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特訓

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 エレノアたちが七天島に上陸して七日目。

「はぁ、はぁ……うっげぇ」
「…………」
「ぜっ、ぜっ、ぜっ……」
「……っく、ぁ」

 エレノアは嘔吐し、ユノは苦しまないよう呼吸を押さえ、アオイはフラフラしながらも立ち、サリオスは男の意地なのか立ち上がり、ただ歩く。
 七日目───……毒が、全身に回っていた。
 さらに、重力負荷。
 身体強化もほぼ切れ、魔力もほぼ枯渇……エレノアたちは地獄を見ていた。
 その様子を、やや顔色の悪いスヴァルトが見て言う。

「懐かしいな。オレらもこんな感じだったぜ」

 ララベルは、水のボトルを頭から浴びながら言う。

「そ~ね……っぷはぁ気持ちいいっ!! でも、かなり追い詰められてる。もうちょいで適応できるんじゃない? それに……サリオス、この状態で立てるなんて、やるじゃない」

 ロセは「うん」と頷き、水筒を手にエレノアの元へ。

「みんな、水分はちゃんと取ってね。もうすぐで楽になれるから」
「し、死ぬって意味で……?」
「ううん、身体が適応するの。人は、どんな環境に侵されてもいずれは慣れる。聖剣士はね、その適応力が普通の人よりも高いの」
「んぐ、っんぐ……っぷは」

 エレノアは水筒の水を一気飲みし、大きく息を吐いて身体強化を発動。
 ガバッと立ち上がり、腹に力を込めた。

「ふぅぅぅぅ~~~っ……適応、適応」
「……わたしも」
「拙者も、まだまだ……」
「オレだって……!!」

 一年生四人は立ち上がり、魔力を漲らせる。
 ロセ、ララベル、スヴァルトは気付いていた。毒に侵された身体が毒に負けまいと強い身体を作り始め、魔力が枯渇したことに気付いた身体が、もっと多くの魔力を体内で作り始める。
 重力に負けない身体が作られ、今まさにエレノアたちは『適応』しようとしていた。

「……おいロセ」
「ええ、早い……もしかしたら、今日にでも適応するわね」
「予定変更するか?」
「そうね。明日、全員で組手をしましょう。残り十三日……森に入るのは、最後の三日ってところね」
「は、そりゃいいぜ。そろそろ、オレらも鍛えねぇとな」

 この日、エレノアたちはようやく、七天島に適応した。

 ◇◇◇◇◇

 八日目。
 エレノアたちは島に適応し、今は素手での組手に精を出している。

「はいはい、格闘術は剣術とも組み合わせられるから覚えて損はないわよ!! ほら右、左!!」
「うげっ!? あだっ!?」

 ちなみに、格闘術の心得がないのはエレノアだけ。
 ロイの生家であるティラユール家でも、剣術だけで格闘術など習っていなかった。聖剣レジェンディア学園に来てからも剣技だけで、拳を握るのは今日が初めて。
 驚いたのは、ユノ、サリオス、アオイは格闘技経験があったこと。
 
「おとうさんが教えてくれた」
「王宮武術ってのを習ってたんだ」
「拙者、武芸全般を習った故……」
「うう、あたしだけ……」

 サリオスの相手はスヴァルト、ロセはアオイとユノ、エレノアはララベルとマンツーマン指導だ。
 素手での格闘にも、常に身体強化をかけて行う。
 必死で気付いていなかったが、エレノアたちはすでに、五時間以上、身体強化を維持している。
 ロセ、スヴァルトはそのことに気付いた。

