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お試しの居場所編(前)

33 花の金曜日の夜に。(前半)

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 風邪で台無しにしてしまった休日の翌朝。
 寝る前に、いつも遊ぶメンバーとして、いつメンと呼び合っている友だちとのグループメッセージに送信。

 【金曜日の夜にカラオケしないかーい? 最近知り合った男友だち三人と! ツブヤキに書いたけど先週遊園地の連れてってもらって楽しんだんだー! 出来れば、オール!】

 テンション高めのメッセージ。

 【男友だちってマジか!? どこで知り合った!?】
 【カラオケオールいいね。行きたい。見たけど、どんな人達?】
 【多分行ける。どんな人達? てか、どこの人?(笑)】

 真っ先に反応したのは、葵の恋人である先輩。葵、祥子の順番で、返信。

 【先月、ナンパから助けてくれたヒーローなんだ!(笑)お兄ちゃんみたいに可愛がってくれるいい人達だよ! 変な勘繰りはNGだよ~。いいお友だちです!】

 キリッと決めた顔文字を送りつける。
 先に釘さしておこ。下種な勘繰りはダメ。受け付けません。

 【一個上でね! めっちゃイケメンだよ(笑)三人とも、大卒で、住んでるのは、あの街方面。真樹さんっていう人がノリがかなりいい人でね、数斗さんって人は紳士的に優しい人で、新一さんって人はクールだけどやっぱり三人揃っていい人! 高校からの付き合いの親友三人組!】

 続けざまに、そう送信した。
 イケメンって強調しておかないと。実物を見てもひっくり返らないように。

 【ナンパされたんか(笑)大丈夫だった?】と、葵が心配してくれるけれど、先輩と祥子はスルーして質問。
 彼らには恋人いないけれど、合コンじゃなくて、あくまで友だちでワイワイしようって趣旨だと伝えておく。


 その日の仕事帰り。いつものように終わりを知らせれば、数斗さんから電話が来た。
 お疲れ様を言い合って、話をしながら、帰り道を進む。

「昨夜はどうでした? 二人とも、怒ってましたけど……」
〔すぐ言わなかったことを怒られたよ。俺が悪いから、七羽ちゃんは悪くない。ところで……職場に俺達の写真見せた?〕
「あっ、はい。気恥ずかしかったですが……自分から言い出して、ロッカー室で他の部門のパートさんにまで見てもらいました」

 言い出すのは、本当に勇気が必要だった……。
 私の顔は、真っ赤だっただろう。パートの皆さんに、イケメン捕まえてよかったわね~、だなんて笑われてしまった。

〔例の副店長には?〕
「流石に仲良くない上司に見せて回れませんよ……。数斗さん達のイケメンっぷりにきゃあきゃあしてたので、すぐに広まって伝わりますから。十分、魔除けになるはずです」

 不倫相手を探しているドクズ副店長にも、ちゃんとパートさん達がイケメンだってことを熱弁してくれるはず。
 それだけでも、十分魔除けになる。

 ドクズが近付かないための魔除け。ふふ、おかしい。

〔そっか……。でも、気を付けてね? 本当に〕
「はい。ご心配ありがとうございます」
〔うん。それから、本当にごめん。送ってもらえだなんて言っちゃって……〕
「それはホントに気に病まないでください。知らなかったのですから」
〔うん、そうだけど……。もう二度と他の男に送ってもらえとは言わない〕

 い、意志強い声……。
 よほどドクズ男に、送ってもらえだなんて言ったことを後悔しているみたいだ。
 いや、まぁ……最悪の事態を考えれば、後悔もするよね……。

 その話は置いといて。
 カラオケの件についてだ。
 祥子のカレシは、途中参加でいいならするってことで、祥子と葵と先輩も参加するとのことを知らせる。

「私達がいつも行っているカラオケ店がいいのですが、数斗さん達にこっち来てもらう形でもいいですか? 集合は、早ければ私が上がる18時以降……18時30分くらいでどうでしょう?」
〔それなら大丈夫だよ。真樹も新一も仕事が終わっているしね。だから……そうだな、七羽ちゃんの職場に迎えに行っていいかな?〕
「え? 車で、ですか?」
〔そう。もしもの時は車があった方がいいしね。あと、保険のためにも、イケメンカレシの実物を見せつけさせて〕

