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新装備
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発表会が始まった。
生徒が集合して校長の挨拶、号令などの式があるのかと思ったが、学園の正門が開くと同時に始まった。武道大会と違い、始めの挨拶や式などはないようだ。
門が開くと、許可を得た商人や貴族などが厳重なチェックを受け学園内へ。
商業科教室に向かったり、商業科博物館へ向かう客がほとんどだ。
エルクは、上空から現れて着地。ニッケスとエマがいる教室へ。
戦闘服、腕章の姿はやや目立つ。マスクはせずに商業科教室棟へ向かった。
教室前には、大勢の商人や貴族、上級生がいた。
そして、上級生に何やら解説をしているニッケスと目が合う。
「お、エルク」
エルクと目が合うと、ニッケスは上級生から離れた。
前日は緊張していたが、今は全く緊張していないようだ。
「よ、ニッケス」
「おう、来てくれたのか」
「ああ。というか、もう始まってるんだな……なんかこう、開会式みたいなのないのか?」
「はは。そんなのないよ。門が開くと同時に開始……それだけだ」
「そっか。それにしても……賑わってるなぁ」
商人、貴族、上級生。
商人は新入生が作った商品をチェック。貴族は、服や小物などのデザインをチェック。上級生はどんな作品があるのかをチェックしている。
スキル学科の生徒も、何人かいるようだ。
「ところでニッケス、上級生と何を喋ってたんだ?」
「商品の説明だよ。オレ、今回のためにいくつか道具を作ったんだ。自信作の計算機は博物館に置いて、教室には『巻尺』を置いた。その説明だよ」
「……まき、じゃく?」
「ああ。これ」
ニッケスがポケットから出したのは、丸めた紐のような何かだった。
それを伸ばすと、何やら数字が書かれている。
「普段、長さ測るときに使うのは木製定規だろ? でも、こうやって帯状にして丸めておけば、定規より長く持ち運びにも便利ってわけだ。大工さんとかに喜ばれるかなーと思って作ったんだ」
「す、すっごいじゃん。こんなの初めて見たぞ」
「いや、思い付きの道具だし、大したことないって」
ニッケスは少しだけ照れていた。
すると、ニッケスの背後に立っていた男性が『巻尺』をひょいっと掴む。
「ふむ、なかなか面白いじゃないか。計算機も大したものだったが、こちらも面白い。コストも安く上がりそうだ」
「何すん───……え、親父!?」
「おやじ!? え、ニッケスの……」
「初めまして。エルク君だね? キミのことはニッケスから手紙で聞いているよ」
立派な口髭を蓄えた紳士。それが第一印象だった。
身なりもよく隙がない。護衛を二名ほど連れているが、どちらも相当な実力者だった。
「マーベル商会会長、グレアムだ。ニッケスとメリーが世話になっているね」
「い、いえ」
「ふむ……噂の新入生最強の暗殺者、『死烏』エルク君は、随分と謙虚なようだ」
「……あ、アサシンって。俺、暗殺者なんて名乗ってませんけど」
「はっはっは。ニッケスがヤマト国の輸入品である『カティルブレード』を送れと言った時は驚いたよ。アサシンが使う暗器なぞ何に使うのかと思えば……なかなかどうして」
グレアムは、エルクの籠手に装備してあるブレードを見て笑みを浮かべる。
護衛の一人に目配せすると、護衛が装飾の施された金属製の箱を取り出した。
「少し、いいかな?」
「お、おい親父、何してんだよ」
「エルク君にプレゼントだ」
箱を開けると、小さな望遠鏡のようなモノが付いた筒が入っていた。
エルクの左手の籠手を外し、手早く取り付ける。
