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第四章 炎砂の国アシャ

砂上の戦い方

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「まず、砂地は見ての通り沈む」

 シャクラは、足で地面を踏みしめる。
 一応、岩場の傍にある砂はやや硬い。でも、踏みしめるとやや沈む。
 シャクラは大剣を肩に担いで言う。

「なので、砂地では『身体強化』が必須だ。砂の戦士はもちろん、サンドバイトもフツーに使うぞ」
「マジ? 俺、魔法使えないんだが……」
「なら、戦闘は全部アタシに任せておけ!!」

 というか、サンドバイト……本当にいるのか?
 星明りでしか先が見通せないが、人の気配は感じない。エルサもテントから起きてくる気配はないし。
 疑ってはいない。でも、やや気が抜けている俺。
 すると、シャクラは落ちていた石を拾い、思い切りブン投げた。

「ぐぁっ!?」
「え」

 なんと、叫び声が聞こえた。
 シャクラは言う。

「身体強化すると夜目もきく。ちなみに、アタシの身体強化は、アシャワンで最強の強化だ」
「そ、それはすごい……」
「いいか、動くなよ。アタシが片付けてくる」

 シャクラは、自分の身の丈くらいある大剣を担ぎ、砂漠に飛び出していった。
 というか……ここからじゃ見えねえ。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 シャクラが飛び出すと、岩場をゆっくり囲んでいたサンドバイトたちは舌打ちした。

「チッ、身体強化……アシャワンだ!! 囲め!!」
「だりゃぁ!!」

 サンドバイトのリーダーが叫ぶと同時に、シャクラの大剣が横薙ぎに振るわれ、サンドバイトの数名が両断された。リーダーは舌打ち……シャクラがタダ者ではないと理解した。
 シャクラは叫ぶ。

「オマエら知らないようだから教えてやる!! アタシはシャクラ!! アシャワン最強の戦士シャクラだ!!」
「何っ……シャクラだと!?」

 アシャワン最強の戦士シャクラ。
 その名は、砂漠に生きる者なら知っている。
 『アシャワンの太陽サンフシャエータ』という、砂神フシャエータと同じ名を持つ戦士であり、アシャワン最強の戦士が持つことの許される変形剣『ボーンブレイバー』を巧みに操る大剣士。
 たった一人で、サンドバイトの軍勢百名を蹴散らしたとの話もある。
 たった十名……いや、七名で勝てる相手じゃない。

「撤退!!」

 リーダーの判断は迅速だった。
 だが、シャクラはそれを許さない。
 身体強化を重ね掛けし、大剣の柄を捻り分離……大剣という『鞘』が抜け、一本の『長剣』が抜き取られた。
 これにより、シャクラは身軽になり、長刀の一閃によりサンドバイトが斬られていく。
 シャクラから逃げることは、できそうにない。

「くそっ……ガキ三人と見て甘く見た」
「ふん、わかってるじゃないか」

 リーダーがそう呟いた瞬間、長刀の一閃であっけなく首を切り落とされた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

「おわったー」
「……お、お疲れ」

 戻ってきたシャクラは、血塗れだった。
 全て返り血……というか、容赦なくサンドバイトを殺した。
 いや、命狙われている状況で殺すなとか無理だけど、けっこうグロイ。
 シャクラは、顔を拭いながら言う。

「サンドバイトに遠慮はいらないぞ。あいつら、魔獣と同じだからな」
「……ああ」
「ふふん。アタシの戦いどうだった?」

 強かった……暗くてあまり見えなかったけど。
 すると、なんとシャクラ……いきなり上着を脱ぎ、肌を露出した。
 小振りな胸を剥き出しにし、着ていた服を鍋の中に入れる。

