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魔界貴族伯爵位『魔甲』のベルーガ④
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「───む?」
エレノアの首をへし折ろうとしていたベルーガは、僅かな異変に気付いた。
チラリと、壁の方を見る。中からは見えないが、建物を覆うように『魔甲』が展開されている。
『魔甲』
ベルーガの使う、魔族の『能力』のような物。
魔界貴族にはそれぞれ、固有能力がある。ベルーガは自らの魔力を六角形の盾として展開し、一つ一つを自在に操作できる。さらに、魔甲の硬度は模造聖剣の程度では傷が付くことはない。今の時代ではない、大昔の聖剣士と戦った時、光聖剣サザーランドの一撃を防いだこともあった。
自慢の盾。主であるササライにも褒められたことがある、ベルーガの誇り。
そんな『魔甲』の一枚に、小石がぶつかったような感触があった。
「…………ふむ」
ベルーガは考えた。
このままエレノアを殺すのもいい。
だが、高度な偽装魔法で覆っているはずの『魔甲』に、何かがぶつかったのが気になった。鳥がぶつかったのなら、肉の感触がするだろうし、小石がぶつかったのなら、それほどの衝撃ではない。
なら、聖剣の一撃?……あり得ない。過去の聖剣士ですら、ベルーガの偽装を破ったことはない。
この衝撃は、鋭い何かが当たった衝撃だ。
「ああ、聞いてもよろしいですか?」
「……ッ」
「現在、ここには三人の聖剣士がいます。残りの四人は?」
「……し、らない、わよ」
「ふーむ」
本当だった。
この聖剣レジェンディア学園の生徒会長が『地聖剣』の所有者ということくらいしか、今のエレノアにはわからない。
エレノアの眼を見て真実とわかったのか、ベルーガは。
「む?」
すると───再び、衝撃。
一回、二回……そして、真上から三回目。
完全に、人為的な何かだった。
だが、妙だ。なぜこんな、回りくどい……チマチマとした『何か』を仕掛けてくるのか。
ベルーガは、この行為が『舐められている』と感じた。
「やれやれ。こちらで楽しむ前に、クソのようなコバエを始末する方が先、ですか」
「あぅっ!?」
エレノアの首から手が離れ、床に落ちた。
エレノアはせき込み、裸の上半身を手で隠す。すると、ベルーガが魔剣を手に、入口へ向かって歩きだすのを見た。
「……外に、誰かいるの?」
何故だろうか。
エレノアは、思ってしまった。
「…………ロイ?」
◇◇◇◇◇
ベルーガは入口の傍まで向かい、入口を覆っている『魔甲』に触れた。
すると、外に数枚の『魔甲』が現れ、クルクル回転し始める。
「さて、この魔剣の力を発揮しましょうか」
魔剣を掲げると、外で回転している『魔甲』に込めた魔力が、一気に膨れ上がる。
『増幅』……試作型の魔剣に搭載された、シンプルな能力。込めた魔力を三倍にするだけの能力だと、ササライは言っていた。だが、もともとの魔力が大きいベルーガの魔力が、三倍になったら?
