23 / 132
開会式
しおりを挟む
チーム戦、開会式が始まった。
チームが多いため、全チームを一か所に集めるのは手間がかかる。なので、選ばれた数チームだけが本選会場となる『闘技場』に集まり、宣誓の言葉などをやる。
他のチームは、数十チームごとに『選手控室』に集められ、控室にあった巨大なガラス板の前に集まっていた。
エルクは、ガラス板を見ながら首を傾げる。
「なんだ、これ?」
「投影板。先公のスキルに『投影』を使える奴がいて、先公が見た『映像』を投影板に映すんだとよ」
「へ~っ、便利だな」
投影板を眺めていると、いきなり映像が映し出された。
闘技場内では、十チーム集まって並んでいる。
案の定いた。
「あ、王太子エルウッドのチームだ。新入生最強のチームって言われてるみたいだよ」
「一緒にいるのは……チッ、有名な兄妹か。デオ王国の『剣魔』だ」
「……剣魔?」
「ああ。デオ王国、キネーシス公爵家の天才剣士の兄と、天才魔法使いの妹を合わせて呼ぶ名称だ。エルウッド王子と同じチームになったって聞いたが……」
「…………」
エルクは、キネーシス公爵家の『剣魔』こと、ロシュオとサリッサを見た。
騎士風の勝負服を着たロシュオと、魔法使い風のローブに身を包んだサリッサ。どこか誇らしげな表情なのは、見間違いではない。
「お前、有名どころの生徒くらい覚えておけよ」
「ああ、そうだな……」
「お、挨拶始まるみたい」
まず最初に、学園長ポセイドンの挨拶だ。
『えー、長いのは嫌いなので簡単に。怪我をしても大丈夫、死んでも一日以内なら生き返るから、思いっきりやりなさい。以上……ふぉっふぉっふぉ』
会場内が静まり返った。
冗談なのか本気なのか、よくわからない。
ポセイドンは、教師たちに何やらガミガミ言われていたが、両手で耳を塞いで聞こえないふりをしていた。どこまでも子供っぽい。
そして次は、エルウッドによる生徒代表挨拶だ。
『宣誓!! 我々は、正々堂々と戦い抜くことを、ここに誓います!!』
闘技場にいた生徒たちが、右手を上げて復唱する。
控室にいた何人かも、同じように手をあげる。
だが、エルクは上げない。誓わない。
正々堂々という言葉が信じられない。かつて、キネーシス公爵家に陥れられた時を思い出し、投影板に映るロシュとサリッサを睨んでしまう。
「……おい、どうした?」
「エルク、緊張してる?」
「……いや」
ガンボとフィーネがエルクの顔を覗き込んだ。
だが、エルクは首を振る。
そして、投影板に現れたのは──────シャカリキだ。
『はいは~い。では、ルール説明しますね。まず最初に『予選会』を開催します。それぞれのチームに一本、この『フラッグ』を渡します』
シャカリキがパチンと指を鳴らすと……なんと、エルクの手元に赤い『旗』が現れた。
いきなりのことで驚くが、周りも同じ状況だった。
『ルールは簡単。制限時間内に、この『フラッグ』を三本所有していたチームが本選に出場できます。どんな手段を使っても構いません。制限時間は七時間。三本の『フラッグ』を手に入れてください。ああ、先ほど校長も言いましたが……死んでも問題ありません。マジで。死んで一日以内なら、どんな状態でも蘇生できる最強の治癒師。『五星』の一人ナイチンゲール様がいらっしゃいますので』
五星。
世界最強のスキルを持つ五人の一人。
確かに、それは安心だ。
『冒険者は、常に死と隣り合わせです。この戦いを通し、死の恐怖と戦いの恐ろしさ、痛み、絶望を学んで────まぁ、とにかくこんな感じです。はい』
相変わらず適当に締めるシャカリキ。
頭をポリポリ掻き、眠そうに欠伸をして下がった。
そして、今度は若い女性が舞台へ上がる。