 冗談めいて”イケメンカレシの実物”だなんて言う数斗さんだけれど、多分わりと本気の牽制をする気かもしれない……。

「それは……私も、近付かないでもらえると安心出来ますので、助かります。でも、バックヤードの中に従業員以外は入れない決まりですから……手を繋いで、スーパーを回りますか? 運が悪ければ、副店長と会えますよ」
〔七羽ちゃんが働くスーパーの案内、いいね。じゃあ、そうしよう〕

 クスクスと、数斗さんと一緒に笑って決めておく。
 牽制のためのスーパー内のツアーだ。お目当ては、不倫男のドクズ副店長。

〔ところで、七羽ちゃん。君の友だちには、俺のこと、どう紹介してくれるの?〕

 ぴた、と一度足を止めてしまった。

「えっと……ごめんなさい。恥ずかしくて……今朝は、いい友だちだってメッセージで言い切ってしまいました……」
〔そっか。いいよ、謝らないで。お試し期間中だし、七羽ちゃんが決めていいって言ったしね〕

 予想は出来たのか、落胆の声音には聞こえない。

 でも、申し訳ないな。職場で紹介するのは、魔除けによる牽制のためで、利用している。それなのに、親しい友だちには、交際していると明かさないなんて……。

〔俺達はあくまで七羽ちゃんの友だち枠で、一緒にカラオケを楽しむよ。あ、違う。いいお兄ちゃんポジションの友だちだっけ?〕

 茶化してくれる数斗さんの声にホッとしつつ、歩みを再開した。
 お兄ちゃんポジションは嫌だって言ってたのにね。

「そうしてくれるんですか? 気遣ってくれてありがとうございます」
〔いいんだよ。君が大切なんだから、当然だ〕

 穏やかな声を聞きながらも、思う。
 ……きっと、数斗さんは、私の友だちを見定めるつもりなんだろうなぁ……。交友関係を見直される……。

 口元がヒクついてしまうけれど、数斗さん達の過保護を和らげるためにも、祥子達と会わせないとね。
 祥子は難ある友だちだって、すでに認識されているだろうけれど、初対面からトラブルなんて起こさないだろう。

「とりあえず、グループメッセージでやり取り出来るようにグループルーム作ってみんなを招待しますね」
〔うん、お願い。ところで、七羽ちゃん〕
「はい?」
〔新一から聞いたけど、歌、リクエストに応えてくれるんだって?〕
「……はい、そうです。歌える曲だったので……見返りに私が出来そうにない新作ホラゲーをプレイして見せてもらうことになりました」

 ん? 気に障ってしまっただろうか……?
 数斗さんは、新一さんと真樹さんにちょっぴり妬くけれど、しょげているような反応だった。

 恋人関係になって、そんな嫉妬の形は変わったりしたのかな……?

〔それ、取り消し〕
「へっ?」
〔その新作ホラゲーは、俺がプレイするから、隣で見てて? だから、俺のリクエストも応えて。新一は、別の見返りでいいってさ〕
「え? あ、ああ……いいですよ。あ、知ってる曲じゃないと……いえ、数斗さんなら特別に知らない曲でも練習しましょう。あと二日ですけど」
〔本当に? 嬉しいな。録音していい?〕
「そ、それはちょっと……。録音してどうするんですか」
〔プレイリストに入れる〕
「お断りしましょう」
〔えぇー〕

 やめていただきたい。リクエストには応えるけれど、録音したものを、音楽のプレイリストに入れて聴かないで。車内で流すんですか? やめてくださいっ……。

「ん? あれ? あの新作ゲームは、確か、新型ゲーム機にしか対応してないですよ?」

 新型ゲーム機が出たからって、旧型のゲーム機では出来ないソフトだ。
 数斗さんが持っているのは、旧型の方。先に新型ゲーム機を買わないと。

〔それなら買ったよ。家にある〕
「え!? 買ったんですかっ? いいなぁー。私もその新型を買う貯金を貯めている最中でして」
〔俺の使っていいよ?〕
「へっ?」
〔俺の家に来てゲームで遊んでいいよ〕
「……そのために買ったとか言いません?」
〔言ってもいい?〕
「数斗さん……」

