上 下
3 / 15

ユーリ領地

しおりを挟む
 王国を出発して数時間。
 ユーリ領地は、マルセイユ王国から馬車で一か月ほどのところにある僻地中の僻地……というか、つい最近まで戦地だった土地だ。
 大勢の血を吸った大地は草木が生えず、かつて集落だった土地や建物は荒れ、住んでいた住人たちは逃げ出し、逃げなかった人は囚われ、奴隷にされた。
 馬車の中で、マサムネはユメに説明する。

「そんなの知ってるわよ。というか、サーサ公爵家が管理を命じられたのに、管理者どころかまともな整備すらしていない土地にマサムネを送るってところよ。ってか、奪った土地を管理もしないでほったらかしって……馬鹿じゃないの?」
「ユメ、やめろって……仕方ないんだよ。サーサ公爵家は戦争の後始末に追われて、優先度の低いユーリ領地は後回しにされたんだ」
「で、忘れてたと。亜人が戻って住み着いてるかもしれない土地に、たったこれだけの人数で向かって管理しろって? 公爵のおじ様も馬鹿じゃないの?」
「ユメ……」

 ユメは、思ったことをはっきりいうタイプの子だ。
 相手が王だろうと変わらない。ユメの父も何度ハラハラさせられたことか。
 だが、そこが魅力的なところでもある。

「ねぇ……ユーリ領地の現状、ほんとに何もわからないの?」
「最新の資料でも一年前の物だからな……土地は荒れ、主要都市は瓦礫の山状態、亜人たちが隠れて暮らしている集落がいくつかあり……これだけ」
「はぁぁ~……バッカみたい」

 ユメが呆れるのも無理はない。
 それくらい、マルセイユ王国ユーリ領地はどうでもいい領地なのだ。

「亜人、どのくらいいるのかな」
「わからない……」
「最初に言っておくけど、危険が迫れば斬るから」
「……わかってる」
「ノゾミ、あなたも遠慮しないでね」
「御意」

 馬車の窓が開き、ノゾミがにゅっと顔を出した。
 そんなに大きな声で話してたわけじゃないのに、聞こえてたのか。

「ねぇマサムネ、あんたって亜人に偏見持ってる?」
「いや別に?」
「私もよ。ってか、亜人種って可愛いじゃん。亜人差別主義者は『人間以下』とか言うけどね。以前、私の前で亜人の子苛めてたクソ野郎の顔面、思いっ切り蹴り飛ばしてやったわ」
「か、過激だな……」

 亜人。
 ヒトならざるモノ、と言われている人と動物の混合種族。
 多くの者の外見は人だが、体毛が多かったり尻尾が生えていたりする。言葉も通じるし食べる物も同じ……だから、人ならざるモノとして差別される。
 マルセイユ王国に住む亜人は多くが奴隷だ。逃げ出し、王国のスラム街で暮らす亜人も多いと聞く。

「マサムネ、あんたはこれからそういう場所で領主やんのよ。ちゃんとやりなさいね」
「ああ。戦いじゃあまり役に立たないけど、俺には『閃き』のスキルがある。上手くやってみせるさ」
「閃きねぇ……それ、前から使ってたけどあんまり役に立たない能力じゃん」
「ちょ、直前じゃダメなんだよ。ある程度情報が集まってから『閃』く場合が多いんだ」

 俺のスキル『閃き』は、困難な状況に文字通り『閃』くのだ。
 閃きが発動するためには、ある程度の情報が必要だし、時間がかかる。なので、戦いのさなかに剣を振っている最中に閃くことはない。閃いたところで身体が付いていかず、一本取られるのが落ちである。
 なので、政治や統治にこそ『閃き』は役に立つ……と、踏んでいた。

「困難な状況こそ、俺にうってつけだ。最初は絶望したけど……今はもう大丈夫。亜人たちといい関係性を結んで、しっかり領主をやってみるよ」
「うんうん! さっすが私のマサムネ、かっこいい!」
「はは、ありがとう、ユメ」
「うん!」

 幼馴染で、婚約者のユメ……可愛いし強いし、本当にいい子だ。
 ユメのためにも、立派な領主になってみせる!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「追放」も「ざまぁ」も「もう遅い」も不要? 俺は、自分の趣味に生きていきたい。辺境領主のスローライフ

読み方は自由
ファンタジー
 辺境の地に住む少年、ザウル・エルダは、その両親を早くから亡くしていたため、若干十七歳ながら領主として自分の封土を治めていました。封土の治安はほぼ良好、その経済状況も決して悪くありませんでしたが、それでも諸問題がなかったわけではありません。彼は封土の統治者として、それらの問題ともきちんと向かいましたが、やはり疲れる事には変わりませんでした。そんな彼の精神を、そして孤独を慰めていたのは、彼自身が選んだ趣味。それも、多種多様な趣味でした。彼は領主の仕事を終わらせると、それを救いとして、自分なりのスローライフを送っていました。この物語は、そんな彼の生活を紡いだ連作集。最近主流と思われる「ざまぁ」や「復讐」、「追放」などの要素を廃した、やや文学調(と思われる)少年ファンタジーです。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

