上 下
7 / 132

念動力

しおりを挟む
「エルク様……私、知っちゃったんです。キネーシス公爵家の方々が結託して、エルク様を陥れようとしてるのを。それで、エルク様のお付きのメイドだった私には何も知らされず……私、奥様に『死体の処理が最後の仕事よ』って言われて、クビになって……でも、エルク様は息があって、私……手当てをして、実家に連れてきたんです」

 エマの話は、ピピーナから聞いていたのと同じだった。
 感謝してもしきれない。
 エマのおかげで、エルクは生きられたのだ。
 エルクは立ち上がり、頭を下げた。

「本当にありがとう。エマのおかげで俺は生きている……本当に、ありがとう」
「そんな。私はできることをしただけで……エルク様」
「待った。その、様ってのやめてくれないか? 俺、もう貴族じゃないし。キネーシス公爵家からは抹消されているはずだ」
「は、はい。では……エルク、さん」
「さんもいらないって」
「で、でも……うう」
「あはは。じゃあ、おいおいな」

 エルクは笑う。
 エマも少しだけ笑う。だが、沈んだ表情を見せた。

「あの、エルク様……じゃなくて、さん。これからどうしますか?」
「これから?」
「はい。エルク、さん……はもう貴族ではありませんし、その……行く当てがなければ、私の家で」
「ありがとう。でも、やることがある」
「え……?」
「公爵家に、借りを返さないとな。エマ、たしか十六歳になると、ガラティーン王立学園の入学資格を得ることができるんだよな」
「え……か、借りを返すって、まさか」
「俺を陥れた報いを受けてもらう。ロシュオ、サリッサ……それと、公爵と婦人にもな」
「む、無茶です!! それにガラティーン王立学園に入るには入学費用が必要です。私の家にそんな蓄えはありません……申し訳ございません」
「金ならある」

 と、エルクはピピーナからもらった白金貨を出す。
 白金貨一枚で三年分の入学費用は賄える。
 エルクは二枚テーブルへ置き、さらに一枚をエマへ渡す。

「俺とお前の入学費用だ。それと、こっちは六年分の家賃」
「えぇぇぇぇ!? はは、白金貨!? それに、私も入学って……」
「ガラティ-ン王立学園。お前も一緒に来て欲しい……エマ、勉強したいって言ってたよな? お前の『裁縫』スキル、かなり上達したんじゃないか? 学園には確か、デザイン科もあったはず……よし、さらに白金貨一枚。これは卒業後に、お前のデザインした服を売る店の資金にしよう」
「はふぅん」

 エマは気絶してしまった。

 ◇◇◇◇◇◇

 エマは数分で起きた。
 そして、話を整理する。

「エルク様。ガラティーン王立学園に入るということは、やはり」
「ああ。俺は『スキル学科』へ進む」

 スキル学科とは、戦闘系スキルを持つ子供たちを育成する学部である。
 ここに在籍する生徒のほぼ全員が戦闘スキル持ちである。
 
「エマは『スキル商業科』で、デザインの勉強をするといい。お前と同じ裁縫スキルを持つ子もいるだろうし、楽しくやれると思うぞ」
「エルク様……」
「お前の母親にも生活費を渡す。というか、挨拶しないとな。あと、学園の入学手続きと、スキルの確認しないとな……へへへ、忙しくなるぞ」
「あの、エルク様」
「ん?」
「エルク様のスキルは、『念動力』……ですよね?」
「ああ。って、そうか」

 エルクは忘れていた。
 念動力。それは、近くの物を引き寄せるだけの『ハズレスキル』である。それがこの世界に生きる人たちの認識。
 だが、エルクは知っている。
 念動力は、可能性の塊。
 エルクの念動力(レべルMAX)は、恐ろしい戦闘スキルであると。

「せっかくだ。お前に見せてやるよ。念動力の真の力をな」
「え、えっと……」
「っと、その前に……世話になったお前の母親に、挨拶しないとな」

 ちなみに、この『挨拶』でいろいろ茶化された。花婿だの彼氏だの、エマの赤面はしばらく治らなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 エルクはエマの家の裏庭へ出て気付いた。
 
「ん、なんだこれ?」
「あ、それ……」

 家の裏には、大きな切り株があった。
 掘り起こそうとした跡もあったが、どうも諦めたようだ。
 
「えっと、庭のお手入れをしようと思って切ってもらったんですけど、切り株を引き抜くのに別料金がかかると言われて……私、なんとか掘り起こそうとしたんですけど」
「なるほどね」

 エルクは右手を切り株へ向け、念じる。

『動け』

 すると、切り株は地面から抜け、エルクの元へ飛んできた。
 さらに、エルクは人差し指で抜いた切り株をもてあそぶ。

「うんうん。力は問題ないな」
「え、え、え……えぇぇぇぇっ!? き、切り株が、抜けちゃった」
「こんなの序の口だよ」
「ど、どうやって……」
「念動力で引き抜いただけ。まだまだこんなもんじゃ───」

 と、切り株をふわふわ浮かせた状態でいると、叫び声がした。

「た、大変だぁぁぁぁ!! 村の中にオークが入り込んだ!! みんな、家の中に隠れろぉぉぉぉっ!!」

 村の規模は小さいので、声はよく響いた。
 エマは青くなり、エルクに言う。

「え、エルクさん!! 家の中に」
「ちょうどいいや。狩ってくる」
「え」
「よ、っと」

 エルクが両手を地面に向けると、エルクの身体がふわりと浮かんだ。

「え……」
「オークか。さぁて、初の狩りといこうか」

 エルクは念動力で空を飛び、どんどん上昇していく。
 村を見渡せるほど飛び上がり、村の様子を見る。

「お、いた。自警団が戦ってる……よぉし」

 エルクは急降下する。

「引くな!! 村を守れぇぇぇぇっ!!」
「おぉぉぉぉ!!」
「ぜやぁぁぁぁっ!!」

 槍を手に戦う自警団たち。
 エルクはオークと自警団に割り込むように着地。自警団とオークも、いきなり現れたエルクに驚いていた。
 エルクは、右手をオークに向ける。

 ───キィン!!

『!?』

 オークの動きが止まった。
 念動力により、身体の動きを封じられたのだ。
 エルクはそのまま左手をオークに向け、五指を開く。

「ほい、おしまい」

 左の五指をギュッと握ると───オークは大量の血を吐き倒れた。
 念動力で、心臓を握りつぶしたと、ぱっと見ではわからないだろう。
 自警団は、何が起きたのかわかっていない。
 エルクは、自警団に言う。

「こいつはもう大丈夫ですけど、他にもいますかね?」
「……え、ああ。確認したのは一匹だけだ」
「じゃあ、まだいるかもな。よし、近場を確認してきますね」

 そう言い、エルクは念動力で空を飛び、村近くの森へ消えていった。

「……なんだったんだ、あれは」

 自警団のリーダーは、意味が分からず呟いた。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...