 がくり、と頭を下げる。

 この人……私のために、新型ゲーム機を買った……!
 なんか電話越しでも、笑っている気配がする……。

「数斗さん……昨夜の新一さん達への報告もそうですけど、ちょっと悪戯がすぎませんか?」

 ちなみに、この前の私の耳で遊ぼうとしたことも、含めて咎めたり。

〔新一達の報告は、舞い上がって面白がったのは反省してるよ。でも、七羽ちゃんが使ってくれるならって、俺の下心で買っただけだから。七羽ちゃんがその下心に釣られるかどうかは好きにしていいよ。七羽ちゃんがゲームしにたくさん部屋に来るなら、嬉しいな〕
「……わかりました。じゃあ、遊びたい時に言いますね」

 すぐに折れる私……弱い。
 まぁ、どうせ、私にプレゼントってことで渡したわけではなく、数斗さんの家にあるのだから……。数斗さんの物だから、セーフにしておこう。
 今後、迂闊に物が欲しいってこと、口にしないようにしないと。

「それで……どの曲ですか?」

 尋ねたら、好きだったシンガーソングライターの曲だった。
 私も昔は好きだったけれど、最近は新曲を把握してないと話す。だから、数斗さんがリクエストした曲は知らなかった。

〔七羽ちゃんは、どの曲が好きなの?〕と、知りたがるから、そのシンガーソングライターにドハマりした時期に、聴き惚れた曲名を並べる。

〔どんな曲だっけ?〕と、思い出せない数斗さんのために、私もちゃんと歌詞を記憶から掘り返して口ずさむ。

 応援ソング。バラードに、ちょっとしんみりするけれど、頑張ろうとする曲。
 あと、甘いピュアっぽい恋の曲。
 ソプラノで、ちょっぴり可愛い声で、たまにパワフルに歌うシンガーソングライターの曲。

〔うん。七羽ちゃんの歌声だと、ぴったりだね〕と、カラオケの時が楽しみだって、電話の向こうで笑った。
 ちゃんと数斗さんの指定した曲、聴いて練習しよう。


 その日に設けたグループルーム内に、カラオケ参加者を全員招待。
 夜のうちに、軽い自己紹介が済んだ。


 翌日。
 真樹さんがふざけて【学生服姿見たーい!】と言い出したので、私は素早くストップをかけた。
 【だめですー!!】と。
 真樹さんは、なんでだよ、と嘆くスタンプを出してくる。
 【お互い学生服姿の写真を見せ合えばいいじゃん】と、新一さんがまさかの加勢。

 幸い、祥子が【やだー】と拒んでくれた。
 でも、互いの顔を知っておくべきだね……イケメンの衝撃を和らげておくためにも。
 【最近の一緒に映った写真で、譲歩!】と、提案しておく。

 【最近ってなると、遊園地だね】と、数斗さん。

 【行ったって言ってたね。楽しかった?】と葵。

 【トラブルもあったけど(笑)楽しかったよ】と、私は余計なことを打ち込んでしまった。

 当然、どんなトラブルがあったかという話になったので、そのまま真樹さんが、私に紹介した女友だちがとんでもない腹黒女だったことが発覚して、トラブったとサクッと説明。

 【最終的に、外面の分厚いあの腹黒は、ヘドロ判定になった】と、真樹さんがゲロを吐く顔の絵文字を何個も並べた。
 【アイツは人間じゃなくてヘドロだった】と、新一さんまで同じ絵文字を三つ並べる。
 私も噴き出しながらも【ヘドロ(笑)】と、同じ絵文字を三つ。
 もちろん、数斗さんも【酷いヘドロだった】と、三つ、絵文字を揃えた。

 何それと、げらりと笑うリアクションのスタンプを返す祥子達と、数斗さん達と撮った写真を一枚ずつ、私が代表してグループルームに添付。

【いや、イケメンすぎっしょ!(笑)てか、このスタンプ、ナナのイラスト?】と、祥子が問う。

 それを機に、真樹さん達が中学のイラスト部だった話を聞きたがって質問責め。
 どういう絵を描いて、どんな活動をしたのか。どのぐらいの量を描いたのか。今も描いているのか。

 やけに知りたがるなぁ、と首を捻った。

 祥子のカレシは、行けそうにないと翌朝に断りを入れるメッセージを送ってきたので、カラオケ参加メンバーは、七人になる。
 とりあえず、祥子は参加すると言うので【祥子をお借りしますー】とメッセージを送った。
 何故か、普通に彼個人から【気を付けてね】とメッセージが来たので、首を捻る。何故、直接……?


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