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第二章 麗水の国ハルワタート

狂陸獣ティシュトリヤ

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 狂陸獣ティシュトリヤ。
 見た目はデカいヘラジカだ。ムサシに跨るとティシュトリヤに向かって走り出す。
 だが……近づけば近づくほど、そのプレッシャーに尻込みしそうだった。
 
「で、でっけぇ!!」
『グルルルルっ!!』

 ムサシも驚いているのか唸る。
 すると、ティシュトリヤは前傾姿勢になり、頭を俺たちに突き出してきた。
 どう見てもあのデカいツノは攻撃用──……俺は叫ぶ。

「ムサシ、回り込め!!」
『がうっ!!』

 ムサシはほぼ直角に回り込むと、ティシュトリヤが突っ込んで来た。
 あぶねぇ、あのまま真っ直ぐ突っ込んでいたら正面衝突していた。

「ムサシ、接近!!」

 ムサシはティシュトリヤに接近、ティシュトリヤは木々を薙ぎ倒しながらまだ走っている。
 すると、ティシュトリヤの側頭部に水の玉が激突した。

『グフュルルル!!』
「ナイス、エルサ!!」

 エルサの援護だ。
 エルサは頷くとすぐにその場から離脱。
 俺は接近し、ティシュトリヤの右前足を斬り付けた……が。

「か、硬っ……!?」

 毛の生えた鉄の杭を斬り付けたような感触がした。
 ダメージはほぼない。斬撃は効きづらい……だったら。

「ムサシ、離脱!!」
『がうっ!!』

 距離を取ると、ティシュトリヤが再び頭をこちらに向けた。
 すると、巨大な水球がティシュトリヤの頭を包み込んだ。

『ボゴッ、ボググゴ……ッ』
「レクス、身体強化します!!」

 素晴らしいアシストだ。
 水球でティシュトリヤの呼吸を封じ、さらに俺の身体強化も同時に行う。
 そして、俺の反対側に現れたリーンベル。

「エルサ、すごい……負けたられない!!」

 リーンベルの狙いは左前脚。

「ムサシ、『人型ヒューマ』!! 右後ろ脚!!」
『がるるっ!!』

 俺はムサシから飛び降り、アイテムボックスから槌を取り出す。
 ムサシは人型へ変化。右手に鱗を変化させた突撃槍を持ち、ティシュトリヤの右後足へ。
 リーンベルは大砲みたいな傘をティシュトリヤの左前足に狙いを定める。
 俺はその場で回転し勢いを付ける。

「ショット!!」
「だらぁ!!」
『ガルァァ!!』

 リーンベルの砲撃が足を吹き飛ばし、俺の槌による一撃が足をへし折り、ムサシの斬撃が足を斬り飛ばす。
 これで足を封じた。
 ティシュトリヤの顔を包んでいた水が全てのみ込まれ、その場でゴロゴロ暴れる。

『グロロロァァァァァァ!!』
「足を封じた。どんなデカいヤツでも、飛んでない限り足を潰せば終わりだろ……ふう」
『ぐるるる……!!』

 と、ムサシが『羽翼種』へ変形。
 翼を広げて一気に上昇。

「う……ムサシ、とどめを刺すつもりだ。二人とも、離れた方がいい!!」

 魔力が消費されていく……これは、ドラゴンブレスだ。
 俺たちは距離を取ると、それを確認したようにムサシの口から風のブレスが吐き出された。

『ッゴァァァァァ!!』

 ブレスがティシュトリヤに直撃……ティシュトリヤはじりじりと焼かれ、炭化した。
 近づき、剣で触れると……ボロボロと身体が崩れる。
 ドラゴンブレス。かなりの威力だ……サルワに当てた時とは威力が違う。
 ムサシは地上に降りると、手乗りサイズに戻って俺の頭に飛び乗った。

『きゅい!!』
「お疲れさん。お前、だいぶ強くなったな」
『きゅるる~』

 ムサシを手に乗せて撫でると、嬉しそうに翼をぱさぱさ動かした。
 
 ◇◇◇◇◇

 さて、ティシュトリヤを討伐した。
 ムサシは欠伸をして紋章に戻る。
 俺とエルサは、炭化したティシュトリヤを見ていた。

「いやー、硬かった」
「わたしも、水の玉をぶつけて少しはダメージを、って思ったんですけど……まるで意に介していませんでした」
「見ろよ。このツノ……ムサシのブレスで焼いたのに全然焼けてない。これ、素材として一流だぞ」
「回収しましょう。リーンベルさん、これ……回収していいんでしょうか?」
「え? ああ、うん……」

 なんか歯切れが悪いな。
 リーンベルは、俺をジッと見ていた。

「ね、レクスくん……その、体調は平気?」
「……いや、問題ないけど?」
「その、ドラゴンブレス……使ったよね? 魔力は?」
「そこそこ減ったけど、少しずつ回復してるぞ」

