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◇16 飛べないぴよこでも癒し

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 目覚めると水魔法で濡らしたハンカチで目元を拭ってもらい、そのあとにブラシで羽毛を整えてもらう。シンが私のブラッシングを鼻歌まじりに行っている間に、レオが朝食を準備。

 昨日のストーンボアの肉で煮込みスープと携帯食パン。パンを浸して食べる。お肉はホロリとして食べやすい。朝の胃に、優しい味付けのスープに、ほっこり。

 朝食を済ませたら、食後の運動がてら、飛ぶ練習。
 シンが片付けをして、レオが練習の補佐をしてくれた。

「はい、バタバタ~」
「ん~!!」

 四つの翼をバタバタするけれど、足をつけている地面の砂ぼこりを立てるだけに終わる。
 ……飛ぶって、難しい。浮きもしないよ。なんてこった。

「じゃあ、ちょっと上から落ちながらやってみよう」

 そう言って、レオは私の身体を両手で持ち上げる。だいたい十五センチくらい持ち上げて、そこから手放す気らしい。この高さなら、大丈夫そうだ。

 よし、来い! と、私は翼を広げて構えた。

 バタバタ~。ぽて。

「……」
「ご主人様、もう一回」

 バタバタ~。ぽて。

「……」

 ただただ、落下した。

 しょぼん……。私は……飛べぬぴよこです。

「異世界転生四日目です。いわばご主人様は雛なのですから、そう焦らなくてもいいのですよ」

 片付けを終えたシンが私を拾い上げると、なでなでしてくれた。

 片付けも済んだので、移動開始。
 目指すは最果ての街、『ドムスガンド』である。瘴気の谷という魔物が跋扈する危険地帯に近いこともあって、手練れの冒険者が多く滞在する武装強めの領地だ。ちゃんと二人の冒険者カードを得てよかった。

 徒歩でだいたい三日ほどかかる計算だから、昨日獣化で疾走した分短くなったはず。私がしがみつく体力を考慮して、今日は歩いて移動してくれるそうだ。


 けれども、半日が経とうとした頃、魔物の死骸に遭遇。

「これは……魔物の縄張り争い?」
「ううん、これは冒険者の仕業だね。素材だけ採取されてる」

 ムスッと顔をしかめたレオが、そう断定した。

「あー、やだやだ。困った冒険者がいたもんだ。こうやって死骸を残されると、他の魔物が群がって来るのに」
「悪いと瘴気を発するそうですよ」

 文句を零しつつ、レオは地魔法で地面に穴を作ると、火魔法で火葬する。

 どうやら冒険者の決まり事の一つらしい。死骸を放置することなかれ。色々問題が起きるらしい。シンが言うように有害な瘴気が発生するなら、なおのこと後処理をしないといけないではないか。ルール違反をした冒険者に、レオがしかめっ面をするのも理解出来た。

「ここから離れたところで、昼食にしよう」

 レオの提案で、昼食。
 昼食はシンが作ると調理器具を出したあとは任せて、レオが変身の練習に付き合ってくれた。しかし、今日は変身が出来なかった。あの羞恥の過剰スキンシップを思い出しても、不発。
「今日は調子悪いのかぁ」と、レオは特段急かさなかった。

 しょぼん。そう簡単じゃなかったよ……。靴を履かせようと用意してくれたのに、すまぬ……。

 昼食を済ませて、移動再開して一時間強ほど経つと、鼻をひくつかせたレオが足を止める。

 レオが私を抱っこする番だったので、私を抱えたまま道を逸れていくと、ゴブリン数体の死骸が転がっていた。どう見ても、戦ったあとだ。魔物同士の戦いではない。人相手との戦いだろう斬撃の跡がある。

「まただ」と、レオが眉間に深くシワを寄せた。
 またもや、他の冒険者の不始末をレオが地魔法と火魔法を駆使して処理する。

「オレ、ちょっと先を偵察してくる。酷かったら、まだ同じことがあるかもしれない」
「わかった。気を付けてね」
「うん、いってきます」

 シンに私を渡すレオは、私に明るく笑いかけると頭を撫でてくれて、獣化で偵察に向かった。

 残ったシンは、いつでも戦闘が出来るよう手が空けるためか、私を右肩に乗せる。私は足のカギ爪を食い込ませないように加減して掴んだ。

「痛くない?」
「全然大丈夫ですよ。むしろ、ご主人様に穴を開けられるなんてご褒美です」
「なんて?」
「いっそ、ご主人様が掴みやすいように、肩部分に爪を差し込むピアス穴のようなモノを開けた方がいいかもしれませんね」
「なんて???」

 正気か、コイツ……!!

