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第八章

ガイアルーン王国の勇者たちがやって来た④

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「行くぜ、『インセクトチョッパー』!!」
「くっ……武器もめちゃくちゃカッコいい!!」

 俺は右腕にデカい『鋏』そ装備。
 俺のカッコよさに藍音は狼狽えている……俺もつらい、このカッコよさがわかる人間と戦わなくてはならない気持ち……くっ、だが俺たちは敵同士、やらねばならん!!
 ケルベロス、天仙猫猫……絶対に手を出すなよ。

「行くぜ!!」
「ええい、あたしだって……負けないし!!」

 藍音の聖剣、そして俺の鋏が真正面からぶつかる。

「くぅぅ……近くで見るとめっちゃクオリティ高い!!」
「だろ!? なあ、戦うのやめね? 俺、お前と戦いたくない!!」
「うっ……あ、あたしだってそうよ!! でもでも、あたし勇者だもん!!」

 聖剣で攻撃が弾かれる。
 俺と藍音のレベルは拮抗している。いい勝負になるかも。
 すると気付いた。あっちの女の子の一人がケルベロスを見て顔を青くしている。ああ、レベル200オーバーの怪物にようやく気付いたか。

「だああああ!! 大地の怒り!!」
「ぬおっ!?」

 藍音は地面を聖剣で叩く。すると、地面が豪快に揺れ俺のバランスが崩れそうになった。その隙に、藍音が俺に向かって飛び込んでくる。
 だが俺はすぐさま態勢を……というか、オートバランサーでも搭載されているのか、鎧が勝手に姿勢を整えた。

「うそっ!?」
「おおおおお!! どらあ!!」
「ぐぅ!?」

 藍音は聖剣を盾にしたが、俺のパンチで吹っ飛ばされる。
 うまく防御した……やっぱ藍音は強い。もしこいつが仲間になったら……くっ、いいかも。
 
「やるじゃん、有馬慧……!! でも、あたしは」
「藍音。俺は……お前と戦うの、嫌だ!! この世界で、いや……この地域でようやく見つけた『趣味の合う仲間』なんだ!!」
「……それは、あたしだってそうよ!! 誰もニチアサ好きいないし!! 変身ヒーローとか誰も興味ないし!! 蟲族の外殻ひっぺがして装着したいって言うとドン引きされるし!!」
「わかる!! 俺も同じこと考えてた……でも、俺は夢をかなえたぞ!!」
「羨ましい……う、ううう」

 マジで共感できる……俺、こいつと語りたい。
 特撮好きに悪い奴はいない。俺は変身を解き、藍音に近づく。

「藍音。俺と話そうぜ……お前の知らない特撮ヒーローや変身ポーズ、強化アイテムについて話そうぜ」
「……慧」
「それとついでに、俺がここでやってることも言う。言えばきっとわかってくれる」
「……わかった。あたしの負───……」

 藍音が剣を背中に納め、俺に手を差し出した時だった。
 突如、上空から大量の『虫』が飛んできた。

「「へっ?」」

 コガネムシ。
 でもデカい。一匹一匹が一メートルくらいある『コガネムシ』が、百、いや千匹くらい上空を旋回……そのうちの数匹が地上に降りてきた。
 そして、そのコガネムシに乗っているのは、数名の……え、蟲族?
 ギルティアスさんが驚愕した。

「……シュ、シュラガザード」
「久しいな、兄上」

 銀色の外殻を持つ、クワガタみたいな蟲族だった……え、兄上?

「わお、カッコいい……」
「わかる。クワガタだよな……」

 俺、藍音は顔を見合わせて笑った。なんかシリアスだけど自分には正直です。
 すると、ザレフェドーラさんが槍を構えて言う。

「ギルティアス殿。奴は……?」
「……シュラガザード。ギラファノコギリクワガタ種の蟲族……そして、魔王四天王『銀角』のシュラガザード。わが弟だ」
「え、四天王」
「ま、マジ?」

 驚く俺、藍音。
 魔王四天王って、マジな魔王四天王?
 確かに、めちゃくちゃ強そうだ……ど、どれどれ。

 ◇◇◇◇◇◇
 〇シュラガザード 48歳 オス
 〇スキル『蟲闘士』 レベル198
 ◇◇◇◇◇◇

 わお……つ、強い。
 けっこう若い蟲族なんだな。まあ四十八歳は人間で言えばおっさんだけど。
 すると、なんだっけ……世美川さんだっけ。が、近づいて来た。

「藍音。引くわよ……四天王は計算外。まさか、四天王まで来るなんて」
「……馬鹿。チャンスよ。あいつを討ち取れば」
「レベル差を考えなさい!! あいつはレベル198……勝ち目がない。そもそも、シャオルーン領地だって敵地であることに変わりないのよ!!」
「む……でも」

 藍音は俺を見る……わかる。俺たち、もうダチだよな。
 少なくとも、俺はもう藍音と戦うつもりはない。

「あー……えっと、どうする?」
「……有馬慧。あなた、味方になるつもりあるかしら」
「え?」
「あの怪物……あれが真の魔王? あいつなら、四天王を」

 ああ、ケルベロスな。
 なんか「我関せず」って感じで腕組みしてるけど……あれ魔王じゃなくて俺の護衛です。
 そして、天仙猫猫もいる。うーん、どうしよう。

「シュラガザード……何をしにここへ」
「決まっている。蟲族の汚点を消去しに来た」
「くっ……どうしてだシュラガザード。お前と我は」
「血のつながりか? フン、弱者である貴様など兄ではない!!」

