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涙が奏でる哀歌・嘆きの魔王トリステッツァ②/リベンジ

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 八咫烏が部屋を出て数分……スヴァルトは、ユノの家を出た。
 それを追い、ロセも家を出る。

「どうするの?」
「殺す」

 シンプルすぎる返答だった。
 もちろん、殺すのは魔王と、疫病のネルガル。
 顔に思いっきり出ている。スヴァルトは、親しくもない、挨拶したばかりの『氷聖剣』の使い手が泣いているのを見て、本気で頭にきている。
 ぶっきらぼうだが優しい。そんなスヴァルトがロセは好きだった。

「まずは、この疫病を収束させましょう。ワクチンサンプルはもう四つ集まっているし、残りは一つ。魔界貴族公爵『疫病』のネルガル……彼女を倒す」
「ああ。行くぞ」
「ええ。って……サリオスくんたちは?」
「泣き虫の『氷聖剣』置いて行くわけにいかねーだろ。オレとお前でブチ殺しに行く」
「わ、私と二人で?」
「なんだ、自信ねぇのか? 妙な期待してんなら全部終わってからにしな。ベッドの空きくらいオレが用意してやるからよ」
「ば、馬鹿なこと言わないで!! まったくもう……」
「へっ」

 スヴァルトは歩きだす。
 ロセも、後に続く。
 すると、ユノの家からサリオスが飛び出してきた。

「先輩!! オレも行きます」
「おめーは『氷聖剣』の傍にいな」
「で、でも」
「サリオスくん。ユノちゃんを、エレノアちゃんを守ってあげて」
「……っ、オレは」
「?」

 サリオスは、ロセをジッと見る。
 ロセは首を傾げた。縋るような、名を呼んで欲しいような、そんな目をしている。
 だが、ロセは言った。

「サリオスくん。前を向いて歩くだけじゃダメ。泣いている女の子を置いて行くのは、もっとダメよ?」
「───っ、オレは……」
「サリオスくん。おねがい」
「…………っ」

 サリオスは、小さく頷いた。
 ロセは微笑み、スヴァルトの隣に並んで歩きだす。
 二人が見えなくなり、サリオスはポツリと呟いた。

「オレは……あなたを、守りたいんです……ロセ先輩」

 初恋の苦しさに胸を押さえ、好きな人の信頼に応えるためにサリオスは家の中に戻った。

 ◇◇◇◇◇

「…………エレノア、ありがと」
「ユノ……」

 ユノはようやく泣き止み、目元をこする。
 すると、サリオスが部屋に入ってきた。手にはスコップを持っている。

「……埋葬、してやろう」
「……うん。ありがと、サリオス」
「あたしも手伝う」

 三人で協力し、家の隣に穴を掘ってベアルドを埋葬。
 エレノアは、近くの岩場から大きな墓石代わりの岩石を担いで運び、サリオスが聖剣で形を整え、ユノが墓石に文字を掘った。
 お供えに、家にあった酒瓶を置いた。

「ごめんね、お花……今度、持ってくる」

 ユノは墓石を撫で、再び涙を流す。
 今度は泣き叫ばず、目を閉じて静かに涙を流していた。
 エレノア、サリオスは無言。右手を胸に当て、故人を送る黙祷を捧げる。

「……二人とも、ありがと」
「……ユノ、無理をするな。オレとエレノアは行くけど、お前はここに」
「やだ。いつまでも泣いてたら、おとうさんに怒られる。わたしは、『氷聖剣』の使い手だから……この国を守るために、戦う」

 フリズスキャルヴを抜き、掲げる。
 エレノアもフェニキアを掲げ、サリオスもサザーランドを掲げた。

「ベアルド殿に誓う。必ず、レイピアーゼ王国を守り抜くと」
「あたしも誓う……ユノと一緒に、最後まで戦う」
「わたしも、誓う……おとうさんに恥じない娘として、戦い抜くことを」

 三人は剣を合わせた。
 同い年、同期の三人の誓いが、ベアルドの墓前で交わされた。
 剣をしまい、サリオスは言う。

「ロセ先輩たちは、まずこの疫病騒ぎを収束させるみたいだ」
「じゃあ、狙いは……最後のワクチンサンプルね!」
「公爵?」
「ああ。スヴァルト先輩は気配探知に優れている。きっと、公爵級を───「危ない!!」

 エレノアが聖剣を抜き、飛んできた何かを叩き落した。
 それは、透き通った骨。
 サリオスめがけて飛んできたのは、鳥の骨格標本だった。

「び、ビックリした……え、エレノア、ありがとう」
「お礼は後で。見て……おでましよ」

 森から現れたのは、透き通った骨の軍団。
 ヒト、犬、猫、クマ、虎、ウサギ、鷹、ワシ……動物の骨格標本だ。
 骨は白くない。透き通った水色の骨。
 それが、まるで生きているかのように動き、エレノアたちの前に立ちはだかる。
流す涙のない骨人ダクリュオン』が、エレノアたちに向かって来た。

「悪いけど、マジでイラついてるから」

 エレノアがバーナーブレードを展開。

「構っている暇はない!!」

 サリオスが双剣を構える。

「…………」

 ユノは無言で鞭剣を展開。
 向かってくる『流す涙のない骨人ダクリュオン』を相手に、戦いが始まった。

 ◇◇◇◇◇

 破裂音が、何度も響き渡る。
 ロイの手にある『怒りの散弾銃ラース・ベネリ・ショットガン』から放たれる『散弾』が、向かって来る『流す涙のない骨人ダクリュオン』をまとめて吹き飛ばしていた。

『オォォォォォォォ───……』
「邪魔」

 骨だけなので声が出ないのか、巨大なゾウ魔獣の骨格標本が、骨を鳴らして向かってくる。

「大罪権能『憤怒ラース』装填」

 ロイの右手に、銃弾が現れた。
 現れたのは、大口径の散弾。

「『怒りの短弾イーラ・スラッグ』」

 それを、ショットガンに込めてスライドを引き、ゾウの骨めがけて引金を引く。
 両手で構えたショットガンから放たれた短発の弾丸がゾウを貫通し、粉々に砕いた。

『素晴らしい……!! まさか、これほどの威力とは。これなら、ネルガルの核も撃ちぬけるかもしれんぞ』
「かもしれん、じゃない……ブチ抜くんだよ」

 スライドを弾くと、薬莢が排出される。
 落ちた薬莢は、粒子となって消えた。
 ロイは、上空を飛びまわる鷹を見る。
 万象眼で視界を共有し、数キロ後ろにスヴァルト、ロセを確認……そして。

「───……!!」
『む、どうした?』
「いる……ロセ先輩たちの後ろに、ネルガルが!!」
『何!?』

 スヴァルトたちの真後ろに、ネルガルがいた。
 二人は気付いていない。

「……クソっ!! 先輩たち、気付け!!」

 二人は気付いていない。
 ロセ、スヴァルトの二人に、魔界貴族公爵『疫病』のネルガルが迫っていた。
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