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7・帰還。そして魔王の真実
しおりを挟む俺とふーちゃんたちは、魔王領土をひたすら進んでいた。
国境までは歩きで一週間ほど。体力に余裕がある内に走り、夜は認識阻害のフィールドを展開して眠りにつく。
食事は、ふーちゃんたちが食べられる木の実や果物を採ってきてくれた。
リンゴみたいな紫色の果実や、毒々しいピンクの木の実などだったが、以外にも美味かった。
『マイトさん、そろそろ国境ですかね』
「ああ。まずは服を貰おう、あとは装備を整えて、馬を借りよう」
寄り道せず進めば、2週間ほどで王国へ到着する。
レオンたちが裏切った以上、どのように出るのか分からない。
だかり国境の砦にも警戒するように伝えないとな。
「·········ウラヌス」
ウラヌスは、魔王に見惚れていた。
蕩けるような、甘い瞳。
俺の知らないウラヌスだった。
「······だけどな」
落とし前は付けさせる。
勝ち目が無くても、俺を、人間を裏切ったことは許せない。
命の危機に、心が揺らぐのは仕方ない。
だけど、人間を見捨てて魔王に付くのは間違ってる。
何がそれぞれの王国だ。
何が維持管理だ。
そんなのは平和じゃない。魔王の支配だ。
「急ごう」
『はい。皆さん、ケーキはもうすぐですよ‼』
『へへ、オレはモンブランってヤツが食いてぇぜ』
『あたしはロールケーキがいいわぁ~』
『ぶも』
「······急ごう」
いろんな意味で。うん。
********************
人間界と魔王領土の国境。
ここは、魔界から来たモンスターが人間界に入らないように、国境に近づくモンスターを倒す兵士が駐留している。
俺たちが立ち寄った際も大型モンスターとの戦闘中で、手助けをしたら感謝されたっけ。
だけど、今はもう1人だ。
この砦の責任者に、全てを報告しておかないと。
レオンたちが何食わぬ顔でやって来る可能性もあるし、対策は必要だ。
俺は砦に近づき、門番に事情を話す。
すると直ぐに砦の責任者である将軍が現れ、将軍の執務室に案内された。
ちなみにまだ半裸。着替えを要求すればよかった。
将軍執務室のソファに座り、お茶を出されると、将軍は厳しい顔で言った。
「勇者様······お一人と言うことは」
「·········実は」
俺は全てを話した。
魔王が完全に回復してないのに全く歯が立たなかったこと、レオンたちが命惜しさに魔王に降伏したこと、魔王に気に入られ、そのまま手下になったこと、そして俺は命からがら逃げたこと。
「·········まさか、そんな」
「······事実、です」
将軍は頭を抱えた。
俺だってそうしたい。だけど、そんな場合じゃない。
「将軍。俺はこのまま王国へ戻ります。レオンたちが来ても······信じてはいけません」
「······わかりました。近隣の町村から志願兵を募り、国境の防衛を固めます。勇者様、王へ増援の書状を書きますので、しばしお待ちを」
「わかりました。それと、装備と馬を貸して頂けませんか? 王国へは俺一人で戻ります。今は1人でも多く兵を残した方がいいでしょうしね」
「わかりました·········ところで勇者様」
将軍の視線は、俺の足元へ。
「······その、非常食······ですかな?」
「えーと、違います」
蛇、文鳥、子犬、子豚。
まぁ確かにそうだろうね。非常食に見えるよね。
俺の足元で寛ぐ子犬と子豚に、腕に絡みつく蛇と肩に停まる文鳥だしね。
可愛いけど、深刻な話にマッチしてない。
将軍から貰った書状を手に、砦の倉庫で装備を固める。
服に軽鎧、ミスリルソードはなかったので鉄の剣を装備。
砦で1番速い馬を借り、2週間分の携帯食料を貰う。
『おいおい、ケーキは無いのかよー』
「カンベンしてよ、ながちゃん。ここは国境なんだから、そんなお菓子なんてないよ」
『まーったく。魔王ってのは迷惑なヤツね‼ 食べちゃおうかしら‼』
「まぁまぁ、まるちゃん。あと2週間ガマンしてくれたら、美味しいケーキをいっぱいあげる」
『······ぶも』
「もちろん、どんちゃんもね」
俺は馬に跨る。
すると、ながちゃんは俺の腕に絡みつき、どんちゃんは馬に積んだカバンの上に。ふーちゃんは俺の肩に停まる。
「あれ、まるちゃんはいいの?」
『あたしは走って行くわ。適度な運動は健康にいいし、美容にも効果的だしね』
『へっへっへ。なーにが美容だよアホくせー』
『なんですってこの焦げ蛇‼』
『んだと⁉ 誰が黒焦げだこの毛玉‼』
「こ、こら、ケンカなし‼ ケーキなしにするぞ‼」
『ぐぐぐ』
『むむむ』
全く、蛇と子犬のケンカなんて初めて見たよ。
どんちゃんはいつの間にか寝てるし。
『さ、行きましょうかマイトさん』
「そうだね······行こうか」
ふーちゃんは肩の上でパタパタと跳ねる。
可愛い姿に俺は癒やされる。
俺は馬を走らせ、ギンガ王国へ向けて走り出した。
********************
魔王。
それは、魔界に存在する『魔族』を束ねる長。
魔王は、全魔族の中で最も強い力を持つ者が選ばれ、魔界にある唯一の魔族都市の王として君臨する。
現魔王こと『魔王バルバロッサ』は、歴代でも最強と呼ばれる魔王だ。
魔界には凶悪なモンスターが数多く存在するが、魔王はそれを使役して操り、モンスターの軍団を作り出した。
そして、故意に空間に穴を開ける魔術を使い、人間界に進行したのだ。
魔界とは別に、人間界があることは知っていた。
魔界を征服し、退屈だったから征服しようと思った。
そして人間と戦い、一度は破れ封印された。
封印と言っても、空間に穴を開ける魔術の使用を封じられただけで、大して影響はなかった。
だが、勇者と呼ばれる人間の存在に、魔王は興味を抱いたのだ。
それから魔王は、封印魔術を解除しつつ己の力を高めた。
次に勇者が現れたら、今度は完全に勝利する。
魔族と人間では寿命が違う。
バルバロッサを封じた人間は死に、封印魔術は完全に解除した。
新たな勇者が現れることを期待しつつ、望み通りに現れたのだ。
魔王は歓喜し、戦った。
だが、勇者は弱かった。
いや、勇者が弱かったのではなく、魔王が強すぎたのだ。
魔王に命乞いをする勇者。
甘い言葉と報酬で、あっさりと人間を捨てたクズ勇者。
勇者をコマに、人間界を征服する。
それが終われば、あとは再び退屈な余生を過ごすだけ。
だが、魔王は。
「·········ふむ」
「魔王様?」
魔王の寝室のベッドの上。
鍛え抜かれた肉体を持つ魔王と、その身体にたっぷり愛を注ぎ込まれたウラヌスがいた。
魔王の外見年齢は20代前半ほど。
丹精な顔立ちに白い肌、そして長い白髪に赤い瞳。
その横顔にウラヌスは見惚れていたが、魔王は唐突にベッドから降りた。
「ウラヌス。空間魔術を伝授する。着替えを済ませ城の地下へ来い」
「······は、はい‼」
全裸の魔王に魔力が集まると、一瞬で闇のローブが纏われた。
ウラヌスは体液を拭き取り、着替えを済ませ部屋を出た。
ウラヌスは、魔王に心酔していた。
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