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第九章

翆獣と怪鳥、緑と羽

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 フェニアは、グリフォンの背中でブチ切れていた。

「あんにゃろぉぉぉっ!! めっちゃムカつくぅぅぅっ!!」

 場所は上空。
 現在、巨大怪鳥ことフレースヴェルグに追われていた。
 ただ追われていたならいくらでも対処のしようがある。だが……厄介なことに、フレースヴェルグの『能力』がフェニアとグリフォンを捉えていたのだ。

『クゥゥォォォォーーーーンッ!!』
「やばい!! グリフォン、『風玉』!!」
『キュィィっ!!』

 怪鳥フレースヴェルグが羽ばたくと、その翼から灰色の羽がばら撒かれる。
 その羽は、意志を持ったかのように空を駆け、狙ったかのようのフェニアとグリフォンの元へ。
 グリフォンは、エメラルドグリーンの風を球状にして自身を覆う。これにより、羽は全て撃ち落とされたのだが……この攻撃が予想以上に激しく、フェニアとグリフォンは攻撃できないでいた。

「あぁもう!! あの羽厄介すぎぃ!! いつの間にかアースガルズ王国があんなに遠く……カッコつけたはいいけど、この魔獣かなり手ごわい……!!」

 フェニアの攻撃手段はグリフォンの風のみ。サフィーのように氷で武器を作り自身が使うということはできない。なので、防戦一方な今の状況ではかなり不利だった。
 さらに、場所は上空。
 空中戦ならS級最強と自負しているフェニア。だが、フレースヴェルグは巨体に合わず相当なスピードで、グリフォンよりやや遅い程度。背後にぴったり付かれ、羽を何度も飛ばしてくる。
 フェニアは悟っていた。

「こいつ……遊んでる」

 そう、フレースヴェルグは遊んでいた。
 ジワジワ、ジワジワと……フェニアとグリフォンを疲弊させている。
 それがフェニアの癇に障った。そう、フェニアはサフィーと違う。
 
「ふっざけんじゃないわよ!! グリフォン、方向転換!!」
『キュイ!?』
「必殺、『グリフィンブレイカー』を使う。覚悟決めなさい」
『……きゅい?』

 マジで?
 グリフォンはそう呟いた。
 グリフィンブレイカーとは、サフィーやアネルとの訓練で身につけた必殺技の一つ。
 必殺技といっても、最大出力で風を纏い突っ込むだけのニュクスプルな技だ。
 フェニアは、勝負に出ることに決めた。これ以上、無駄な時間はかけられない。

「そこのデカい鳥!! 決着つけるわよ!!」
『…………』

 フレースヴェルグは、ニヤリと笑った。
 すると、巨大な翼を何度も羽ばたかせ、大量の羽をばら撒く。
 羽は意志を持ったように集まり、巨大な渦を巻く球体へと成る。
 グリフォンもまた、全身に風を纏い、エメラルドグリーンの球体へ。
 翼を広げ、透き通った鳴き声をとどろかせた。

『キュォォーーーン!!』
「いくわよ!! 必殺、『グリフィンブレイカー』!!」

 風を纏い───フェニアとグリフォンは飛んだ。
 そして、フレースヴェルグの『羽球』も放たれる。
 だが───フェニアは間違えていた。

「えっ」

 グリフォンと『羽球』が衝突した瞬間、グリフォンの風が霧散したのだ。
 意味がわからなかった。
 単純に、力が上というわけではない。

「まさか───」

 フェニアの悪い癖。
 短気で喧嘩っ早い。
 学園に入学してなりを潜めていたが、本来フェニアは短気だった。アルフェンと何度も喧嘩したし、リグヴェータ領地に住む子供たちと喧嘩したことも多い。
 フェニアは、短気であるが故。単独での戦いでは短期決戦を望む傾向が強い。
 だからこそ、読みが浅い。
 フレースヴェルグの能力は羽の操作ではない。

「能力───!?」
『キュォォーーーーーーン!!』

 無数の羽がグリフォンを刻む。だがグリフォンは全力で離脱……フェニアも、何発か羽をもらい血が出ていた。
 フレースヴェルグの能力は『相殺』だ。
 能力による現象に羽をぶつけることで、その威力を相殺することができる。
 フェニアの風に触れた瞬間、その威力を相殺……打ち消された。
 
「う、ぁ……」

 フェニアは、右足と腕に刺さった羽を力任せに抜いた。
 血が出る……制服を破り止血。
 全て、自分の浅さが招いた結果だった。
 
「グリフォン……大丈夫?」
『キュゥゥ』

 グリフォンも無傷ではない。
 身体に小さな羽が刺さり、血も出ている。
 そして、フレースヴェルグは再び羽ばたく。すると、羽が舞う。
 そろそろ、決着の時間である。

「……やっばい」

 フェニアとグリフォンを助ける仲間は、ここにいない。

 ◇◇◇◇◇◇

 怪我の具合を確かめる。
 腕と足から血が出ている。擦過傷も多く、くらくらした。
 グリフォンも同じくらい怪我をしていた。
 だが、血の気の多いフェニアは、痛みを怒りに変えて叫ぶ。

「グリフォン!! ごめん!! でも、こんなところで負けないよね!!」
『クォォォ!!』
「あのデカい鳥め……あたしたちを舐めんなっ!!」

 フェニアは逃げるのをやめた。
 逃げながらではなく、戦いながら攻撃を回避する。
 フレースヴェルグは再び翼を広げ、フェニアたちに向かって羽を飛ばす。
 
「グリフォン、『エアスラスト』!!」

 グリフォンの翼から風の刃が飛び出す……が、フレースヴェルグの『羽』に触れた瞬間、『相殺』される。
 フェニアは舌打ち。だが、これで確信した。
 フレースヴェルグの羽は、攻撃を相殺する。
 つまり……羽が舞うこの状況で、グリフォンの風を当てるのは非常に困難だった。
 
「でも、やるしかない……あのデカい鳥をやっつける!!」
 
 そのためには、『相殺』の羽を躱しつつフレースヴェルグの身体に攻撃を加えるしかない。
 問題は、雨のように降り注ぐこの羽だ。こんなにばら撒いているのに、羽の量が減ることはない。
 フェニアは、グリフォンの背を撫でる。

「グリフォン、任せる。攻撃のタイミングだけあたしに」
『キュゥゥ』

 グリフォンは気合を入れ、翼を広げた。
 フレースヴェルグの羽がばら撒かれる。グリフォンの眼がカッと見開かれ、羽と羽の間を縫うような軌道でフレースヴェルグ本体へ向かっていく。
 そして、フェニアは叫ぶ。

「グリフォン、『ゲイルダーツ』!!」

 ショートソードほどの長さの、杭みたいな『風』がフェニアの手元へ。
 フェニアは振りかぶる。
 フレースヴェルグ本体まで約十メートル。『羽』はグリフォンがほとんど躱した。
 だが、小さな羽が数枚、グリフォンの翼を掠る───が、グリフォンは全く動じず、フレースヴェルグの腹の下へ潜り込む。
 
「くらえっ!!」

 フェニアは振りかぶり、『ゲイルダーツ』を投げた。
 風の杭はまっすぐ飛び、フレースヴェルグの腹に突き刺さる。
 
『ガッ!?』
「チャンス!! グリフォン、好きにやっちゃえ!!」

 フレースヴェルグの身体がブレた瞬間。グリフォンは足の爪に風を纏わせ、ゲイルダーツが刺さり血が出た部分を思いきり引き裂いた。
 大量の血が噴き出すフレースヴェルグの腹。

「よっし!! グリフォン、離れ───」
『ギュィィィィィィィーーーーーーッ!!』
「やばっ……」

 そして───フレースヴェルグは暴れた。
 滅茶苦茶に身体を揺らしたせいで羽がバラバラ落ちてきた。
 その羽は、舞うというより落下。羽にあるまじき速度で落ち、フェニアとグリフォンを傷付ける。

「い、っだ、やっば、グリフォン!!」
『グォォォ……ンッ!!』

 グリフォンは、ボロボロになりつつフレースヴェルグから離れた。
 再び、羽を食らってしまった。
 グリフォンの身体に羽が刺さる。
 フェニアは制服を脱ぎ、グリフォンを止血。上半身下着姿だが気にしていない。
 
「グリフォン、あいつも弱ってる。ケリつけるわよ!!」
『ええ!!』
「あんな奴くらい一人で倒せないと───アルフェンに相応しないもんね!!」
『そうね……サフィーのお嬢さんも、きっとそう思ってる』
「やるわよ。本気の本気……フェニアとグリフォンを舐めんじゃないわよ!!」
『ええ、あたしの相棒。そうこなくっちゃ!!』

 なぜかグリフォンの声が聞こえたが、フェニアは無視。
 召喚獣と真に心を通わせ───叫んだ。

「『融合アドベント』!!」

 ◇◇◇◇◇◇

 それは、エメラルドグリーンの竜巻だった。
 大暴れしていたフレースヴェルグは竜巻に飲まれ、めちゃくちゃに回転する。
 目が回り、ようやく態勢が整うと……竜巻の中心、無風地帯へ出た。
 そして、見た。
 グリフォン。だが、その姿形は変わっていた。
 大きさは先程の三倍強。翼は十二枚に増え、顔つきも非常に凛々しくなっていた。
 そして、その胸の部分に、エメラルドグリーンの宝石が埋め込まれていた。

『【グリフォン・ハイルピュアソウル】……まさか、あたしがグリフォンと『融合』できるなんてね。もうサイッコウじゃない!!』

 声は、宝石から聞こえた。
 グリフォンと融合したフェニアの声だった。
 巨大化し、十二枚の翼を広げた新たなグリフォンは、フェニアの意志によって自在に動かせた。
 ダモクレスと同じ、召喚獣に依存した形態だった。
 
『真っ向勝負。仕切り直しよ……』
『……!』

 フェニアは翼を広げ、前傾姿勢に。
 最初に敗れた特攻を、もう一度繰り返そうとしていた。
 不思議と、二度目は負けない気がしたのだ。

『グリュォォォォォォォォーーーーーーッ!!』
『必殺!! 『トルネード・ギガ・インパクト』ぉぉぉぉぉぉッ!!』

 爆発的な風を纏ったグリフォンの特攻、フレースヴェルグの『羽球』がぶつかった。
 だが、二度目は違った。
 フェニアの特攻が、『羽球』をブチ破りフレースヴェルグの身体に激突。そのままフレースヴェルグを真っ二つに引き裂いたのだ。
 竜巻が収まり、消滅したフレースヴェルグの残滓だけが残る。
 グリフォンは地面に降り立ち、融合を解除。
 フェニアとグリフォンはほぼ無傷だった。

「やった……やったぁぁ!! あたし、『融合』……ああもう、うれしい!!」
『クォォン!! クォォン!!』
「あはは、グリフォンも嬉しい? ありがとー!!」
『……』
「え?」

 グリフォンは首を振る。
 そして、フェニアは気付いた。

「…………」

 フェニアは、すっぽんぽん。下着すら失い、全裸だった。
 どうやらダモクレスと違い、融合後は服が消滅するようだ。
 降りた平原に誰もいないことに感謝しつつ、フェニアは胸と下半身を隠しながらグリフォンの影に隠れた。

「……サフィーのとこ、行こっか」

 グリフォンは、なぜか嬉しそうに首を振った。
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