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第四章 炎砂の国アシャ

砂魔竜フシャエータと森魔竜ホルシード①

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 さて、エルサと一緒に町を回り、夕方になってしまった。
 夕食は激辛料理……肉、野菜、スープととにかくスパイスたっぷりの料理を食べ、舌も胃もおかしくなりそうだった……マジで明日が恐い。
 町の散策を終え、俺とエルサは宿へ。

「明日はどうする?」
「そうですね……シャクラに教えてもらった観光地、一日で回っちゃいましたし」
「じゃあ、次に行くウォフマナフについて、情報でも集めるか?」
「いいですね。確か、雪の国でしたっけ……さ、寒いんですよね」
「まあ、寒くても大丈夫だろ……俺いるし」
「……あ」

 意味を理解したのか、エルサは顔を赤くして微笑んだ……可愛い。
 まあ、二人とも若いし、いろいろ経験したので……俺がスケベというわけではない。いやマジで、十六歳だったら普通よ普通。
 なんか、世界ってこんな明るかったんだっけ。

『……きゅるる』

 う、何かムサシが白けたような目で見てる。
 俺はムサシを掴んで紋章に戻し、大きく伸びをした。

「さ、さて。今日はどうする? 風呂入るか?」

 この部屋、風呂があるんだよな。
 日中、宿屋の地下で温めたオアシスの水を、各部屋の風呂に送っているんだとか。岩を熱して常に水を温めた状態なので、水が温くなることはない。
 風呂はけっこうデカいし、のんびり足を延ばして入れる……って。

「エルサ、どうした? なんか顔赤いけど」
「え!? あ、いえ、その……お風呂」
「ん? ああ、風呂……入るだろ?」
「え、えっと……一緒に、ですか?」
「…………」

 なんというか……この子、俺を煽っているんですかね?

 ◇◇◇◇◇

 さて、思った以上に夜更かしをした翌日。
 俺とエルサは冒険者ギルドへ。ウォフマナフ王国への依頼がないか探してみると……なんと、ゼロ。
 受付嬢さんに聞いてみると。

「ウォフマナフ王国ですか。少し前までは配達依頼など多かったんですが……今はないんです」
「な、ないんですか?」
「ええ。現在、ウォフマナフ王国は『氷華祭』の時期で、大規模な依頼は全て『クラン』が受けてしまいまして……個人での依頼はないんですよ」
「……ひょうかさい?」
「ええ、『氷華祭』は、ウォフマナフ王国が誇る伝統祭りで、氷の彫刻を数多く作り、領土内にあるすべての町や村に飾り、一年の安全を祈るお祭りです。それはもう、名だたる氷彫刻家が作る氷像が数多く並ぶ姿はもう圧巻の一言で……」
「おお……見たい」
「行くなら、今がチャンスですね。お祭りの開始はもうすぐで、終わりは彫刻が溶けるまで。最も美しい彫刻を作った彫刻家は、ウォフマナフ王家が一年間、専属彫刻家として雇う名誉があるそうです」
「へえ~、すごいですね」
「はい。審査員として、リューグベルン帝国から六滅竜『氷』のイスベルグ様をお呼びするそうですよ!!」
「……マジか」

 イスベルグ様、って……六滅竜『氷』にして、ニブルヘイム侯爵家の当主じゃないか。
 ディアブレイズ様と犬猿の仲とは聞いたことある。一度だけ会ったけど、めちゃくちゃ美人だけど、めちゃくちゃ冷たい……へレイアとは違った意味で会いたくない人だ。
 
「あの、ウォフマナフ王国に行くために準備したいんだけど、準備するのにいい店とかある? それと、ここから国境の街までの行き方も」
「あ、はい。えっと……」

 受付嬢さんにいろいろ教えてもらい、俺とエルサは冒険者ギルドを出た。

 ◇◇◇◇◇

 必要なものはけっこうあった。 
 雪用寝袋やテント。防寒着に長靴。毛糸の下着。スコップにソリ。帽子。かんじき……まさかこの世界にかんじきがあるとは思わんかった。
 アシャ王国にある雑貨屋で全て揃ったので、旅の準備は万全だ。

「ふふ、かわいいコートを買えました」
「雑貨屋、かなり種類豊富だったな」

 エルサは、桃色のコートやマフラー、手袋や帽子などを買ってご満悦だ。
 俺も、黒系のコートなどを買う。雪の中でも見やすいしな。
 
「あとは、保存食買って、ウォフマナフ王国へ行く準備は完了かな」
「はい。雪国、氷の彫刻……わくわくします」
「次回こそ!! 厄介なことに巻き込まれないといいな……」

 しみじみ思う俺。
 エルサも微妙な表情だ。これまで、厄介ごとに巻き込まれなかったことないし。
 ムサシも、俺の肩の上で「なんか無理な気がする……」という表情で、俺の耳をガジガジ噛んでいた。
 そんな時だった。

『───……』
「ん? どうした、ムサシ」

 ムサシが何かに気付いたのか、俺の耳を噛むのをやめて、明後日の方向を見ていた。
 そして俺も嫌な予感……こういうときのムサシ、厄介ごとを察知しているんだよな……と、嫌な予感を感じた時だった。

「レクス!!」
「へ? って、うおっ!?」

 なんと、シャクラが近くの建物から飛び降り、俺たちの目の前へ。

「緊急事態だ!! レクス、たいへんだ!!」
「ぐ、ぐるじい……な、なんだ?」

 胸倉を掴まれ、ガクガク揺らされる俺。エルサがあわあわしながらシャクラを宥め、ようやく解放された。
 ゲホゲホむせ、フーフー息を荒げるシャクラに聞く。

「な、なんだよ一体……」
「大変だ!! ドルグワントの連中……ホルシードを連れて、アシャ王国に来た!!」
「……は?」

 い、今、なんて言った?
 
「ほ、ホルシードって……」
「駄目だったんだ。ドルグワントの族長じゃ、ホルシードを処分する決定を出しても、ヴァルナ率いる戦士たちがそれを認めず、ホルシード自身が『自分を連れてアシャ王国へ』なんて言ったらしく、こっちに向かっている!! アシャワンの戦士たちがすでに出た!! レクス、オマエも協力してくれ!!」
「きょ、協力って……六滅竜はどうしたんだよ」
「知らん!! まだ来てない。でも、あと数時間でアシャに来る!! あいつら、とめないとマズいぞ!!」
「……マジか」

 ああ、なんでこう厄介ごとが。
 頭を抱えると、エルサが俺の傍で言う。

「レクス。一緒にやるしかないですね……お友達のピンチですし!!」
「エルサ……まあ、そうだよな。ムサシ、やれるか? 今度はアシャワンの戦士たちと一緒に、ホルシードを倒すぞ!!」
『…………きゅ』

 ムサシの様子がおかしい。
 というか、この時点で俺は……いや、アシャ王国にいる誰も気づいていなかった。
 まさか、ホルシードだけじゃなく、ディアブレイズ様から逃げ出したフシャエータも一緒になり、アシャ王国に向かってくるなんて。
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