『それでは、第一期新入生による『武道大会・チーム戦』を開始する……皆、正々堂々、勇敢に戦うように──────』
女性が手を上げる。
そして、思い切り振り下ろした。
『それでは──────始めッ!!』
「えっ」
エルクの持つ『フラッグ』が一瞬だけ光り……エルクは一瞬の浮遊感を感じた。
「……は?」
そして、気が付くと……森に立っていた。
◇◇◇◇◇
すぐ近くに、ガンボとフィーネがいた。
「マジかよ……どうなってんだ?」
「た、たぶん、その旗じゃない? アタシ、それ光るの見たし」
「だな……すげぇ」
エルクは、旗を丸めてコートの内側へ隠す。
そして、周囲を確認した。
「……森だな」
「そりゃ森林ダンジョンだからな」
「調査も終わった安全なダンジョンだよね……ね、旗を三つ集めるんだよね?」
「ああ。あと二本だよ」
「それと……制限時間は七時間。夕方五時までか」
最低二回は戦わなくてはならない。
エルクは、少し迷った。
「…………」
ガンボとフィーネに、キネーシス公爵家のことを言うかどうか。
今でこそ、楽しい学園生活を送っている。
だが、エルクの目的の一つに「キネーシス公爵家への復讐」がある。
このチーム戦で、あの二人をブチのめしたい気持ちは強かった。
できれば、本選で。
「あの、さ……」
「ん、どしたの?」
「……言いたいことあるならさっさと言え」
「……その」
エルクは迷う。
そもそも、信じてもらえるだろうか。「自分は、キネーシス公爵家の長男。ロシュオとサリッサ、キネーシス公爵家の連中に殺されそうになったが生きていた。だから復讐したい」など。
でも、チーム戦で戦うなら、言わなくてはならない。
「あのさ、聞いて「───アブねぇ!!」
と、エルクの背後から『針』が飛んできた。
ガンボが右腕を『鋼鉄化』させ、針を弾く。
フィーネの表情が変わり、態勢を低くした。
「チッ……もう来やがった」
「だよね。ダンジョンの広さはよくわかんないけど、数百のチームが飛ばされてるんだもん。もしかしたら、他にもいるかも」
「あの、ガンボ、フィーネ」
「話は後───」
と、またしても『針』が飛んできた。
今度はフィーネを狙っている。
フィーネは「シュッ」と息を吐き、針をグラブで叩き落す。
「針……これ、何か塗ってある。毒、かも」
「ガンボ、フィーネ……俺、実は」
エルクが言いかけた瞬間、頭上から大量の『針』が落ちてきた。
ガンボが全身を鋼鉄化しようと力を込め、フィーネが構えを取る。
だが……エルクが右手を上げた瞬間、全ての針が空中で止まった。
「ああもう、後にしろよ!!」
エルクが左手を前へ突き出し、ぐるりと回転する。
「そこか」
「!?」
藪に隠れていた少年が、念動力で無理やり引きずり出されフワリと浮かぶ。
エルクは、少年を近くに木に叩きつけ、さらに別の木へ、さらに別の木、さらに別の木───と、滅茶苦茶に叩きつけた。
ドドドドドドドドド!! と、木に何か激突する音がしばらく響き……最後に、エルクは少年を顔だけだし、地面に埋め込んだ。
完全に気絶している。
「「…………」」
「俺、実は……キネーシス公爵家の長男なんだ」
「「…………そ、そう」」
圧倒的なエルクの力に、二人はとりあえず頷いて同意した。
◇◇◇◇◇
一人は倒した。だが、三人一組チームなので、あと二人いる。
恐らく、『針』の少年は斥候のような役割で、近くにあと二人いるはず。
ガンボは、エルクに言う。
「エルク、オレとフィーネは接近タイプ。目の前に現れてくれれば対処できるが、遠距離からチマチマやるタイプとは相性が悪ぃ……どこかにあと二人いるはず。任せていいか?」
「ああ。任せとけ」
エルクは目を閉じ、念の力を波紋のように広げる───と、見つけた。
ただ物を操作するだけじゃない。念動力は『念』の力。その形に決まりはない。