「レクス、水ある?」
「おおおおま、なにしてんの!?」
「血。シミになるだろ。あと水浴びしたい……そろそろエルサ起こす時間か? 魔法で水出してもらお」

 俺は後ろを向いたので見てない……いや、少し見たけど。
 まだ衣擦れの音がする。もしかしてシャクラのやつ。

「エルサ、起きろー」
「ふぁぁぁい……ん? え!? なな、なんで裸なんですか!? しかも赤い!?」
「返り血だ。洗いたいから水くれ」
「えええええ!? なな、何が!? れ、レクス!?」
「俺は何も見ていない……」

 俺は顔を押さえ、とにかくシャクラを見ないようにするのだった。
 まあ、ひと悶着あったが、砂漠の戦闘についてはなんとなくわかった。
 砂の上は足音がしにくいので、敵の接近に気付きにくいこと。そして、砂漠での戦いに身体強化は必須……俺の場合、魔法は使えないのでどうしようもない。
 俺が夜の番をする場合、ムサシに警戒してもらうしかないな。
 周囲を威嚇するために、ムサシには火属性の人型形態でいてもらうとかもありか?

「しゃ、シャクラさん!! 女の子が男の子の前で裸になっちゃダメです!!」
「なぜだ? アシャワンの集落にあるオアシスでは、男女関係なく水浴びするぞ」
「ええええ!?」
「男は下に付いてて、女はない。男の胸は硬くて、女はやわっこい……男女の差なんてそんなものだろ」
「と、とにかくダメですぅ!!」

 アシャワンの倫理観には納得できないな……もしかして、アシャワンの集落に行ったら、男女混合水浴びイベントとかあるのだろうか? いや、それはさすがに……でもでも、郷に入っては郷に従えというし……まあ、成り行きに任せますかね。いやハダカ見たいとかじゃないのであしからず!!

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 再びムサシに乗り、砂漠を進む。
 向かうは『シャハラ墓地』だ。歴戦の戦士が眠る墓地らしいが、どんなところなのか。

「今日中には到着するぞ。到着したら、戦士に敬意を払う儀式をする。旅の安全を祈り、砂神の祝福を得よう」
「おお、なんか神聖な感じ」
「わくわくしますね」

 そして、半日ほど問題なく進む。
 朝はまだマシだが、日中の暑さは地獄だ。水筒が空になるたび、エルサに冷たい水を補給してもらう。
 エルサがいなければ、すぐに水は枯渇していたかも……ほんと、水魔法様様だ。
 そして、ようやく見えてきた。

「見えた。あれが『シャハラ墓地』だ」
「わぁ~、三角形ですね。不思議な形です」
「いやあれ、ピラミッドじゃん……」

 そう、ピラミッド。
 三角錐の巨大な建物が、砂漠のど真ん中にあった。
 地球で見たピラミッドと同じだ。動画配信とかで何度か見たことある。
 リアルで見る初めてのピラミッドが異世界のとは……これは驚き。
 
「ぴらみっど? なんだそれ?」
「あ、いや」
「あれは墓地だ。戦士たちの魂が眠る場所だぞ」
「あ、ああ」

 あんま下手なこと言わないほうがいいな。
 遠目で見ても完璧なピラミッドだ。周囲は遺跡みたいになっているのか、建物がいくつかある。
 それに、人の数も多い……近づくにつれてわかった。
 
「ここ、他の国や町で言う、寺院みたいな場所なのか」

 僧侶みたいな人が一礼したり、ピラミッド傍にある戦士の像に祈りを捧げている。
 他にも、ラキューダ馬車が何台も止まっているし、観光地っぽく見える。
 俺たちはムサシから降り、ピラミッド……じゃなくて『シャハラ墓地』に向かって歩き出す。

「レクス、エルサ。ここでは余計な会話は厳禁だ。静かに、祈りながら進むんだぞ」
「お、おお」
「わ、わかりました」

 確かに、すごい静かだ。
 みんな口をキュっと結んで歩いている。
 俺はエルサと顔を見合わせ、『ここから私語厳禁』とアイコンタクトをした。
 砂漠にあるピラミッドで、歴戦の戦士たちに祈りを捧げる儀式をするか……本当に文化の違いってすごいや。
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