籠手の上部に、細いレンズ付きの筒が取り付けられた。筒には穴が開いており、何かを入れるような造りになっている。さらに、小さなレバーやトリガーも付いていた。
エルクは籠手を装備し、確認する。
「あの……これ、何ですか?」
「ふふ、プレゼントだ。右籠手には短弓が付いてるから、左籠手にね」
グレアムは、エルクに小箱を渡す。
中を見ると、小さな筒状の何かがたくさん入っていた。
「これは、西方で開発された『銃』という武器だ。この弾丸を筒にセットして、レバーを引き、トリガーを弾くと、内蔵された火薬が爆発して弾丸が飛び出す。威力は、弓とは比べ物にならない。弓の射程はせいぜい20メートルほどだが、この銃の射程距離は150メートルほど。さらに、スコープが付いているので、狙いも付けやすい」
「……へぇ~」
「お、おい親父!!」
「さ、弾丸だ。撃つのは……ここではやめた方がいい。けっこうな音が出るからね。弾が足りなくなったらニッケスに言うといい。手配させてもらうよ」
「あ、ありがとうございます。使わせていただきます」
エルクはペコリと一礼。グレアムは満足そうに微笑んだ。
◇◇◇◇◇
エルクが「見回り再開する。また後でな」と言っていなくなり、ニッケスはグレアムに聞いた。
「おい親父、どういうつもりだよ」
「ん? 何がだ?」
「あの『銃』だよ。あれ、西方で開発された新型で、仕入れるのに苦労したって手紙で言ってたじゃん。なんであっさり……しかもタダで……エルクに渡したんだ?」
「……口じゃ難しいな。きっかけは、お前の手紙だ」
「オレの手紙?」
ニッケスは、両親と手紙のやり取りをしている。
近況や商会の仕事が殆どだが、ブレードを譲り受ける際にエルクの話を少しした。
「感じたんだよ。手紙だけでも、エルク君の『何か』をね」
「……まさか」
「実際に会って確信した。カティルブレード、ステルスガンはエルク君にこそ相応しい……彼はいずれ、我々にとっていい顧客になるとね」
「……親父のスキルか」
「ああ」
スキル、『第六感』
レアスキルの一つで、能力は『勘が働く』こと。スキル『直観』のマスタースキル。
グレアムの『第六感』が、エルクに反応した。
「ニッケス。彼の装備、彼が望むものは商会で手配する。ククク……私の『第六感』が反応するのが二十年ぶり、四回目だ。彼は間違いなく、この世界を回す大いなる存在になる」
「マジかよ……」
「ニッケス、彼の装備の手入れ、点検を怠るなよ」
「へいへい」
「それと、メリーはどこだ? 久しぶりに可愛い娘とランチタイムだ。ふふふ」
「おい、息子のオレとメシ食わねぇのかよ……」
そう呟き、ニッケスはエルクが去った方向を見てため息を吐いた。
◇◇◇◇◇
学園内に入るには、事前に申請が必要である。
申請には身分証明書が不可欠で、職業や貴族階級なども記載しなければならない。そして、厳しい審査を終えてようやく入場許可が出る。
さらに、学園正門でも厳しいチェックが入る。スキルによる徹底的なチェックを終えて、ようやく学園に入ることが許されるのだ。
だが、裏を返せば……チェックさえ通れば、誰でも簡単に学園内に入れる。
入場のチェックを担当する王国騎士のエバンスは、入場者の確認作業をしていた。
事前申請書のチェック、本人かどうかの確認、スキルによる審査。
そして、それらすべてを終え、エバンスは入場者に言う。
「お疲れ様でした。では、学園内へお入りください」
「……どうも」
凝った『ワフウ』の馬車を見送る。
ヤマト国からわざわざ来たようだ。しかも、乗っていたのは全員が若い女性。
エバンスは役得だと思いつつ、疑問に思う。
「にしても、不思議な客層ばかりだな」
若い女性たちだけのグループ。
若い男性たちだけのグループ。
初老の男女だけのグループ。
偏りはあるが、グループ内の年齢は不思議なくらい揃っていた。
「まぁ、審査に合格しているし、大丈夫だろ」