それだけでも、かなりの脅威。
「索敵」
魔甲が、パーティー会場内をグルグル回る。
それぞれが、ベルーガの眼でもある魔甲だ。周囲を調べていく……建物周辺、近くの公園、建物の影、隙間、さらに木の上や藪も調べた。
「ふむ、半径500メートル以内に不審者はいない」
ベルーガは考えた。
「なるほど。気配遮断か、姿を消す能力の聖剣ですか。直接攻撃してこないのは時間稼ぎ……他の聖剣士を呼ぶのだな。ふふ、くだらん小細工を」
そう呟き、ベルーガは笑う。
聖剣士の小細工なぞ、意に介さない。それは自信であり───慢心だった。
なぜなら、半径500メートル以内に聖剣士なんて存在しない。
存在するのは───。
「…………」
1000メートル先で、漆黒の弓を構える『狩人』なのだから。
◇◇◇◇◇
ロイは、1000メートル先にいるベルーガを視認した。
ベルーガは、聖剣士の小細工と断定したのだろう。デスゲイズは言う。
『お前の狙いは、奴を誘い出すことか』
「半分正解。そして、いい位置まで誘い出すことが俺の狙いだ。まさか……聖剣が最強の世界で、弓矢で攻撃する奴なんていないからな。だからこそ……隙が生まれる」
ロイは聞く。
「デスゲイズ、切り札……お前の『権能』を使うぞ」
『ああ。ククク、見せてやれ、大罪の魔王デスゲイズ第一の権能、『暴食』を』
「わかった」
ロイは、矢筒に手を伸ばして矢を掴む。
「大罪権能『暴食』装填」
すると、矢筒から現れたのは……漆黒の矢。
鏃の部分が上顎と下顎のような形をしており、まるで魔獣の口のようだ。さらに、口の中からねじれたようなツノが伸びている。
『外すなよ。今のお前では、一日一発だけしか使用できん』
「ふぅん」
『……本当に、わかっているのか?』
「ああ」
そう言いながら、ロイは矢を番えた。
冷酷な眼差し、一切迷いのない動作。震え一つ起こさず、瞬きもない。
魔力操作により爆発的に向上した視力は、パーティー会場の入口を背にしてエレノアの元へ歩くベルーガの背をしっかりとらえていた。
今の位置が、非常にいい。
ベルーガを挑発し、入口まで誘導する。
狩りでもよく使う戦法だ。あえて獲物を挑発し、狙いやすいポイントまで誘導する。ロイにとって、日常的な狩りに変わりない。
デスゲイズは、声に出さず確信していた。
「───魔族の思考も、その辺の魔獣と変わりない。俺にとっては……ただの獲物だ」
矢が放たれた。
漆黒の矢は、真っすぐ飛ぶのではなく、気流を計算したロイの絶妙なタイミングで放たれ、下から上に向かって飛び、パーティー会場の入口に向かって飛んだ。
◇◇◇◇◇
ベルーガは、聖剣士の小細工など異に介さないと思っていたが、やはり面倒なことは勘弁……そう思い、三人の聖剣士を抹殺し、早々に立ち去ることにした。
まず、エレノアの元へ向かい、魔剣を掲げる。
「申し訳ないが……少々遊び過ぎた。この辺りで、幕を下ろそうか」
「く……」
「ではレディ。聖剣に選ばれたことを呪いたまえ───」
魔剣が振り下ろされる。
ベルーガはニコニコ笑っていた。
エレノアは、もう何もできない。剣を受け止めることも、避けることも。
振り下ろされる瞬間、エレノアが想ったのは……家族のことでも、学園のことでも、聖剣のことでもない。
───ロイ。
幼馴染と過ごした、かけがえのない日々。
弟のようで、兄のようで……恋人のような、そんな存在。
ああ、きっと……これが、初恋なのだ。
もう、想いを伝えることはできないけど。
エレノアは、最後に少しだけ微笑み、呟いた。
「ロイ、がんばってね」
炎聖剣の柄をギュッと握り、エレノアは魔剣を受け入れようと───。
◇◇◇◇◇
『───エレノア!!』
◇◇◇◇◇
次の瞬間。
『魔甲』の一部が消え、飛んできた『何か』がベルーガの右腕を肘から食い千切った。
「え?」
