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第三章 地歴の国アールマティ

退魔士として

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 別れの時は、近づいていた。
 アールマティ王国城下町でたっぷりと観光もした。
 古き町には見所がたくさんあり、寺院巡りや、麺屋巡り、お土産も買った。
 愛沙は今日一日だけの自由。愛沙と一緒にリーンベルが離脱し、玄徳も一緒に行く。
 俺たちは思い出を作るように、みんなで笑って遊んだ。
 そして翌日。
 俺たちは、宿屋の前で別れを惜しんでいた。

「レクス、エルサ……一緒に行くとか言っておきながら、身勝手でごめん」
「だから気にすんなって。それに、お前は愛沙と一緒にいる方がいいよ。な、エルサ」
「はい。お似合いです」
「……うん、ありがとう」

 玄徳は、俺とエルサと握手。
 そして愛沙も。

「二人とも、ありがとう。これまでの旅……退魔士になって一番充実して、楽しかった」
「わたしもです……愛沙さん」
「エルサ。また一緒に冒険しようね。約束よ」

 エルサ、愛沙が互いを抱擁。
 俺も愛沙と握手。

「……レクス、エルサのことよろしくね」
「わかってる。お前も、玄徳のこと頼むぞ」
「ええ。ふふ、なんか私たち、けっこう似た者同士かもね」

 握手し、拳を合わせた。
 そして、リーンベル。

「エルサ……楽しかった」
「わたしもです……」
『きゅるる……』
「ムサシ、ありがとうね」

 リーンベルは、ムサシを手に載せて頬ずりする。
 エルサとハグし、リーンベルは俺の元へ。

「レクスくん。会えてうれしかった。一緒に冒険できて楽しかった。私……レクスくんのこと」
「……リーンベル」

 俺はリーンベルの手を掴み、俺の胸に当てる。

「また会おう。今度は、アミュアやシャルネも一緒に。またみんなで」
「……うん」

 リーンベルは俺の胸に飛び込み、甘えてきた。
 柔らかくいい香り。どこかハッカのような、スーッとする香り。
 リーンベルはいい匂いだ。このまま抱きしめたくなってしまう。

『レクス、抱きしめてあげなさい。それくらいいいでしょ?』

 と、レヴィアタンの声。
 俺はリーンベルを優しく抱きしめると、リーンベルが嗚咽を漏らすのがわかった。
 しばし、リーンベルを抱きしめ……ゆっくり放す。

「……ありがと、レクスくん。大好きだよ」
「ああ、俺も」

 リーンベルは、俺の頬にそっとキスをして離れた。
 玄徳がそっぽ向いて見ないようにし、愛沙は顔を赤く、エルサは微笑を浮かべ俺辰を見ていた。なんかすっごく恥ずかしいな。
 そして、俺たちの距離が離れる。

「じゃあ、また」
「ああ、またな」
「レクスにエルサ、ムサシ……またね」
「皆さん、また」
「またね、レクスくん、エルサ、ムサシ」

 玄徳、愛沙、リーンベルは行ってしまった。
 愛沙は『真星退魔士』とかいうところへ、リーンベルは玄徳と従者に一緒にリューグベルン帝国へ。
 何だか厄介ごとになりそうな気がする。でも……きっとあの三人なら解決できるだろう。
 俺、エルサ、ムサシは、三人の背が見えなくなるまで見送るのだった。

「……ぅ」
「……エルサ」

 エルサは堪えきれなくなったのか、ぽろぽろ涙を流す。

「……ご、ごめんなさい。その……なんだか、耐え切れなくて」
「いいさ。楽しかったもんな。五人での旅」
『きゅいっ!!』

 ムサシが慰めるように、エルサの肩に乗って甘えるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 俺とエルサだけになり、互いに顔を見合わせた。

「とりあえず……冒険者ギルドでも行くか?」
「そうですね。少し、身体を動かしたい気分です」
『きゅるる~』

 ムサシは俺の紋章に飛び込む。こいつも寂しいのかな。
 俺たちは無言で冒険者ギルドへ……やっぱり、今までが賑やかだったせいか、かなり寂しい。
 ギルドに到着し、依頼掲示板を眺めている時だった。

「おやおや? そこの二人、レクスくんじゃあないか!!」
「え……」

 振り返ると、そこにいたのは。
 汚い白衣、ボサボサの髪、べっ甲縁の眼鏡、寝不足っぽい目元。
 美人を台無しにしたような容姿のヘレイア様だった。

「へ、ヘレイア様」
「うんうん。リーンベルちゃんと別れたみたいだねぇ? 方向性の違い? それとも喧嘩でもした?」
「……いえ、もともとここで別れる予定でしたので」
「そうかそうか」

 ヘレイア様は、禁煙パイポみたいなのを取り出すと、スパスパ吸い始めた。
 相変わらず、俺しか見ていない。エルサが隣にいるのにガン無視だ。

「ところで、今時間あるかい? きみのドラゴンを見せて欲しいのだが」
「……遠慮します」
「ははは、そう警戒しないでくれたまえ。そうだ!! お礼に私の研究室に招待しよう!! きっと気に入ると思うぞ?」
「……」

 正直言う。
 この人は苦手だ。なんというか……人の命なんてなんとも思っていないと言うか、得体の知れない危うさがあるというか……そもそも、リーンベルが毛嫌いしている人だし、俺が好きになることはない。
 ちょっと話を逸らしてみるか。

「……ヘレイア様。あなたはなぜ冒険者ギルドに? 六滅竜……冒険者の資格を持っているのは知ってますけど」
「はっはっは。冒険者ギルドとは契約を交わしていてね。面白そうな『素材』があれば高値で買い取ることにしているのだよ。やれやれ、つい先日も『四凶』とミドガルズオルムの素材を使った実験をしたんだが大失敗でねぇ……貴重な素体は失ったが、いいデータが取れた。今度こそ、ドラゴンを作れると確信している」
「……その、なんでドラゴンを作りたがるんですか?」
「きみ、『なんで人は食事するんですか?』と質問するかい? それくらい、今の質問は私にとって無意味だよ。まあ、持って生まれた『性』とでも言えばいいかね? 生まれつき、私はドラゴンに魅入られているんだ。六滅竜『地』に選ばれたのは、本当に素敵なことだよ」

 ヘレイア様は前かがみになり、俺の顔を覗き込む。
 胸の谷間が見えているとか、誘っているとか勘違いしそうだが……この人に関してはそういう気分に全くなれない。仮に全裸で現れても、俺はドキドキすることはないだろう。

「話が逸れた。レクスくん、私の研究に少しだけ手を貸してくれないかな? もちろん、謝礼は用意するよ」

 と、ヘレイア様はポケットから数枚の白金貨を出した。
 しつこいし、めんどくさい……どうしたもんか。

「エルサ、どうする?」
「……このお方、正直苦手です」

 俺もその通りだと思う。
 ヘレイア様はニコニコしているし……リーンベルがいたら追い払うんだろうな。

「頼む、私の『夢』を実現できるかどうかの瀬戸際なんだ。ほんの少しでいいから、手を貸してくれ」
「…………はあ」

 夢、ね。
 そんな言い方されたら、手を貸したくなる。
 これも、寄り道だと思えばいいか。
 俺はエルサを見る。エルサは苦笑して頷いた。

「わかりました。少しだけなら」
「おお!! ありがとう、ありがとう!! では私の研究室に行こうか!!」

 こうして俺とエルサは、ヘレイア様の研究室に行くことになった。

 ◇◇◇◇◇◇

 行かなければよかったと、本気で後悔することも知らずに。
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