審査に合格していれば、大丈夫。
そんな先入観が、学園内に不審者を招く結果となってしまっていた。
生徒が集合して校長の挨拶、号令などの式があるのかと思ったが、学園の正門が開くと同時に始まった。武道大会と違い、始めの挨拶や式などはないようだ。
門が開くと、許可を得た商人や貴族などが厳重なチェックを受け学園内へ。
商業科教室に向かったり、商業科博物館へ向かう客がほとんどだ。
エルクは、上空から現れて着地。ニッケスとエマがいる教室へ。
戦闘服、腕章の姿はやや目立つ。マスクはせずに商業科教室棟へ向かった。
教室前には、大勢の商人や貴族、上級生がいた。
そして、上級生に何やら解説をしているニッケスと目が合う。
「お、エルク」
エルクと目が合うと、ニッケスは上級生から離れた。
前日は緊張していたが、今は全く緊張していないようだ。
「よ、ニッケス」
「おう、来てくれたのか」
「ああ。というか、もう始まってるんだな……なんかこう、開会式みたいなのないのか?」
「はは。そんなのないよ。門が開くと同時に開始……それだけだ」
「そっか。それにしても……賑わってるなぁ」
商人、貴族、上級生。
商人は新入生が作った商品をチェック。貴族は、服や小物などのデザインをチェック。上級生はどんな作品があるのかをチェックしている。
スキル学科の生徒も、何人かいるようだ。
「ところでニッケス、上級生と何を喋ってたんだ?」
「商品の説明だよ。オレ、今回のためにいくつか道具を作ったんだ。自信作の計算機は博物館に置いて、教室には『巻尺』を置いた。その説明だよ」
「……まき、じゃく?」
「ああ。これ」
ニッケスがポケットから出したのは、丸めた紐のような何かだった。
それを伸ばすと、何やら数字が書かれている。
「普段、長さ測るときに使うのは木製定規だろ? でも、こうやって帯状にして丸めておけば、定規より長く持ち運びにも便利ってわけだ。大工さんとかに喜ばれるかなーと思って作ったんだ」
「す、すっごいじゃん。こんなの初めて見たぞ」
「いや、思い付きの道具だし、大したことないって」
ニッケスは少しだけ照れていた。
すると、ニッケスの背後に立っていた男性が『巻尺』をひょいっと掴む。
「ふむ、なかなか面白いじゃないか。計算機も大したものだったが、こちらも面白い。コストも安く上がりそうだ」
「何すん───……え、親父!?」
「おやじ!? え、ニッケスの……」
「初めまして。エルク君だね? キミのことはニッケスから手紙で聞いているよ」
立派な口髭を蓄えた紳士。それが第一印象だった。
身なりもよく隙がない。護衛を二名ほど連れているが、どちらも相当な実力者だった。
「マーベル商会会長、グレアムだ。ニッケスとメリーが世話になっているね」
「い、いえ」
「ふむ……噂の新入生最強の暗殺者、『死烏』エルク君は、随分と謙虚なようだ」
「……あ、アサシンって。俺、暗殺者なんて名乗ってませんけど」
「はっはっは。ニッケスがヤマト国の輸入品である『カティルブレード』を送れと言った時は驚いたよ。アサシンが使う暗器なぞ何に使うのかと思えば……なかなかどうして」
グレアムは、エルクの籠手に装備してあるブレードを見て笑みを浮かべる。
護衛の一人に目配せすると、護衛が装飾の施された金属製の箱を取り出した。
「少し、いいかな?」
「お、おい親父、何してんだよ」
「エルク君にプレゼントだ」
箱を開けると、小さな望遠鏡のようなモノが付いた筒が入っていた。
エルクの左手の籠手を外し、手早く取り付ける。
籠手の上部に、細いレンズ付きの筒が取り付けられた。筒には穴が開いており、何かを入れるような造りになっている。さらに、小さなレバーやトリガーも付いていた。
エルクは籠手を装備し、確認する。
