マカイ学校の妖達と私。

三月べに

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15 断罪。

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 きっと怒っているのだろう。そんな雰囲気だった。
 ちらりと見えた真っ赤な尻尾は、上の方を向いている。

「まるで俺があなたのものみたいな言い草をするのですね」

 その声は冷ややかなものだった。
 金子さん達はこの世の終わりみたいな絶望した顔をしている。

「俺はあなたたちのものになった覚えはありません。俺が小紅芽さんと親しくなるのは、俺の自由です。関係ないあなた達は引っ込んでくれませんか? そもそも、あなた達と会話した覚えもありませんが?」

 これまた好きな人に言われたら強烈であろう言葉を浴びせた狼くん。
 本当に女子に冷たかったのか。
 それを目の当たりにした。

「は、話したもの、にゅ、入学式に」

 か細い声で、金子さんは言う。

「挨拶しただけでしょう。それだけで我が物をされてはたまったものではありませんね。金輪際、話すつもりはありませんので、あなた達も俺に話しかけてこないでください」

 狼くんは言い放つ。
 恋心を粉々にする言葉だ。容赦ない。

「……」

 三人は愕然として、視線を落としている。
 そのうち涙を零した。それでも狼くんは悪びれることなく、私のところまで歩み寄ると手を差し出してくる。

「先生。もういいですか? 昼休みが終わってしまいます」
「あ、ああ、ごほん。お前達は謹慎処分だ、反省文を書け」

 神宮先生は泣いている三人を気の毒そうに見つつも、処分を言い渡す。
 私は狼くんに立たされて、そのまま手を借りて歩く。

「待ってよ! なんでそんな子がいいの!?」

 よせばいいのに、金子さんが食い下がった。
 よせよせよせ、息の根を止められてしまうぞ。
 私は小刻みに首を振って、今からでもやめろと訴えたが、狼くんしか目に入っていない。

「自覚ないのですか? あなた達の心が汚れきっているせいですよ。小紅芽さんは……特別な友だちです。次手を出すつもりならーー噛み殺しますから」

 狼くんは振り返ることなく、告げる。
 あっさりと冷たく、殺すなんて言い放つ。
 正直言って怖いと思った。こんなにも冷たい狼くんは、怖い。
 白銀くんが言っていた“狼にコクる女子は勇者”というのを思い出した。
 確かに勇者すぎる。これ泣かずに耐えられた勇者はいるのか?
 ガクガクと震えそうになりつつ、部屋を出ればみやちゃんが待っていた。

「どうだった?」
「謹慎処分です」
「いや、犯人。泣かせた?」
「知りませんよ」

 狼くんが入っていったことから、泣かせたと安易に想像出来たらしい。
 みやちゃんは、満足そうに私の腕を持った。反対側は狼くんが持っているので、うん、過保護にされている気分だ。
 ひょこひょこと歩きつつ、教室に戻る。
 狼くんは「また放課後」と言って去った。
 お弁当を広げて、いつものようにみやちゃんと食べる。

「なんだ。これから怒涛の反撃を期待していたのに、もう終わりか」

 一部始終を見ていた忍くんが、午後の授業中にそう漏らす。
 いや、私の反撃はあの一撃で十分だ。狼くんの言葉を考えると、彼女達のダメージは測りしれない。
 なーむ、と心の中で唱える私だった。

「今日は送る!」

 みやちゃんは私が心配らしく、用もないのに図書室に居座ろうとする。

「俺が送るので、雅は先に帰っていいですよ」

 断ろうとすれば、狼くんが言った。

「あ、そう? じゃあ……また明日ね! 小紅芽ちゃん、狼くん!」

 声を弾ませて、みやちゃんは先に帰る。

「私は大丈……」
「大丈夫ではありません」
「はい……」

 ぴしゃんと言われてしまい、私は断れなかった。
 狼くん、怖い。ガクブル。
 私は主に椅子に座って、狼くんが動き回る作業をしてくれた。
 下校時刻に差し掛かって、利用する生徒がいなくなったところで、「はぁ」と大きなため息を零した狼くん。
 疲れたの? と質問しようとしたら、腕を引っ張られた。
 ぽすんと、狼くんの腕の中に閉じ込められる。
 そう、抱き締められたのだ。

「なんで言ってくれないのですか。そんなことも知らずに、一人楽しんでいた俺がバカみたいじゃないですかっ。なんであなたはっ……!」
「!?」

 ギュッと密着するほど、締め付けられる。

「ずっとそばにいたのに気付かなかった俺の気持ちがわかるか? 和真に聞かされて、この数日の自分を殴ってやりたいと思った。どうして黙っていたんだ!」

 癖の敬語が外れた。
 そんなことより抱き締められたことに、私は頭全体が熱くなっていることを感じている。いい香りがした。清潔で、甘い香り。

「俺のせいで……ごめんっ」

 ああ、この人も謝るのか。
 狼くんも、悪くないのだから。
 狼くんだって、謝る必要ない。
 胸の中はぐちゃぐちゃになって、申し訳ない気持ちで一杯になる。
 でも“話さなくてごめん”って言葉が出てこなかった。

「本当にごめん」

 私はドキドキと破裂しそうな心臓を感じながら、ただ抱き締められる。

「……帰りましょうか」
「う、うん」

 離してもらえたけれども、顔、見れない。

「鞄持ちますよ」
「……ありがとう」
「手、繋ぎましょう」
「え?」

 鞄を二つ持ったら、手を繋げないだろう。なんて疑問はすぐに晴れる。
 狼くんは自分の鞄は脇に抱えて、私の鞄は手に持った。
 そして空いていた左手で、私の右手を握る。リードするみたいに、持ってくれた。
 抱き締められたあとに、これは恥ずかしい。
 でも自惚れちゃだめだ。あくまで狼くんは特別な友だちとして私を守ってくれているだけで、別に好意があるかは話が違うはず。自惚れたら最後、彼女達の二の前になる。想像したら、冷や水を浴びた気分になった。
 勘違いしない。勘違いしない。勘違いしないわ。

「じゃあ、さようなら」
「あ、ま、待って!」

 私の家について、すぐに踵を返す狼くんを呼び止めた。
 抱き締められたとか、手を繋いだとか、謝らなくちゃとか、グルグルと頭の中が掻き乱される。

「何ですか?」

 首を傾げる狼くんに、私は言ってしまった。

「お、お礼を言わなくもないから! ありがとう!!」
「……フッ。はい、どういたしまして」
「……!!」

 またツンデレみたいな発言をしてしまい、狼くんはそれを吹き出してまで笑う。恥ずかしさが頂点に達した私は、家の中に飛び込むのだった。


 
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