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第五章 氷礫の国ウォフマナフ

万年氷滝

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 さて、ファウードさんが同行することになり、目的地である『万年氷滝』を目指すことに。
 俺、エルサ、ファウードさんは並んで歩き、エルサはコロンちゃんを抱っこ。その様子を見たファウードさんは、コロンちゃんを見て言う。

「ホワイティウォンバットか。珍しいね」
「コロンちゃんのこと、知ってるんですか?」
「ああ。ホワイティウォンバット……ウォフマナフに住む固有の魔獣で、驚異的な嗅覚を持つ。雪中に隠れている虫や草を食べる魔獣で、見ての通り愛くるしい姿から一部の愛好家から人気のある獣魔さ」
「ホワイティウォンバット……コロンちゃん、お鼻が鋭いんですね」
『もあぁ』

 ウォンバットって、こっちの世界でも『ウォンバット』なのか。
 ファウードさんは物知りだ。まさか、不思議な動物であるコロンちゃんの正体を、あっさり教えてくれるとは。
 まあ、危険な魔獣じゃないことを知れてよかったぜ。
 エルサは、コロンちゃんを頬ずりする。

「ん~かわいい。コロンちゃん、町に行ったら獣魔登録しますからね。ふふ、これからはずっと一緒です」
『もぁぁ~』
「ふふ、私の命の恩人というわけか……町に到着したら、食事をおごらせてくれ」
『もあぁあ』

 コロンちゃん、人気者だな。
 俺はファウードさんに聞く。

「あの、ファウードさんって過去の氷華祭にも出たことあるんですか?」
「まあね。でも、大したことはないよ……表彰台に上ったこともない、数ある芸術家の一人さ」
「そ、そうですか……」

 やべ、少し落ち込んでしまった。
 芸術家ってめんどくせえ……話題には気を付けないとな。

 ◇◇◇◇◇

 さて、やってきました『万年氷滝』
 
「……うぉぉ」
「……わぁぁ」

 俺、エルサは圧倒された。
 目の前に広がるのは、『凍った滝』だ。というか……何と言えばいいのか。
 ナイアガラみたいなクソでかい滝が目の前に広がっている。そして、その滝が全て凍っているのだが、押し寄せる水が氷を砕いて流れ、流れた水が凍って、再び水が氷を砕き……が、繰り返されている。
 一言で表現するなら『土砂崩れ』に近い。氷の土砂崩れ……が、目の前で繰り広げられている。
 ガラガラガラ……と、滝ではあり得ない音がずっと響いている。
 俺たちがいるのは、学校の校庭よりも広い広場で、多くの観光客が滝を眺めていた。

「ここは、その名の通り万年氷滝……氷が砕け、流れ、凍り、砕けが永遠に繰り返されている。とんでもない光景だろう? ここはまさに自然が繰り広げるアート!!」
「「……」」
『きゅるる~』
『もぁぁ~』

 ファウードさんが両手を広げて、嬉しそうに解説するが……正直、あまり聞いていない。
 というか、圧倒された。久しぶりに、純粋な観光地で圧倒された。

「すげえ……ってか、寒い」
「綺麗、と言うか……ただ驚きです。こんな光景、人生で何度拝めるのか……」

 俺、エルサは滝から目を離さずに言う。
 広場には柵が設けられ、滝に落ちないようになっているが、俺とエルサが限界まで滝に近づいた。
 スマホあれば動画、写真をとにかく残すレベル。地球だったら世界遺産間違いないレベルだ。

「自然の恐ろしさ、壮大さが感じられる。このような光景、ウォフマナフ以外では見れない……が、これほど雄大で荘厳な景色でも、私の心には響かない……ああ、これがスランプか」

 ファウードさん、申し訳ないが黙って欲しい。
 これは本気でスゴイ光景だ。

「どうだい、レクスくん、エルサさん」
「驚きっすね……こんな光景、そうそう拝めない」
「わたしも、同じ意見です……」

 ファウードさんは頷き、氷の滝を眺める。

「私は……何度もこの滝を見た。初めて見た時は心打たれたし、何時間も呆然と眺めたりもしたが……今では、ありふれた光景の一つとしか見れない。これは……私の感動する心が老いたのか、それとも、単純に『感動』する心が死んだのか……私は、芸術家としてどうなのか……」

 なんかむずかしそうなこと言い出した。
 この光景がありふれた光景とか、あり得ないだろ。
 お滝の上から落ちる氷なんて、ありふれた光景であってたまるか。

「ふふ、ここで感動するのもいいが……ウォフマナフにはまだまだ神秘的な光景がいくつもある。せっかくだ、きみたちにはとことん、『感動』してもらおうか。若い『感動』を私に見せてくれ……そうすれば、私の感動する心も、若返るかもしれない」

 そんなことなら喜んで。
 正直、俺もエルサも心が震えている……ワクワクが見られるなら、喜んでお供しよう。
 こうして、俺とエルサ、ムサシとコロンちゃんの、ウォフマナフの不思議発見旅が始まるのだった。
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