上 下
194 / 227

光聖剣サザーランドと闇魔剣ア・バオア・クー②/魔装

しおりを挟む
 サリオスの『鎧身』を見て、ヴェンデッタはうっとりしていた。

「……綺麗」
「き、綺麗?」
「うん。綺麗な光……あの時と同じ、私を救った『光』と同じ」

 サリオスは、一瞬……ヴェンデッタの微笑みが、子供のように見えた。
 狂気は一瞬、素直な笑みも一瞬。
 そして、次に見せたのは、『闇魔剣ア・バオア・クー』を手にしたヴェンデッタ。

「サリオスくん、私……受けとめるね? だからあなたも受け止めて? 私の想い、私の心、私の気持ち……ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ!!」

 ヴェンデッタは涙を流す。
 すると、『闇魔剣ア・バオア・クー』から、禍々しい黒いモヤが噴き出した。

「『魔装ユナイト』」

 モヤがヴェンデッタに纏わりつくと、まるで漆黒のドレスのような、禍々しいドレスとなる。
 顔が半分だけ布で包まれ、身体は髑髏や骨をあしらった禍々しいドレス。手にはさらに巨大化した大鎌があり、口元だけが歪んだ笑みを浮かべていた。
 鎧ではない。ドレス。
 鎧身ではなく、魔装。

「『闇魔剣ア・バオア・クー=オスプキュリテ・ストラプティ』……どう? 私、綺麗?」
「…………」

 圧が跳ね上がった。
 鎧を着たサリオスの戦闘力も跳ね上がったが、ヴェンデッタも同じだった。
 互いの力が上がった以上、無傷で済むような結果にはならない。
 サリオスは剣を構える。

「……決着を付けようか」
「ええ。私の『愛』を、あなたに捧げるわぁ」

 サリオスから『光』が、ヴェンデッタから『闇』が溢れ出した。

 ◇◇◇◇◇◇

 サリオスは聖剣を構え、一気に飛び出した。
 鎧の背中から光が噴き出し、まるで『翼』のように広がる。
 対してヴェンデッタは動かない。
 大鎌を構えると、ドレスの全身から黒いモヤが噴き出す。
 攻撃、そして迎撃。
 サリオスは、サザーランドに光を集め、巨大な『光剣』を作り出す。
 ヴェンデッタは、黒いモヤでいくつもの『鎌』を作り、全てを高速で回転させた。

「勝負──……『アストラルシャイン・ブレイバスター』!!」

 光の翼を噴射させ、その勢いを利用した『光剣』による斬撃。
 美しかった……ヴェンデッタは、それを見てしまった。
 ヴェンデッタは、全ての鎌をサリオスに向けて飛ばす。

「『ネグロストライザ』……」

 全ての鎌がサリオスの鎧に突き刺さる。だが、サリオスは止まらない。
 トドメとばかりに、ヴェンデッタの大鎌がサリオスを両断する。
 鎧に亀裂が入る。だが……サリオスは止まらない。
 そのままの勢いで、サリオスはサザーランドを振った。

「──ぁぁ」

 ヴェンデッタは斬撃を浴び、そのまま後方に吹き飛ばされる。
 サリオスの斬撃は、ヴェンデッタごと『吸魔の杭』を叩き切った。
 崩れ落ちる杭。そして、ドレスが解除されて崩れ落ちるヴェンデッタ。
 サリオスとヴェンデッタの戦いは……サリオスの勝利で幕を閉じた。

 ◇◇◇◇◇◇

 サリオスは鎧を解除……そして、そのまま崩れた。
 
「う、ぐ」

 ヴェンデッタの鎌が刺さり、出血していた。
 だが……立った。そして、歩き出した。
 向かったのは、倒れているヴェンデッタ。
 サリオスは、ヴェンデッタを抱き起す。