第1王子だった私は、弟に殺され、アンデットになってしまった

竹桜
ファンタジー
第1王子だった主人公は、王になりたい弟に後ろから刺され、死んでしまった。 だが、主人公は、アンデットになってしまったのだ。 主人公は、生きるために、ダンジョンを出ることを決心し、ダンジョンをクリアするために、下に向かって降りはじめた。 そして、ダンジョンをクリアした主人公は、突然意識を失った。 次に気がつくと、伝説の魔物、シャドーナイトになっていたのだ。 これは、アンデットになってしまった主人公が、人間では無い者達と幸せになる物語。

「魔物肉は食べられますか?」異世界リタイアは神様のお情けです。勝手に召喚され馬鹿にされて追放されたのでスローライフを無双する。

太も歩けば右から落ちる(仮)
ファンタジー
その日、和泉春人は、現実世界で早期リタイアを達成した。しかし、八百屋の店内で勇者召喚の儀式に巻き込まれ異世界に転移させられてしまう。 鑑定により、春人は魔法属性が無で称号が無職だと判明し、勇者としての才能も全てが快適な生活に関わるものだった。「お前の生活特化笑える。これは勇者の召喚なんだぞっ。」最弱のステータスやスキルを、勇者達や召喚した国の重鎮達に笑われる。 ゴゴゴゴゴゴゴゴォ 春人は勝手に召喚されながら、軽蔑されるという理不尽に怒り、王に暴言を吐き国から追放された。異世界に嫌気がさした春人は魔王を倒さずスローライフや異世界グルメを満喫する事になる。 一方、乙女ゲームの世界では、皇后陛下が魔女だという噂により、同じ派閥にいる悪役令嬢グレース レガリオが婚約を破棄された。 華麗なる10人の王子達との甘くて危険な生活を悪役令嬢としてヒロインに奪わせない。 ※春人が神様から貰った才能は特別なものです。現実世界で達成した早期リタイアを異世界で出来るように考えてあります。 春人の天賦の才  料理 節約 豊穣 遊戯 素材 生活  春人の初期スキル  【 全言語理解 】 【 料理 】 【 節約 】【 豊穣 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】 【 快適生活スキル獲得 】 ストーリーが進み、春人が獲得するスキルなど 【 剥ぎ取り職人 】【 剣技 】【 冒険 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】【 快適生活獲得 】 【 浄化 】【 鑑定 】【 無の境地 】【 瀕死回復Ⅰ 】【 体神 】【 堅神 】【 神心 】【 神威魔法獲得   】【 回路Ⅰ 】【 自動発動 】【 薬剤調合 】【 転職 】【 罠作成 】【 拠点登録 】【 帰還 】 【 美味しくな~れ 】【 割引チケット 】【 野菜の種 】【 アイテムボックス 】【 キャンセル 】【 防御結界 】【 応急処置 】【 完全修繕 】【 安眠 】【 無菌領域 】【 SP消費カット 】【 被ダメージカット 】 ≪ 生成・製造スキル ≫ 【 風呂トイレ生成 】【 調味料生成 】【 道具生成 】【 調理器具生成 】【 住居生成 】【 遊具生成 】【 テイルム製造 】【 アルモル製造 】【 ツール製造 】【 食品加工 】 ≪ 召喚スキル ≫ 【 使用人召喚 】【 蒐集家召喚 】【 スマホ召喚 】【 遊戯ガチャ召喚 】

贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~

鐘雪アスマ
ファンタジー
海道刹那はごく普通の女子高生。 だったのだが、どういうわけか異世界に来てしまい、 そこでヒョウム国の皇帝にカルマを移されてしまう。 そして死後、このままでは他人の犯した罪で地獄に落ちるため、 一度生き返り、カルマを消すために善行を積むよう地獄の神アビスに提案される。 そこで生き返ったはいいものの、どういうわけか最強魔力とチートスキルを手に入れてしまい、 災厄級の存在となってしまう。 この小説はフィクションであり、実在の人物または団体とは関係ありません。 著作権は作者である私にあります。 恋愛要素はありません。 笑いあり涙ありのファンタジーです。 毎週日曜日が更新日です。

女神を怒らせステータスを奪われた僕は、数値が1でも元気に過ごす。

まったりー
ファンタジー
人見知りのゲーム大好きな主人公は、5徹の影響で命を落としてしまい、そこに異世界の女神様が転生させてくれました。 しかし、主人公は人見知りで初対面の人とは話せず、女神様の声を怖いと言ってしまい怒らせてしまいました。 怒った女神様は、次の転生者に願いを託す為、主人公のステータスをその魂に譲渡し、主人公の数値は1となってしまいますが、それでも残ったスキル【穀物作成】を使い、村の仲間たちと元気に暮らすお話です。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...