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それぞれの相手

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 両手を広げたエルクをアサシンたちが包囲する。
 その中には、アカネの上司であるシャクヤクがいた。アカネはいない。
 シャクヤクは、無言で両手のブレードを展開。部下たちも展開する。
 タケル、ビャクヤは座ったままだ。

「タケル様、まずは」
「ああ、お手並み拝見」
「…………」
「やれ」

 ビャクヤが命令すると同時に、アサシンたちは両手のブレードで自らの両足を突き刺した。

「は?」
「「「ぐ、あァァァァァッ!?」」」

 アサシンたちが絶叫する。
 ブレードを展開した時点で、エルクの念動力に囚われていたのだ。
 ビャクヤの命令と同時に、自分の両足に突き刺すように操作し、ぐりぐりと神経や骨を砕くようにブレードを掻きまわす。もう、二度と歩けないように、二度とふざけたことができないように。
 アサシンたちが痛みで気を失ったのを確認することなく、エルクはビャクヤを睨み……確認した。

「ヤト」
「…………なに?」
「こいつ、殺していいか?」
「駄目。私が殺す」
「わかった」
「おいおいおいおい、キミがボクを殺す? 冗だ」

 ビシリと、ビャクヤの身体が硬直した。
 念動力による拘束。指一本動かせず、さすがのビャクヤも目を見開く。
 エルクは念動力を解除し、両手のブレードを展開した……が。

「エルクくん。そちらの方は譲っていただけませんか?」
「ソフィア先生? 武士は……」
 
 武士たちは、全員が見るも無残な姿になっていた。
 二十人以上いた武士は、ほんの一分足らずで全員が半殺しになっていた。
 ソフィアは、両手に聖剣を持っている。銀と金の聖剣には、血が滴っていた。
 そして、ソフィアの目つきが尋常ではないほど殺意に染まっている。

「わかりました。殺すのはヤトがやるそうです」
「ええ、半殺しにしておきます」
「ヤトの方は?」
「大丈夫でしょう。それと、授業ではまだ習っていない範囲ですので教えておきます。スキルというのは、経験値による蓄積でレベルが上がり、レベル上限になるとスキル進化をします。経験値は、戦いの中で得たり、魔獣を倒すと得られますが……心に深い影響を受けた時、大量の経験値を得ることがあります。カヤさんの死が、ヤトさんに大量の経験値を与えたようです」
「……そうですか。じゃあ、ここはお任せします」

 エルクは、ビャクヤを念動力で引き寄せる。そして、入れ替わるようにタケルの前へ。
 ソフィアは、ゲホゲホむせるビャクヤを、冷たい目で見ていた。

「げっほげっほ……あーしんどいわ。ったく、なんだあのガキは……ねぇ、先生」
「…………」
「おお、怖い怖い。どうやら、あなたはとんでもない剣士のようだ。ボクも本気にならんとねぇ」

 砕けた口調……こちらが、本来のビャクヤなのだろう。
 ビャクヤは、ウェポンリングから一本の長刀を取り出す。

「櫛灘家の宝剣が一本、『絶歌氷刃』……ふふ、サクヤの持つ六本の宝剣もまぁ宝剣だけど、ボク、ユウヒ、ヒノワの持つ宝刀とはレベルが違うよ? 先生、覚悟するといい」
「よく回る口ですね」

 ソフィアは、黄金の剣と、白銀の剣を掲げた。

「エクスカリヴァー、コールブランド……久しぶりに、本気で行きますよ」

 ◇◇◇◇◇

 ヤトは、六本の刀を全て取り出し足元にバラバラ落とす。
 ヤトの前には、妹ヒノワが忍者刀を抜いてクルクル回し、姉ユウヒは反り返った刀を抜く。
 ヒノワは、ヤトの刀を見て笑った。

「あはは!! お姉ちゃん、その刀……ふふ、櫛灘家の宝刀みたいだけど、大したやつじゃないって知ってるの? あたしの『隠形鬼』一本以下の刀だよ?」
「…………」
「ヒノワ、いいから真面目にやりなさい」
「はーいっ。ね、お姉ちゃん。『分身』使わないの?」
「…………」

 スキル、『武神分身』を発動。
 五体の鎧武者が現れ、落ちていた剣を拾って抜刀した。
 
「お、スキル進化したんだ!」
「少しは強くなったようねぇ。ふふ、式場家の連中、よく育ててくれたわ」
「…………」

 ヤトは何も言わない。
 無言で、分身たちに向かい言った。

「スキル進化───……マスタースキル、『阿修羅王』」

 そして、五体の分身が融合……六本の腕を持つ一体の鬼神となった。
 ヤトは、いつも使っていた『六天魔王』を阿修羅王に渡す。
 これには、ヒノワも驚いていた。

「わお、マスタースキル……マジで? この土壇場で?」
「ふ、六本の腕を持つ鬼神ねぇ。でも、あなたは丸腰でやるつもり?」
「丸腰じゃないわ」
 
 ヤトは、ウェポンリングから一本の宝刀を取り出す。
 白銀の柄、鞘、鍔の、触れることすら躊躇う宝刀。
 櫛灘家の秘宝が、ヤトの手にあった。
 これに、ユウヒとヒノワは仰天する。

「な……し、『七星神覇しちせいしんは』!? うそ、なんで!?」
「ど、どうしてあんたがその刀を……!? それは、選ばれし者しか触れることができない刀のはず」
「今思うと、不思議だった……これね、櫛灘家を逃げようとした私の足元に転がってたの。すごいタイミングだと思ったけど、どうやらこの刀……」

 ヤトは、柄と鞘に手をかけ、一気に抜いた。
 眩い輝きの銀の刀身があらわになる。芸術品のような美しさだ。

「この刀、私を主と認めたようね……覚悟はいい?」

 ヤトが構えを取ると、阿修羅王がヤトに並び立つ。
 ユウヒ、ヒノワも剣を構えた。

「ヒノワ、あの刀を回収するわよ」
「うん。あの刀、あたしが使っていい……? お姉ちゃんにはもったいないよね」

 ヤトの戦いが、始まった。
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