上 下
227 / 227

最終話 聖剣士に愛され、魔弓を愛した少年の物語

しおりを挟む
 屋敷に戻り、ロイは虎のシェンフーを抱っこし、思いっきりモフモフした。

『おかえり、早かったなー』
「まあ、挨拶だけだしな。よしよし、モフモフで気持ちいいな。今日は可愛がってやるぞ」
『ん~……お? ねえロイ、帰ってきたよ』
「え?」
 
 と、屋敷の鉄門が開き、エレノアとユノ、アオイ、ついでにセレネが来た。
 いきなりで驚いていると、エレノアが言う。

「ちょっと!! 王都に来てたんなら顔見せてよ!! セレネのとこで聞いたわよ!? あんた正門まで来て入れないからって帰らないでよ!!」
「ロイ、せっかく久しぶりに一緒に遊べると思ったのにー」
「ふむ。いささか薄情であるな。うむ」
「ごめんロイ。あなたに会ったら『もういいかな』って思って。パン屋、知り合いにあげて引っ越してきちゃった」
「お、おいおいおい。マテ、落ち着け、落ち着けって」

 迫るエレノア、ユノ、アオイ。そしてセレネ。
 デスゲイズが弓から人の姿になると、ニヤニヤしながら言う。

「くっくっく。今夜は長い夜……いや、朝までかかるな。ロイ、死ぬなよ」
「「「「………まあ、確かに」」」」
「いや待て、いきなり全員は……」

 この日、ロイはたっぷりと全員を愛し、満足させるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 エレノアたちはしばらく休日とのこと。
 屋敷のリビングでのんびりお茶を飲み、今後のことを話した。

「あたし、しばらくは家での~んびりしたいな。ねえロイ、ここって綺麗な湖あったよね? みんなでピクニック行かない?」
「いいな。ユノはどうしたい?」
「ロイとゲームしたい。王都や魔界でボードゲーム買ってきた。みんなでやる」
「よしやろう。アオイは?」
「読書だな。しばし、書斎で時間を忘れ、読書に没頭する……ロイ、お前も一緒に」
「いいよ。そういう時間も大事だ。セレネは?」
「やりたいことっていうかお願いだけど……庭の隅っこでいいから、パンを焼く窯が欲しいかも。せっかくパン屋の技術あるし、みんなにおいしいパン食べて欲しい」
「わかった。じゃあ、村でパン窯の図面もらって作るか」

 それぞれ、やりたいことを話す。
 デスゲイズはニヤニヤしながら言う。

「我輩は、オマエたちに付き合おう。くくく、ず~っとロイと一緒だったからな。ヤリたいことは特にないなあ」
「「「…………」」」
「おいデスゲイズ、煽るな。みんなしっかり仕事して金稼いでんだよ」
「おいその言い方、我輩が何もしていないみたいじゃないか!!」

 デスゲイズがギャーギャー騒ぐと、みんな笑った。
 楽しい休日は、始まったばかりである。

 ◇◇◇◇◇◇

 平和な日々が続いた。
 エレノアたちとキャンプし、ボードゲームで盛り上がったり、みんなで読書したり、パン窯を作ってみんなで生地をこねたり。
 狩りに出かけたり、一日中屋敷で愛を確かめることもあった。
 そして、エレノアたちの休暇が終わり……王都へ。
 途中、オルカとユイカの宿に泊まり、みんなでお酒を飲んだりもした。
 ユイカの子供が間もなく生まれると聞くと、エレノアたちも子供を欲しがったり……近い将来、実現する可能性も低くはない。
 そして、エレノアたちが王都へ。
 ロイ、デスゲイズは屋敷に戻ると、二人きりだった。

「そっか、セレネとシェンフー、買い出しに行ったのか」
「久しぶりに二人だな」

 ロイとデスゲイズは、森を散歩した。
 そして、見晴らしのいい高台に到着し、丸太を横倒しにしただけの特製ベンチに座る。
 この高台から、トラビア王国はよく見えた。

「……いい景色だな」
「ああ。素晴らしい景色だ」

 こうして、のんびり過ごすのは好きな二人。
 相棒であり、武器。
 ロイとデスゲイズの日々は、これからも続く。

「なあデスゲイズ。お前はさ……俺が死んだら、どうなるんだ?」
「決まっている。我輩も一緒に消滅するさ」
「……でも、俺の命の元になっている権能はお前に戻るんだろ? お前は不変の魔王だし……俺が死んだあとも」
「興味はない」

