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第四章 炎砂の国アシャ

アシャワンの集落

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 アシャワンの集落。
 岩を加工した家、砂地の訓練場、でかいオアシス……普通の集落に見えるが、住んでいる人はみんなアシャワンの戦士なのか、恰好がすごい。
 男は上半身裸に腰みので、女性はヤシの実ビキニで下は腰みの。女性の場合、胸を隠すというより『動いて邪魔』というのが本音らしく、隠さずに堂々と晒して歩く人もいるので目のやり場に困る。
 それと、みんな白い刺青みたいなので身体に模様を付けている……文化の違いってすごいな。

「レクス。まずは長に挨拶するぞ!!」
「お、おお……あのさ、今さらだけど、俺たちってこの集落に来てよかったのか?」
「問題ないぞ。アタシと一緒だしな」

 安心していいポイントだろうな。
 フリーナはずっとエルサの袖を掴んで離さないし、エルサは何故かキョロキョロして……あ、あっちで肉焼いてる。なんか香ばしい香りもするし、スパイスみたいなの振りかけてるの見えた。
 シャクラは堂々と歩き出す。

「ヤイサホー!!」
「ヤイサホー!!」
「は?」

 いきなり『ヤイサホー!!』と叫ぶ戦士。意味がわからず首を傾げる俺。
 シャクラも「ヤイサホー」と叫んだ。

「おいシャクラ、今のなんだ?」
「挨拶だ。オマエらだって『こんにちは』って言うだろ」
「あ、ああ……そういうことね」

 文化の違い……まあいい、もう指摘しない。
 それから奥へ進み、一番デカい岩の居住地へ。
 カーテンもなにもないので、シャクラはズカズカ中へ。

「ヤイサホー!! 長、戻ったぞ」
「シャクラか。ふむ、そちらの者は友人だな?」

 長……すっげえ、典型的な『部族の族長』って感じだ。 
 腰みの。上半身裸。骨のアクセサリーで全身を飾り、真っ白い髪に顔を覆う髭。皮膚はたるみ、かなりの高齢だと見てわかる。
 長は、俺たちを見て言う。

「シャクラの友人よ。ワシはアザザイ……アシャワンの戦士にして、アシャワンの長である」
「れ、レクスです……」
「エルサと申します」
「……フリーナ、です」

 アザザイ。すっごい名前だな。
 シャクラは言う。

「長。レクスがフシャエータ様を魔竜とか言ってるんだ。一度確認させてほしい」
「おま、いきなりすぎじゃね!?」

 ツッコむ俺……いや、いきなりすぎでしょ。
 アザザイさんは「ふむ」と言い、俺に言う。

「レクスと言ったな。お主、竜滅士か?」
「……まあ、そんなもんです」
「ほう……では、ホルシードも魔竜と気付いたのか?」
「───……待ってください。ホルシード、も?」

 俺はアザザイさんをまっすぐ見た。すると、アザザイさんは頷く。

「うむ。フシャエータ様は魔竜じゃ」
「……やっぱり」
「な、え、ちょ……お、長!! どういうことだ!!」

 驚くシャクラ。
 アザザイさんは続ける。

「シャクラ。レクスの言う通り、フシャエータ……そして、ホルシードは魔竜じゃ。それもただの魔竜じゃない。『邪竜』の力を得た魔竜じゃよ」

 邪竜? 邪竜ってなんだ?
 アザザイさんは俺を見る。

「レクス。お主……邪竜のことは知っているか?」
「いえ、知りません」
「なら話しておこう。邪竜とは、恐るべき最悪のドラゴン……神に反逆した、神の力を持つドラゴンのこと」
「……聞いたことありません」
「うむ。リューグベルン帝国では現在、復活する邪竜に対抗するため、世界各国から戦士を集めておる。シャクラよ、おぬしも戦士を率いて、リューグベルン帝国に向かうのだ」
「なに? ど、どういう」
「もはや、砂漠の民、森の民と言い争う程度の話ではない。邪竜は世界を破滅させる力を持つ……リューグベルン帝国の『六滅竜』と、世界各国の戦士たちと共に戦うのじゃ」
「ま、待った。世界って、もしかして……」
「当然、ドルグワントも含まれておる。ドルグワントの長も、ワシと同じ態度のようじゃ。間もなく森に戻り、ドルグワントの戦士たちに全てを説明する」
「じゃあ、フシャエータ様は……」
「……アシャ王国にいる竜滅士が援軍を派遣する。六滅竜『炎』のディアブレイズを派遣するそうじゃ」

 ろ、六滅竜『炎』のディアブレイズ……って、アミュアの専属上司で、六滅竜でもかなりの武闘派竜滅士じゃん。何度か会ったけど、マジで怖くてたまらなかった。
 シャクラは叫ぶ。

「フシャエータ様は殺されるのか!?」
「シャクラ……あれはフシャエータ様ではない。望まぬ進化を続けた憐れなドラゴンじゃ」
「う、ぅぅぅ……」

 というか、俺は気付いた……あれ、けっこうヤバいんじゃ。

「あ、あの……実は俺たち、けっこうヤバいかも」
「ぬ? どういうことじゃ?」

 俺は説明した。
 攫われたフリーナ、それを取りかえすためにドルグワントの戦士に喧嘩を売り、ホルシードに喧嘩を売り、森に火を放って逃げ出したこと。

「……なんと」
「す、すみません」
「れ、レクス。攫ったのはあっちだし、生きるためにやったことよ。あ、謝る必要なんてないわ」

 フリーナが、エルサの背に隠れて言う。
 アザザイさんは頷いた。

「うむ。まあ、過ぎたことは仕方ない……今大事なのは、二体の魔竜が、まだ大人しいことじゃ。我々が信仰の対象と見ているせいか、自身を『神』と思っておる。その関係が崩れたらどうなるかわからん……今は一刻も早く、六滅竜を待とう。シャクラよ、お前はアシャ王国に向かい、六滅竜『炎』のディアブレイズを迎えに行け」
「……はい」
「レクスよ、同行を願ってもよいか?」
「わ、わかりました」

 正直、あまり関わりたくない。
 リーンベルはともかく、六滅竜ってみんな曲者ぞろいだし。
 俺が除名されたことは知っているだろうけど……まあ、仕方ないか。

「じゃあ、エルサとフリーナもアシャ王国まで一緒か。それ以降は、お前たちの迎えに任せるしかないけど」
「……そう、ですね」
「……うん」

 二人とも、少し悲しそうだ。
 俺のせいかな……そりゃ、別れたくないけど仕方ない。
 アザザイさんは、手をポンと叩いた。

「さて。今宵は宴にしようかの。シャクラよ、客人たちを宿まで案内しなさい」
「あ、その前に……できれば、フシャエータの確認をさせてください」
「ふむ。では、シャクラ。案内を」
「はい……レクスたち、案内するぞ」

 シャクラも、どこか沈んでいた。
 ずっと信じていたフシャエータが、ただの魔竜と知ったせいか。
 でも……魔竜は危険なんだ。そこだけはわかってほしい。
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