距離は約五十メートル。口元がパクパク動いていることから、『針』の少年が戻らないことに不安を覚えているようだ。
「ガンボ、フィーネ。こっちに引っ張るから任せていいか?」
「おう、任せろ」
「こっちもいいよ」
「よし」
エルクは右手を五十メートル先にいる二人へ向け、念動力を発動。
「なっ!?」
「きゃぁっ!?」
いきなり引っ張られた二人はエルクたちの前に。
同時に、ガンボとフィーネが動く。
相手はまだ宙に浮かんだまま。ガンボの右腕が鋼鉄化し、フィーネも拳を握る。
「『メタルラリアット』!!」
「『烈風拳』!!」
「ごぼあ!?」
「うげっ!?」
ガンボの鋼鉄化した右腕によるラリアット。
フィーネの、一瞬だけ拳を『加速』させたボディブロー。
二人の攻撃が、まだスキルすら使ってない敵二人の意識を完全に刈り取った。
男子生徒の腰に、フラッグが挟んであった。エルクは念動力で回収し、二本目のフラッグを手に入れた。
「よーし! これで二本。あと一本だ!」
「ふぅ……弱い連中で助かったぜ」
「あと一本手に入れた本選行こうね!」
と、その前に……エルクは言う。
「その前に、俺の話を聞いてくれ。ちょうどこの辺、人の気配がないからな」
エルクは、二人に事情を説明することにした。
◇◇◇◇◇
「で、何だって?」
周囲に敵がいないことを再度確認し、ガンボが言う。
フィーネも、聞く態勢になったのか黙っていた。
エルクは、小さく息を吐く。
「さっきも言ったけど、俺……俺は、キネーシス公爵家の長男なんだ」
「……キネーシス公爵家。兄貴は事故で死んで弟と妹だけって聞いたぞ」
「あ、アタシもそう聞いた」
「違う。事故じゃない。俺は……キネーシス公爵に陥れられて、ロシュオに殺されかけたんだ」
「……なに?」
「ど、どういう」
エルクは、話した。
ロシュオ、サリッサと優秀なのに対し、次期公爵のエルクは「念動力」スキルだったこと。
決闘で次期公爵を決めなおすということになったが、公爵家ぐるみでエルクを殺害しようとしたこと。
当時、公爵家のメイドだったエマが、生きていたエルクを実家に匿ったこと。
それから十年眠り、最近ようやく目覚めたこと。
これらを説明すると、ガンボとフィーネは。
「……マジかよ」
「嘘……」
と、何とも言えない顔をしていた。
エルクは続ける。
「俺がこの学園に入った理由の一つに……公爵家への復讐がある。ロシュオとサリッサは、まだ俺が生きてることを知らない。このチーム戦を利用して、あの二人を滅茶苦茶に追い詰めてやる」
「でも、できるのか? あの二人……間違いなく、学園最強クラスだぞ」
「できる。今の俺なら」
説明に、ピピーナのことや生と死の狭間での二千年は省いた。
これこそ、言っても信じないだろう。
「最初は、チーム選は興味本位だった。でも……あの二人を見た瞬間、恨みが」
「あーもういい、わかった。手を貸すことはしないが……何も言わねぇ。オレはチーム戦の優勝目指して戦うぜ。それでいいだろ」
「ガンボ……」
「アタシも、強い相手と戦えればいいよ。それに……エルクのきもち、わかるし」
「フィーネ……ありがとう」
「ふん。とりあえず、旗をあと一本集めて、本選───」
と、ガンボが言った瞬間。
突如として、『バッタ』と『トンボ』の大群がエルクたちに襲いかかってきた。
「うおぉぉ!? なな、なんだ!?」
「これはまさか────」
「む、虫は平気だけど数いるとキモイっ!!」
ガンボは叫んだ。
「これは『操作』───ちくしょう、チュータ!! テメェ、どこいやがる!!」
チュータ。
それは、かつてガンボが胡麻をすっていた貴族マルコスの側近の名前。
昆虫の大群が、エルクたちに襲い掛かってきた。
