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一目惚れの出会い編

19 腹黒の暴露で一件落着。(前半)

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「じゃあもう、定期的に愚痴らせるか。限界前に、吐き出して、んでもって、助言とかするのでどうだ?」
「新一さん達が、私の捌け口になるんですか?」
「はい、またペナルティー」
「何故です!?」
「遠慮したから。ペナルティー三つ。後日、鬱憤を吐き出すことが強制の刑罰を執行する」
「ええぇ~……!」

 ぐびっと、新一さんはハイボールを飲み干した。
 よくわからないままつけられたペナルティーで、愚痴強制吐き、三回分が決まってしまう。

「大好きなお兄ちゃんが聞いてやるんだぞ?」
「意地悪すぎなお兄ちゃんですね!」
「遠慮すんな。おれもしないし」
「はわ! 開き直った!?」
「大丈夫。おれは、ちゃんと優しいお兄ちゃんだから。安心して甘えていいんだよ?」
「ノリのいいお兄ちゃんですよねぇ、真樹さんは。ちょっと意地悪だけどちゃんとお兄ちゃんしてくれるのが、新一さん?」

「ぴったり!」と真樹さんが上機嫌に笑って、おかわりを注文した。

「じゃあ、俺は?」
『なんて言ってくれるかな?』

 隣の数斗さんが、自分はどんなイメージなのかと尋ねる。

 ピタリと動きを止めてしまった。

 数斗さんは、お兄ちゃん枠を嫌がっている。
 だから、お兄ちゃん表現はだめだろう。

 かといって、素敵な恋人、とは言えない。
 そもそも、恋人じゃないし、そんな露骨な思わせぶりはよくないから、なんて言えばいいのやら……。

 迷って視線を落としてしまうと、『だめか……』と数斗さんの落ち込んだ声を聞く。

『まだ時間がいるんじゃないの? 今日は酷い目遭ったし。むしろ、今日”も”?』
『踏み出せない、か? 迷ってるんだろうなぁ……。まだ時間をかけるべきだろ』

 多分、私が目を伏せている間に、真樹さんも新一さんも、数斗さんにそう目配せしただろうか。

「えっ……!?」

 びっくりとしてしまう。
 テーブルの上に置いた携帯電話に、沢田さんからメッセージアプリを使っての電話がかかってきたからだ。

『……コイツのせいで…………殺す』

 ひょえっ。また数斗さんの心の声が殺気立つ。

 ピッと、私より先に、指で通話を切った。

「あ? 返答しないからって、電話してきたのか? せっかちな奴。あ、そうか。まだ帰りの電車内で、暇なのか。電車内で電話とか、マナー違反じゃん」
『まぁ、おれ達が敵に回ったって思っただろうから、それでかなり焦るだろうなぁ。もう少しで仕留めてやるから、待てよ』
「んーまぁー、ずっと前から数斗狙ってたんでしょ? モデルの元カレも、ただのアクセサリー程度に付き合ってたって。喧嘩別れの傷心を数斗に慰めてもらって、いい友だち枠を超えて、そのままぁーって作戦。おれを使って、その作戦をやり直すつもりだったんだよ? あくどいぃ~!」
『ホント悪女!』

 しかめっ面で私の携帯電話を睨み付けた新一さんも真樹さんも、携帯電話を操作する。
 仕留める手筈を整え始めた。

「元カレさんが、モデルだったんですか?」
「そうそう。そこそこ人気のね。美女美男でお似合いでさ。流石だなーとか思ってたんだよ」
「んー、まぁ。外見は、かなりよかったですもんねぇ」
「おれも騙されたッ……!」
「真樹さんも、飲んで飲んで」
「おうよ! 飲む!」

 沢田さんの別れ話を散々聞いたけれど、モデルだとは聞いてなかったな。
 嘆く真樹さんのジョッキが空いたので、おかわりのために店員を呼び付ける。

『お似合い、か……』
「七羽ちゃんは、かなり貶されていたよね? そのところは、大丈夫なの? 傷付いてないの?」
「そういえば、ボロクソ書かれていたよな? なのに、数斗が聞き出してる時、ワクワクしかしてなかったか? 気にしてたよな? あか抜けない外見をさ」
『お洒落頑張ってたとか、話してたし……? それを抜きにしても、普通に傷付く悪口のオンパレードだったろうに』

 数斗さんが私のダメージを気にして、新一さんも確認してきた。

「あー……言い方は酷すぎますが、事実ですし」
「事実って……」
「後ろ向きだな」
「いや、事実じゃないよね!?」

 仕方ないじゃないか、と私は肩を落とす。

「彼女が思っている事実ってことです。小さくて可愛い、って何度も皮肉を言われていましたが、彼女が思っていることなんで、どうしようもないじゃないですかぁ……。助言になるなら、聞き入れますが、他の悪口なんて聞き流すだけです」

 へらりと笑って見せて、私はゴクリとカシスソーダを飲み干して、枝豆をちまちまと食べた。

「いちいち左右されても、疲れちゃうじゃないですか……。子どもにしか見えないとか、ちんちくりんの珍獣だとか、メイク下手の童顔とか……別に……ふーんだ」
『『めちゃくちゃ気にしてるじゃん!』』

 不貞腐れて、そっぽを向く。
 左右されすぎてはだめだ。でも、それでも、耳に入ってしまった酷い言葉は、引っかかって妙に残ってしまう。

「なんだっけ? 子どものまま年を重ねたあか抜けない子だっけ? 外見ばっかり気にして作ってきたような奴には、七羽ちゃんの頑張りを理解してくれないよ。その調子で、言われて嫌だったこと、吐き出していいよ、七羽ちゃん」

 苦笑した数斗さんは、ソーダを飲みながら、私のお酒と枝豆をを追加注文してくれた。

 そんなことも言われたっけ……。

「言われて、嫌だったこと……あと他に、何を言われたっけ……?」

 ポロッと声を零して、こてんっと頭を傾ける。


「俺は、って、言葉が嫌だったな」


 頬杖をついた数斗さんの横顔を、瞼を重く感じながら、見た。



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