 デスゲイズは、はっきり言った。
 立ち上がると、風が吹き……白銀の髪がなびく。

「我輩の人生は、お前と共に始まり、終わる。最初は復讐だったが……今は、お前と共に人の人生を歩むことが人生の目標だ」
「……デスゲイズ」
「我輩は、死んだあとの世界を少し信じている」
「……死後の世界?」
「ああ。魔王がいるんだ、神様だっている。きっと、神様の国は、いいところだ。お前が死んで、我輩も死んで、いつかエレノアたちとも再会する。そうすればきっと、楽しいぞ」
「お前の前向きなところ、本当に最高だよな」

 ロイも立ち上がり、デスゲイズの隣に立つ。

「これからもよろしく頼むぞ。俺の愛しい魔弓デスゲイズ」
「ああ。これからも愛してくれよ、旦那様」

 と、顔を寄せ合いキスをしようとした時だった。

『グァァオォォォォォ!!』

 なんと、上空に漆黒のドラゴンが現れた。しかも、十体以上。
 ブラックドラゴンズ。討伐レートSS。魔界で恐れられる、群れで活動するドラゴンたち。
 一体一体が街を、国を亡ぼすレベルの強さで、それが群れで行動するのだ。パレットアイズが討伐の手配をしたが、逃げられて人間界まで飛んできたようだ。
 たまに魔界から飛んで来るのだ。魔獣なら地上で聖剣士が撃退するのだが、雲の上を飛ぶ魔獣は見逃すことも多くある。
 ロイとデスゲイズはキスをやめ、顔を見合わせ苦笑する。

「おあずけか?」
「だな。じゃあ……やるか、相棒」

 ロイが言うと、デスゲイズは弓に変わり、ロイは久しぶりに言う。

「『黒装トランス』!!」

 漆黒のコート、仮面、矢筒。
 世界最強の弓士『八咫烏』は、矢筒から一本の矢を抜き、番え、構えた。

「さぁ──……三分で、ケリ付けようか!!」

 虹色の矢が、青空に向かって放たれた。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 聖剣に嫌われ、弓に愛された少年の物語は続いていく。
 聖剣士に愛され、魔弓を愛し、魔王に愛された少年の矢は、これからも世界を射抜く。

 ─完─
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

かぷり
2024.10.28 かぷり

今頃になってですが、楽しく最後まで読ませていただきました。次回作…楽しみに待ってます。

解除
谷中
2023.09.27 谷中

面白かったので続きをお願いします

解除
かぷり
2023.08.28 かぷり

続きは無いのでしょうか?
楽しみにしているのですが…

解除

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

魔法適性ゼロと無能認定済みのわたしですが、『可視の魔眼』で最強の魔法少女を目指します!~妹と御三家令嬢がわたしを放そうとしない件について~

白藍まこと
ファンタジー
わたし、エメ・フラヴィニー15歳はとある理由をきっかけに魔法士を目指すことに。 最高峰と謳われるアルマン魔法学園に入学しましたが、成績は何とビリ。 しかも、魔法適性ゼロで無能呼ばわりされる始末です……。 競争意識の高いクラスでは馴染めず、早々にぼっちに。 それでも負けじと努力を続け、魔力を見通す『可視の魔眼』の力も相まって徐々に皆に認められていきます。 あれ、でも気付けば女の子がわたしの周りを囲むようになっているのは気のせいですか……? ※他サイトでも掲載中です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界クラス転移した俺氏、陰キャなのに聖剣抜いたった ~なんかヤバそうなので学園一の美少女と国外逃亡します~

みょっつ三世
ファンタジー
――陰キャなのに聖剣抜いちゃった。  高校二年生である明星影人(みょうじょうかげと)は目の前で起きた出来事に対し非常に困惑した。  なにせ異世界にクラス転移した上に真の勇者のみが引き抜けるという聖剣を引き抜いてしまったからだ。どこからどう見ても陰キャなのにだ。おかしいだろ。  普通そういうのは陽キャイケメンの役目じゃないのか。そう考え影人は勇者を辞退しようとするがどうにもそういう雰囲気じゃない。しかもクラスメイト達は不満な視線を向けてくるし、僕らを転移させた王国も何やらキナ臭い。 仕方ないので影人は王国から逃亡を決意することにした。※学園一の美少女付き ん? この聖剣……しゃべるぞ!!※はい。魔剣もしゃべります。

ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた

みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。 争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。 イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。 そしてそれと、もう一つ……。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

鬼切りの刀に憑かれた逢神は鬼姫と一緒にいる

ぽとりひょん
ファンタジー
逢神も血筋は鬼切の刀に憑りつかれている、たけるも例外ではなかったが鬼姫鈴鹿が一緒にいることになる。 たけると鈴鹿は今日も鬼を切り続ける。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。