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第二章

黒の音色

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 レイアース、ウルフギャングが鎧を解除すると、がっくりと崩れ落ちた。
 ラクレス、そしてクリスは二人の元へ。
 二人とも、真っ青な顔をして過呼吸ぎみに息を吐き、今にも気を失いそうだった。

『魔力を食い尽くされてやがる。女神の神器に封じられた力を解除した影響だな。まあ、寝てれば治るんじゃねぇか』
(適当だな……)
『だが、大チャンス到来だぜ。今なら怪しまれることなく呪装備を食える』

 確かに、とラクレスは思った。
 ラクレスは二人に言う。

「呪装備は俺が破壊する。二人は休んでてくれ……クリス、二人を任せていいか?」
「は、はい……申し訳ございません。私、何の役にも立てなくて」
「気にするな。俺も同じようなものだ」

 戦いは、レイアース、ウルフギャングが力を合わせたことで勝利できた。
 ラクレスはそう思っているが、レイアースが言う。

「ふざ、けるな……!! ダンテ、お前も、本気で……」
「話はあとで。今はゆっくり休め」

 そう言い、レイアースの額を軽く小突いた。

「え……」

 ラクレスは立ち上がり、レオルドの元へ。
 レオルドは、骨と皮だけになり、右手には呪装備である『魔籠手マッドカルキノス』が装備されていた。魔力も何もかも吸い尽くされた憐れな姿に、ラクレスは少しだけ祈る。

(なあ、この呪装備はまだ生きてるのか?)
『ああ。魂はまだ元気だぜ。装備と魂を繋ぐ核を破壊されたから、剥き出しの魂が漂っている……まずは、ガワを完全に破壊しな』

 ラクレスは、右手を呪装備に向け、魔力の砲撃で籠手を粉々にした。
 すると、淡い緑色の球体が籠手から解放されたのを見た。

(これは……)
『剝き出しの半魔神、その魂だ。見えるのはオレ様とオマエだけ』
(どうすればいいんだ?)
『触れるだけでいい。あとは、オレ様の仕事だ。ああ……覚悟しておけよ? 魂を取り込んだら、オレ様がオマエの命に変換して、足りない部分に穴埋めするが……魂に触れる行為は、身体と心にかなりの苦痛を伴う。苦しむだろうが……まあ、さっきの戦いのダメージが響いてきたってことにしておけ』
(おま、最初に言えよそれ!! い、痛いのか……?)
『ケケケ。激痛だ。最初に言えばオマエがビビっちまうと思ってな』
(いい性格してる。お前、覚えとけよ……)

 そう思い、ラクレスは剥き出しの魂に触れるのだった。
 
 ◇◇◇◇◇◇

「──……う、っぶ」

 ラクレスは、猛烈な吐き気がした。
 口を押え蹲る。すると、クリスが叫んだ。

「だ、ダンテ様!?」
「だ、大丈夫……呪装備は、はかい、した……っ!!」
「で、でも……」
「先ほどの、傷が、痛みだして、な……すまん、すぐに、よく、なる」

 そこまで言うので精一杯だった。
 視界がボヤけ、ぐにゃぐにゃと身体の内側に何かが這いずるような感覚がした。

『我慢しな。今、オマエの欠けた魂に、半魔神の魂で埋め合わせしている……気ぃ失ってもいいぜ。オレ様が動かしてやるからよ』
「…………」

 そこまで聞くと、ラクレスは気を失った。

 ◇◇◇◇◇◇

『……ここ、は』

 呪装備に封じられていた半魔神、『泥蟹』マッドカルキノスは、知らぬ場所にいた。
 剝き出しの魂になり、何かに触れられたのは理解できた。
 だが、そこから先がわからない。

『チッ……女神の神器が覚醒するなんてな。でも、まだ第一段階……身体さえあれば、殺せる』

 マッドカルキノスは、周りを観察した。

『そういや、オレと同類の呪装備がいた……人間界にいる呪装備ならどうせ格下だ。オレが支配権を奪えば、また動けるかも……まずはこの呪装備の意思に触れて、吸収する。そのあとは魔界に戻って、力を回復させて……』
『そりゃ無理な話、だな』

 と、唐突に声が聞こえてきた。
 マッドカルキノスの剝き出しの魂の前に、同じくらいの大きさの魂が現れた。

『ケケケ。オメーはもう終わりだよ。オレ様の計画通り……ってやつだ』
『なんだお前。ああ、同類か。だが……人間に取りついてる呪装備じゃあ、オレには勝てねぇ。さっさとこの身体を明け渡しな』
『……ケケケ』

 剝き出しの魂……ダンテは、心底馬鹿にしたように笑った。
 そして、言う。

『オマエ、まだ気付かねぇのか?』
『あ?』

 ダンテは──……一瞬だけ、自身の魂の『本質』を見せた。
 それが何だったのか、マッドカルキノスには一瞬で理解できた。
 同時に、魂が震えだす。

『ば、ばばば、馬鹿な……ななな、なぜ、なぜ、貴方様・・・がここに!?』
『ケケケ……言っただろ、オレ様の計画通り、ってな』

 次の瞬間、世界に巨大な『口』が現れた。
 マッドカルキノスは今更気付いた。今、自分のいる場所は、何かの『手の上』だった。
 何かが、見下ろしていた。
 目が、口があった。口がニヤリと歪むと、大きく開いた。

『凶悪級か。まあオマエは下の下で薄味だが……それでも、久しぶりの食事だ。堪能させてもらうぜぇ?』
『あ、ぁ……アァァァァァ!!』

 マッドカルキノスの魂が食われ、消滅し……空間が爆ぜるように消えた。
 そして、何もない空間に声だけ響く。

『ラクレス。全ては計画通り進んでる……ケケケ、この調子で頼むぜぇ?』
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