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炎聖剣フェニキアと炎魔剣イフリート①/互角

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 ロイは、倒れたユノを見て駆けだしそうになった。

『待て!! 今は離れるべきじゃない!!』
「……ッ」

 わかっている。
 駆けだしそうになりつつも、ロイは矢を何本も抜いて放っている。放たなければセレネがユノを狙うし、魔界貴族や魔獣たちがユノに接近する。
 それ以外に、エレノアの援護もしなければならない。
 全てを投げ出し、ユノの元へ向かえば、それだけで敗北だ。
 ロイは歯を食いしばり、セレネが放つ矢を全て叩き落とす。

『冷静になれ。ここでユノを救いに行けば敗北するぞ!!』
「……」

 デスゲイズの声が、ロイを冷静に……そして、弓を握る力を強くした。
 冷静ではない。だが、デスゲイズは言う。

『七聖剣士の戦いは……残るはエレノアだけ。負けた奴らも、勝った奴らも移動しつつある。ロイ、焦るな。冷静に援護を続けろ……それに、わかっているだろう』
「……ああ」

 エレノアの戦いが終わったら、残る敵はササライ……そして、セレネだ。
 セレネとの決着は、エレノアの援護が終わった時。
 デスゲイズは舌打ちする。

『チッ……どこまでがササライのシナリオなんだ』

 サリオス、アオイが勝利した。
 スヴァルト、ララベル、ロセが敗北。
 ユノが引き分けた。
 そして、エレノア……エレノアが勝利すればイーブンとなり、負ければ七聖剣士の敗北。
 そして、セレネ。そして、ササライ。
 まるで、冒険譚の最終決戦のような筋書きに、デスゲイズは気持ち悪さを感じていた。

『ロイ、エレノアを必ず勝たせろ。どうも嫌な予感がする……』
「わかってるよ。俺も……本気でいく」

 権能は使わない。 
 セレネとは、弓の腕前……鉄の鏃だけで勝負する。
 ロイは、エレノアを最もいい位置で援護するために、移動をするのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

「『灼炎楼・一閃』!!」
「『冥炎楼・一閃』!!」

 炎聖剣、炎魔剣の一閃が真正面からぶつかり、赤い炎と黒い炎が吹き荒れる。
 同じ技、同じ太刀筋……全く互角の一撃。
 エレノアは、近距離でヴェスタと睨み合いながら鍔迫り合いをする。

「あんた、なんであたしと同じ技……!!」
「教えてもらったの」

 ギャイン!! と、剣が離れ距離を取る。
 エレノアは構えると、ヴェスタも同じ構えをし、全く同時に剣を振った。

「『灼炎楼・三尖刀』!!」
「『冥炎楼・三尖刀』!!」

 同じ太刀筋の三連斬り。ギギギン!! と、刃と刃が爆ぜる音がした。
 エレノアは、ヴェスタに斬りかかる。ヴェスタは刀身を盾にしてエレノアの剣を受ける。

「教えてもらったって、誰によ!!」
「ササライ様。ササライ様、なんでも知ってる。エレノアの技を全部、私に教えてくれた。炎魔剣の黒い炎と一緒に、エレノアを倒すために」
「はぁ? なんであたしの技、ササライが知って……」
「分析したって。エレノア、単純だからわかりやすいって」

 ブチリとエレノアの額に青筋が浮かび、切れた。

「『灼炎楼・十六烈火』!!」
「『冥炎楼・十六烈火』!!」

 怒りの十六連続斬りは、全く同じ太刀筋のヴェスタに防がれた。
 エレノアの技は、一~三十六連まである連続斬りだ。回数を重ねるほど速度が速くなり、回数が短いほど一撃の威力が高い。
 癪だが、確かに単純明快……でも、頭にはくる。

「だったら、それ以上の力であんたの上をいけばいいか」
「できる? わたし、まだ本気じゃない」

 エレノアの炎が燃え上がり、ヴェスタの黒炎も燃え上がった。

 ◇◇◇◇◇◇

 しばらく、エレノアとヴェスタの剣戟が繰り広げられた。
 その様子を、ロイとデスゲイズは見守りつつ援護射撃をする。

「すげえ……」
『エレノア、本当に強くなった。今の奴なら、公爵級だろうと敵ではない』

 デスゲイズの素直な賞賛だ。
 そして、ふと気づく。

「……ん? おいデスゲイズ、周囲がおかしい」
『……これは』

 魔獣、魔界貴族の気配が消えた。
 他の聖剣士たちと激しい戦いは続いている。だが、七聖剣士の周囲、そしてエレノア、ユノの周辺には敵が存在しない。
 つまり……ロイは、周囲を気にすることなく、エレノアの援護ができる。

『チッ、ササライめ……ロイ、どうやらお前の戦いも始まるぞ』
「ああ、セレネ……」

 ロイの視線の先には、巨木の枝に乗り、弓を構えるセレネがいた。
 向こうもロイに気付き、人差し指をロイに向け、自分に向け……エレノアに向ける。
 
『勝負』
『上等』

 ロイは、親指で自分の首を掻っ切る真似をする。
 そして、ほぼ同時に木から飛び上がり、矢を番え、射る。
 鉄の矢は真っすぐ飛び、セレネの放った矢と激突。
 ロイは地面に着地……エレノアたちのいる戦場にかけ出した。
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