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第三章 地歴の国アールマティ

玄徳と愛沙①

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 玄徳と愛沙を先頭に向かったのは、お社から離れた場所に流れていた川べりだ。
 静かな流れで、周囲も紅葉に彩られて美しい。

「ここ、釣りもできるし、そのまま野営もできる場所なんだ」
「昔はよく、玄徳と野営したっけね」

 愛沙が笑うと、玄徳が。

「愛沙、怖がりで僕のテントによく潜り込んできてね。食事は二人分食べるし、大変だったよ」
「な、何言ってんのよ!! ああもう、恥ずかしいこと言わないで!!」

 愛沙が玄徳をポコポコ叩く。それを見てエルサはクスっと笑った。

「お二人は仲良しですね」
「ああ。幼馴染で、一緒の日に退魔士になったからね」
「それそれ。その『退魔士』って何だ?」

 俺の質問に、玄徳は少し考え込む。

「わかりやすく言えば『冒険者』だね。でも、僕らは妖魔……えっと、魔獣退治専門なんだ。僕は『符術士』で、愛沙は『薙刀士』なんだ」
「冒険者のジョブみたいなもんか」
「そういう解釈でいいよ。と……まずは野営の支度をしよう。レクス、食材はあるかい?」
「もちろん。玄徳たちは?」
「用意してる。でも、せっかくだし川釣りもしようと思ってね。きみもどうだい?」
「いいね、面白そう」
「じゃ、エルサとリーンベル、私とお料理しない? 岩月料理を見せてあげる」
「わあ、楽しみです」
「わ、私……料理とかあまりしたことなくて」

 まず、それぞれテントを組み立て、俺と玄徳は釣りへ。
 女子たちは竈を用意したり、食材を切ったりを始めた。
 なんだか野営というか、仲間内でするキャンプみたいだ。現地人である玄徳たちがいるおかげもあるし、五人もいるとなると頼もしさが違う気がした。

 ◇◇◇◇◇◇

 川魚……釣れた。そりゃもう半端なく。
 竿、糸、重り、針、餌だけのシンプルな釣りだったが、そりゃもう半端なく釣れる。
 始めてニ十分ほどで、すでにニ十匹。

「す、すげえ釣れるな……」
「ここ、名所なんだ。あまり知られていないしね」

 竿を川に投げると、一分以内に魚が食いつく。
 大きさは三十センチあるかないかくらいで、なんとなく鮎っぽい。
 さすがに釣り過ぎたので、玄徳が言う。

「ま、こんなところか。ここ、よく釣れるって言ったけど、ここまで釣れるのは久しぶりだ。もしかして、レクスのおかげかも」
「お、俺のおかげ……?」
『きゅるる』

 ムサシもウンウン頷いている。

「その子、ドラゴンだっけ……すごい小さいけど、さっきみたいにデカくならないのかい?」
「まあ、今は必要ないよ。それより、この魚どうする? かなり数あるし、下ごしらえ大変だぞ」
「大丈夫。この魚、内臓もちゃんと食べられるんだ。串に刺して焼くだけだから簡単だよ」

 木桶に入れた魚を持って野営地に戻ると、女子たちがキャッキャと楽しそうに料理していた。

「ただいま。大漁だよ!!」
「わ、川雪鮎じゃない。玄徳、そっちの竈で焼いといて」
「了解。レクス、手伝って」
「お、おお」

 玄徳は器用に魚を串で刺し、塩を振って竈の傍に並べて刺す。
 俺も串打ちを手伝ったが……俺が一匹刺す間に、玄徳は三匹刺していた。
 全ての魚を刺して焼いていると、女性陣の料理も出来上がり間近だ。
 
「あっちでは何を作ってるんだろ」
「肉と山菜の鍋だね。肉は猪、山菜は僕らが取ったものだ」
「……あれ」

 ちょっと気になった……確かに鍋の支度をしているが、なぜ二つあるのか。
 ちょっとのぞき込むと……ああうん、一個は赤い鍋だ。
 辛そう。いやマジで。

「さ、さて……鍋は任せて、俺たちは食器の用意をするか」
「うん、そうだね」

 こうして、夕食の支度を終え、楽しい夕食が始まった。
 赤い鍋はやっぱり激辛だった。俺、エルサは少しだけ食べ、意外なことに玄徳と愛沙は美味しそうに食べていた……食文化の違いなのかな。
 川魚は絶品。真っ白な身はハラハラほぐれ、塩が利いてめちゃくちゃ美味い。ニ十匹いたが、一人四匹ずつ食べてしまった。
 それから、愛沙がアールマティ王国のお茶を淹れてくれた。
 真っ黒なお茶。豆や乾燥させた木の実などで淹れたお茶らしい……うまい。
 食後の一休み……話題は、今日のこと。

