上 下
169 / 227

動き出すササライ

しおりを挟む
 魔界。
 忘却の魔王ササライが統治する国にある城、その玉座前に、七人の少年少女たちが跪いていた。
 そして、玉座の裏にある扉が開き、一人の少年が鼻歌を歌いながら歩いてくる。

「ふんふんふ~ん♪」

 ひどく機嫌がいい。
 そのままくるっと回転し、玉座にドカッと座る。
 脚を組み、大きく伸びをし───……手に持った・・・・・黄色の魔王宝珠・・・・・・・を手で弄んでいた。
 
「全員、楽にしていいよ」

 七人の部下たちは顔を上げる。
 『炎魔剣イフリート』を振るう少女、ヴェスタは小さく息を吐く。堅苦しいのが苦手なこの魔族の少女は、跪いたまま足をモジモジさせた。
 そして、ササライをチラッと見る。

「え……」

 手にあるのは、黄色の魔王宝珠。
 魔王宝珠とは? 魔族の王である四人の魔王が、核とは別に体内に持つ結晶。
 それが、なぜササライの手に?

「ん? ああこれ? パレットアイズの・・・・・・・・魔王宝珠・・・・だよ」

 七人はギョッとする。
 魔王ササライが、魔王パレットアイズを、始末したということか。

「あ、殺してないよ。あの子、ボクの手番だってのに、七聖剣士を殺しに行こうとしてたからさ……ちょいとお仕置きしただけ。デスゲイズの存在も教えてあげたら真っ蒼になってさー」
「主……デスゲイズって?」

 ヴェスタは首を傾げる。他の六人はヴェスタのように質問したり、態度には一切出さない。
 ササライは「あ、そうだよねー」と気楽に言う。

「んー、今の魔族で彼女を知ってる子はいないかぁ。そうだなー……デスゲイズは最強の魔王だよ。四大魔王じゃなくて、五大魔王って呼ばれていたころの魔王さ」
「え……」
「いやぁ、ほんとに強かったよ。当時のボク、パレットアイズ、バビスチェ、トリステッツァが束になってかかっても、傷一つ付けられないくらいね。ま、封印されたけど……あーんっ」

 ササライは、パレットアイズの魔王宝珠を飲み込んだ。
 そして、ニヤリと笑い、指をパチンと鳴らす。

「うん、いい感じ……くくくっ、やぁ~っとッボクの目的を達することができそうだ。でも、まだ馴染むまで時間かかりそうだ。人間たちも準備が必要だし、もう少し待つかな」
「……主?」
「さて、ここに宣言しようかな」

 ササライは指を鳴らすと、空中に四つの鏡が浮かび上がる。
 それぞれ、森林、砂漠、雪原、そして大都市と映る……これは、四大魔王が統治している領地と、そこに住む魔族たちがいる地域だ。
 
「えー、魔界に住む全ての魔族たち。ボクは忘却の魔王ササライ……今、この時を持って、四大魔王は無くなり、このボクが魔界を統治する魔王となりました」

 七人の部下たちがギョッとする。同時に、何人かは顔を喜びに染めた。
 ササライは続ける。

「えー、知っての通り、トリステッツァとバビスチェは死んで、パレットアイズもたった今、ボクが殺しました。つまり……みんなの力を取り込んだボクが最強ってワケ。部下だった魔界貴族たち、今この時を持って、キミたちの爵位を剥奪する。同時に、ボクの元へ下るなら新たな爵位と領地を授けるよ。それまで……魔界は、ボクが管理する」

 ササライは、左手の拳を握り、右手の平を拳に添えた。

「『魔王聖域アビス』展開」

 それは───……魔界全土を覆う、ササライの『聖域』だった。
 ササライの領地、パレットアイズの領地、バビスチェの領地、トリステッツァの領地の中心に建つ、巨大なる十字杭。その杭から発せられる魔力が、魔界を覆い尽くした。

「『大魔境統治圏シャングリラ』……ふぅ、魔界全土を覆うの、けっこうキツイなぁ」

 たった一人で、魔界全土を覆う《聖域》を展開しつつも、ササライは余裕だった。
 ヴェスタは眼をキラキラさせる。

「主、すごい……!!」
「あはは、ありがとね」
「でもでも、主の《聖域》ってこんなのだったっけ?」
「ま、ボクの本来の『魔王聖域アビス』じゃないよ。これは、この時のために開発してた『聖域』でね。魔族はボクの許可なしじゃ能力も、魔力も使えない。それと暴力もできない。魔王が三人もいなくなれば混乱は眼に見えてるからね。先手を打ったってわけ」
「おおー」
「とりあえず、一か月くらいは魔界の整理しなきゃね。七聖剣士たちも鍛えるだろうし、みんなの相手をするのはもう少し先」
「えー……」
「ごめんね。ちゃーんとみんなが楽しめるようにするからさ」
「むぅ」
「そうだなー……サスケ」
「はっ!!」

 サスケと呼ばれ立ち上がったのは、濃い緑色の『ニンジャ装束』を来た十七歳ほどの少年だった。
 マスクをしており口元が見えず、バンダナのように額宛てをしている。深緑色の瞳が、ササライをじっと見ていた。

「キミに偵察任務を与える。人間界に行って、七聖剣士の様子を見て来てよ。あー……一度だけ、一人だけなら戦いを許可する。もちろん、様子見でね」
「御意」
「……主、わたしは?」
「ヴェスタはボクの手伝いね」
「え~……」
「サスケ、セレネと協力して───……あれ、行っちゃったか」

 サスケは、すでにいなかった。
 
 ◇◇◇◇◇
 
 ズルズルと、ズタボロにされたパレットアイズが、地面を這っていた。
 胸に大きな穴が空き、魔王宝珠が奪われた。
 
「さ、サラい……」

 弱体化したパレットアイズと、トリステッツァとバビスチェの力を取り込んだササライ。戦うまでもなく、パレットアイズは敗北した。
 ササライの狙いは、最初からコレだった。
 いつか、人間が魔王を倒す……その時に、倒された魔王の力を吸収する。

「ゥ、ぅ……」

 幸いなことに、核は無事。
 だが、かなり弱体化した。公爵級程度まで弱くなり、傷の治療に全力を注いでいるため力が殆ど使えない。さらに、ササライが展開した『聖域』で、ササライは準備をしていたことを知る。
 魔界の統治。そもそもササライは、魔王ですら味方と思っていなかったようだ。
 だが───パレットアイズは、一つだけササライが気付いていないことを知っていた。

「…………記憶、戻ったわ」

 かつて、核が損傷した時。
 七聖剣士にやられたと偽りの記憶を埋め込まれたパレットアイズ。だが……その改ざんされた記憶が戻った。

「です、ゲイズ……」

 もう、彼女しかいない。
 パレットアイズは、記憶を改ざんされた時に残ったデスゲイズの僅かな魔力を導として、人間界のどこかにいる八咫烏を探すべく、魔界をあとにした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

Look like? オークそっくりだと言われる少女は女神の生まれ変わりだった

優陽 yûhi
ファンタジー
頭脳明晰、剣を持てば、学園はじまって以来の天才。 しかし魔法が使えずオークそっくりと言われる容姿で、周りから疎まれ、居ない者扱いされている少女エルフィナ。 しかしその容姿は悪神の呪いで、本当は醜いどころか王国中探しても、肩を並べる者がいない位、美しい少女だった。 魔法が使えないはずのエルフィナが妹の危機に無意識で放つ規格外の魔法。 エルフィナの前世は女神だった。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...