『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァス!!』
ぼとりと、食い千切られた腕がベルーガの足元に落ち、カランカランと魔剣が転がった。
ベルーガの目の前にあったのは、ガチガチと咀嚼するような音。それは、鏃の上顎と下顎を噛みあわせる、『矢』のような何か。
矢が、肉食獣のような唸り声をあげ、ベルーガの腕を食い千切った。
ブッワ───っと、ベルーガは真っ蒼になり千切れた腕から大量出血する。
「ぐ、ァァァァァァァァァァ!? わ、私の、腕、ッガァァァァァァァァァァ!?」
ポカンとするエレノア。
何があったのか? 全く理解ができない。
そして、聞こえた。
「エレノア、今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───っ!!」
「───ッ!!」
エレノアに応えるよう、炎聖剣の刀身が真っ赤に輝いた。
腕を失い、動転するベルーガ。
エレノアは立ち上がり、思い切り腕を振り上げ、力いっぱい振り下ろした。
「ティラユール流剣術!! 『一刀両断』!!」
「!?」
ズバアン!! と、縦に一刀両断されたベルーガ。
すると、心臓付近にあった小さな赤い結晶のような物も真っ二つにしたのをエレノアは見た。
「あ、あぁぁ!? かか、《核》が、あぁ、あぁ、ァァァァァァァァァァ───!!」
ベルーガの身体に青い火が付き、そのまま一気に燃え上がる。
そして、灰すら残らずベルーガは消滅。同時に、転がった魔剣も砕け散り、消えた。
「…………か、ったの?」
胸を隠すのを忘れ、茫然としたままのエレノアは……すでに消えた入口付近の『魔甲』を見た。
壊すことも、斬ることもできなかった『魔甲』を貫通し、何かがベルーガの腕を喰らった。
そして、聞こえてきたのは……ロイの声。
「…………ロイ?」
エレノアは、気付けば走り出していた。
◇◇◇◇◇
「……さすがエレノア。俺の声、聞こえた……わけ、ないよな」
ロイは、デスゲイズを見ながら言う。
『聞こえるワケがないだろう。というか、姿を隠してここに潜んでいたのに、最後の最後で絶叫するとはなぁ』
「うるさいな。それにしても、『暴食』の矢、すごいな」
『ふふふ。「暴食」の矢こと、「魔喰矢」は、あらゆるモノを無限に喰らう。魔力も、肉も、聖剣も、魔族も、能力も……概念すら喰らう力だ。「魔甲」程度、簡単に破れるわ。今のお前では肉と魔力しか食えんだろうがな』
「ほかにも食えるのか?」
『今後の成長次第、といったところか』
「そうか……」
『……それにしても、どうして腕を狙った? 頭部か心臓を狙えば終わっていた。エレノアにトドメを任せたのはなぜだ?』
「……エレノアは、たぶん諦めていなかった」
ロイは、空を見上げた。
いつの間にか、空は綺麗な星空が輝いている。
「みんな、絶望していた。その、漏らした奴もいっぱいいるし、泡拭いたり、気絶してる奴も多かった。でも、エレノアは……エレノアだけは、聖剣を握っていた。だから最後は、エレノアに任せようかと思ったんだ」
『偶然、魔族の弱点である『核』を断ち切ったからいいものを……エレノアが攻撃しなかったらどうするつもりだった?』
「その時は、俺がトドメ刺してたさ」
『フン、よく言うわ』
ロイは、手すりから降りた。
そのまま手すりに寄りかかり、もう一度空を見上げた。
「聖剣士、か……」
『未練はないのだろう?』
「ああ。その……意外とさ、俺って狙撃うまかったりする?」
『……………………冗談には付き合えんぞ』
こいつは、自分が神業級の腕前だと気付いていない。
そして、もう狩人の顔をしていない。
だからこそ───気付いていない。
「ロイ!!」
「え」
見張り塔の頂上。ドアが開かれ、エレノアが入ってきた。