「驚いたぜ。島に来て十日……ここまで適応するとはな」
「気付いていないけど、魔力も身体能力も、島に来る三倍くらい上がってるね」
「……どうする? 魔獣狩り」
「……正直、肉体や魔力の強化をすれば、魔獣と戦わなくても修業は大成功。でも……実戦でしか得られない強さもある」
「魔王は二体倒した。オレらの代で魔王を滅ぼすとなると、これ以上の強さが必要だ」
「……やる?」
「ああ、やるしかネェな」
「よし。じゃあ、アンジェリーナさんにも手伝ってもらおっか」
「あいつにか? 荷物運びで十分だろ」
「まぁまぁ。それに、アンジェリーナさんは強いしね。みんなの引率者もお願いできるわ。それに……わたしたちも、もっと強くならなきゃだし」
「……わかった」

 スヴァルトはアンジェリーナを呼び、説明する。
 ちょうど、アンジェリーナは船から物資を運んできたところだった。

「……あの四人の引率を?」
「ああ。お前、力ほとんど回復しただろ? 今のお前なら、この森の魔獣程度どうとでもなる」
「……私が、あの四人を始末して逃げるとは思わないのか?」
「信用するさ。お前は、イイやつだ」
「……っ」

 アンジェリーナはそっぽ向き、ムスッとする。
 そして、スヴァルトを睨みながら言った。

「いいだろう。その代わり、その……私の願いを、聞け」
「おう、いいぜ」
「…………その」
「あ?」
「……~~~っ、ええい、後で言う!! 約束は守れ!!」
「あ、ああ。よくわからんけど……」

 ロセはなんとなく察し、クスっと微笑んだ。
 アンジェリーナがとても可愛く見え……少しだけ、胸がチクッとした。

「……あらぁ」

 ロセは胸を押さえ、未だにエレノアを指導しているララベルの元へ向かった。

 ◇◇◇◇◇

 その日の夜、七聖剣士とアンジェリーナの八人は、浜辺で焚火を囲んでいた。
 今では、大鍋に作った肉野菜スープがすっからかんになるくらいエレノアたちは食べる。
 着ている服はボロボロで薄汚れ、ユノの『水祝』で出した水を服の上からかぶるという水浴びだけしかしていないので、全員が汚れているが、誰も気にしていない。
 エレノアは、干し肉を噛み千切る。

「魔獣狩り、ですか?」
「ええ。予定、だいぶ変わっちゃったけど、明日からみんなで森に入りま~す」

 ロセはポンと手を叩く。
 サリオスが挙手した。

「あの、全員で……ですか?」
「ううん。私とララベルとスヴァルトは別行動。サリオスくんたちの引率は、アンジェリーナさんにお願いするからね~」
「「「「…………」」」」

 なんとなく、一年生四人がアンジェリーナを見る。
 ちゃんと会話したことはない。だが、アンジェリーナが『愛の魔王』の眷属で公爵級だったとは聞いている。スヴァルトに敗北し、そのまま捕らえられたとは知っていた。
 すると、アンジェリーナは言う。

「安心しろ。お前たちに危害を加えるつもりは毛頭ない。信用できないなら、その時点で私を殺せ」
「おい、勝手なこと言うな。テメー、オレに何かさせるんだろ? 勝手に死ぬんじゃねぇ」
「ななな、何かさせるって、私はそんな、大したこと……」

 モゾモゾ言うアンジェリーナの態度に、エレノアとユノはピキーンと何かを察した。

「なんか、アンジェリーナさん……仲良くやれそう」
「わたしも」
「……拙者はまだわからん」
「オレはまぁ、先輩方が言うなら」
「ふふ。大丈夫、アンジェリーナさんはす~っごく強いから♪ というわけで、明日から森の奥へ入りま~す!! ではでは、交代で見張りを……」
「待て。お前たちはずっと修行していただろう? 見張りは私がするから、お前たちは全員休め」

 アンジェリーナの提案はありがたく、全員がテントへ入るなり寝息が聞こえてきた。
 アンジェリーナは、焚火を見つめ……スヴァルトのテントを見た。

「はぁ、私は……惚れているのだろうな」

 アンジェリーナはそう呟き、自分の胸を押さえた。
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