「あの……これ、何ですか?」
「ふふ、プレゼントだ。右籠手には短弓が付いてるから、左籠手にね」
グレアムは、エルクに小箱を渡す。
中を見ると、小さな筒状の何かがたくさん入っていた。
「これは、西方で開発された『銃』という武器だ。この弾丸を筒にセットして、レバーを引き、トリガーを弾くと、内蔵された火薬が爆発して弾丸が飛び出す。威力は、弓とは比べ物にならない。弓の射程はせいぜい20メートルほどだが、この銃の射程距離は150メートルほど。さらに、スコープが付いているので、狙いも付けやすい」
「……へぇ~」
「お、おい親父!!」
「さ、弾丸だ。撃つのは……ここではやめた方がいい。けっこうな音が出るからね。弾が足りなくなったらニッケスに言うといい。手配させてもらうよ」
「あ、ありがとうございます。使わせていただきます」
エルクはペコリと一礼。グレアムは満足そうに微笑んだ。
◇◇◇◇◇
エルクが「見回り再開する。また後でな」と言っていなくなり、ニッケスはグレアムに聞いた。
「おい親父、どういうつもりだよ」
「ん? 何がだ?」
「あの『銃』だよ。あれ、西方で開発された新型で、仕入れるのに苦労したって手紙で言ってたじゃん。なんであっさり……しかもタダで……エルクに渡したんだ?」
「……口じゃ難しいな。きっかけは、お前の手紙だ」
「オレの手紙?」
ニッケスは、両親と手紙のやり取りをしている。
近況や商会の仕事が殆どだが、ブレードを譲り受ける際にエルクの話を少しした。
「感じたんだよ。手紙だけでも、エルク君の『何か』をね」
「……まさか」
「実際に会って確信した。カティルブレード、ステルスガンはエルク君にこそ相応しい……彼はいずれ、我々にとっていい顧客になるとね」
「……親父のスキルか」
「ああ」
スキル、『第六感』
レアスキルの一つで、能力は『勘が働く』こと。スキル『直観』のマスタースキル。
グレアムの『第六感』が、エルクに反応した。
「ニッケス。彼の装備、彼が望むものは商会で手配する。ククク……私の『第六感』が反応するのが二十年ぶり、四回目だ。彼は間違いなく、この世界を回す大いなる存在になる」
「マジかよ……」
「ニッケス、彼の装備の手入れ、点検を怠るなよ」
「へいへい」
「それと、メリーはどこだ? 久しぶりに可愛い娘とランチタイムだ。ふふふ」
「おい、息子のオレとメシ食わねぇのかよ……」
そう呟き、ニッケスはエルクが去った方向を見てため息を吐いた。
◇◇◇◇◇
学園内に入るには、事前に申請が必要である。
申請には身分証明書が不可欠で、職業や貴族階級なども記載しなければならない。そして、厳しい審査を終えてようやく入場許可が出る。
さらに、学園正門でも厳しいチェックが入る。スキルによる徹底的なチェックを終えて、ようやく学園に入ることが許されるのだ。
だが、裏を返せば……チェックさえ通れば、誰でも簡単に学園内に入れる。
入場のチェックを担当する王国騎士のエバンスは、入場者の確認作業をしていた。
事前申請書のチェック、本人かどうかの確認、スキルによる審査。
そして、それらすべてを終え、エバンスは入場者に言う。
「お疲れ様でした。では、学園内へお入りください」
「……どうも」
凝った『ワフウ』の馬車を見送る。
ヤマト国からわざわざ来たようだ。しかも、乗っていたのは全員が若い女性。
エバンスは役得だと思いつつ、疑問に思う。
「にしても、不思議な客層ばかりだな」
若い女性たちだけのグループ。
若い男性たちだけのグループ。
初老の男女だけのグループ。
偏りはあるが、グループ内の年齢は不思議なくらい揃っていた。
「まぁ、審査に合格しているし、大丈夫だろ」
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