 ムサシのブレス、俺の総魔力の半分くらい持っていくんだよな。でも、徐々に回復してる。
 すると、リーンベルが目を見開いていた。

「か、回復してる……って?」
「魔力だよ。ちょっとずつだけど、魔力が回復していくんだ」
「……は?」
「は? って、いや……どうした?」

 リーンベルは、俺をジッと見て言う。

「あの、レクスくん……魔力が徐々に回復・・・・・・・・してるってこと・・・・・・・?」
「おう。えーと、数字で言うなら……俺の魔力の総量が100だとすると、三秒に1ポイント回復する感じかな」
「「……え」」

 って、リーンベルだけじゃなくエルサも驚いていた。
 な、なんだろう……魔力が回復するって普通のことじゃないのか?

「れ、レクス……それ、どういうことですか?」
「どういうことって言われても。俺、生まれつき魔力がゼロになったことないんだよ。どんだけ使っても、三十分しないうちにマックスまで溜まるから」
「「…………」」
「な、なんだよ二人とも……魔力は消耗品で、寝れば回復するんだろ?」

 すると、リーンベルが言う。

「レクスくん。魔力っていうのはね……使うと、回復に時間がかかるの」
「そうなのか?」
「うん。さっきの数字で言うと……普通の魔法師の魔力総量が100だとすると、1ポイント回復する・・・・・・・・・のに1日かかるの・・・・・・・・
「……え、そうなの?」
「そうだよ!! だから魔法師は魔法を使うのに慎重になるし、魔法を改良して10消費する魔法を1以下にするんだよ!!」
「……エルサも?」
「は、はい。わたしの魔力総量は普通の人より多いですけど……それでも、完全に回復したことは、ほとんどありません」
「そ、そうなのか」
「レクスくん……魔力の回復速度が『異常』だよ。ドラゴンブレスなんて、竜滅士の最終奥義みたいな技だよ? 一度使うと圧倒的な勝利間違いなしだけど、使用した竜滅士は一月は戦闘に参加することを禁じられるの。魔力の回復に努めないと、ドラゴンとの契約が崩れちゃうから……」

 全然知らなかった。
 というか、魔力の回復速度なんて考えもしなかった。
 ロープレとか、宿屋に泊まれば全回復するし、魔法薬を飲みまくれば一気にマックスまで回復する。
 そうか……これ、ゲームじゃないんだ。
 この世界にはこの世界の事情がある。

「え、じゃあ……お、俺ってもしかして」

 俺、チート?
 いろんな属性、形態に姿を変えられるムサシ。
 常人を越えた魔力回復力でドラゴンを使役できる俺。
 どう考えても、この世界ではあり得ない組み合わせ……あんまり好きじゃない『チート』だった。

 ◇◇◇◇◇

 と、とりあえず……うん、ティシュトリヤは倒した。
 まあ俺に関してはいい。俺はティシュトリヤのツノを拾う。

「リーンベル、これって売れるかな」
「え? あ、うん。たぶん」
「いらないなら貰っていいか? 旅の資金にしよう。それと……よくわからん体質みたいだけど、俺は俺だからあんまり気にしないでくれ。というか、便利だし困らないからな」
「「……」」

 エルサ、リーンベルが顔を見合わせ、クスっと微笑む。

「そうですね。レクスはレクスです」
「うん……ごめんねレクスくん。ちょっと驚いた」
「おう。じゃあ、このツノは旅の資金にするか。ハルワタート王国の次もあるし、旅は続くからな」

 アイテムボックスにツノをしまう。
 すると、リーンベルが言う。

「ね、レクスくんとエルサ。次はどこの国に行くの?」
「そうだな……エルサ、どう思う?」
「そうですねぇ~……地図を見ると、雷の国か地の国が近いですね」
「雷、地……おすすめは?」
「どっちもです。でも……『歴地の国アールマティ』は古い歴史の国で、有名な建築物がいっぱいあるそうです」
「いいね。じゃあ、そっちにするか」
「…………あの」

 と、エルサと行先を決めていると、リーンベルがおずおずと割り込んでくる。

「そ、その……次は、アールマティに行くんだね」
「ああ。大地と歴史に国……ハルワタート王国とは違う意味で観光地って感じだ。わくわくする」
「はい!! 古代文明や歴史……どんなところなんでしょうか」

 個人的には、中華的な古い建物をイメージする。尺八みたいなBGMが流れ、着物を着た人たちが闊歩するような……うん、文明が違うとワクワクする。

「あ、あの!!」
「ん、ど、どうしたんだよ……いきなり」
「あの、レクスくんにエルサ。お願いがあるの」
「「?」」

 エルサを顔を見合わせる。
 リーンベルは、日傘を差して顔を隠し、モジモジしながら言う。

「その……少しの間だけ、二人の旅に同行していいかな。わ、私も……冒険したいの!!」

 リーンベルの発案に、俺もエルサも驚きを隠せないのだった。
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