チームが多いため、全チームを一か所に集めるのは手間がかかる。なので、選ばれた数チームだけが本選会場となる『闘技場』に集まり、宣誓の言葉などをやる。
他のチームは、数十チームごとに『選手控室』に集められ、控室にあった巨大なガラス板の前に集まっていた。
エルクは、ガラス板を見ながら首を傾げる。
「なんだ、これ?」
「投影板。先公のスキルに『投影』を使える奴がいて、先公が見た『映像』を投影板に映すんだとよ」
「へ~っ、便利だな」
投影板を眺めていると、いきなり映像が映し出された。
闘技場内では、十チーム集まって並んでいる。
案の定いた。
「あ、王太子エルウッドのチームだ。新入生最強のチームって言われてるみたいだよ」
「一緒にいるのは……チッ、有名な兄妹か。デオ王国の『剣魔』だ」
「……剣魔?」
「ああ。デオ王国、キネーシス公爵家の天才剣士の兄と、天才魔法使いの妹を合わせて呼ぶ名称だ。エルウッド王子と同じチームになったって聞いたが……」
「…………」
エルクは、キネーシス公爵家の『剣魔』こと、ロシュオとサリッサを見た。
騎士風の勝負服を着たロシュオと、魔法使い風のローブに身を包んだサリッサ。どこか誇らしげな表情なのは、見間違いではない。
「お前、有名どころの生徒くらい覚えておけよ」
「ああ、そうだな……」
「お、挨拶始まるみたい」
まず最初に、学園長ポセイドンの挨拶だ。
『えー、長いのは嫌いなので簡単に。怪我をしても大丈夫、死んでも一日以内なら生き返るから、思いっきりやりなさい。以上……ふぉっふぉっふぉ』
会場内が静まり返った。
冗談なのか本気なのか、よくわからない。
ポセイドンは、教師たちに何やらガミガミ言われていたが、両手で耳を塞いで聞こえないふりをしていた。どこまでも子供っぽい。
そして次は、エルウッドによる生徒代表挨拶だ。
『宣誓!! 我々は、正々堂々と戦い抜くことを、ここに誓います!!』
闘技場にいた生徒たちが、右手を上げて復唱する。
控室にいた何人かも、同じように手をあげる。
だが、エルクは上げない。誓わない。
正々堂々という言葉が信じられない。かつて、キネーシス公爵家に陥れられた時を思い出し、投影板に映るロシュとサリッサを睨んでしまう。
「……おい、どうした?」
「エルク、緊張してる?」
「……いや」
ガンボとフィーネがエルクの顔を覗き込んだ。
だが、エルクは首を振る。
そして、投影板に現れたのは──────シャカリキだ。
『はいは~い。では、ルール説明しますね。まず最初に『予選会』を開催します。それぞれのチームに一本、この『フラッグ』を渡します』
シャカリキがパチンと指を鳴らすと……なんと、エルクの手元に赤い『旗』が現れた。
いきなりのことで驚くが、周りも同じ状況だった。
『ルールは簡単。制限時間内に、この『フラッグ』を三本所有していたチームが本選に出場できます。どんな手段を使っても構いません。制限時間は七時間。三本の『フラッグ』を手に入れてください。ああ、先ほど校長も言いましたが……死んでも問題ありません。マジで。死んで一日以内なら、どんな状態でも蘇生できる最強の治癒師。『五星』の一人ナイチンゲール様がいらっしゃいますので』
五星。
世界最強のスキルを持つ五人の一人。
確かに、それは安心だ。
『冒険者は、常に死と隣り合わせです。この戦いを通し、死の恐怖と戦いの恐ろしさ、痛み、絶望を学んで────まぁ、とにかくこんな感じです。はい』
相変わらず適当に締めるシャカリキ。
頭をポリポリ掻き、眠そうに欠伸をして下がった。
そして、今度は若い女性が舞台へ上がる。
『それでは、第一期新入生による『武道大会・チーム戦』を開始する……皆、正々堂々、勇敢に戦うように──────』
女性が手を上げる。