「やっぱり、あんただったのね……」
「あ、いや。え、なんでここに」
「炎聖剣。これ持っていると、『熱源』っていうか、人の位置がなんとなくわかるのよ」
『ほう、少しは聖剣の力を引き出せるようになったか』
デスゲイズがそう言う。
今のロイは、ローブに仮面、弓を手にしている。誰がどう見ても狩人だ。
「あんた、何したの? 弓はわかるけど……あの防御魔法をどうやって突破したの!?」
「いや、その、話せば長く───……ぅ」
「ロイ?」
「…………まぁ、その、うん。えっと」
「何ドモッてるのよ」
ロイは、ちらちらとエレノアを見て顔を真っ赤にする。
エレノアは、首を傾げて腰に手を当ててた。
「あの、その……む、胸」
「え?」
今のエレノアは、上半身裸。
ベルーガにドレスを破かれ、大きな胸が露わになった状態だった。
そんなことにも気付かぬまま、エレノアはロイの前に立っている。
「…………」
「あ、その」
「…………っき」
「ごめんなさい!!」
エレノアの絶叫が見張り塔に響き渡り、強烈なビンタをロイは食らった。
エレノアの首をへし折ろうとしていたベルーガは、僅かな異変に気付いた。
チラリと、壁の方を見る。中からは見えないが、建物を覆うように『魔甲』が展開されている。
『魔甲』
ベルーガの使う、魔族の『能力』のような物。
魔界貴族にはそれぞれ、固有能力がある。ベルーガは自らの魔力を六角形の盾として展開し、一つ一つを自在に操作できる。さらに、魔甲の硬度は模造聖剣の程度では傷が付くことはない。今の時代ではない、大昔の聖剣士と戦った時、光聖剣サザーランドの一撃を防いだこともあった。
自慢の盾。主であるササライにも褒められたことがある、ベルーガの誇り。
そんな『魔甲』の一枚に、小石がぶつかったような感触があった。
「…………ふむ」
ベルーガは考えた。
このままエレノアを殺すのもいい。
だが、高度な偽装魔法で覆っているはずの『魔甲』に、何かがぶつかったのが気になった。鳥がぶつかったのなら、肉の感触がするだろうし、小石がぶつかったのなら、それほどの衝撃ではない。
なら、聖剣の一撃?……あり得ない。過去の聖剣士ですら、ベルーガの偽装を破ったことはない。
この衝撃は、鋭い何かが当たった衝撃だ。
「ああ、聞いてもよろしいですか?」
「……ッ」
「現在、ここには三人の聖剣士がいます。残りの四人は?」
「……し、らない、わよ」
「ふーむ」
本当だった。
この聖剣レジェンディア学園の生徒会長が『地聖剣』の所有者ということくらいしか、今のエレノアにはわからない。
エレノアの眼を見て真実とわかったのか、ベルーガは。
「む?」
すると───再び、衝撃。
一回、二回……そして、真上から三回目。
完全に、人為的な何かだった。
だが、妙だ。なぜこんな、回りくどい……チマチマとした『何か』を仕掛けてくるのか。
ベルーガは、この行為が『舐められている』と感じた。
「やれやれ。こちらで楽しむ前に、クソのようなコバエを始末する方が先、ですか」
「あぅっ!?」
エレノアの首から手が離れ、床に落ちた。
エレノアはせき込み、裸の上半身を手で隠す。すると、ベルーガが魔剣を手に、入口へ向かって歩きだすのを見た。
「……外に、誰かいるの?」
何故だろうか。
エレノアは、思ってしまった。
「…………ロイ?」
◇◇◇◇◇
ベルーガは入口の傍まで向かい、入口を覆っている『魔甲』に触れた。
すると、外に数枚の『魔甲』が現れ、クルクル回転し始める。
「さて、この魔剣の力を発揮しましょうか」
魔剣を掲げると、外で回転している『魔甲』に込めた魔力が、一気に膨れ上がる。
『増幅』……試作型の魔剣に搭載された、シンプルな能力。込めた魔力を三倍にするだけの能力だと、ササライは言っていた。だが、もともとの魔力が大きいベルーガの魔力が、三倍になったら?
