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涙が奏でる哀歌・嘆きの魔王トリステッツァ④/ショットガン

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 弓を構えた八咫烏ことロイを、顔中に青筋を浮かべたネルガルが睨んでいた。

「お、マエェェェェェェェ!!」
「…………転換コンバート

 七本の脚で、ガチャガチャと雪を掻き分けて走ってくる。
 両手の双剣を振り廻し、顔中に青筋を浮かべ、腕のない触手が四本生えたバケモノが襲い掛かってきたら、誰でもしり込みするだろう。
 だがロイは、思い出す。

『おとうさん、おとうさん……』

 ユノの、泣き顔を。
 今なお、上空にある『亀裂の入った空』から王都を見下ろす《涙の女神テューラ》を。
 怒り狂うネルガルとは正反対に、ロイはキレると冷静になるタイプ。
 一部が鎧化したコート、右目だけが露出した仮面、そして弓ではない、ロイ自身が戦う武器である『怒りの散弾銃ラース・ベネリ・ショットガン』を構え、スライドを引く。
 ガシャッと、弾丸が装填された。

「ダァァァァン!!」

 跳躍したネルガルが、双剣を交差に構えロイに向かって迫る。
 が───ロイは銃口を構え、馬鹿にしたように嗤った。

「的なんだよ、お前」

 ズドン!! と、散弾がばら撒かれた。
 ショットガンから発射されたのは《散弾》で、弾丸の中に小さな子弾が数十発入った弾丸だ。発射と同時に子弾がばら撒かれ、ネルガルの全身に食い込む。

「ウッギャァァァァ!? い、いだぁぁ!? イだいぃぃぃぃっ!?」

 全身から血を噴き出す。
 小さな弾丸は貫通せず、ネルガルの体内に残っていた。
 貫通すれば回復する。だが、弾が体内に残っているので、動くたびに全身が悲鳴を上げる。さらに、ネルガルの回復力は、一般的な魔族にも劣るほど弱い。
 血がボタボタ流れ、怒りと痛みに顔を歪めロイを睨む。
 ロイは───無言で薬莢を輩出し、次弾装填。

「お前は、絶対に許さない」
「アァァァァァァァァァ!? 許さないのは、こっち!!」

 双剣をガチャガチャ合わせ威嚇する。
 だがロイは、無言で引金を引いた。同時に、ネルガルの脚が一本、吹き飛ぶ。

「っぐっがぁぁぁぁぁぁぁ!! なん、何なんだソレェェェェェェ!!」
「お前の動きより速いだろ? ほら立てよ、お前が構えた瞬間、別の脚を吹き飛ばす」
「ナメんなぁぁぁぁぁぁぁん!! ブフゥゥゥゥゥッ!!」

 なんとネルガルは、口から黒煙を吐き出した。
 ロイは口を押さえ、一瞬で『狩人形態』へ転換し跳躍。
 ネルガルがいない───いや、いた。

「まずはこっちィィィィィィィ!!」
「「!!」」

 熱がさらに上がり、動くこともできなくなったスヴァルト、ロセだ。
 スヴァルトは、ロセに覆いかぶさり守ろうとしている。

「───」
『ッッ』

 それが、ユノとベアルドに重なったのか。
 ロイの殺気が雪よりも、氷よりも冷たくなったことにデスゲイズだけが気が付いた。

「大罪権能『憤怒ラース』形状変化」

 空中で『殺戮形態キラーフォーム』へ転換。
 ショットガンを空中でネルガルへ向ける。
 すると、ショットガンの形状が変わった。
 砲身が伸び、スコープが形成される。

「『怒りの狙撃銃ラース・ドラグノフ・スナイパー』」
『……なっ!?』
「弾丸装填。『貫きの魔弾ラプーア・マグナム』」

 この間、二秒。
 ロイはたった二秒で、武装の形状変化から装填までやってのけた。
 デスゲイズ、戦慄。
 空中で、ロイはネルガルの心臓に狙いを付けた。

「貫く」
「キャァァァッハッハッハッハッハッハぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 ネルガルは、もうロイを見ていない。
 自分の核の硬さに自信があるのか、それとも優先すべきは聖剣士を決めたのか。
 双剣を振り上げ、スヴァルトとロセを両断しようとした。
 そして、聞こえた───シャキッと、何かを引くような音。

「───」
「……ッ!!」

 空中で、漆黒の《筒》を構える八咫烏。
 引金が引かれ、弾丸が発射される。
 ネルガルが反応できない速度で発射された弾丸は、ネルガルの心臓に命中した。

「ぬ、っぎ、ぁ、ぁ……───ッ」

 ビキビキと、貫通に特化した弾丸が心臓に食い込んでいく。
 魔族最硬度と言われた《核》に、亀裂が入る。
 弾丸の威力は、まだ落ちない。

「い、や、死、ヌ……私、シネル!? あ、あははっ!! あははははははハハハハハは母は母は母はハハハハハハハッハハハハハハハッは母ァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」

 バギン!! と、弾丸がネルガルの心臓を破壊した。
 ネルガルは双剣を投げ捨て、青い炎に包まれた。
 ロイは着地。そして、燃えるネルガルに銃口を向ける……が。

「あぁ───やっと、死ねる」

 ネルガルの包帯が燃え、素顔があらわになる。
 焼けただれた顔だが、ネルガルは少女のように笑っていた。
 そして、その場でクルクルと回り出す。

「辛かった───苦しかった……ぁぁ……やっと、解放、される」

 全身が青い炎に包まれた。
 それでも、笑うことをやめない。
 ロイは、銃を下ろし、ネルガルを見つめる。

「おとう、さん───」

 そう呟き、ネルガルは燃え尽きた。
 傍にあった魔剣は、粉々に砕け散った。
 
「……お? 熱、消えたぜ」
「……す、スヴァルト。その、どいてくれない?」
「ん? ああ。悪い」

 スヴァルトは立ち上がり、ロセを起こす。
 ロセは、すぐに八咫烏の元へ。

「助けてくれて、ありがとうね」
『……ああ』
「チッ、テメェは何モンなんだ? 公爵級を一人でヤッちまいやがった」
『…………』
「だんまりかよ。ま、いいけどよ……とりあえず、感謝するぜ」

 スヴァルトは軽く礼を言った。
 ロセはクスっと笑う。
 八咫烏は、自分の側頭部を軽く押さえた。

『七聖剣士たちが戦っている。援護をしに行くぞ』
「七聖剣士……まさか、サリオスくんたちが!?」
「チッ、普段は信じねぇが、今回は別だ。行くぞ!!」
「スヴァルト、あなた怪我は」
「んなこと言ってる場合か!!」

 スヴァルト、ロセは来た道を引き返す。
 ロイも、その後を追った。
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