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第二章 麗水の国ハルワタート

いざ遊覧船へ

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 エルサと港町テーゼレをたっぷり満喫。
 網焼きの海鮮を食べたり、潮汁を飲んだり、野営用に乾物を買ったり、魚の骨で作ったお守りを買った。
 冒険者ギルドもちょっと覗いてみた。意外なことにここには水棲亜人さんたちが多く、依頼掲示板には『海中専用板』なるものがあり驚いた。
 水棲亜人専用の依頼掲示板、そして冒険者……風車の国じゃありえない光景だ。
  
 そして夕方近くになり、晩ごはん……もちろん海鮮。
 エルサが気にしていた海鮮鍋の店へ。
 俺は普通の海鮮鍋、エルサはやっぱり激辛鍋を注文……超うまかった。
 そのまま酒でも……って流れに普通はなるんだろうけど、明日の出発は早朝だし、買ったばかりの『目覚まし魔道具』もセットしなくちゃいけない。
 なので、そのまま宿へ。
 部屋の前で別れると、ムサシはエルサと一緒に部屋へ……今更だけど、ムサシって寝る時、俺よりエルサと一緒に寝たがるんだよな。まあいいけど。

 そんな感じで、港町テーゼレを目一杯観光したのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 目覚まし魔道具がジリジリ鳴り出し仰天……思った以上の轟音で飛び起きてしまった。
 俺は慌ててスイッチを押して止める。

「び、びっくりした……これ心臓に悪いな」

 すると、隣でも轟音。エルサも起きたようだ。
 俺は顔を洗い、軽くストレッチをして身体をほぐし着替えをする。
 武器は昨日手入れされて戻って来たし、物資も万全。
 冒険者カードも道具屋で買ったカードケースに入れれあるし、準備完了。
 部屋の外に出てエルサを待つと、こっちも準備万全だ。

「お、おはようございます……目覚まし魔道具、すごかったですね」
「ああ。これ、ボリューム変えたいけど……できるかな」
『きゅいいっ!!』
 
 と、ムサシが俺の胸に飛び込んできたので掌に載せる。

「お前もよく寝たか?」
『きゅい』

 うん、と頷く。
 そして、腹が減ったのか俺の紋章に飛び込んだ。魔力が減る感じ……朝飯だな。

「じゃあ、朝飯食って船に乗るか」
「はい」

 宿屋には事前に言ったので、早朝にもかかわらずちゃんと朝食が用意されていた。
 今日の朝食は焼いた魚に米、そして貝のスープ。
 やっぱり海沿いの町にある海鮮は絶品だ。
 朝食を食べ、チェックアウトして遊覧船乗り場へ。まだ早朝の六時なのに、町はすでに人でいっぱいだ。
 
「人、すごいですね」
「冒険者も多い。朝のラッシュを終えて、これから依頼みたいだな」
「そういえばわたしたち、依頼受けてませんね……」
「ハルワタート王国で受けるか。ダンジョンもあるし、冒険できそうだぞ」
「はい。えへへ……世界を楽しむ旅なのに、なんだか忙しいです」
「確かに。でも、全然嫌な忙しさじゃないよな」

 談笑しつつ遊覧船乗り場へ到着。
 受付で言われた通り、乗り場には魔道具が置かれ、そこに冒険者カードをタッチするだけですんなり乗船手続きが完了……魔道具ってすごいな。探せばパソコンみたいな道具もあったりして。
 さっそく乗船。案内に従って『彼方』と『永久』の部屋へ。
 俺とエルサの部屋は真向かいにあったので行き来が便利だ。
 部屋に入ると、かなり広かった。

「おお、すっげえ」

 広さは六畳ほど。椅子にテーブルにベッド、シャワールームもトイレもある。
 それに、窓が大きく外の景色がよく見えた。
 部屋を出てエルサの部屋のドアをノックし中に入れてもらうと……。

「おお!! こっちのがすごいな、倍の広さはあるぞ」

 『永久』の部屋は十二畳はある。
 ベッドも大きいし、シャワールームだけじゃなく浴槽も付いている。
 窓も大きく、外の景色がよく見える。

「立派ですね。あのレクス、本当にわたしがこっちでいいんですか?」
「いいって。俺、広すぎると落ち着かないし、それにムサシはお前と寝るし、ベッドも大きい方がいいだろ?」
『きゅい!!』

 ムサシも「そうだそうだ」と頷き、エルサの頭にポンと乗った。
 それから三十分ほどすると、遊覧船が動き出した。

『本日はハルワタート王国行き遊覧船をご利用いただきありがとうございます。船長のボンバッドです』
「おお。船内放送……こういうのってどこでもあるんだな」

 船長の声が聞こえてくる。いいね、船旅って感じ。

『航海時間は一日半を予定。それまで、船内と海の景色をご堪能下さい』

 放送が終わった。
 窓から外を見ると、船がゆっくり動いているのがわかる。

「レクス、外に出ませんか?」
「いいね、潮風を浴びよう」

 船内を突っ切り外へ……売店とかあったけど、まずは外を楽しむのが先だ。
 
「わぁ~……」

 エルサは髪を押さえ、手すりに触れて海を眺めていた。
 なんだか似合うな……映画とかでありそうなシーンだ。

『ワン、ワンワン!!』
「え?」
『ワォーン!!』

 いきなり犬の鳴き声がした……周囲を見渡すと、茶色い鳥が遊覧船と並走している。
 周りを見ると、観光客がエサを与えていた。

「あ、これウミイヌですね。犬みたいな鳴き声をする海の鳥みたいです」
「ウミイヌ……猫じゃないんだ」
「ねこ?」

 まあ、異世界だしな。
 餌……そういえば、保存食で買った魚の切り身があったな。
 アイテムボックスから出して手すりの向こうに差し出すと、ウミイヌが食らいついた。

『ガルルルルル!!』
「………」

 はっきり言って可愛くない。
 ってか、鳥が犬歯剥き出しで餌に食らいつくのってどうなんだ?
 