それだけでも、かなりの脅威。
「索敵」
魔甲が、パーティー会場内をグルグル回る。
それぞれが、ベルーガの眼でもある魔甲だ。周囲を調べていく……建物周辺、近くの公園、建物の影、隙間、さらに木の上や藪も調べた。
「ふむ、半径500メートル以内に不審者はいない」
ベルーガは考えた。
「なるほど。気配遮断か、姿を消す能力の聖剣ですか。直接攻撃してこないのは時間稼ぎ……他の聖剣士を呼ぶのだな。ふふ、くだらん小細工を」
そう呟き、ベルーガは笑う。
聖剣士の小細工なぞ、意に介さない。それは自信であり───慢心だった。
なぜなら、半径500メートル以内に聖剣士なんて存在しない。
存在するのは───。
「…………」
1000メートル先で、漆黒の弓を構える『狩人』なのだから。
◇◇◇◇◇
ロイは、1000メートル先にいるベルーガを視認した。
ベルーガは、聖剣士の小細工と断定したのだろう。デスゲイズは言う。
『お前の狙いは、奴を誘い出すことか』
「半分正解。そして、いい位置まで誘い出すことが俺の狙いだ。まさか……聖剣が最強の世界で、弓矢で攻撃する奴なんていないからな。だからこそ……隙が生まれる」
ロイは聞く。
「デスゲイズ、切り札……お前の『権能』を使うぞ」
『ああ。ククク、見せてやれ、大罪の魔王デスゲイズ第一の権能、『暴食』を』
「わかった」
ロイは、矢筒に手を伸ばして矢を掴む。
「大罪権能『暴食』装填」
すると、矢筒から現れたのは……漆黒の矢。
鏃の部分が上顎と下顎のような形をしており、まるで魔獣の口のようだ。さらに、口の中からねじれたようなツノが伸びている。
『外すなよ。今のお前では、一日一発だけしか使用できん』
「ふぅん」
『……本当に、わかっているのか?』
「ああ」
そう言いながら、ロイは矢を番えた。
冷酷な眼差し、一切迷いのない動作。震え一つ起こさず、瞬きもない。
魔力操作により爆発的に向上した視力は、パーティー会場の入口を背にしてエレノアの元へ歩くベルーガの背をしっかりとらえていた。
今の位置が、非常にいい。
ベルーガを挑発し、入口まで誘導する。
狩りでもよく使う戦法だ。あえて獲物を挑発し、狙いやすいポイントまで誘導する。ロイにとって、日常的な狩りに変わりない。
デスゲイズは、声に出さず確信していた。
「───魔族の思考も、その辺の魔獣と変わりない。俺にとっては……ただの獲物だ」
矢が放たれた。
漆黒の矢は、真っすぐ飛ぶのではなく、気流を計算したロイの絶妙なタイミングで放たれ、下から上に向かって飛び、パーティー会場の入口に向かって飛んだ。
◇◇◇◇◇
ベルーガは、聖剣士の小細工など異に介さないと思っていたが、やはり面倒なことは勘弁……そう思い、三人の聖剣士を抹殺し、早々に立ち去ることにした。
まず、エレノアの元へ向かい、魔剣を掲げる。
「申し訳ないが……少々遊び過ぎた。この辺りで、幕を下ろそうか」
「く……」
「ではレディ。聖剣に選ばれたことを呪いたまえ───」
魔剣が振り下ろされる。
ベルーガはニコニコ笑っていた。
エレノアは、もう何もできない。剣を受け止めることも、避けることも。
振り下ろされる瞬間、エレノアが想ったのは……家族のことでも、学園のことでも、聖剣のことでもない。
───ロイ。
幼馴染と過ごした、かけがえのない日々。
弟のようで、兄のようで……恋人のような、そんな存在。
ああ、きっと……これが、初恋なのだ。
もう、想いを伝えることはできないけど。
エレノアは、最後に少しだけ微笑み、呟いた。
「ロイ、がんばってね」
炎聖剣の柄をギュッと握り、エレノアは魔剣を受け入れようと───。
◇◇◇◇◇
『───エレノア!!』
◇◇◇◇◇
次の瞬間。
『魔甲』の一部が消え、飛んできた『何か』がベルーガの右腕を肘から食い千切った。
「え?」
『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァス!!』
ぼとりと、食い千切られた腕がベルーガの足元に落ち、カランカランと魔剣が転がった。
ベルーガの目の前にあったのは、ガチガチと咀嚼するような音。それは、鏃の上顎と下顎を噛みあわせる、『矢』のような何か。
矢が、肉食獣のような唸り声をあげ、ベルーガの腕を食い千切った。
ブッワ───っと、ベルーガは真っ蒼になり千切れた腕から大量出血する。
「ぐ、ァァァァァァァァァァ!? わ、私の、腕、ッガァァァァァァァァァァ!?」
ポカンとするエレノア。