 兄弟かあ……なんかエモいけど、シリアスなんだよな。
 すると、数匹の犬猫たちが慌てて飛び出してきた。

『わわわ、なんか虫がいっぱい!!』
『主、主!!』
『どうしましょ、どうしましょ!!』
「お、落ち着け落ち着け」

 村の中が騒がしくなってきた。そりゃ、上空にこんだけ虫が旋回していたらな。
 すると、藍音が剣を抜く。

「有馬慧。共同戦線よ……あいつをブッ倒す」
「……乗った。でもさ、あの二人見ろよ。兄と弟、カブトとクワガタだぜ?」
「……エモい」
「お前やっぱわかるな。俺たち、あの二人に手を出しちゃいけない気がする」
「わかる」

 藍音はウンウン頷く。そして世美川優華さんが頭を押さえた。
 お、他の二人……名前なんだっけ。も、世美川優華さんの隣に並ぶ。

「ね、どうすんの?」
「逃げないの?」
「逃げたいけど……藍音の馬鹿がやる気みたい」

 うんうん、なんか苦労してそうだ。

「さて、我はこの村、そして我の汚点である蟲族を滅ぼそう。それが魔王様のご命令よ!!」
「シュラガザード!! やめろ!! 我はまだ……お前のことを、弟と思っている!!」
「くっ……ギルティアス殿、敵はやるつもりだ。戦うぞ!!」
「待てザレフェドーラ殿!! 弟は……我が!!」

 おおお、なんか熱い展開。 
 このまま戦いになりそうだが、如何せんレベル差がある。

「フン。兄者よ、その程度のレベルで我に敵うとでも? 昔から一度でも、我に勝ったことがあるか?」
「くっ……」
「兄者……貴様は、家族を持ち弱くなった!! 蟲族の戦士として、弱さは罪!!」
「それは違う!! シュラガザード。我は」
「もうよい!! さあ兄者、貴様をここで始末する。その次は……お前の家族だ!!」
「……シュラガザード。家族に手は出させん!!」

 お、ギルティアスさんが構えた。
 よしここだ!!

「ギルティアスさんに『超越化』!!」

 俺はギルティアスさんに『超越化』を使った。使うならここしかないっしょ。
 すると、俺の『超越化』を受け、ギルティアスさんの外殻が変化していく。

「お、おお……? お、ォォォォォォッ!!」

 なんと、外殻が黄金になり、形状がよりスタイリッシュに変わる。
 すげえ、初期フォームを基調とした強化形態だ!!

「カッコいい~!! ね、ね、あれなに!?」
「決まってる……最終フォームだ!!」
「おおお!!」
「「「…………」」」

 なんか藍音の仲間三人がジト目で見ている。そしてシュラガザードも驚いていた。

「な……兄者、その力は」
「……感謝します、主。これは、貴様を止めるための力だ!!」
「……面白い!!」

 兄弟対決、銀と黄金のカブト、クワガタの対決が始まった!!
 いいねいいね、ドラマみたいな展開だぜ!!

「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!! 有馬慧ィィィィィィえええええええええあああああああああああああ!!」
「は?」

 すると突如、近くの藪からとんでもないマッチョが飛び出してきた。
 肌が真っ赤、眼が血走り、髪の毛がバラバラと抜け落ちている……え、なにこれ。

「ギッギッギ!! ふしゅしゅうううううう!! くぉっくぉっくぉぉぉぉぉ!!」

 な、なんだこいつ。
 ドーピング薬の入ったコンソメスープでも一気飲みしたような奴だった。ボディビル選手権に出たら優勝間違いなしみたいな身体してる。

「な、なにこいつ……」
「あああああああ!! アイネェェェェェェェ!! ぶち殺しぁあああああああえええええ!!」
「え、あたし!? はあ!?」
「藍音!!」
「じゃまあああああああああああああ!!」
「ぐえっ!?」

 藍音の仲間二人が飛び出したが、吹っ飛ばされた。

「美晴、すもも!! こいつ……!! 慧、手ぇ貸して!! 優華は二人を!!」
「わかったわ!! 有馬慧……お願い」
「よくわからんけど……とりあえず『変身』!!」

 再びインセクトアーマーを身に纏い、藍音と並ぶ。
 そして、目の前にいるドーピング野郎は叫んだ。

「聖剣んんんなあああああああ!!」

 すると、ドーピング野郎の手に、見覚えのある聖剣……え、まさか。

「……まさかこいつ、黒鉄レオン?」

 さらに、上空を旋回している無数のコガネムシが落ちてくるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 一方そのころ。

「にゃう。わたしのおやつあげるね」
「ふにゃ……ありがと、ねこ娘」
「マオ!! あなたはルナだからね!!」
「……わかった。マオ」
「うん。おやつ食べたらお昼寝しようね」
「ふにゃあ」

 マオとルナは、家の中でおやつタイム。
 おやつを食べ終えると、慧のベッドに入り、二人で丸くなってお昼寝をするのだった。
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