『きゅい~っ!!』
「ああ悪い悪い。お前にもやるよ」

 ムサシがウミイヌにエサをやってるのを見て嫉妬したのか、俺の指を甘噛みする。
 魔力がエサなので基本的に必要ないが、ドラゴンも飲食できる。
 魚の切り身を食べさせると、美味しそうに食べ始めた……うん、こっちのが可愛いわ。

「わぁ……海、綺麗ですね」

 エルサはウミイヌより、海に見惚れていた。
 確かに、海はきれいだった。
 青い海。桃色に輝く水草や、キラキラと透き通った水色のデカいシャコ貝が見える。小さな魚群や、でっかいエイみたいな魚も泳いでおり、船から見ただけで綺麗だとわかった。

「海に潜るのが楽しみになるな……ん?」

 そして気付いた。
 船に並走して、水棲亜人たちが泳いでいる。
 エルサは、どこで手に入れたのか遊覧船のパンフレットを読んでいた。

「船の護衛みたいですね。水麗騎士団が遊覧船の護衛をしているので、海の魔獣が出ても安全みたいです」
「海の魔獣……どんなのかな。デカいイカやタコとか? サメとかもあり得るな」
「海中では水棲亜人さんに適う種族は存在しないそうです。海の中限定だと、竜滅士ですら太刀打ちできないって……」
「パンフレットに書かれるくらいだし、竜滅士が認めたんだろうな」

 まあ、水属性のドラゴンなら……どうなのかな。
 しばし海を眺め、それから船内を散策することにした。
 売店にはいろんな食べ物があり、船内食堂では自由に食事や休憩が可能、図書室や遊技場もあり、これなら一日退屈せずに遊べそうだ。
 一通り見て回り、再び看板デッキに戻ってきた。

「いやあ、すっごい船だな」
「はい。遊び放題です!!」

 本当に楽しい。
 遊覧船の旅……そして、これから向かうハルワタート王国。
 歓楽領地ササン、水中都市アルメニア、ハルワタート本国に水棲領地メルティジェミニ。
 楽しみがいっぱい、ワクワクが止まらない。
 と、笑顔でエルサと話していた時だった。
 唐突に、遊覧船が揺れた。

「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
『きゅい~っ!?』

 びっくりした。
 一瞬の地震みたいな揺れ方だった。

「な、なんだ……?」
「びっくりしました……って、え」
「ん? どした」
「……あ、あれ」

 エルサが指差した方は海。
 そちらを向くと……海面から、妙な『触手』が飛び出していた。

「……な、なんだあれ?」
『緊急放送です。乗客の皆さんは、ただちに船内へ。魔獣の襲撃です。急ぎ船内へ!!』

 魔獣の襲撃。
 俺とエルサは顔を見合わせ、急ぎ船内へ行こうとした時だった。
 周りにいた観光客たちが船内に戻る中、エルサが気付く。

「うええええん、ママぁぁぁ」
「レクス、子供が!!」

 エルサが戻り、子供の手を掴んで走り出した──その時だった。
 海から出ていた触手が、エルサと子供に向かって伸びる。
 エルサは子供を押し、言った。

「子供を──」

 触手に捕まり、エルサは一瞬で海に引きずり込まれた。

「──エルサ!!」

 俺は子供を近くの人に任せ手すりへ。
 すでにエルサは見えない。水の波紋だけが残っていた。
 すると、ムサシが俺の耳を強く噛む。

『きゅい~っ!!』
「……わかってる」

 俺は双剣を抜き、手すりを飛び越えた。

「エルサ、今助ける!!」

 右手の紋章が熱くなる。
 ムサシが俺の決意に答えるよう、姿を変える。
 海水に飛び込み、目を開けると……俺の隣にいたのは頼れる相棒。

『ギュオオオン!!』

 『人型形態』となったムサシ……だが、身体の色が青くなっていた。
 右手の紋章。風のマークではなく、水のマークが青く輝いている。
 水属性の形態……名付けて『ムサシ・水属性態《アニマスタイル》』だ。
 風属性の人型と違い、身体の各部分が丸っこくなり、サファイアみたいなツノも生えている。そして、鱗を変形させ槍を作ると、俺を自分の背中に掴まるように鳴く。
 ムサシに触れると、俺の身体が水の膜で包まれた。

「……喋れる。これ、お前の?」
『ぎゅるる』
「竜魔法かな……よし、これなら行ける!! ムサシ、エルサを探す!! 時間は少ないぞ!!」
『ぎゅるるる!!』

 俺とムサシは、エルサが消えた海底に向かうのだった。
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