 ◇◇◇◇◇◇

「──……つまりきみたちは、クシャスラ王国、ハルワタート王国を経由して岩月……じゃなくて、アールマティ王国に来たんだね。目的は観光……」
「ま、そんな感じ」

 俺はお茶を飲みながら、これまでの旅路を説明した。
 クシャスラ王国の大風車や戦ったサルワ、ハルワタート王国でのリゾート休暇やタルウィとの海上戦。改めて思うが……観光メインなんだがかなり危険な戦いに巻き込まれているな。
 玄徳、愛沙は興味津々といった感じで聞いていた。

「楽しそうだなあ。じゃあ、岩月でも観光するのかい?」
「そうだけど……その岩月だっけ? アールマティ王国のことだよな」
「うん。地元民はみんなこっちで呼ぶよ」

 ほんと、文化の違いって面白い。
 すると、リーンベルが言う。

「あの……四凶の一体、っていうのは?」

 さっき戦った魔獣のことだ。四凶……名前からしてヤバそうだ。
 すると、ハルワタート王国で買ったマイゲン茶を飲みながら愛沙が言う。

「四凶っていうのは、岩月に生息する四体の大妖魔のことよ。『渾敦こんとん』、『窮奇きゅうき』、『檮杌とうこつ』、『饕餮とうてつ』……これらは十年くらい前に突如として現れ、岩月の各地に現れては大暴れするの。法則性もないし、ほんといきなり現れるから、私たち退魔士も『出たら戦う』くらいの対策しか練れなくてね……」

 その名前、なんか聞いたことあるな……中国だかどっかの妖怪でそんな名前あった気がする。
 地球での名前が伝わったというか、俺が異世界の言葉をそういう風に翻訳してるから聞こえるのかはわからない……まあ、名前はどうでもいいや。
 すると玄徳。

「まあ、気にしなくていいと思う。遭遇することは滅多にないしね。それより、これからきみたちは『天民』に行くんだよね?」
「はい。鳥の町ですよね」
「うん。ちょっとタイミング悪かったかな……実は『天民』で、『鳥祭り』が開催されて、昨日終わったばかりなんだよ。おいしい鳥料理とか、鳥の曲芸とか見れたんだけど……」
「「ええ……」」

 落ち込む俺、エルサ。
 祭りやってたのか。しかも終わったとか……観光目的で来てるのに、そういうのめちゃくちゃテンション下がる。イベントを一つ見逃した気分だ。
 だが、愛沙が言う。

「あのさ、だったら迂回して『女子にょし』に行かない? あそこも『女祭り』を近々開催するの。それに、あそこは温泉の町で、いい温泉がい~っぱいあるのよ」
「……おんせん?」

 と、エルサが疑問符。

「温泉ってのは、地面を掘ると出てくるお湯のことだ。普通に湯を沸かして風呂に入るより、温泉のが身体にいいし、肌はスベスベになるし、身体がポカポカするんだよ」
「へえ~……レクス、くわしいです」
「私は知ってた。入ったことないけど」

 なるほど。温泉ってこの世界じゃ珍しいのか。
 玄徳、愛沙は驚いている。

「レクスすごいね。温泉って外から来た人はわかっていない場合が多いんだけど」
「うんうん。私が説明する手間が省けたよ~」
「まあ、温泉好きだしな」

 前世では、湯治で有名な温泉とか連れて行ってもらったことがある……まあ、効かなかったけど。
 でも、家族で温泉出かけた思い出は忘れられない。
 俺はエルサとリーンベルに言う。

「じゃあ、迂回して『女子』の町に行く、って感じでいいか?」
「賛成です。お肌スベスベ……興味あります」
「わ、私も……」

 二人とも女の子だな。
 異世界の温泉か……俺もかなり気になる。

「あ、そうだレクス。『女子にょし』だけど……住民の九割が女性だから、びっくりしないでね」
「え」

 こうして俺たちはルートを変更し、女性の町『女子』を目指すことになった。
 急なルート変更。コレもある意味では旅の醍醐味。
 そして、もう一つ。
 玄徳、愛沙が顔を見合わせて頷いた。

「あのさ、レクスたち。もしよかったらだけど……岩月の国を僕たちが案内してあげるよ」
「しばらく同行していい? もちろん、魔獣が出たら戦闘もするし、わからないことは何でも聞いていいよ!!」

 これはありがたい申し出だ。

「いいのか? じゃあ、案内を頼むよ」
「任せてくれ」
「わあ、愛沙さん、よろしくお願いしますね」
「よ、よろしく……」
「うん。エルサ、リーンベル、よろしくね!!」

 こうして、俺たちのパーティーに玄徳、愛沙が加わった。
 現地人……エルサのパンフレットだけではない情報とかもあるし、すごく助かるぞ!!
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