「ぁ……サリオス、くん」
「どうして手加減したんだ」

 サリオスは気付いていた。
 最後の攻撃。明らかに、ヴェンデッタは手を抜いていた。
 じゃなければ、大量の鎌はサリオスに深く突き刺さっていたはずだし、とどめの一撃である大鎌も、サリオスを両断できた。
 認めたくはない。だが認めた。
 ヴェンデッタは、サリオスよりも強かった。
 
「だって……綺麗だったから」
「……」
「私を、救ってくれた光だから……消したくなかったの」
「……ヴェンデッタ」
「綺麗な光、見れたから……もう、満足」

 闇魔剣ア・バオア・クーが、煙のように消えた。
 そして、黒い煙となった魔剣は、風に乗ってどこかへ消えた。
 サリオスは言う。

「きみは死なない。手加減をしたから」
「……え?」
「やっぱり、ボクもまだまだ甘い……自分に好意を向けてくれる相手に、非情にはなりきれない。アンジェリーナさんみたいに、魔族と分かり合えるかもって、思ってしまった」

 サリオスはヴェンデッタの手に触れた。

「その、好きとかは置いて……まずは、友達から始めないか? 人と魔族の新しい時代を始めるために、殺し合うだけじゃない道を作ることも、王族の義務だと思うから」

 ヴェンデッタは気付いた。
 血が出ていない。痛みこそあるが、斬られたはずの胸は、服が破れるだけで済んでいた。
 サリオスはマントを脱ぎ、そっとヴェンデッタに掛ける。

「その……ダメ、かな」
「ダメじゃない!!」
「え、ちょっ」

 ヴェンデッタはサリオスに飛びついた。
 その後……サリオスは『吸い殺されるかと思った』と語り……何があったのかは絶対に語らないのだった。
 こうして、サリオスとヴェンデッタの戦いは終わった。
 本気の殺し合いではなく、どちらかといえば『説得』のような。
 殺し合うだけじゃない、人と魔族の共存する道の一歩を、サリオス自身が選び、歩む結果になった。

「サリオスくん、結婚式は黒いドレスがいいな……ダメ?」
「友達って言ったじゃないか……というか、結婚って」
「サリオスくんは白い礼服。私は黒いドレス……素敵。それと今夜、お部屋にお邪魔するね。うふふ、うふふふ」
「…………」

 ほんの少し……ほんの少しだけ、サリオスはヴェンデッタを救ったことを後悔するのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界クラス転移した俺氏、陰キャなのに聖剣抜いたった ~なんかヤバそうなので学園一の美少女と国外逃亡します~

みょっつ三世
ファンタジー
――陰キャなのに聖剣抜いちゃった。  高校二年生である明星影人(みょうじょうかげと)は目の前で起きた出来事に対し非常に困惑した。  なにせ異世界にクラス転移した上に真の勇者のみが引き抜けるという聖剣を引き抜いてしまったからだ。どこからどう見ても陰キャなのにだ。おかしいだろ。  普通そういうのは陽キャイケメンの役目じゃないのか。そう考え影人は勇者を辞退しようとするがどうにもそういう雰囲気じゃない。しかもクラスメイト達は不満な視線を向けてくるし、僕らを転移させた王国も何やらキナ臭い。 仕方ないので影人は王国から逃亡を決意することにした。※学園一の美少女付き ん? この聖剣……しゃべるぞ!!※はい。魔剣もしゃべります。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ
ファンタジー
 オタクの女子高校生だった美水空は知らないうちに異世界に着いてしまった。  ふと自分の姿を見たら何やら可愛らしい魔法少女の姿!  謎の服に謎の場所、どうしようもなく異世界迷子の空。  紆余曲折あり、何とか立ち直り人間の街についた空は吹っ切れて異世界を満喫することにする。  だけどこの世界は魔法が最弱の世界だった!  魔法使い(魔法少女)だからという理由で周りからあまりよく思われない空。  魔法使い(魔法少女)が強くないと思ったの?私は魔法で生きていく!という精神でこの異世界で生きていく!  これは可愛い魔法少女が異世界で暴れたり暴れなかったりする話である。

ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた

みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。 争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。 イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。 そしてそれと、もう一つ……。

処理中です...