そして、思い切り振り下ろした。
『それでは──────始めッ!!』
「えっ」
エルクの持つ『フラッグ』が一瞬だけ光り……エルクは一瞬の浮遊感を感じた。
「……は?」
そして、気が付くと……森に立っていた。
◇◇◇◇◇
すぐ近くに、ガンボとフィーネがいた。
「マジかよ……どうなってんだ?」
「た、たぶん、その旗じゃない? アタシ、それ光るの見たし」
「だな……すげぇ」
エルクは、旗を丸めてコートの内側へ隠す。
そして、周囲を確認した。
「……森だな」
「そりゃ森林ダンジョンだからな」
「調査も終わった安全なダンジョンだよね……ね、旗を三つ集めるんだよね?」
「ああ。あと二本だよ」
「それと……制限時間は七時間。夕方五時までか」
最低二回は戦わなくてはならない。
エルクは、少し迷った。
「…………」
ガンボとフィーネに、キネーシス公爵家のことを言うかどうか。
今でこそ、楽しい学園生活を送っている。
だが、エルクの目的の一つに「キネーシス公爵家への復讐」がある。
このチーム戦で、あの二人をブチのめしたい気持ちは強かった。
できれば、本選で。
「あの、さ……」
「ん、どしたの?」
「……言いたいことあるならさっさと言え」
「……その」
エルクは迷う。
そもそも、信じてもらえるだろうか。「自分は、キネーシス公爵家の長男。ロシュオとサリッサ、キネーシス公爵家の連中に殺されそうになったが生きていた。だから復讐したい」など。
でも、チーム戦で戦うなら、言わなくてはならない。
「あのさ、聞いて「───アブねぇ!!」
と、エルクの背後から『針』が飛んできた。
ガンボが右腕を『鋼鉄化』させ、針を弾く。
フィーネの表情が変わり、態勢を低くした。
「チッ……もう来やがった」
「だよね。ダンジョンの広さはよくわかんないけど、数百のチームが飛ばされてるんだもん。もしかしたら、他にもいるかも」
「あの、ガンボ、フィーネ」
「話は後───」
と、またしても『針』が飛んできた。
今度はフィーネを狙っている。
フィーネは「シュッ」と息を吐き、針をグラブで叩き落す。
「針……これ、何か塗ってある。毒、かも」
「ガンボ、フィーネ……俺、実は」
エルクが言いかけた瞬間、頭上から大量の『針』が落ちてきた。
ガンボが全身を鋼鉄化しようと力を込め、フィーネが構えを取る。
だが……エルクが右手を上げた瞬間、全ての針が空中で止まった。
「ああもう、後にしろよ!!」
エルクが左手を前へ突き出し、ぐるりと回転する。
「そこか」
「!?」
藪に隠れていた少年が、念動力で無理やり引きずり出されフワリと浮かぶ。
エルクは、少年を近くに木に叩きつけ、さらに別の木へ、さらに別の木、さらに別の木───と、滅茶苦茶に叩きつけた。
ドドドドドドドドド!! と、木に何か激突する音がしばらく響き……最後に、エルクは少年を顔だけだし、地面に埋め込んだ。
完全に気絶している。
「「…………」」
「俺、実は……キネーシス公爵家の長男なんだ」
「「…………そ、そう」」
圧倒的なエルクの力に、二人はとりあえず頷いて同意した。
◇◇◇◇◇
一人は倒した。だが、三人一組チームなので、あと二人いる。
恐らく、『針』の少年は斥候のような役割で、近くにあと二人いるはず。
ガンボは、エルクに言う。
「エルク、オレとフィーネは接近タイプ。目の前に現れてくれれば対処できるが、遠距離からチマチマやるタイプとは相性が悪ぃ……どこかにあと二人いるはず。任せていいか?」
「ああ。任せとけ」
エルクは目を閉じ、念の力を波紋のように広げる───と、見つけた。
ただ物を操作するだけじゃない。念動力は『念』の力。その形に決まりはない。
距離は約五十メートル。口元がパクパク動いていることから、『針』の少年が戻らないことに不安を覚えているようだ。
