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01 追放されし召喚士。
しおりを挟む何故、自分は自分なのだろうか。
そんな疑問が湧いてくる時がたまにある。
今の自分の人生に対して不満や失望があるわけではなく。
単純に、自分が自分であることの不思議さを覚える。
嗚呼、何故、私は私なのだろう。
そんな現実逃避の思考をしてみた。
「悪いけれど、ルルロッド……こんなことは本当は言いたくないけど、君はパーティーから外れてほしい。ごめんね」
申し訳なさそうに言うのは、勇者。
勇者アキヒロ。異世界から召喚されし者。
世界を支配しようとする魔王を倒すために、あらゆる才能を持った人間を召喚するのだ。今回は、彼が召喚された。
少し茶色の髪とブラウンの瞳を持っていて、どちらかと言えば、可愛いという印象を抱く顔立ちの少年だ。
「アキヒロ様、もっとはっきり言った方がいいわ! 無能だから、追放だって!」
その勇者アキヒロが腰を下ろしているソファーに同じく座っているツインテールの少女が、面白がるように言った。
魔法使いハンナ。広範囲攻撃魔法に優れている。
性格は悪いと思う。そして勇者アキヒロにメロメロである。
「スライムとカラスしか使わない召喚士なんて、初めから雑魚だってわかってたけど! 今日の魔獣討伐の時の態度は何様ぁ? 指示とかしてきてまじ目障りだった!」
勇者アキヒロの後ろに立つのは、甲冑を纏っているのに胸の谷間と腹部を見せ付ける格好の女騎士。言わずも剣術に長けている。
性格は悪い方で男勝り。名前はブリアナ。そして勇者アキヒロにメロメロである。
「そうですわね。攻撃の指示や回復まで指示して……勇者様ならまだしも、無能なあなたされてはわたくしも怒りを覚えてしまいましたわ」
勇者の右隣に礼儀正しく座るのは、治癒士の女性。長袖ワンピースの上からでも豊満な胸とくびれがわかるナイスボディー。物腰柔らかい物言いでもやっぱり性格は悪いと感じる。名前は、モリーナ。そして勇者アキヒロにメロメロである。
「で、でも! 的確な指示だっただろう?」
勇者アキヒロがフォローをすると。
「アキヒロ様ったら! 本当にお優しい!」
「でもこんな無能には必要ない」
「そうですわ、でも仕方ないですわね。勇者様はお優しいのですから」
目がハートの形になるんじゃないかってくらい、メロメロな表情で勇者を見る三人。そう、メロメロなのである。
女性を魅了する才能も持っているもよう。
私には何故かそれは効かないけれど、魅了されているふりはしていた。
私はこの勇者パーティーにいなければいけなかったからだ。
馴染むために、居座るために、同調していただけ。
「それに聞いたよ~?」
ツインテールの少女ハンナが下衆な笑みを浮かべた。もちろん、勇者アキヒロには見えないように、手で隠して。
「婚約破棄された令嬢なんだってぇ?」
「しかも、嫌がらせしていたっていう悪事を暴かれて」
「公衆の面前で婚約破棄、クスクス」
私は公爵子息に婚約破棄をされた伯爵令嬢。それを知っているのは、貴族達。そして、事情を話した勇者アキヒロだ。
勇者アキヒロから聞いたことは明白で、私は黒い瞳を彼に向けた。
「あ、ごめん……」
また申し訳なさそうな顔をする勇者アキヒロ。
事情を話したのは、私ではない。私の父である伯爵だ。
貴族の中で立場が悪くなった私に、名誉挽回のチャンスとして与えられたのは、勇者パーティーへの参加だった。
父は国王陛下に頼み込み、資金援助の代わりに参加資格をもらったのだ。
私は通っていた魔法学園でもトップの成績をキープをしていた。
中でも召喚士という職が合っていたから、国王陛下も力になれると思って許可を下したことを、勇者アキヒロは聞かされたのだ。
「ちょっと! ショックのあまり何も言えないの? あはは!」
「なんとか言えよな、謝罪とかさ」
「本当ですわ」
「皆、やめなよ……そういうことだから、ごめん。ルルロッド」
追放通告を受けている私は、それどころではなかった。
『この生意気なガキどもに、真実を告げたらどうなんだ? ルルロッド』
左肩にしがみつくスライムが、思念伝達で言ってくる。
まるで子猫の肉球のようにひんやりとしてぷにぷにの感触。
目は持ち合わせていないけれど、ヘコませて目の形を作り、口は3を横にしたような形を保っている愛くるしい水色スライム。
『その必要はない。殺してしまえ。命じればいい、我が主ルルロッド』
右肩に乗っているカラスもまた、思念伝達で言う。
漆黒の羽毛に包まれて、とてももふもふが最高。
瞳だけは紅く光り妖しげ。ハンサムな感じのカラス。
このカラスもスライムも、私の優秀な従者である。
この思念伝達は、私だけに伝えたもの。だから、物騒な発言は、勇者一行には届いていない。
でもそのことで一杯一杯になっているわけではなかった。
なんでこんなタイミングで思い出したのだろう。
わからない。
でも、思い出したのだ。
勇者アキヒロが召喚されたであろう異世界で生きた記憶。
前世を思い出したのだ。
そして、私は神様に拾われた。
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