何があったのか? 全く理解ができない。
そして、聞こえた。
「エレノア、今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───っ!!」
「───ッ!!」
エレノアに応えるよう、炎聖剣の刀身が真っ赤に輝いた。
腕を失い、動転するベルーガ。
エレノアは立ち上がり、思い切り腕を振り上げ、力いっぱい振り下ろした。
「ティラユール流剣術!! 『一刀両断』!!」
「!?」
ズバアン!! と、縦に一刀両断されたベルーガ。
すると、心臓付近にあった小さな赤い結晶のような物も真っ二つにしたのをエレノアは見た。
「あ、あぁぁ!? かか、《核》が、あぁ、あぁ、ァァァァァァァァァァ───!!」
ベルーガの身体に青い火が付き、そのまま一気に燃え上がる。
そして、灰すら残らずベルーガは消滅。同時に、転がった魔剣も砕け散り、消えた。
「…………か、ったの?」
胸を隠すのを忘れ、茫然としたままのエレノアは……すでに消えた入口付近の『魔甲』を見た。
壊すことも、斬ることもできなかった『魔甲』を貫通し、何かがベルーガの腕を喰らった。
そして、聞こえてきたのは……ロイの声。
「…………ロイ?」
エレノアは、気付けば走り出していた。
◇◇◇◇◇
「……さすがエレノア。俺の声、聞こえた……わけ、ないよな」
ロイは、デスゲイズを見ながら言う。
『聞こえるワケがないだろう。というか、姿を隠してここに潜んでいたのに、最後の最後で絶叫するとはなぁ』
「うるさいな。それにしても、『暴食』の矢、すごいな」
『ふふふ。「暴食」の矢こと、「魔喰矢」は、あらゆるモノを無限に喰らう。魔力も、肉も、聖剣も、魔族も、能力も……概念すら喰らう力だ。「魔甲」程度、簡単に破れるわ。今のお前では肉と魔力しか食えんだろうがな』
「ほかにも食えるのか?」
『今後の成長次第、といったところか』
「そうか……」
『……それにしても、どうして腕を狙った? 頭部か心臓を狙えば終わっていた。エレノアにトドメを任せたのはなぜだ?』
「……エレノアは、たぶん諦めていなかった」
ロイは、空を見上げた。
いつの間にか、空は綺麗な星空が輝いている。
「みんな、絶望していた。その、漏らした奴もいっぱいいるし、泡拭いたり、気絶してる奴も多かった。でも、エレノアは……エレノアだけは、聖剣を握っていた。だから最後は、エレノアに任せようかと思ったんだ」
『偶然、魔族の弱点である『核』を断ち切ったからいいものを……エレノアが攻撃しなかったらどうするつもりだった?』
「その時は、俺がトドメ刺してたさ」
『フン、よく言うわ』
ロイは、手すりから降りた。
そのまま手すりに寄りかかり、もう一度空を見上げた。
「聖剣士、か……」
『未練はないのだろう?』
「ああ。その……意外とさ、俺って狙撃うまかったりする?」
『……………………冗談には付き合えんぞ』
こいつは、自分が神業級の腕前だと気付いていない。
そして、もう狩人の顔をしていない。
だからこそ───気付いていない。
「ロイ!!」
「え」
見張り塔の頂上。ドアが開かれ、エレノアが入ってきた。
「やっぱり、あんただったのね……」
「あ、いや。え、なんでここに」
「炎聖剣。これ持っていると、『熱源』っていうか、人の位置がなんとなくわかるのよ」
『ほう、少しは聖剣の力を引き出せるようになったか』
デスゲイズがそう言う。
今のロイは、ローブに仮面、弓を手にしている。誰がどう見ても狩人だ。
「あんた、何したの? 弓はわかるけど……あの防御魔法をどうやって突破したの!?」
「いや、その、話せば長く───……ぅ」
「ロイ?」
「…………まぁ、その、うん。えっと」
「何ドモッてるのよ」
ロイは、ちらちらとエレノアを見て顔を真っ赤にする。
エレノアは、首を傾げて腰に手を当ててた。
「あの、その……む、胸」
「え?」
今のエレノアは、上半身裸。
ベルーガにドレスを破かれ、大きな胸が露わになった状態だった。
そんなことにも気付かぬまま、エレノアはロイの前に立っている。
「…………」
「あ、その」
「…………っき」
「ごめんなさい!!」
エレノアの絶叫が見張り塔に響き渡り、強烈なビンタをロイは食らった。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
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