「フフッ、冗談ですよ」

 ホントかよ!!
 恍惚と頬を紅潮させている表情、さっきから変わってないけれど!?

 ヤンデレ気味さに、ゾッとする。鳥肌。

「レオ。ちょっと怒ってたね」

 話題を変えておこう。
 陽気なレオが怒るほど、他の冒険者の不始末はよろしくないのだろうか。

「仕方ありません。他の人にも当てはまることですが、ここは最短ルートですので、他にも通る冒険者や通行人がいるということ。そこに餌のように魔物の死骸を撒かれている状態です。あまりにも危険に晒す行為です。これではご主人様の身にも危険が及びますからね。僕だって起こりますよ」
「ああ、なるほど……。最短ルートっていうくらいだし、本来は安全ルートなんだね」
「当然です。神様の眷属様と崇めるご主人様が通る道なのです。比較的安全なルートに決まってます」

 フフン、と鼻を高くするシンだけれど、そのルートを提示してくれたのはギルドマスターだからね。

 餌をばら撒くような不始末だと言われれば、かなり罪深い不始末ということになる。

 戻ってきたレオは、不機嫌な膨れっ面だった。あちゃー、この先も死骸が放置されていたのね。

「ナノカ様。ルートを変更した方がいいよ。この先も死骸の匂いに釣られて魔物がウロウロし始めてる。強行突破は出来なくもないけれど、場慣れしてないオレ達だとご主人様の安全が安定しないから不安」
「レオがそう提案するならそうするよ。でもそうすると、どのくらい時間がかかっちゃう?」

 素直にレオの提案を受け入れることにして、別ルートは最短ルートと違ってどのくらいの時間がかかるのかを尋ねる。

 レオはギルドマスターからもらった地図を広げて、シンに抱えられた私に見せてくれた。

「この青い線のルートが次に最短。沼地に足が取られると思うから時間ロスがあるね。取り返したいなら、沼地を抜けたあと、獣化で駆ければ二日以内にはつけるはず」
「二日か……」

 最短ルートの赤い線と違って、大回りするルートの青い線。確かに沼地と書かれた場所を通るようだ。

 予定より一日オーバーしてしまう。こうなると不始末をした冒険者達が憎い。こっちはセブを早く迎えに行きたいと言うのに。

 他の青い線は、沼地を避けるためにさらに大回りルートみたい。黒い線にはバツ印があるから、危険だという表記だろう。次のルートは、沼地の横断がいいみたいだ。

「わかった。そうしよう。お願い出来る?」
「もちろんだよ、ご主人様」
「ご主人様、なるべく急ぎますが、無理はなさらないでくださいね」
「私は何もしてないよ……?」

 ニコニコするレオとシンに、キョトリとしてしまう。
 私は抱えられているだけだし、食べさせてもらっているだけだよ……?

「シン。ご主人様、返して」
「なんでですか。沼地を抜けるまで僕がお運びします」
「いや、ご主人様を持ってると癒されるから、回復したい」
「なんて???」

 ん! と両手を伸ばすレオと、譲りたくないシンの攻防が始まったけれど、気になる発言に瞠目してしまう。癒しって何? 見た目がぴよこで可愛いとかではなく? 可愛いから癒されるとかではなく?

「ど、どういうこと? レオ」
「ご主人様を持っていると持ってないとじゃあ、疲れ方が違う。多分、癒しの効果があるんだと思う。ほら、冒険者カードの登録の時、指に針刺したあと、すぐに傷が塞がったの覚えてる?」
「お、覚えてる……」
「ご主人様の羽根からかもしれないけれど、治癒効果が出てるんだと思うよ。だから治るんだよ、疲れも癒えちゃう」
「ああ、なるほど。ご主人様だから癒されて安眠出来るのかと思っていましたが、それだけではなかったのですね」

 レオが説明すると、シンも腑に落ちることがあるらしく、ふむと頷いた。
 そういえば、トルトアウェス様の羽根は瀕死からも回復させるんだっけ? 私にも癒しの効果が……!

「よし! わかった! レオ、抱っこ!」

 ならば、役に立てる! 疲れを癒そうぞ! と、翼を広げた。

「「グッ……可愛い!!」」

 ぴよこに癒されよ! イケもふよ!!


 


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