口を挟んだ。

「言ってたでしょ。魔人は、『女神の器』とかいう何かを探している。それが何なのかはわからない。でも……女神カジャクトに関する何かなのは間違いない。女神カジャクトをこの世界に呼ぶとかわけわかんないこと言ってたし……それが事実だとしたら、魔人が呪装備を強化しているのは、女神カジャクトと戦うため……今は、戦力を強化しているのだとしたら?」
「…………(驚いた)」
『バカっぽいクソガキだと思ったけど、頭ぁ回るじゃねぇか』

 ラクレスも、ダンテも驚いた。
 そして、アクアが言う。

「ダンテ。アンタ……知ってることあるでしょ」
「…………」
「呪装備には、半魔神の意思が宿るってあの女も言ってた。アンタの呪装備にある意思は、何か知ってるんじゃない? いい加減、知ってること言いなさいよ」
「…………」

 謁見の間で、国王、そしてイグニアスの前で、アクアは言った……いや、言うつもりだったのだ。
 呪装備の意思。つまり、ダンテのことを。

『…………仕方ねぇ。おいラクレス、代われ』
(お、おいダンテ)

 すると、ラクレスの声が出なくなり、ダンテの声が響く。

『確かに、オレの呪装備にも半魔神の意思がある……いや、正確には、オレとこの魔人の意思は同化している状態だ』
「はあ?」
『オレの呪装備は特別でな。だが……これだけは信じて欲しい。オレは、魔人も半魔神も……そして魔の神も恨んでいる。人間のために剣を振るうことに、間違いはない』
「…………だ、そうですけど。団長」

 アクアはイグニアスに言うと、イグニアスは鼻を鳴らす。

「忠誠を疑うことはしない。だが、その忠誠が揺らぐとき……ワシは、貴様を屠るぞ、ダンテ」
『構わない』
「ならいい。それに、そいつが魔人を屠ったのは事実だ』

 するとここで、黙っていたクリスが言う。

「さて、これからのことですが……当面は、ダンテは狙われるということでいいのかしら?」
『恐らく』
「なら、ダンテの主要任務は『呪装備の破壊』にすべきね。魔人が出るなら倒せばいいし、人間界にある呪装備も破壊できる。お父様、私がダンテの補佐となり、呪装備を捜索します」
「む……まあ、いいだろう。だが、危険なことはするなよ?」
「お任せを。ふふ」

 クリスは微笑み、ダンテに向かってウインクした。
 イグニアスも言う。

「ダンテ。これから貴様には呪装備の捜索、破壊活動がメインとなる。敵の魔人も貴様を放っておかない以上、呪装備の破壊に出向く場合、最低一名、七曜騎士を同行させろ。レイアースの例もある……魔人と戦うことで、神器の解放のきっかけにもなるだろう」

 その言葉に、アクアとレイアースの肩がぴくっと動いた。

『ケケケ。運が向いてきたぜ……人間界にある呪装備はクソしかねぇが、魔人がこっちに来てくれるなら食い放題、美味いメシにありつけるぜ』
(お前な……でもまあ、呪装備の破壊任務が俺の主要になるのはありがたい。早く命を貯めて、お前から離れるようにならないと)
『ケケケ、まあそういうこった』

 こうして、話し合いは終わった。
 狙われるラクレス、そしてダンテ。
 呪装備の捜索、破壊……これからますます忙しくなるであろう。
 ラクレスはようやく、七曜騎士としてやるべきことを見つけるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

ブラフマン~疑似転生~

臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。 しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。 あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。 死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。  二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。  一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。  漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。  彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。  ――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。 意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。 「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。 ~魔王の近況~ 〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。  幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。  ——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

処理中です...