「ガンボ、フィーネ。こっちに引っ張るから任せていいか?」
「おう、任せろ」
「こっちもいいよ」
「よし」
エルクは右手を五十メートル先にいる二人へ向け、念動力を発動。
「なっ!?」
「きゃぁっ!?」
いきなり引っ張られた二人はエルクたちの前に。
同時に、ガンボとフィーネが動く。
相手はまだ宙に浮かんだまま。ガンボの右腕が鋼鉄化し、フィーネも拳を握る。
「『メタルラリアット』!!」
「『烈風拳』!!」
「ごぼあ!?」
「うげっ!?」
ガンボの鋼鉄化した右腕によるラリアット。
フィーネの、一瞬だけ拳を『加速』させたボディブロー。
二人の攻撃が、まだスキルすら使ってない敵二人の意識を完全に刈り取った。
男子生徒の腰に、フラッグが挟んであった。エルクは念動力で回収し、二本目のフラッグを手に入れた。
「よーし! これで二本。あと一本だ!」
「ふぅ……弱い連中で助かったぜ」
「あと一本手に入れた本選行こうね!」
と、その前に……エルクは言う。
「その前に、俺の話を聞いてくれ。ちょうどこの辺、人の気配がないからな」
エルクは、二人に事情を説明することにした。
◇◇◇◇◇
「で、何だって?」
周囲に敵がいないことを再度確認し、ガンボが言う。
フィーネも、聞く態勢になったのか黙っていた。
エルクは、小さく息を吐く。
「さっきも言ったけど、俺……俺は、キネーシス公爵家の長男なんだ」
「……キネーシス公爵家。兄貴は事故で死んで弟と妹だけって聞いたぞ」
「あ、アタシもそう聞いた」
「違う。事故じゃない。俺は……キネーシス公爵に陥れられて、ロシュオに殺されかけたんだ」
「……なに?」
「ど、どういう」
エルクは、話した。
ロシュオ、サリッサと優秀なのに対し、次期公爵のエルクは「念動力」スキルだったこと。
決闘で次期公爵を決めなおすということになったが、公爵家ぐるみでエルクを殺害しようとしたこと。
当時、公爵家のメイドだったエマが、生きていたエルクを実家に匿ったこと。
それから十年眠り、最近ようやく目覚めたこと。
これらを説明すると、ガンボとフィーネは。
「……マジかよ」
「嘘……」
と、何とも言えない顔をしていた。
エルクは続ける。
「俺がこの学園に入った理由の一つに……公爵家への復讐がある。ロシュオとサリッサは、まだ俺が生きてることを知らない。このチーム戦を利用して、あの二人を滅茶苦茶に追い詰めてやる」
「でも、できるのか? あの二人……間違いなく、学園最強クラスだぞ」
「できる。今の俺なら」
説明に、ピピーナのことや生と死の狭間での二千年は省いた。
これこそ、言っても信じないだろう。
「最初は、チーム選は興味本位だった。でも……あの二人を見た瞬間、恨みが」
「あーもういい、わかった。手を貸すことはしないが……何も言わねぇ。オレはチーム戦の優勝目指して戦うぜ。それでいいだろ」
「ガンボ……」
「アタシも、強い相手と戦えればいいよ。それに……エルクのきもち、わかるし」
「フィーネ……ありがとう」
「ふん。とりあえず、旗をあと一本集めて、本選───」
と、ガンボが言った瞬間。
突如として、『バッタ』と『トンボ』の大群がエルクたちに襲いかかってきた。
「うおぉぉ!? なな、なんだ!?」
「これはまさか────」
「む、虫は平気だけど数いるとキモイっ!!」
ガンボは叫んだ。
「これは『操作』───ちくしょう、チュータ!! テメェ、どこいやがる!!」
チュータ。
それは、かつてガンボが胡麻をすっていた貴族マルコスの側近の名前。
昆虫の大群が、エルクたちに襲い掛かってきた。
12
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる