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第六章

合同会議

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 アースガルズ召喚学園本校舎・大会議場。
 放課後。アルフェンたちはその大会議場にやってきた。
 大会議場は千人以上を収容できる広さで、学園地下にある特殊な会議場だ。ここを使う会議はどれも重要な案件で、召喚獣による防音・盗聴を阻害する機能もあるらしい。
 ちなみに、生徒が使うことは殆どない。メルも存在は知っていたが、入るのは初めてだった。

「広いな……それに天井高い」
「おい、そんなことよりさっさと始めるぞ。A級のクソ共はまだか?」
「こら、口が悪い」

 ウィルの暴言にアネルが軽く小突いて注意する。
 同行したガーネットは、曲線を描いたテーブルに全員を案内する。

「座って待ちな。すぐに生徒会も来るよ」
「おい、酒はないのか?」
「馬鹿も休み休み言いな。黙って待て」
「うぅ、あたし緊張してきた」
「わ、私もです……」

 フェニアとサフィーは緊張気味。アルフェンは座って天井を眺め、メルは静かに待っていた。
 ウィルは大きく欠伸し、アネルはその隣でキョロキョロする。
 ニスロクは突っ伏して眠り、レイヴィニアはもちこんだクッキーの袋を開けもぐもぐ食べていた。
 すると、大会議場のドアが開く。

「───フン」

 オズワルド。そして、その後ろに生徒会メンバーが全員揃っていた。
 アルフェンたちを見て鼻を鳴らし、傲慢そうな態度でアルフェンたちの真向かいに座る。
 アルフェンは、キリアスを見つけ軽く会釈すると、キリアスは小さく頷いた。
 ガーネットは、A級とS級の間に立つ。

「それではこれより『魔人討伐部隊』の情報共有会議を行う。最初に言っておくが、余計なことを言って場を混乱させたり、いらぬ喧嘩を売るような行為をした場合……わかるね?」

 いつの間にかガーネットは煙管に火を付けて吸い、煙を吐く。
 吐いた煙が揺らめき、虎のような顔になった。
 
「よし。ではまず、確認からだ……新たな魔人について」

 ガーネットは、王国から提供された情報を説明する。
 A級とS級が聞いた情報と同じだ。王国外領土にある村や集落の壊滅。それに見たことのない魔人が関与している可能性。その調査と、魔人の討伐。
 一通り話をすると、ガーネットは新しい情報を出す。

「王国外周辺の地図から、魔人襲撃の可能性がある集落を三つに絞った。S級とA級は合同で集落へ向かい、魔人に遭遇した場合は迎撃、討伐せよ……ってところだね」
「三つねぇ……おいババァ、その情報は信用できんのか?」

 ウィルの「ババァ」発言に、生徒会女子から厳しい視線が。だが、何度言っても直すつもりがないウィルに半ば諦めていたガーネットは気にしていない。

「『運命フォーチュン』ナクシャトラの出した『占い』の結果さ。これでもまだ不安かい?」
「…………チッ」

 『運命フォーチュン』ナクシャトラ。
 最強の二十一人の一人で『占い』を得意とする召喚士。直接戦闘力は皆無だが、その占いの力で二十一人を支えてきた縁の下の力持ちだ。
 ナクシャトラが出した占いの結果なら、納得するしかない。

「さて。人選はもう決まっていたな。リリーシャ」
「はい。部隊のリーダーは私が、引率責任者はオズワルド先生です」
「はっ……おい、確認するけどよ。オレらもお前たちに従えとか言うんじゃねぇだろうな?」
「ウィル、やめなって」

 アネルが制止する。だが、オズワルドは答えた。

「当然だろう。リリーシャくんは魔獣討伐において部隊の指揮経験が何度もある。お前たち寄せ集めのS級に指揮を任せろとでも?」
「その寄せ集めに無様に敗北したのはどこの誰だったかなぁ?……目ん玉飛び出して顔が陥没した誰かさん?」
「……平民の分際で、あまり舐めた口を聞くなよ」
「おー怖い。貴族サマの脅しは胸に響くねぇ」

 ウィルはニヤニヤしながらオズワルドを煽る。
 だが、オズワルドはニヤリと顔を歪ませた。

「ガーネット様。今言った通り、S級は個々の能力こそ高いですが、集団戦はどうでしょうか? S級の中に指揮の経験がある者は? 大規模魔獣部隊の討伐指揮経験のある者は? いくら個人の能力が優れていようが、『仲間』と共に戦う状況では強大すぎる力はただの足枷では?……だが、その力に鎖を付け、うまく操れる者がいるなら話は別だ。それを証明するためにも、討伐の指揮権はA級にお任せを」
「……まぁ、一理あるね」

 ガーネットは、アルフェンを見た。
 ものすごく嫌そうな顔をしたアルフェンは、首を振る。
 だが、ガーネットは首を横に振った。

「……わかった。では、指揮権はA級召喚士に預ける。それでいいかい?」
「ふざけんな。オレはやだね」
「……むぅ」

 ウィルは拒絶。アルフェンは嫌そうに唸る。
 フェニアとサフィー、アネルとメルも嫌そうな顔だ。
 すると、黙っていたリリーシャが言う。

「アルフェン、以前言ったことを覚えているか?」
「……は?」
「お前の力、私が活かしてやる」

 リリーシャは立ち上がり、アルフェンのすぐ近くまで来た。
 そして、アルフェンの頬に手を添え、顔を思い切り近づける。

「私の下に付け。そうすれば、お前は自分の力の意味を知るだろう」
「…………」

 今さらだが、二人を見ていた全員が気付いた。
 アルフェンとリリーシャ。髪の色も瞳の色も同じで、顔立ちもよく似ている。
 ダオーム、キリアスが髪色や瞳が父親譲りで、リリーシャとアルフェンは母親譲りのようだ。
 リリーシャの顔に浮かぶのは興味。それに対し、アルフェンの顔に浮かぶのは虚無だ。アルフェンは、姉とはいえ異性に顔を近づけられても、全く心動いていなかった。
 そして、つまらなそうに手を払う。

「くっだらねぇ。でも、魔人を倒すって想いはあるみたいだし、一緒に戦うのはいいよ。でも、あんたの下に付くとか、力の意味とか、わけわからん妄言は聞くつもりないから」
「ふん、今にわかる。お前は私より強い。だが、それだけだ」
「へいへい。そーですか」

 アルフェンは、本当に興味がなかった。
 面倒事は起こすなという、ガーネットの頼みを聞いただけ。リリーシャなんて本当にどうでもよさそうにしていた。
 なぜかリリーシャは勝ち誇っていたが、アルフェンには全く理解できなかった。

「よし。では……部隊の指揮はA級召喚士に任せる。出発は二日後、授業は明日から休みにするから、しっかり準備をするように」

 こうして、会議は終わった。
 部隊の指揮はリリーシャ、そしてA級召喚士がすることで決定。
 アルフェンたちS級も、リリーシャの指揮下に入る。

 アルフェンのこの決断が、恐ろしい事態を引き起こすことになるとは、この時のアルフェンは考えもしなかった。
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